「誘拐」11g1/山田町の佐藤隆さん宅

(家族揃ってテレビを見ながら)
「ほら、洋子が連絡もせずに遊んでいる間に、全然関係ない子がこんな目にあっていたのよ。 本当は洋子が誘拐されて、誰もいない寒い町を雨の中さまよい歩く事になっていたのよ」
「まあまあ、もういいじゃないか」
「いいえ、まだ言い聞かせないとダメです。 洋子がちゃんと連絡しないから、お父さんもお母さんもおじいちゃんもおばあちゃんも心配したし、 学校の先生達もお友達も心配したし、警察のみなさんも心配したし。 それに、洋子が連絡しなかったお陰でこの子を洋子だと思い込んでたから、 この子のお父さんお母さんに連絡が遅れて、 自分の子供が帰ってこずに一体どうなったかものすごく心配されたのよ。 これだけはあなたのせいなんだから」
「(…むすーっ…)」
「あとで、この子とご両親に謝りに行かないとね。 分かった?午後には警察の方に住所をお聞きして、行きますからね」
「(…むすーっ…)」
「…おやおや、自分の着ていた服を捨てられて、あの服を着せられたのか。かわいそうに」
「ほら、本当は洋子があんな目にあっていたのよ。 いつもあんな服は着たくないってダダこねる洋子が、 恐いお姉さんに脅かされて無理矢理服を脱がされて着せられてたのよ?」
「(ちょっと動揺)」
「そうか、代わりの服でも買ってあげなくちゃいかんな。ちと出かけてくる」
「そうですねぇ。でもどんな服がよいのかしら、下着辺りが無難では ……あら、おじいちゃん、おばあちゃんまで、ちょっと待ってください」
「(…むすーっ…)」
「まっ、洋子も無事だったし、あの子も保護されたし、めでたしめでたしだが、 後であの子の所に謝りに行くから、ちゃんと『ごめんなさい、ご迷惑をおかけしました』と言えるよな?」
「(…むすーっ…)」
「多分お前と同じくらいの年の子だな、友達に謝るのと一緒だよ。出来るよな?」
「(…むすーっ…)」
「ま、後で行くからな…………ん???」
(父娘でテレビの前で考え込む)
「…よ、洋子は大学生のお兄さんにすごく迷惑をかけたんだ」
「…大学生の、お兄さん……?あんな服着て?」
「洋子の代わりに無理矢理着せられたんだ、洋子がちゃんと連絡していれば、 誰だかもっと早く分かってたんだ…。洋子はものすごい迷惑を、あのお兄さんに、かけたんだ。 後で謝りに行くが、大人相手にちゃんと謝れるか?」
「(かなり動揺)」
「…しかしあの三人、どんな服を買いに行ったのかな…」


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