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ミステリー(国内)


『遠きに目ありて』 天藤 真(創元推理文庫)
笑い1.0点 涙2.0点 恐怖0点 総合4.5点
「多すぎる証人」「宙を飛ぶ死体」「出口のない街」「見えない白い手」「完全な不在」の5編からなる連作短編集。
「多すぎる証人」:真名部警部は、とある縁である少年と知り合った。岩井信一というその少年は、 重度の脳性マヒのため全身の自由が著しく損なわれている。だが、熱心な読書家で、並外れた知性を持っていた。
ある日警部は、ある団地で発生した殺人事件の経緯を話して聞かせたところ、彼はたちどころに真相を言い当てた。
「宙を飛ぶ死体」:ある同窓会の席から、一人の男が忽然と姿を消した。その後、彼は 200qも離れた山中の湖で、死体となって発見された。
「見えない白い手」:甥に殺されるかもしれない、そう警察に相談しに来た一人の老女。 その後、甥には24時間の監視がつけられ、彼女自身も警戒を強めていた。ところが、彼女は殺害されてしまう。 同時刻、問題の甥は監視下にあり、完璧なアリバイがあった。

 本書の表紙には、「THE WHEELCHAIR DETECTIVE」という英訳のタイトルが付いている。安楽椅子探偵ならぬ車椅子探偵だ。
 1976年に<幻影城>に連載されていた本書には、今の日本は身障者には厳しいという、社会に対しての問題提起が含まれている。 でも、作中には、身障者には住みにくい社会だから生きるのがつらい、というような暗さはなく、岩井少年も母親も彼らと付き合う 警部たちも明るくて、読んでいて心地よかった。現代の日本は、当時に比べれば、バリアフリーという考えも一般的になり、 いくらか偏見の少ない住み良い社会になっているのではないだろうか。
 推理小説としては、本書は、密室あり、アリバイトリックあり、その他様々なトリックが使われた正統派の出来になっている。 非現実的でごてごてした本格ミステリばかりではなく、たまにはこういう正統派の推理小説を読んでみるのもいいですよ。


『13階段』高野和明(講談社)
笑い0点 涙2.5点 恐怖0点 総合4.5点
 傷害致死で服役中だった三上純一は仮釈放が許可された。出所後まもなく彼のもとに刑務官の南郷正二が訪ねてきた。 南郷は、ある人物に頼まれた仕事があるのだが手伝ってくれないか、と言う。その仕事とは、記憶を失った 死刑囚の冤罪を晴らすこと。期限は3ヶ月。報酬は1000万円。

 第47回江戸川乱歩賞を満場一致で受賞した小説。
 喧嘩で人を殺してしまった青年と犯罪者の矯正に絶望した刑務官が、死刑囚の無実を証明すべく協力し合う、 という設定が斬新で面白い。そして後半は、たたみかけるように驚きの展開が連続し、読む手を止められないくらい のめり込んでしまった。
 「死刑」という重いテーマを扱っているせいもあって、”正義とは何か”を考えてしまうような、暗く やりきれない読後感だった。もし、本書を読んで「死刑」ついてもっと知りたくなったら、 『そして死刑は執行された』『死刑執行人の苦悩』などがおすすめです。


『未完成』古処誠二(講談社ノベルス)
笑い1.0点 涙1.0点 恐怖0点 総合4.0点
 種子島よりさらに西に位置する伊栗島。この小さな島にある自衛隊の基地で重大な事件が発生した。厳重に閉ざされた射撃場で、 何人もの隊員が見守るなか小銃が消え失せたのだ。絶対に表沙汰にできないこの事件を、秘密裏に解決すべく、防衛庁調査班の 朝香二尉と助手の野上三曹が上陸した。

 朝香・野上コンビが活躍するシリーズ2作目。
 1作目同様、「自衛隊」という特殊な空間で発生した事件の謎を解く推理小説だ。推理小説といっても殺人事件は起きない。
 「世界の常識がひっくり返っても表沙汰にすることができない大事件」と本書には書いてある。小銃消失というのは確かに 重大事件だとは思うが、殺人事件などと比べると緊迫感・恐怖感が伝わりにくい気がする。それでも自衛隊についてよく知らない 人でも充分に楽しめる本になっている。
 今回は、謎解きだけでなく、日本人の認識を改めるというか、意識改革を促すような内容にもなっている。読み終わってみると むしろこっちのほうがメインだったのではないかと思えてくる。


『顔に降りかかる雨』桐野夏生(講談社)
笑い0点 涙1.5点 恐怖1.0点 総合4.5点
 村野ミロの友人で、ノンフィクションライターの宇佐川耀子が失踪した。しかも、耀子の恋人の成瀬が彼女に預けていた 4700万円も一緒に消えていた。その金は、暴力団の裏金だった。何としても取り返したい彼らは、ミロと成瀬に ”一週間以内に耀子と金を見つけ出せ”と命じた。
 真実を知るために調査を始めたミロは、耀子が最近、旧東ベルリンに取材で行ったときに面白いスクープをつかんだ、 と言っていたことを知る。

 第39回江戸川乱歩賞受賞作。
 探偵の父を持つ行動力あふれる主人公・村野ミロは、過去になにやら傷があるようで、第一作目からすでに続編を想定して 書かれているような感じがした。受賞後に撮ったのであろう著者の写真を見ると、乱歩賞をとることも確信していたかのような 自信に満ちた表情をしている。
 ミロというのは、著者が好きな酔いどれ探偵・ミロドラゴヴィッチから拝借した名前だそうだ。僕の個人的な感想としては、 江戸川乱歩のように強引に当て字をして使ったほうが良い様に思えた。「ミロ」というのは、なんか読んでいてもの すごく違和感があったのだ。
 それと、本書には、旧東ベルリンやネオナチといった話題が出てくるのだが、それと本筋である「耀子探し」とが、 かなり強引にくっつけられているなと思った。
 それでも、ラストには衝撃を受けたし、一週間というタイムリミットものの緊迫感もよかった。さすが乱歩賞を とるだけのことはある。


『だからミステリーは面白い 対論集』井沢元彦(集英社文庫)
笑い2.0点 涙0点 恐怖0点 総合3.5点
 94年に、朝日カルチャーセンター(名古屋)開講三十周年記念講座の一環として行われた 「小説を語る」という対論を文庫にしたもの。
 井沢元彦氏が聞き手となって、高橋克彦、宮部みゆき、大沢在昌の3人とそれぞれ 一対一で対談している。その内容は、おいたち、作家になった経緯、創作法、読書体験などなど 多岐に渡っている。
 この中で、高橋氏の作品だけ読んだことないのだが、この対談を読んで高橋氏の波瀾に満ちた半生 を知り、ぜひとも高橋氏の作品を読んでみようと思った。
 宮部さんの対談では、『レベル7』は最初は違うストーリーだったという話や、 作家としての目標、創作法、『火車』はどのようにして書かれたのかなど興味深い情報が 満載だった。
 それぞれのファンにおすすめの一冊。


『人形はなぜ殺される』高木彬光(角川文庫)
笑い0点 涙0.5点 恐怖2.0点 総合4.5点
 日本アマチュア魔術協会の新作魔術発表会が行われるその日、魔術師が集う楽屋で、 衆人環視の中、鍵のかかったガラスの箱から”人形の首”が蒸発してしまった。その後、発生した殺人事件の現場に、 無惨な首なし死体とともに、消えた人形の首が転がっていた。
 殺人を犯す前には、必ず人形を殺して殺人予告をする大胆不敵なこの殺人犯に、名探偵・神津恭介が挑む。

 高木彬光氏の数ある小説の中で、特に名作としてあげられる小説の一つが、この『人形はなぜ殺される』だ。 読んでみて、なるほど名作だと思った。時代設定は昭和20年代とかなり古いが、使われているトリックや雰囲気などは、 最近の本格ミステリと比べても全く遜色がない。
 タイトルにもなっている”人形はなぜ殺される”という問いに対する答えも、なるほどそういうことか、とすっかり感心 させられた。
 しかし、ひとつ不満があった。それは、名探偵・神津恭介についてだ。防げたような事件を防げず、彼より先に真相を知った 人物にヒントをもらったり、多くの犠牲の末に解決したり、と名探偵らしからぬ所がいくつか気になった。まあ、犯人が それだけ手強かったといえばそれまでなのだが。神津恭介を知るためにもう少し、神津恭介のシリーズを読んでみたいと思う。


『シーズ ザ デイ』鈴木光司(新潮社)
笑い0.5点 涙1.0点 恐怖0点 総合2.5点
 その昔、太平洋横断航海に失敗し、船を沈めてしまったことのある船越は、妻との離婚を機に、知り合いの岡崎が 所有していたクルーザーを購入することにした。売買契約を結ぶ当日、岡崎の代理で来た一人の女性は、契約書とともに その後の船越の運命を左右するある海図を持参していた。

 いろいろなエピソードがたびたび入ってくるため、メインのストーリーがかすんでしまっている気がした。 また、タイトルや装丁などを見てもっと、航海シーンが多く出てくるのかと思っていた。しかし出てくるのは あのときああしなければとか、こいつを連れてこなければとか、読んでいて少々うんざりする後悔シーンばかりだった。
 さらに登場人物がひどい。とくに主人公を含めた身内には感情移入できるような人がいない。皆、自業自得の結果なのに、 その責任を転嫁し合っている感じを受けた。
 著者が海が好きなのはわかったが、はっきりいって同じ海の読み物ならば、実際に漂流した人が書いたノンフィクション のほうがずっと面白いし、感動できる。


『富豪刑事』筒井康隆(新潮社)
笑い3.0点 涙0点 恐怖0点 総合4.0点
 「富豪刑事の囮」「密室の富豪刑事」「富豪刑事のスティング」「ホテルの富豪刑事」の計4篇からなる短編集。
 「富豪刑事の囮」:四人に絞られた五億円強奪事件の容疑者たち。彼らの中から犯人を捜すためには、 犯人に、奪った金を使わせてその隠し場所まで尾行すればよいと、神戸大助刑事は提案した。それを実行するため、神戸刑事は、 身分を隠して容疑者と親しくなり、自ら率先して大金を湯水のごとく使いはじめた。
「密室の富豪刑事」:中小企業の社長が、密室の社長室で焼死した。動機が充分すぎるほどある ライバル企業の社長が、最有力容疑者なのだが、どのように殺害したのかトリックがわからない。そこで神戸刑事は、全く同じ タイプのライバル企業を自費で創設し、その社長を刺激してみることにした。

 高価な葉巻を半分も吸わずに捨て、十万円以上のライターをいつも置き忘れ、ヴェルサイユ宮殿のような邸宅にはクレー射撃場 もあり、ダンスパーティーを開くとなれば、大臣から外国の女優までも招待し、音楽はロンドン・フィルハーモニィを呼ぶなど、 ケタ外れの富豪ぶりを見せる神戸大助刑事が主人公の短編集。
 ところが大助自身の収入は、公務員としての給料しかないのだ。実は彼の父が資産家で、むかし、悪どいことをしてまで 稼いだお金を、大助が警察のため、世のために使うことで罪が清められると考え、率先して大金を使わせているのだ。
 設定も型破りだが、小説としても筒井氏らしさが出た型破りなものになっている。地の文に著者の視点で注釈のようなものを 書いたり、登場人物が読者に語りかけてきたり、と奇妙な小説になっているのだ。
 トリックなどミステリの部分は、それほど面白さはないが、この破天荒な設定は一度読む価値あり


『少年たちの密室』古処誠ニ(講談社ノベルス)
笑い0点 涙0点 恐怖1.0点 総合3.5点
 東海地震で倒壊したマンションの地下駐車場に閉じ込められた六人の高校生と担任教師。暗闇の中、少年の一人が瓦礫で 頭を打たれて死亡する。事故か、それとも殺人か?殺人なら、全く光のない状況で一撃で殺すことがなぜ可能だったのか?(本書あらすじ引用)

 何とも不愉快な読後感だった。とにかく登場人物に不快感を強く感じた。野獣のような顔で、子分を多数従え、やりたい放題のこと をしているが親が権力者なのでなかなか捕まえられない。というわかりやすい典型的な悪人像で、誰が読んでも不快になるはずだ。この他、 トリックやラストもよくできてはいるが、裏表紙に書いてあるような「熱き感動」を得られるようなものではなかった。
 似たような設定の小説なら岡嶋二人の『そして扉は閉ざされた』のほうが面白いと思う。



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