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竹内 真


『カレーライフ』 竹内 真(集英社)
笑い3.0点 涙2.0点 恐怖0点 総合5.0点
洋食屋を営んでいた祖父は、毎年お盆に僕ら5人の孫が集まると、必ずカレーライスを作ってくれた。ところが、その 祖父がお盆に急死した。そこで、いとこ同士である僕ら5人は葬儀の席で、「大人になったら5人でカレー屋をやろう」と 約束したのだ。
 時が過ぎ、約束について語られることもなく、5人は別々の道を歩んでいた。ところが、二十歳を間近にして、僕は 父親のある勘違いをきっかけに、カレー屋になる決心をした。そしてここから、いとこを集める長い長い旅が始まる。

 カレー屋が開店するまでの騒動と、ほかのいとこと比べるとちょっと頼りないケンスケが、旅をとおして成長していく様子 が描かれている。
 主人公のケンスケ、楽天家のワタル、世界を放浪中のサトシ、アメリカに留学中のヒカリ、行方知らずのコジロウという 5人のいとこ、そしてケンスケが旅先で出会う多くの人たち、彼らが皆個性的で好感の持てるいい人ばかりなのだ。 読んでいてとても元気が出るし、明るくなる小説である。そしてなにより、何種類出たのかわからないほど数多くのカレーライスが 登場し、読んでいるだけで腹が減る小説である。
 一つ残念なのは、これがフィクションであることだ。これがノンフィクションで実際にこのカレー屋が存在すればいいのに。 そこまで思わせる魅力があるし、何より彼らの作るカレーが美味しそうなのだ。
 本書を読んでから、著者のHPを見つけた。それを読むと、著者の竹内氏はなんとTVチャンピオンの「カレー通選手権」に 出場したことがあるという。これだけ美味しそうなカレーが書けるのも納得できる経歴である。
 1300枚という結構な長編だが、時間も忘れて入り込める一冊である。


『粗忽拳銃』 竹内 真(集英社)
笑い3.0点 涙0.5点 恐怖0点 総合4.5点
 噺家の卵・流々亭天馬と彼の友人3人は、飲んだ帰りの道で、一丁の壊れたモデルガンを拾った。天馬がそれをいじって、 冗談混じりに引き金を引くと、轟音とともに実弾が飛び出した。本物のピストルだと知り、4人はしばらく呆然とするのだが・・・。

 第12回小説すばる新人賞受賞作。
 表紙を見たときは、ハードボイルドなのかと思っていた。しかし、読んでみたら全く違う。至る所に落語が散らばっていてる コミカルな青春小説だった。この奇妙なタイトルも『粗忽長屋』という落語のネタからとっているようだ。
 前座の噺家の流々亭天馬。貧乏役者の三川広介。映画監督の卵・時村和也。見習いフリーライター・高杉可奈。という 仲良し4人組が中心となって話が進む連作短編集に近い長編小説。
 表現することに魅入られた彼ら4人の表現者たちは、どう考えても銃刀法違反だろうという行為を、明るく軽いノリでやってしまおう とする。それには少々とまどいを感じた。前回読んだ『カレーライフ』でも、登場人物の一人がインドで、大麻の一種を軽いノリで吸って 見るシーンがあった。小説とはいえ、「いいのだろうか?」と思ってしまうのだが、僕の頭が堅すぎるのだろうか。
 話としては、明るく元気の出る面白い小説だった。


『風に桜の舞う道で』竹内 真(中央公論社)
笑い3.0点 涙0.5点 恐怖0点 総合4.5点
 18歳の春から1年間を、桜花寮という予備校の寮で暮らすことになったアキラは、ヨージやリュータ、ニーヤン、ダイなど たくさんの気の合う仲間と充実した浪人生活を送っていた。
 10年後、久しぶりに会った仲間から、リュータが死んだという噂を聞いた。どうしても信じられないアキラは、 ほかの仲間とも連絡をとり、真相を調べることにした。

 1990年と2000年の彼らの様子が交互に書かれ、4月から翌年の3月までの12章立てになっている青春小説。
 読んでいてとても心地がよい小説だった。この心地よさは、恩田陸の『ネバーランド』を読んだときのそれと似ている。 『ネバーランド』は学生寮で暮らす高校生で、本書は予備校生という違いはあるものの、どちらも「あのころに戻りたいなぁ」 という気持ちになる。受験戦争はもう体験したくないが、大人でも子供でもないあの年頃は不思議なくらい毎日が楽しかった気がする。
 相変わらず人間描写がうまく、ストーリーも、10年後という設定も面白くて、もっとこの著者の本を読んでみたい!と強く思った。


『じーさん武勇伝』竹内 真(講談社)
笑い2.5点 涙0.5点 恐怖0点 総合4.0点
 「男の価値ってのはなぁ、どれだけ無茶苦茶やって生きていくかだ。」
そう豪語する僕のじーさんの人生はたしかに無茶苦茶だ。じーさんは80を過ぎているけど、 警察だろうが、海軍だろうが、海賊だろうが、マスコミだろうが、そして相手が何人だろうがお構いなしに立ち向かい、 腹に据えかねれば殴り飛ばす。
 そんなじーさんが、ある日、沈没船に眠る財宝を探すと言って旅立ったサイパンで遭難してしまう。 だけど、僕ら家族は誰も心配していなかった。あのじーさんが死ぬわけないのだ。

 『小説現代』新人賞受賞作の「神楽坂ファミリー」を含む3篇からなる連作短編集。
 「こんなじーさんいるわけないだろう!」とまともなツッコミは跳ね返されてしまうくらい 荒唐無稽なじーさんの武勇伝。鮫を殴り、鯨に立ち向かい、海賊シンジケートを敵に回す…。 こんな展開の連続なのだ。
 ボケたくない、寝たきりになりたくない、静かに死を迎えたいなどの老人っぽい悩みや暗さは ゼロ。逆に、若い読者がじーさんに元気をわけてもらう小説だ。
 小説の内容は面白くて不満はないのだけど、装丁がちょっといまいちだなぁという気がした。 もっと内容にあった、パワフルで無茶苦茶な装丁がいいのにと思った。まあ、これは個人的な 好みの問題だけど。


『真夏の島の夢』竹内 真(角川春樹事務所)
笑い2.0点 涙0点 恐怖0点 総合3.0点
 瀬戸内の鹿爪島にやって来た、男4人(コント劇団コカペプシ)と女性2人(小説家とアシスタント)。 男たちは、夏の間バイトと舞台の稽古をしながら、鹿爪島アートフェスティバルに参加するために、 女性作家は、官能小説執筆ため、この島のホテルに缶詰になることにした。女性作家は、男たちを見て、 小説への執筆意欲と性欲を高め、男たちは、地元の老人が中心となって行なっている産廃問題の反対運動に 巻き込まれるものの、島であった出来事をコントの舞台に活かしていく。

 久々の長編なのだが、笑いも謎もドタバタ劇も官能もどれも中途半端だという印象だった。
 コカペプシの4人のキャラクターや、官能小説家とそのアシスタントなど登場人物のキャラクターは 面白いのだけど、そこに詰め込んだコント劇団とか官能小説とか産廃問題とか孤島とかアートフェスティバル といった設定が上手く消化し切れていないというか、かみ合っていないという感じがした。
 ただ、お笑い好きな著者だけに、コントの舞台が出来上がっていく様子は「こうやってお笑いの 舞台は出来ていくんだろうな」と思わせるリアリティはあったし、彼らが舞台にかける情熱も伝わってくる 感じはした。
 『カレーライフ』が傑作だっただけに、少し辛めの総合点になった。


『図書館の水脈』竹内 真(メディアファクトリー)
笑い2.0点 涙0.5点 恐怖0点 総合4.0点
 その昔、少しの間だけ図書館で寝泊りした経験のある甲町は、その時に出会った一冊の本がきっかけで、作家になった。 今も、売れない作家を続けている彼は、『海辺のカフカ』を読み、その物語に導かれるように四国へ一人旅に出かけた。 一方、パー子(パーマン3号)と村上春樹がキッカケとなって、付き合い始めたワタルとナズナもまた、『海辺のカフカ』に影響を受けて、 四国に旅立った。

 雑誌「ダ・ヴィンチ」10周年記念の、村上春樹トリビュート企画で書き下ろした長編だそうだ。
 村上春樹は、しばらく前に初めて読み、現在はまりつつある作家で、『海辺のカフカ』も積読してある。 こんな小説が出ると知ってたら、積読してないで読んでおけばよかったと思った。でも、『海辺のカフカ』を 読んでなくても、問題なく楽しめる。
 美容師のナズナと客であるワタルの出会いが、いい感じだなと思う。自然と言えば自然なんだけど、 恋愛ドラマのようでもある。そして、四国では、甲町が『海辺のカフカ』を読んでいるのを見て、 ワタルたちは声をかけるのだが、こういう本を介した出会いって、読書好きにとっては、理想的というか 魅力的というか素敵というか。でも、ふと考えてみると、自分自身もそうだけど、電車や屋外で本を読んでいる 人って、大半はブックカバーをかけていると思う。だから、「あッ、あの人『海辺のカフカ』読んでる」って、 なかなか気づかない気がする。これでは、本を介した出会いのチャンスが減りそうなので、今度からは ブックカバーをしないで、本を読もうかな・・・。


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