「多すぎる証人」「宙を飛ぶ死体」「出口のない街」「見えない白い手」「完全な不在」の5編からなる連作短編集。
「多すぎる証人」:真名部警部は、とある縁である少年と知り合った。岩井信一というその少年は、
重度の脳性マヒのため全身の自由が著しく損なわれている。だが、熱心な読書家で、並外れた知性を持っていた。
ある日警部は、ある団地で発生した殺人事件の経緯を話して聞かせたところ、彼はたちどころに真相を言い当てた。
「宙を飛ぶ死体」:ある同窓会の席から、一人の男が忽然と姿を消した。その後、彼は
200㎞も離れた山中の湖で、死体となって発見された。
「見えない白い手」:甥に殺されるかもしれない、そう警察に相談しに来た一人の老女。
その後、甥には24時間の監視がつけられ、彼女自身も警戒を強めていた。ところが、彼女は殺害されてしまう。
同時刻、問題の甥は監視下にあり、完璧なアリバイがあった。
本書の表紙には、「THE WHEELCHAIR DETECTIVE」という英訳のタイトルが付いている。安楽椅子探偵ならぬ車椅子探偵だ。
1976年に<幻影城>に連載されていた本書には、今の日本は身障者には厳しいという、社会に対しての問題提起が含まれている。
でも、作中には、身障者には住みにくい社会だから生きるのがつらい、というような暗さはなく、岩井少年も母親も彼らと付き合う
警部たちも明るくて、読んでいて心地よかった。現代の日本は、当時に比べれば、バリアフリーという考えも一般的になり、
いくらか偏見の少ない住み良い社会になっているのではないだろうか。
推理小説としては、本書は、密室あり、アリバイトリックあり、その他様々なトリックが使われた正統派の出来になっている。
非現実的でごてごてした本格ミステリばかりではなく、たまにはこういう正統派の推理小説を読んでみるのもいいですよ。
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