恩田陸
『六番目の小夜子』 恩田陸(創元推理文庫) |
笑い1.0点 涙0.5点 恐怖2.0点 総合4.0点 |
その高校には、不思議な『行事』が存在していた。秘密裏に「サヨコ」と呼ばれる役を命じられた生徒が、全校生徒の誰にも
その正体を知られることなく、あることをやり遂げれば、その年の「サヨコ」は勝ちとなり、「吉きしるし」となるのだった。
そして、「六番目のサヨコの年」とよばれる今年、津村沙世子という不思議な美少女が転校してきた。
女流作家・恩田陸のデビュー作。
解説で綾辻行人氏が書いているように、本書はホラー小説でありミステリであり学園小説である。たしかに
怖さがあり、謎に満ちているが、僕は学園小説としての魅力と面白さを一番感じた。僕が男子校だったからなのかもしれないが・・・。
ビックリする恐怖ではなく、読み終わってからジワジワくる怖さだった。学校が舞台だと、誰もが通った経験があるだけに、
イメージがわきやすく、その分恐怖も倍増されるのだと思う。
とても読みやすいので、普段あまり本を読まない人にもお薦めできる一冊である。
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『光の帝国 常野物語』 恩田陸(集英社) |
笑い0点 涙3.0点 恐怖0.5点 総合4.0点 |
「大きな引き出し」「二つの茶碗」「達磨山への道」「オセロ・ゲーム」「手紙」
「光の帝国」「歴史の時間」「草取り」「黒い塔」「国道を降りて・・・」の計10作からなる連作短編集。
遠目・遠耳・予知能力・念動発火能力など特異な能力を持った一族がいた。「常野」とよばれる彼らは、権力を持たず、
群れず、地に溶け込み、常に在野で目立つことなく生きていた。そんな彼らの過去と現在そして未来につながる物語。
ひとつひとつの短編の設定やストーリーは抜群に面白い。そして、それらが「常野」という一族を背景にしていて、
徐々にその正体がわかるような連作形式も面白い。だが、一つ一つが短すぎて、物足りなさを感じる。著者自身も、
いくつかの短編は長編ネタとして考えていたようだ。それなら長編にしてくれれば良かったのに・・・と思ってしまう。
それくらい魅力のある短編揃いだ。
それと、全体的な結末も何となくぼんやりしたままで終わっているのもフラストレーションがたまる。ただ、あとがきで
続編を書きたいというようなことを書いているので、それに期待したい。
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『ネバーランド』 恩田陸(集英社) |
笑いb>1.5点 涙2.5点 恐怖0.5点 総合4.5点 |
全国でも有数の進学校で寮生活をおくる高校生たち。冬休みに入り、ほとんどの学生が帰省するなか、美国・寛司・光浩の
3人は、それぞれの事情で寮で年を越すことになった。後に合流した統を加えた4人は、何気ないことから、それぞれの
悩みや過去を告白することになった。
寮で生活する高校生のほのぼのした日常と、彼らがそれぞれ抱える問題に苦悩し、それに向き合っていく様子を描いた青春小説。
恩田陸の小説はまだ、それほど読んでいないが、うまいなあと実感した。高校の寮という狭い空間で、4人の学生に語らせ、
その生活ぶりを書くだけ、という一歩間違ったら、誰もが体験した懐かしい日々というだけで、面白くもない小説になってしまいそうだ。
しかし、個性的なキャラと彼ら持つ背景とほのぼのした雰囲気を非凡な筆力で書ききって、傑作に仕上げている。
本書を読んで、やっぱり男の友情っていいなあと感じた。しかし、これを書いたのが女性というのが面白い。
やっぱりこの設定を女子高生4人にすると、ここまで爽やかでほのぼのした傑作にはならないと思ったのではないだろうか、おそらく。
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『三月は深き紅の淵を』 恩田陸(講談社) |
笑い0.5点 涙1.0点 恐怖2.0点 総合4.5点 |
「待っている人々」「出雲夜想曲」「虹と雲と鳥と」「回転木馬」の4章からなる連作短編集もしくは、型破りな長編小説。
「待っている人々」:若手社員の鮫島は、読書が趣味ということだけで、会長のお茶会に招待された。
そこで会長に言われたのは、図書館並の蔵書を持つ屋敷から、一冊の本を探してくれということだった。数々の逸話が残っている
ワケありのその本のタイトルは、「三月は深き紅の淵を」だった。
何が何だかわからなくなり、頭が混乱してしまった。それは、この本の複雑な構造のためだ。1〜3章までは、「三月は深き紅の淵を」という
一冊の本にまつわる短編になっている。しかし、4章「回転木馬」で頭のなかはまさにメリーゴーラウンド。それまでの流れを一変させ、
一人称で話が進む。そして、突然、別の物語が細切れに挿入され、何かを予感させて唐突に終わる。どうやら『三月は深き紅の淵を』という
本は、まだ続く、というよりこれから始まるのではないか、そう思わざるをえなかった。
本書で改めて感じたが、表現力・描写力がすばらしい。同じ女流作家(こういう言い方はもう古いか・・・)の宮部みゆきに
通じるものがあると感じた。
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『麦の海に沈む果実』 恩田陸(講談社) |
笑い0点 涙2.0点 恐怖2.0点 総合4.5点 |
大湿原に囲まれ外界から孤立している全寮制の学園があった。三月にしか生徒を入学させないその学園には、
「三月以外に入ってくる者は、学園を破滅に導く」という伝説がある。そんな学園に二月の最後の日、
一人の女生徒が入学してきた。
孤立した学園、女装する校長、主人公を取り巻く「ファミリー」のメンバーたち、不吉な伝説と
相次ぐ事件・事故、そして謎に満ちた主人公。などなど、不思議な雰囲気を持った小説である。
本書には「三月は深き紅の淵を」という本についての記述があり、また『三月は深き紅の淵を』に
細切れに挿入されていた文章が所々登場する。これを読むと、ますます『三月は深き紅の淵を』という小説の
存在の意味が分からなくなる。
内容について言えば、途中まで5点レベルの面白さだった。しかし、ちょっと終章の展開に戸惑ってしまった。
賛否両論あると思うが、僕としては、どーしてそういう展開にしちゃうの?と正直思った。その分だけ評価を下げた。
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『puzzle パズル』 恩田陸(祥伝社文庫) |
笑い0点 涙0.5点 恐怖0点 総合3.5点 |
住人が去り、廃墟の島となったある無人島で、3体の死体が発見された。体育館で見つかった餓死死体。
高層アパートの屋上で見つかった墜落死体。映画館の座席に腰掛けていた感電死体。無関係に思えるそれぞれの
死体の死亡推定時刻は限りなく近かった。いったいこの無人島で何が起こったのか?
祥伝社の中編書き下ろし小説。
意味深な導入部に始まり、本編、解決編といった感じのハッキリとした構造で、中編小説ながらなかなか読み応えのある
小説だった。しかし、導入部で過剰に期待してしまい、読み終わってみれば、何だそういうことか、と軽く期待を裏切られた
気持ちになった。
中編小説ということで、時間もかからず読み切れるので、ちょっとした空き時間にでも読んでみてはいかがだろうか。
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『MAZE [めいず]』 恩田 陸(双葉社) |
笑い1.0点 涙0点 恐怖3.0点 総合4.5点 |
その昔、アジアの西の果てに、「存在しない場所」または「あり得ぬ場所」と呼ばれる構造物があった。
深い谷に囲まれた広野の丘の上に建っている、まるで「豆腐」のような白い構造物。これまでに何人もの
人がそこに入り、ある者は忽然と姿を消し、ある者は何事もなく帰ってきたという。
それから長い歳月が経った現代、4人の男がこの地へやってきた。彼らの指命は、7日以内に
「人間消失のルール」の謎を解き明かすことだった。
紋章上絵師でもある泡坂妻夫氏が作製した紋様を表紙に使った、かなり凝っている装丁が目を引いた。
内容は、途中までは、”いったいこの先どんな展開になるのだろうか”、とワクワクしながら
読んでいた。だが、その結末にはちょっと不満を感じた。面白い設定のストーリーだったのに、
ラストがこれでは、せっかくの設定がちょっともったいない気すらした。ラストに向けて、
恐怖と期待が高まっていただけに、少し残念だった。ただこれは、個人的意見なので、読む人によっては、
これこそベスト!とおもうかもしれない。
ぜひ皆さん、読んで確かめてみて下さい。
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『月の裏側』 恩田陸(幻冬舎) |
笑い0点 涙1.0点 恐怖3.0点 総合4.5点 |
塚崎多聞は、三隅協一郎に呼ばれて、水郷都市・箭納倉にやってきた。協一郎の話によると、毛細血管のように
堀が張り巡らされている箭納倉で、不思議な事件が起きたのだという。堀の近くに住む老女ばかりが連続して失踪してしまった
というのだ。そしてさらに不思議なのは、彼女らが皆、ある日突然、失踪している間の記憶をなくして戻ってきたのだ。
割と普通のミステリだなぁ、と思ってしばらく読んでいた。しかし、序盤の終わりくらいから徐々にホラー色が濃くなっていた。
特に、中盤、登場人物の一人がコンビニで遭遇したある出来事は、読んでいてその映像が鮮明に浮かんでしまい、鳥肌がたつほど
ゾッとした。
ただ、昔似たようなストーリーの映画を見たような記憶があったので、それほど目新しさはなかった。しかし、リアルな舞台設定と
秀逸な表現により、はっきりと映像が浮かぶ傑作ホラー小説だった。
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『木曜組曲』 恩田陸(徳間書店) |
笑い1.0点 涙0.5点 恐怖1.5点 総合4.0点 |
4年前のある木曜日、小説家・重松時子の家では、時子と彼女の4人の親戚と1人の編集者、計6人が集まって宴会をしていた。
しかし、その途中、時子は席を外し、遺書を残して服毒自殺したのだった。それ以来、弔いも兼ねて、年に1回同じメンバーで時子の家に集まる
ことになった。
そして今年、集まった5人のもとに、正体不明の差出人からのメッセージがついた花束が届けられる。それを境に、彼女たちは、
時子の真相について語り合い、互いに抱いていた不審や疑問を告白しはじめるのだった。
ある程度の年齢を重ねた5人の女性が3日間集まり、飲み食いしながら一人の女性の死について議論をするという話だ。集まった者が、
語り合うという意味では『ネバーランド』と似ているが、本書は登場人物が全員女性なだけに、
一触即発の緊張感がただよっている。
鋭い観察力と論理的な意見で、互いに傷つけ合う女性たち。その場に男として僕が独り、紛れ込んでしまったと想像しただけで、
ゾッとする。
意外なラストでなかなか面白かったが、僕は、似たような形式の小説としては『ネバーランド』のほうが面白かったと思う。
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