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モーリス・ルブラン


『奇巌城』 モーリス・ルブラン(創元推理文庫)
笑い☆☆☆☆☆ 涙★★☆☆☆ 恐怖★☆☆☆☆ 総合★★★★☆
 ある夜、富豪の邸宅に、泥棒が入った。しかし、その家の娘が泥棒の一人に銃を放ち見事命中した。ところが、傷を負っているはずの泥棒の姿はなく、さらに何かを盗んだのは確かなのだが、家の中のものは何一つなくなっていなかった。この奇妙な謎と解くため、ホームズに匹敵する実力者という 高校生探偵・ボートルレが立ち上がった。しかし、その前に怪盗紳士アルセーヌ・リュパンが立ちはだかる。

 まさにルパン3世の世界だ。しかし、読む順番を間違ったかもしれない。やはりシリーズものは、出版された順に読んだ方が面白さが倍増するみたいだ。というのもこの本には、シャーロック・ホームズとガニマール警部の2人が出てくるのだが、僕はその2人とリュパンの関係を詳しく知らない。さらに、所々、リュパンの過去の事件なども出てくる。 だから、順番を間違わなければ、★5つ級の面白さだったと思う。残念だ。それと、舞台がヨーロッパなので、イメージがつかみにくかった。だから僕は、地図帳を調べながら読んだ。結構お薦めの読み方である。


『怪盗紳士リュパン』 モーリスル・ブラン(創元推理文庫)
笑い★☆☆☆☆ 涙★★☆☆☆ 恐怖★☆☆☆☆ 総合★★★★★
 「アルセーヌ・リュパンの逮捕」「獄中のアルセーヌ・リュパン」「奇怪な旅行者」「女王の首飾り」「ハートの7」「彷徨する死霊」「遅かりしシャーロック・ホームズ」の計7作からなる短編集。
 「獄中のアルセーヌ・リュパン」:ガニマール警部に捕らえられ、投獄されたリュパン。しかし、ある富豪の邸宅に、獄中にいるはずのリュパンから財宝を頂くとの予告状が届く。 そして、リュパンは獄中にいるはずなのに、予告の通り財宝は盗まれた。
 「ハートの7」:ある日「わたし」の枕元に1通の手紙があった。それを読むと【これを読んだ瞬間から、身動きをするな】と書いてある。するとすぐに隣の部屋から誰かが物色している音が聞こえる。 そして、身の安全が確実になってから「わたし」がその部屋に行くと、何も変わったところはなく、ただトランプのハートの7が落ちているだけだった。

 怪盗だけど紳士。神出鬼没で、自分でもどれがホントの自分かわからなくなるほどの変装の達人。そして、お金持ちからしか盗まず、贋作には興味なし。という怪盗紳士アルセーヌ・リュパンが登場するシリーズの第1作。 リュパンの伝記を書くことになった「わたし」とリュパンの出会いの話や、リュパンが名探偵シャーロック・ホームズと初対決する話、等々盛りだくさんの短編集で、どれも面白かった。なんか、リュパンシリーズを読んでたら ルパン3世の映画見たくなった。


『リュパン対ホームズ』 モーリス・ルブラン(創元推理文庫)
笑い★☆☆☆☆ 涙★☆☆☆☆ 恐怖★☆☆☆☆ 総合★★★★☆
 「金髪の婦人」「ユダヤのランプ」の2話からなる小説。
 「金髪の婦人」:数学教授のジェルボアは、娘の誕生日プレゼントに、古道具屋で小机を買った。買った直後、一人の青年に買値の三倍を払うから売ってくれ、と言われる。ジェルボアは、その申し出を断り、家へと持ち帰った。 ところが翌日、その机は跡形もなく消えていた。その後、その机には、百万フラン当選の宝くじが入っていたことがわかる。さらに、その宝くじは、アルセーヌ・リュパンが所有していることがわかった。その後、ガニマール警部の手に負えなくなった事件に、 ついに名探偵シャーロック・ホームズがイギリスから呼ばれることになる。

 アルセーヌ・リュパンvsシャーロック・ホームズ。怪盗紳士vs名探偵。という贅沢な一騎打ちが取り上げられている。ただし、原書では、「Sherlock Holmes=シャーロック・ホームズ」ではなく「Herlock Shlomes=エルロック・ショルメス」と綴られているそうだ。 しかし、よく似た名前に加え、所々にホームズを彷彿とさせる記述があるため、「ホームズ」と断定したようだ。確かに、ここに登場する「ホームズ」は、リュパンがライバルとして尊敬し、恐れている名探偵ではあるが、 一方でリュパンに翻弄され、散々にやられている気がする。リュパン派(?)の僕としては、痛快で傑作だと思うが、シャーロキアンの皆さんは、心中穏やかではないだろう。それを見越して、ルブランは、名探偵ホームズを、実名でリュパンの引き立て役に使わなかったのだろうか。


『リュパンの告白』 モーリス・ルブラン(創元推理文庫)
笑い0.5点 涙0点 恐怖1.0点 総合3.5点
 「太陽の戯れ」「結婚指輪」「影の合図」「地獄の罠」「赤い絹の肩掛け」「白鳥の首のエディス」 「麦藁の軸」「リュパンの結婚」の計8作からなる短編集。
 「影の合図」:リュパンの冒険譚の記録者である”私”は、ある1枚の絵を 手に入れた。その絵自体は、大したことのない作品だったのだが、その絵にそっくりな絵を持つ女性がいて、 彼女は絵に書き入れられた日付の当日、必ず奇妙な集会に出かけていくのだった。その集会所は、ある人物の 財宝が眠っているという噂のある場所で、それを聞いたリュパンは、その財宝獲得に乗り出した。

 リュパンの怪盗ぶりはそのままにして、さらにそれにミステリの要素(トリック・暗号・謎解きなど)が加わり、 より多くの人に楽しめる短編集になっている。リュパンは”盗む”のが目的だが、本書では、それぞれの短編で様々な 盗みのテクニックというか、盗むまでの過程を見せてくれる。全体的に、面白かったが、ピンチに陥ったリュパンが あまりにも都合よく脱出できてしまう点は、不満であった。


『緑の目の令嬢』 モーリス・ルブラン(創元推理文庫)
笑い2.0点 涙2.5点 恐怖2.0点 総合4.5点
 ラウール(正体はリュパン)は、街角で偶然見つけた緑の目を持つ女性に一目惚れしてしまった。 しかし、その女性を追ううちに、特急列車で殺人事件に巻き込まれ、とある別荘では強盗事件に、別のホテルでは恐喝事件に 次々と巻き込まれていく。その緑の目の令嬢は、莫大な財宝の隠し場所の秘密を知っている唯一の生き残りだったのだ。 それを知ったリュパンは、緑目の令嬢を魔の手から守ることを決意する。

 どうやら本書は、映画『ルパン三世 カリオストロの城』の原作になった本のようだ。というのも、所々でその映画を彷彿と させる設定や描写が出てくるのだ。映画を見たことのない人は、是非見て欲しい。『となりのトトロ』などの名作を生んだ 宮崎駿監督の作品なので「アニメは子供の見るもの」と思っている人にも楽しめると思う。
 本書は、怪盗紳士アルセーヌ・リュパンが活躍する冒険小説だが、同時に恋愛小説の要素も持ち合わせているようだ。 もちろん、変装で警察を翻弄したり、華麗な脱出を見せたりという見所もたくさんあるが、リュパンとしての正体を 隠しつつ、心惹かれた緑目の令嬢を守り、あくまでも紳士的に振る舞うという、心憎いまでのかっこよさである。 翻訳もの特有の読みにくさはあるが、是非一読をお薦めする。


『水晶の栓』 モーリス・ルブラン(創元推理文庫)
笑い0.5点 涙3.0点 恐怖1.0点 総合4.0点
 大規模な運河汚職事件の唯一の証拠である”27人のリスト”を武器に、リストに名の上がっている 名士達を脅し、フランス政財界を思うままに牛耳っている悪徳代議士・ドーブレック。そのリスト奪取を狙うリュパン だが、途中、信頼していた部下に裏切られ、謎の女性に邪魔をされ、さらにリュパンを上回る悪者・ドーブレックに 次々と屈辱を受け敗北し続けた。リストさえ手に入ればよいのだが、その隠し場所がわからない。誰もが目にし、 ありふれた場所が盲点となり、さすがのリュパンも苦悩を強いられる。

 今回のリュパンは、コテンパンにやられてしまう。しかし、どんな危機的状況でも諦めず、いつものように、登場する女性 に心惹かれ、彼女のために東奔西走する。そして、すべての雪辱をはらす爽快なラスト。と、リュパンの魅力がたっぷりの一冊である。
 今回は、無実の罪で捕まり、リュパンの部下であるという事実により死刑を宣告される哀れな部下を助けるために、リュパンは活躍する。 これがなかなか感動的な物語になっているのだ。悲しい過去を持ち、どんな時もリュパンを兄のように慕い、神のように信じ続け、 リュパンの助けを待つ部下の姿が涙を誘う。


『813』 モーリス・ルブラン(新潮文庫)
笑い1.0点 涙1.0点 恐怖2.0点 総合4.0点
 奇岩城の事件から4年がたったある日、死んだと噂されていたアルセーヌ・ルパンが、 ケッセルバックという【ダイヤモンド王】の前に現れた。ルパンは、ケッセルバックが握るある秘密と、 その秘密を解く鍵を盗みに来たのだ。しかし、その秘密を知る前に、ケッセルバックは暗殺され、 犯人としてルパンの名があがる。
 秘密を追う謎の人物とルパン、そのルパン逮捕に燃える刑事たち、そして意外な結末。

 創元推理文庫では「リュパン」、と原語に近い表記をしているのに対し、新潮文庫では、日本語に 馴染みやすい「ルパン」と表記している。また本書は、初版が昭和34年と、かなり古いので、 翻訳もかなり時代を感じさせる表現が多く、ちょっと読みにくかった。しかし、ルパンシリーズの中でも 名作といわれるだけあって、内容は面白い。謎の暗号、ルパンの変装、殺人事件、裏のかき合いなど、 推理小説としても一級品といっていいと思う。
 本書はこれで完結ではなく、最終的な謎の解明は、『続813』でなされることになる。


『続813』 モーリス・ルブラン(新潮文庫)
笑い0.5点 涙2.5点 恐怖1.5点 総合4.5点
 アルセーヌ・ルパンは、正体不明の黒衣の男、”L.M.”の策略によって、ラ・サンテ刑務所に投獄されてしまった。 ある重大な書類の奪取を企み、その隠し場所も突き止めていたルパンだが、投獄されているため為すすべがなかった。そこでルパンは、 驚くべき方法で脱獄する。しかし、その後謎の男”L.M.”の魔の手が行く先々でルパンに襲いかかる。

 全作『813』で謎のまま終わってしまった”L.M.”の正体や、”813”の暗号の意味などが、本書で明らかになる。 その真相には、本当に驚いた。一件落着と思っている矢先、どんでん返しがあり、著者の意図どおりに読まされ、もてあそばれ 驚愕させられた感じだ。
 以上のようにストーリーは文句なく面白かったのだが、やはり文化と時代の違い、そして自分の無知のために、ごくまれに 理解できない部分があったのが残念だった。


『カリオストロ伯爵夫人』 モーリス・ルブラン(創元推理文庫)
笑い0.5点 涙2.0点 恐怖2.5点 総合4.0点
 20歳のラウール・ダンドレジー(実はリュパン)は、クラリス・デチーグという女性に恋をしていた。 しかし、ある日、彼女の父、ゴドフロア・デチーグ男爵が仲間を集めて、ある恐ろしい計画をたてていることを知った。 それは、カリオストロ伯爵夫人という謎の女性を殺害する計画だった。その女性に一目惚れしたラウールは、女性救出に乗り出す。 この時から、ラウールはある財宝をめぐる抗争に巻き込まれていくのだった。

 本書は、アルセーヌ・リュパンの最初の冒険だそうだ。この冒険よりも前の出来事を書いた短編もあるが、本格的な冒険はこれが初めて だ。
 まだ若い頃のリュパンらしく、いくつか反省すべきヘマをしたり、自分の手足となる部下が全くいなかったりするが、女性に甘いところや、 殺人や血が嫌いなところなどは、以後のリュパンにも見られる。
 モーリス・ルブランの書くリュパンシリーズが面白いのは、その辺にも原因があると思う。つまり、個々で見れば独立した長編であっても、 登場するリュパンは、成長しきちんと年をとっていく。そして、各作品には、以前にリュパンが活躍した事件などが、さりげなく紹介されていたり、 シリーズの中に年月の経過というより、リュパンの歴史ができあがっているのだ。だから、読んでいくごとに面白さが倍増し、リュパンの魅力にはまっていくのだと思う。


『バーネット探偵社』 モーリス・ルブラン/堀口大學訳(新潮社文庫)
笑い2.0点 涙0.5点 恐怖0点 総合4.0点
 「したたる水滴」「ジョージ王の恋文」「バカラの勝負」「金歯の男」「ベシューの十二枚のアフリカ株券」 「偶然が奇跡を作る」「白手袋・・・白ゲートル」「ベシュー、バーネットを逮捕す」の計8篇からなる短編集。
 「ジョージ王の恋文」:<無料調査>を看板にかかげているバーネット探偵社に、いつものごとく ベシュー警部が助力を請いにやってきた。近所付き合いもなく、古本あさりくらいしか趣味のない老人が強盗に殺された。 盗むほどのものを持っていなかったはずの彼を殺したとされる容疑者は、すぐに見つかった。しかし容疑者には、鉄壁のアリバイ があった。この事件に探偵バーネットが挑む。
 「金歯の男」:教会の宝を守っていた神父が襲われ、すべての宝は盗まれた。犯人の姿を目撃していた 神父の証言により、すぐに犯人は逮捕された。すべて神父の証言どおりと思われたが、ただひとつ金歯の位置が証言とは異なっていたのだった。

 調査料を一切もらわないというバーネット探偵社。実はこのバーネットこそが、怪盗紳士アルセーヌ・ルパンだった。正体を隠し、 ベシュー警部が持ってくる難事件を次々に解決していくのだが、解決の際には必ず何かを盗んでいくのだった。ただし、無実の被害者 からは盗まず、悪事を働いた連中たちからゴッソリと盗んでいくのだ。必ず現場から何か盗まれると知りつつも、バーネットの知恵を借りるため ベシュー警部も仕方なく黙殺してしまう。
 ”警察に協力する泥棒”というユーモアあふれる設定の短編集だ。しかし、本書は推理小説としてもしっかりしている。トリックが 出つくしたような現代から見れば、他愛もないものかもしれないが、様々なトリックが駆使されていてなかなか面白い。 本書は、ルパンシリーズの外伝(?)的な存在なので、シリーズを通して読んでいない人も楽しめる一冊だ。


『ルパンの冒険』 モーリス・ルブラン/長島良三・訳(偕成社)
笑い1.0点 涙1.5点 恐怖0点 総合4.0点
 絵画・古美術品の収集家として知られている百万長者グルネイ=マルタン氏。彼の娘・ジェルメーヌが、 ついにシャルムラース公爵と結婚することになった。その結婚式とパリへの引っ越しの準備をしている最中、 アルセーヌ・ルパンから「マルタン氏が収集している美術品と宝冠を盗みに行く」という主旨の予告状が送りつけられた。

 巧みな変装、女性に優しい、決して人を殺さない、神出鬼没そして予告状。ルパンと聞いてイメージする 要素がすべて入った長編小説である。
 本書は、四幕もののドラマ『アルセーヌ・ルパン』を小説化したものである。といっても、およそ 100年前のドラマだから、小説とどう違うとかは比べるすべもないし、意味もないのだけれど・・・。
 本書では、終盤になってルパンが誰だかが、明らかにされるのだけど、あろうことか、この小説に書かれた アラスジを読むと、ルパンがいったい誰に変装しているのかが、想像できてしまうのだ。まあ、たぶんこの人が ルパンなんだろうなというのは、ルパンを知っている人にはすぐわかることだと思うが、それにしても ちょっと配慮が足りないと思う。
 最後の最後、ルパンが大ピンチに陥りながらも、ある方法で見事に切り抜けるのだが、そのシーンは まさにルパンの真骨頂だと思った。


『謎の家』 モーリス・ルブラン/井上勇・訳(創元推理文庫)
笑い1.0点 涙1.5点 恐怖0.5点 総合4.0点
 オペラ劇場の舞台で行われたファッションショーの最中、高額な宝石を身にまとった女優が誘拐された。謎めいた家に連れて行かれた 彼女は、宝石を奪われたあと帰された。数日後、アルレットというお針子が、同様の手口で誘拐され、同じく謎めいた家に連れ去れらた。 この2人の被害者の見た家の記憶から、メラマール伯爵が容疑者として浮上する。
 この事件に関わることになったジャン・デンヌリ子爵(実はリュパン)は、その中で、ファジュローという手強い男に出会う。

 2つの誘拐事件とそれをつなぐ謎の家、そしてその真相とトリック。これは、大変よくできた推理小説である。まあトリックが 弱い気もするが、本格ミステリを読み慣れているからそう感じるのだろう。しかし、それをカバーするくらいストーリーや 登場人物がよい。そして何より、ラストシーンがほほえましくて良い。
 本書には『バーネット探偵社』でさんざんルパンに振り回されたベシュー警部が登場している。だから、先に『バーネット探偵社』 を読んでいると、より一層面白味が増す。


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