HOME 著者名 タイトル ジャンル

ノンフィクション


『たった一人の生還−「たか号」漂流二十七日間の闘い』(佐野山治)新潮社
興奮★★★★☆  笑い☆☆☆☆☆  涙★★★★☆  総合★★★★☆
 これは、古本屋で目にとまり、半ば衝動的に買ってしまった本です。こういうジャンルの本もたまにはいいかなと思って買ったのですが、 でも、ホントは、こんな軽い気持ちで読めない本じゃないかと思います。それほど壮絶な内容でした。

 1992年のグアムレースで遭難した「たか号」から救命イカダに乗り移り漂流、仲間が次々と死んでいく中、最後にたった一人27日後に救出された 壮絶な体験が語られている。遭難中の食料と言えば、6人がタバコの箱の半分ほどの乾パンを1日1枚6等分して食べるという粗末なもので、水分も極わずか。 その乾パンがなくなってからは、カツオ鳥を捕まえ、肉から内臓に至るまで生で食べるという極限の漂流生活のようす。救助されてからの、心のケアのようす などがリアルに書かれていて、自分が今何不自由なく暮らしていることのすばらしさをしみじみと感じました。


『そして死刑は執行された』合田士郎(恒友出版)
興奮★★★☆☆  笑い★★☆☆☆  涙★★★★☆  総合★★★★★
 著者・合田士郎(実名ではなくペンネームだそう)は、元死刑を求刑され、その後、無期懲役となった身である。 一時期は、千葉県の刑務所に服役していたものの、ボス狩り(詳しくは本書中)にあい、日本最古の刑務所・宮城刑務所に 移送された。その宮城刑務所に服役中、一級昇格の交換条件として「死刑囚監房掃夫」を命ぜられた。「死刑囚監房掃夫」 とは、死刑囚と接し心のケアをすると同時に、死刑執行を見守り、執行後の遺体を始末するという何とも苛酷な仕事である。 本書では、その死刑執行の様子や、日頃の死刑囚の様子、また、著者自身がいた獄中の人間模様や日頃の生活が、時には笑い時には涙を 交えて、記されている。著者自身、あとがきで「死刑について語られた本は多いが、キレイごとばかりで事実を伝えていない」と語っている。 やはり、伝聞推定で書いたのではなく、自ら一度死刑を宣告されている身として書いているので、非常に生々しい。

 本書を読んで、一つ目から鱗が落ちたのが、死刑囚の場合、死刑が刑場で執行されてはじめて「死刑囚」となるのであり、それまでは 死刑の判決が確定した拘置中の者というものに過ぎない、ということだ。そのため死刑囚は、執行されるまでは、強制労働もなく、 飲食物の購入が、制限付きではあれ比較的自由で、その他の面でも、一般の懲役囚よりずっと自由な待遇なのだそうだ。さらにもう一つ意外だったのが、 よく、死刑執行されても何分生き延びていれば助かるという話を聞くが、あれは全くのデタラメであり、執行後は、医者が空気や薬入りの注射やなどを打ち 完全に殺してしまうそうだ。

 語り口は、ちょっと乱暴なところもあるが、死刑廃止論の専門書などとは比べものにならないほど易しいので、法学部や死刑廃止論者ではなくても、 ぜひ読んでほしい1冊である。本書を読めば、一般にいう「死刑囚」や犯罪についての見方が変わると思う。


『死体は生きている』上野正彦(角川文庫)
興奮★★☆☆☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★☆☆☆ 総合★★★☆☆
 なかなか強烈なタイトルだが、これはミステリーではなく、ノンフィクションだ。著者は元東京都監察医務院長で、変死体の解剖・検死をする仕事だ。
 この本には、水死体や電車に飛び込んだ轢断死体、飛び降り自殺首吊り自殺、他殺か自殺か不明の死体などの解剖にまつわる話が満載だ。しかし、この本は 読んで気持ち悪くなるたぐいの本ではない。むしろ、読むことにより、命の尊さ、自殺の愚かさ、完全犯罪の難しさなどを感じ取れる。


『死刑執行人の苦悩』大塚公子(角川文庫)
興奮★★☆☆☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★★☆ 総合★★★★☆
 憲法第36条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
 刑事訴訟法第476条 法務大臣が死刑の執行を命じたときは、5日以内にその執行をしなければならない。

 憲法では、残虐な刑罰は禁じられているのに、なぜ死刑はまかり通るのか。日本の死刑は、首吊り形式の絞殺によっておこなわれる。首吊りは、一見長い間苦しみが続き、なかなか死ねず、残虐な刑にも 思えるが、実際は、首に縄を掛けられ、地下に落下した衝撃で意識は失ってしまうのだという。だから、死刑囚には苦しみはなく、残虐な刑には当たらないのだという。
 しかし、その死刑を執行する死刑執行人にとっては、人を殺してしまった苦しみはいつまでも続くのだ。この本では、そうした死刑執行人の体験談などを通し死刑執行人の苦悩を 綴っている。その内容は、まさに衝撃であり、決して世間に公表されることのない死刑執行の様子が、事細かに書かれている。この本を読めば、死刑によって苦しんでいるのは、 死刑囚だけではないことが分かるだろう、そして、死刑の必要性を疑わざるを得ないだろう。

 そもそも死刑というのは、1.懲罰 2.凶悪犯罪防止の見せしめ 3.報復・仇討ち の意味があって存続しているのだという。世論も、被害者の立場に立つため死刑に反対する人は少ない。 しかし、反対する人は、その実体について何も知らないことが多いのだという。それは、死刑が、裁判とは違って公表されないからだそうだ。だから、世論は、ある凶悪犯人が、死刑を言い渡されるまでは 興味を持つものの、その凶悪犯人が、獄中でいかに人間的に更生し、立派な人間になったのかまでは、知ることがない。
 この本を読み、多くの人が一度死刑について考えてみる必要があると思う。


『死体は知っている』上野正彦(角川文庫)
笑い☆☆☆☆☆ 涙★☆☆☆☆ 恐怖★★★☆☆ 総合★★★☆☆
 監察医歴30年、検死した変死体が2万体という著者が、自らの体験事例や、死体をめぐる悲喜こもごものエピソードを綴った本である。
 著者によると、医学部に入っても、臨床医ではなく、法医学を専攻し監察医になる者は、10年に1人くらいしかいないのだという。 地方公務員扱いの監察医より、収入も臨床医の方がずっと高いし、治ることのない死者を相手にする仕事なので、本当に好きな人しか続けられないのだそうだ。
 命の尊さを改めて知りたい人や推理小説が好きな人は、一読してみてはどうだろうか。


『世界紛争地図』松井 茂(新潮文庫)
笑い☆☆☆☆☆ 涙☆☆☆☆☆ 恐怖★★★★☆ 総合★★★☆☆
 1999年7の月に、空から降りてくるという恐怖の大王。人類を滅亡させるかもしれないその正体は、隕石であるとか、惑星探査衛星カッシーニであるとか、いろいろ言われているが、 もっとも可能性がありそうなのは、「核兵器」ではないだろうか。そんなことを本気で考えさせられる一冊である。
 NATO軍の中国大使館誤爆による、米中関係の悪化。インド・パキスタンの紛争、ロシアの自動報復システム「死の手」作戦など、いつ核兵器が使われてもおかしくない状況なのだ。
 本作は、世界各地で発生している紛争を、実際に目で見てきた著者が、地図を使い、わかりやすく解説している。ガイドライン法案が可決したことだし、もはや日本も、そういった紛争を対岸の火事であると 楽観してはいられなくなっているのではないだろうか。


『連合赤軍 「あさま山荘」事件』 佐々淳行(文春文庫)
笑い1.5点 涙4.0点 恐怖3.5点 総合4.5点
 軽井沢にある「あさま山荘」に連合赤軍が人質を取って立て籠もった事件は、全国に生中継され、 視聴率89.7%という驚異的な記録を残した。この事件で現場の機動隊を指揮していたのが、この本の著者である。著者が書いた当時のメモや関係者の証言を もとに書いているため、非常に詳細で緊張感と臨場感あふれる内容になっている。
 自然の要塞と化した「あさま山荘」を攻略するのに、誰をどう使い、どのように攻略していくか作戦を立てる、など まるで戦国時代の城攻めそのものといった感じだ。ホンの20数年前の日本であった事件とは思えない。また、本書は、 「あさま山荘」事件の記録であるとともに、危機管理・有事の時のリーダーの在り方などを学ぶのにも有効である。
 あさま山荘事件のように、20世紀を代表するような大事件は、この世紀末にかけてよくテレビなどで特集されるので、 興味がある人は、番組と共にこの本も読んでみるとよいと思う。


『東大落城 安田講堂攻防七十二時間』 佐々淳行(文春文庫)
笑い1.0点 涙3.5点 恐怖2.5点 総合4.0点
 昭和44年1月、学園紛争の天王山ともいうべき戦い、東大安田講堂事件が勃発した。当時、警視庁警備部警備第一課長に任命された著者は、 幕僚長として現場で活躍した。それまで肉弾戦中心であった学園紛争攻防戦において、著者は催涙ガスを導入し、戦国時代さながらの戦術を立て、 機動隊を指揮していった。
 授業料値上げ反対というような問題から、政治問題・社会問題等に発展していった学園闘争だが、当時はホントに想像を絶する時代だったのだなと思う。 自分たちの主張を通すために、火炎瓶・投石・塩酸・硫酸等で武装し、バリケードを築き、機動隊を攻撃するなんて、今の若者には出来ないだろう。 政治には無関心だし、自分の利益優先だし、武装してまで社会に訴えたいこともないし、なによりも当時ほど今の若者が結束するということは ないと思う。また、本書を読んで思うのが、当時の警察は”男”だったのだなということだ。今のような平和で官僚主義的な時代に、 このような紛争が発生したら一体どうなるのだろう。不祥事続きの警察には本当に呆れてしまうが、 そんな警察にも本書に出てくるような”男”がいることを祈りたい。


『続・そして死刑は執行された』 合田士郎(恒友出版)
笑い2.0点 涙3.0点 恐怖1.5点 総合4.5点
 強盗殺人の罪で死刑を求刑され、その後無期懲役に確定になったその人が、この本の著者である。前作、 『そして死刑は執行された』の中の、著者が死刑囚の世話と遺体の後始末をやったという主旨の記述について、宮城刑務所から 、「そういう事実はない」との抗議文が出版社宛に届いたのだそうだ。本書は、その講義を受け、さらに詳細に、所々著者以外の元囚人の 証言を交えて、死刑囚の獄中の様子を真正面から書いている。そして、その抗議文と、抗議文に対する出版社の回答書、さらには本書の 記述について国会で論議された記録などが、「資料」として巻末に付記されている。

 前作でもそうだったが、読了後、本当に死刑の是非について考えされられる。
 近頃は保険金殺人やら、少年による残虐な事件やら通り魔やら 凶悪な犯罪が絶えない。マスコミによって、いかに犯人が凶悪で、被害者がいかに哀れだったかを連日見せられることにより、 僕らは”死刑にしろ!”と当然のように思ってしまう。しかしそれは間違いだと思う。確かに被害者にとっては犯人は憎むべき存在だ。 しかし、マスコミの報道が100%正しく、そして警察の捜査と発表が100%正当だとは限らないと思うのだ。いまや警察の信用も 地に落ちているが、警察は昔から”でっちあげ”をしていたようだ。それにより、現に冤罪者も出ているし、いまだ獄中から無実を叫び続けている 人もいる。
 「死刑」という難しいテーマを扱っているが、その文章は軽快でわかりやすく、とても読みやすい。だから死刑に関心のある人も ない人も、ぜひ一度本書を手にとって読んで欲しい。


『Dr.キリコの贈り物』 矢幡洋(河出書房新社)
笑い0点  涙3.0点  恐怖1.0点  総合4.0点
 1998年12月、一人の女性が宅配便で届いた青酸カリを飲んで自殺した。青酸カリの送り主は『ドクター・キリコの診察室』というHPの主催者・Dr.キリコという 人物だった。結局、Dr.キリコは、自らの責任を負うように、自分も服毒自殺した。
 当時、僕は、インターネットの裏社会に住む薬の売人がおこした事件、としか思っていなかった。ところが、本書を読んで単純ながら、その考えは一変してしまった。
 匿名性を悪用した”悪い人”が多いネット社会で、ここまで他人のことを一生懸命に親身になって、考えていた人は珍しいのではないだろうか。その方法は間違っていたとはいえ、 自殺願望者を何とか思いとどまらせ、必死に救おうとしていたDr.キリコは、「犯罪者」と一言では片づけられない人物だった、ということがよくわかった。
 生と死について考えてみたい人や、心病む人を少しでも理解したいと思っている人などにおすすめである。


『図書館をつくった!−ボランティア活動18年の記録−』 林健生(青弓社)
笑い0.5点 涙0点 恐怖0点 総合3.5点
 自分の子どものために図書館がほしいと思い立ち、図書館づくり運動を楽しいボランティア活動として 始めた東京都文京区の住民のユニークな記録。

 若者の活字離れは年々顕著になっている。テレビやマンガやゲームが面白いというのは、よくわかる。 しかし、本はそれら以上に魅力的で面白いのだ。子供のうちから多くの本に触れさせ、そのことを教えていく必要がある。 そのためには無料で本が借りられる図書館という施設は必要なのだ。ところが、日本は本当に図書館が少ない。 僕も最寄りの図書館に行くのに車で20分はかかる。車がない人や本を読むべき子供たちは、これでは利用できない。
 そんなわけでこの本の著者は、それなら近くに図書館をつくってしまおうと思い立ったのだ。1974年10月に 思い立ち、1976年7月には開館した。この短期間に署名運動・請願・土地探しと次々にこなしていった。しかも すべてボランティア活動によるものだったというからすごい。
 本書は、ボランティアの記録としても面白いが、著者らが「読み聞かせ」で子供たちに読んだ童話や絵本の 紹介もあるので、小さいお子様がいる人にとっては、子供のブックガイドとしても役立つと思う。


『日本の正体』 落合信彦(小学館文庫)
笑い0点 涙0点 恐怖0.5点 総合4.5点
 「教育の正体」「文化の正体」「マスコミの正体」「官僚の正体」「結婚の正体」 「外交の正体」「政治の正体」「経済の正体」「社会の正体」と題された九つの章からなるメッセージ。

 現在の日本の問題について、歯に衣着せず指摘しているので、読んでいてとても気持ちがいい。中には、、ちょっと過激すぎて ついていけない部分もあるが、全体的に共感できたし、目の覚める思いがした。
 「子供の頃は”拝点主義”、大人になると”拝金主義”」「マンガは文化ではない」「テレビは愚民化の道具である」 「結婚はゴールではなくスタート」「日本も情報局や諜報機関をもつべき」「選挙法に世襲制限条項を設けるべき」・・・等々、インパクトの あるメッセージが満載である。
 ”拝金主義”におちいる前の若いうちにぜひとも本書を読んでほしいと思う。そして、日本を変えていこう!という気持ちになってくる。 無知な僕のような人は、すぐに洗脳されてしまいそうな本だった。


HOME 著者名 タイトル ジャンル