「誘拐」26/佐藤さん宅、洋子ちゃんの部屋

母親が静かにドアを開けて、中に入りる。「ふー」とため息を漏らす。
昨日洗濯して、まだ仕舞ってない洋服が、片付けるべき人が帰ってこないまま、 床に置いてある。もう着る人のないこの服を、どうしようかと思案しながら、 結局タンスの中に仕舞う。
ベッドに腰掛け、周りを見回す。ランドセル、水泳用のビニールバッグ、 机の上に置かれた夏休みの宿題や教科書、日記帳、色鉛筆、消しゴム、ビーズ、 ペンダント、マンガ本、マンガのキャラクターが描かれた下敷きとリストバンド。
「このリストバンド、お気に入りでいつもはめていたのに、昨日ははめて行かなかったのね」
タンスの上を見ると、人形やぬいぐるみが並べられている。
「最近は『子供っぽいのはいやっ』と言ってたのに、このお人形はずっとここにいたのよね…」
立ち上がってそのぬいぐるみを手に取り、見つめる。
「ずっと取っておきたい気もするけど、今までずっと洋子と一緒だったお人形、お棺の中にいれてあげたい気もするし…」
しばらく見つめた後、とりあえず人形は元の場所に戻し、リストバンドだけ持って、部屋から出た。


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