清水義範
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『日本語必笑講座』 清水義範(講談社) |
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笑い2.5点 涙0点 恐怖0点 総合4.0点 |
日本語の面白さを再発見させてくれるエッセイ集。
第1室「ことばの見本市」では、政治家がつかうことば、週刊誌のことば、若い女性のことば、CMのことば、
芸術作品題名のことば、日本人の好きなことばなど23分野の言葉についてのエッセイを書いている。
この中の「人を呼ぶことば」というエッセイで、子供に対して「ぼく、どこから来たの?」とか、妻のことを
「おかあさん」などと呼ぶ言い方の原理は、”そこにいるいちばん小さい子の立場から言う”ということなのだそうだ。
つまり子供の目から見た呼び方を使っているということだ。これには目からウロコが落ちる思いがした。
第3室「ヘンナ語みっけ!」は、”ネコの缶詰あります”とか”サイテーのマナーです”といった言いたいことはわかるけど、
ちょっと変で笑える広告・標語をとりあげている。
ほかにも小学生の子供を持つお父さんお母さん必見の「裏技付き読書感想文の書き方講座」など面白いエッセイ満載である。
日本語の魅力を再認識するためにも是非読んでほしい一冊である。
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『日本語の乱れ』 清水義範(集英社) |
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笑い3.0点 涙0点 恐怖0点 総合4.0点 |
「日本語の乱れ」:とあるラジオ番組で、気になる日本語の乱れをお知らせ下さいと募集したところ、
うんざりするほどたくさんの投書がきてしまった。
「場所か人か」:お前・あなた・奥様・家内・上様など日本語では、名前を呼ばずにその人物が
いる場所を呼ぶことが多い。もしも、あくまでも場所は場所だと言い張る人がいたらどうなるか。
「耳の言葉、目の言葉」:音声入力ソフトは方言をどんな文章にするのか。
「伝言ゲーム」:内密の話だったのに、いつの間にか尾ひれが付きながら広まっていく話の顛末。
「二〇〇一年宇宙の恥」:民間人として初めて宇宙旅行に出発する12人の乗客たち。多国籍な
12人の中に、なんと4人もの名古屋人が入っていた。名古屋人宇宙旅行記。
以上のほか「たとえて言うならば」「花の名前」「題名に困る話」「侃侃諤諤」「宮事記」「絵のない絵日記」「学習の手引き」
の計12編からなる短編集。
日本語に関する真面目な考察・問題提起という一面もなきにしもあらずだが、ほぼ言葉を題材にした笑える小説といって
さしつかえないであろう短編集。
以前読んだ『日本語必笑講座』と重なる記述も多少あった。似たテーマの本だし、よほどそのことを言いたかったのだろうなと思う。
「ら」抜き言葉、平板なアクセント、半疑問形会話など確かにひどい日本語の乱れもあるが、時と場所と相手を選んで使えるなら
別にうるさく言う必要はないと思う(それができないから問題なんだろうけど・・・)。アナウンサーが半疑問でニュースを読んだりしたら、
それは大問題だけど、若者の中で日本語が乱れているのがそれほど問題なのかなぁ。極端な言い方だけど、今の言葉だって平安時代や
戦国時代なんかと比べれば変化してるし、その時代からみれば乱れてるのではないか。結局、言葉なんて時代とともに変化するのだから、
目くじら立てて日本語の間違いを指摘することもないだろう・・・というようなカタ苦しいことなど考えずとも、気軽に笑って読める面白い
一冊である。
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『ジャンケン入門』清水義範(角川文庫) |
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笑い2.0点 涙0点 恐怖0点 総合3.0点 |
「ジャンケン入門」「窮理オレンジ教の教え」「チャンバラ・ギャング」「実りの秋に」「こわい話」
「筑波の恋」「待合室」の計7篇からなる短編集。
「ジャンケン入門」:日本ジャンケン連盟の役員であり、ジャンケンの有段者である人物が書いた
ジャンケンの手引き書。
「チャンバラ・ギャング」:時代劇悪役俳優として知られる樽岡宗十郎の生活ぶり。
「コワイ話」:”私”がこわいと感じる「こわい話」とは。
「筑波の恋」:彼女イナイ歴31年の熱力学研究者が、一人の女性とデートをしたのだが・・・。
人間観察が趣味というだけあって、会話も描写もリアリティがある。それに加えて、日常のある場面をそのまま切り取ったような短編が
多いから、よりリアルさが増している。
だけど、今まで読んだ小説よりもユーモアの度合いがちょっと低かった。その点が少し残念だった。まあ、ユーモア小説だけじゃなくて、
けっこうシリアスな小説も書くのだということがわかったのが、ちょっとした収穫だった。
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『おもしろくても理科』清水義範/絵・西原理恵子(講談社文庫) |
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笑い2.5点 涙0点 恐怖0点 総合3.5点 |
理科や科学はさっぱりわからん、と毛嫌いしているような人の理科アレルギーを治すべく書かれた面白理科エッセイ。
慣性の法則にはじまり、時間について、懐かしい理科実験、脳の中身、食中毒、地球の滅亡などなどなど、ちょっと難しい話題を
笑いを交えて、理科嫌いの人にも理解できるように書かれている。
たしかにわかりやすいけど、サイバラさんのようについて行けない人もいるだろうなというレベルの内容だった。かくいう僕も、
高校生の時は、生物と地学専攻だったから、物理と化学は苦手。でも、本書は結構、生物・地学寄りの話題が多かったので、
読みやすかった。
「海辺の生き物」という、理科エッセイらしからぬタイトルの一編がかなり面白い。清水さんがビデオカメラで海辺の生き物を
撮ったときの話なのだが、いい年してお茶目なことやってるなぁと思う内容だった。とくに、夫婦漫才のように、「海の死に物」
というビデオを奥さんと撮っている様子はほほえましい光景だった。
理科アレルギーの人はぜひ読んでみよう。
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『バラバラの名前』清水義範(新潮文庫) |
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笑い3.0点 涙0点 恐怖0点 総合4.0点 |
「バラバラの名前」:話題作『薔薇の名前』をパスティーシュした笑い作。
「一攫千金人生」:中学生の頃から一攫千金を追い続けた男の話。
「配分王」:弁当を食べるのにもご飯とおかずの配分を気にするほど配分に
こだわる男の話。
「モットー選定会議」:北星食品工業株式会社のモットーを決めるべく開かれた会議の模様。
「渋滞原論」:交通渋滞の原因と解消法を真面目に考察した論文だと思いきや・・・。
「旧石器の男」:岩宿遺跡を発見したアマチュア考古学者相沢忠洋の小伝。
以上のほか、「新作落語」「インタビュー」を含む計8作からなる短編集。
バラエティに富んだ短編集。
「バラバラの名前」「旧石器の男」は、清水さんの師匠・半村良氏からいただいたアイディアをもとに書いた作品なのだという。
とはいえ、「バラバラの名前」というタイトルと、相沢忠洋という人物がいる、という程度のアイディアだから、ほとんど
清水さん自ら生んだ作品といっても大差ないと思う。
「旧石器の男」では、群馬県の岩宿という場所へ清水さん自身が訪れたときの話も書いてある。
僕の実家はこの岩宿からそう遠くないところにあるため、なんだか読んでいて妙な気分だった。
清水さんはあの岩宿の景色をそう表現するのかぁ、とかあんな何もない所まで作家は取材に
訪れるんだ、とかなかなか興味深かった。
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『ザ・対決』清水義範(講談社) |
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笑い3.5点 涙0点 恐怖0点 総合4.0点 |
「ソクラテスvs釈迦」:東西を代表する2人の賢人はある日、天の声に従い対決をすることになった。
「シェイクスピアvs近松門左衛門」:霊界で出会った2人は互いの作品について語り、ついには相手の
作品を自分流にアレンジして披露しはじめた。
「ロビンソン・クルーソーvsガリヴァー」:ロビンソンが生活する無人島に偶然漂着したガリヴァーの話。
「桃太郎vs金太郎」:お互いヒーローとして相手に興味を抱いていた2人が、ある対決をすることになった。
「空海vs最澄」:同時期に唐に渡った2人だが、密教がその後の運命を分けた。
「大岡越前守vs遠山金四郎」:2人が同じ事件を裁いたら…。
以上のほか「コーヒーvs茶」「ラーメンvsカレーライス」「楊貴妃vsクレオパトラ」「紙vs火薬vs羅針盤」の
計10の対決からなる短編集。
どの勝負も、いったいどちらを勝たせるんだろう、と興味津々で読んだ。しかし、そこは、どっちの味方からも
苦情・異論が出ないようなうまい結末が用意してあった。僕としては、もっと独断でいいからスパッと優劣を
決めて欲しかった。
それにしてもどの短編もバラエティに富んだ対決で面白い。またそれぞれ文体や作風も違って”さすが清水さん”
という一冊でした。
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『ことばの国』清水義範(集英社文庫) |
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笑い3.0点 涙0点 恐怖0点 総合4.0点 |
「徹底討論」:「給食は必要か否か」というテーマで始まった討論番組だったが…。
「廃語辞典」:”失敬”、”アベック”、”押し売り”、”E電”などなどの廃語を解説。
「手垢のついた言いまわし」:ニュースや新聞などで決まって使われる言いまわしやレトリック。
「ファクシミリ大乱戦」:間違って送られてきたファックスが引き起こす大騒動。
「スカートとスピーチは」:こんな感じの結婚式スピーチは困りもの。
「言葉の戦争1,2」:英・米・豪と開戦した日本では、英語は敵性語となり、使用できなくなってしまった。
あふれるカタカナ語を日本語にしようと苦心しているうち、ついに中国とも開戦。漢字の音読みまで使用不可になってしまったのだ。
その他「手紙の書き方」「使用禁止ことわざ辞典」「言わせろ」「ファッション用語の不思議」「前号までのあらすじ」
の計12編からなる短編集。
様々な「ことば」に関する短編集。
「手垢のついた言いまわし」と「前号までのあらすじ」は、このHPで感想文を書いている僕にとってはなかなか
有益な短編だった。数多く感想文を書いていると安易に変わりばえのしない表現や手垢の付いた言いまわしを使ってしまう。
今後は注意しよう。
「言葉の戦争」は面白かった。今、英語使用禁止になったらこれほど大変で笑える事態になるんだなぁ。
ゴルフは孔球、ボディコンは肉体挑発服、ジョギングは弱走、『ロッキー』は『拳闘士出世街道』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
は『時空てんやわんや』、『トップガン』は『飛ぶ棺』。このように清水さんらしいユーモアに満ちた短編なのだ。
ちなみにこの小説の解説は、宮部みゆきさんが執筆している。
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『国語入試問題必勝法』清水義範(講談社文庫) |
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笑い3.5点 涙2.0点 恐怖0点 総合4.5点 |
「猿蟹合戦とは何か」:太宰治は『お伽草紙』の中で、なぜ猿蟹合戦を取り上げなかったのか。
そしてそもそもこの昔話は何を象徴した話なのだろうか。
「国語入試問題必勝法」:国語が大の苦手である受験生に、家庭教師が伝授した秘技とは。
「時代食堂の特別料理」:小さな商店街のさらにその裏道に、ひっそりと開店している「時代食堂」。
そこの特別料理は、青い蜜柑だったり、油っぽいナポリタンだったり、毎回、それも客によって違ったものが出される。そして、
その料理を一口食べると…。
「ブガロンチョのルノワール風マロケロ酒煮」:ブロガンチョ(和名・かかし鳥)とケケシラガなどを
使った料理のレシピ。
「いわゆるひとつのトータル的な長嶋節」:解説者長嶋茂雄の言葉からその思考法を探ってみると。
「人間の風景」:ボケ防止のためリレー小説を書くことになった4人の老人。普段、手紙もろくに書かない
彼らが創作したリレー小説<人間の風景>とは。
その他「靄の中の終章」を含む計7編からなる短編集。
吉川英治文学新人賞受賞作。
あとがきでこれは虚構なので、受験生はこの本を信じて受験に臨んではいけません、とわざわざことわっている。このあとがきが
なかったら本当にセンター試験などで実用してしまいそうなほど説得力のある秘技だ。ひょっとするとあながち虚構とはいえない
のではないか、とも思う。
どれも笑える短編なのだが、老人のボケゆく過程を描いた「靄の中の終章」と「時代食堂の特別料理」はなぜか切ない気持ちに
なってしまった。「靄の中の終章」はまるでドリフのコントのようにも思えるのだが、なぜか悲しくなる。
今まで僕が読んだ清水さんの本の中では、上位にくいこむ面白さだった。
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