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浅田次郎


『プリズンホテル』浅田次郎(徳間書店)
笑い2.5点 涙2.0点 恐怖0.5点 総合4.5点
 極道小説シリーズが好評の小説家・木戸孝之介。そんな彼のたった一人の親戚である仲蔵は、筋金入りの極道者である。 その仲蔵が、山奥にあるリゾートホテルのオーナーになった。生きてる人間も死んだ人間も、善人も悪人もそっくり もてなす極楽ホテルを目指してはいるが、もっぱら任侠団体の方々が利用するため、山すそに住む人たちは 「プリズンホテル」と呼んでいた…。
 そんなホテルで繰り広げられる笑いと涙の大騒動。

 オーナーは極道、支配人はカタギだがちょっとワケあり、副支配人以下従業員は皆極道、仲居はカタコトの日本語で話す 外国人というかなり小説的で突飛な設定。また、泊まりにやってくる客も皆、一癖ある人ばかり。
 でも中に散りばめてある数々のエピソードは、笑えて感動できるものばかり。エピソードそのものの良さもあるが、 悪そうに見える人たちが深みのある印象的なことを言ったりする、そのギャップがとても良い。
 ただ、小説家・木戸孝之介の性格だけはちょっと好きになれなかった。


『プリズンホテル 秋』浅田次郎(徳間書店)
笑い3.0点 涙2.5点 恐怖0点 総合4.5点
 八代目関東桜会総長の相良直吉が急逝した。小説家の木戸孝之助は、仲蔵叔父に頼んで、取材をかねて葬儀に出席した。 そこで彼は、かつての流行歌手の真野みすずに会う。彼女と仲蔵そして相良直吉との関係を知るため孝之助はプリズンホテルに向かった。
 その頃プリズンホテルには、ちょっとした手違いで警察官一行が慰安旅行のため宿泊していた。さらに間の悪いことに、 武闘派で知られる大曽根一家も宿泊するために、プリズンホテルに向かっていた。

 シリーズ2作目。あとがきを読むと、著者は前作より面白いものを書かなければ、とかなり気合を入れて書いたようである。 そのため、前作に負けず劣らず面白い一冊になっている。
 今回はヤクザが経営するホテルに警察官が泊まりにくる、と設定を聞いただけで笑いが込み上げてしまうようなストーリーである。 しかも、他にも大曽根一家や落ち目の歌手、大学教授風の男など個性豊かな登場人物がたくさん泊まっている。この登場人物たちを うまく組み合わせ、からませて絶妙な面白さと感動的なストーリーを作り出している。
 あまりにも周りが濃いため、偏屈で薄情な性格の主人公・木戸孝之助の存在がかすんでみえた。それでも最後の最後に彼にホロリと させられてしまった。


『プリズンホテル 冬』浅田次郎(徳間書店)
笑い1.5点 涙2.5点 恐怖0点 総合3.5点
 東京のホテルでカンヅメになっていた小説家・木戸孝之介だったが、押しかけてきた編集者から逃れるため、清子を連れて <プリズンホテル>に向かった。道中で、同じく<プリズンホテル>に泊まるという傷心の看護婦と出会う。
 そして雪深い山奥に建つそのホテルには何やらワケありの医師が一人宿泊していた。

 毎回、設定が突飛で楽しみな『プリズンホテル』だが、今回は割りとまともな設定だった。
 今回は、末期ガン患者に頼まれて安楽死させた医師、<血まみれのマリア>と呼ばれている救命救急センターのベテランナース、 伝説の登山家、自殺志願の少年という組み合わせで、過去2作と比べ極道色は薄く、恋愛色 がちょっと濃いストーリーになっている。
 登場人物が毎回、お説教のようでいて説教じみてない含蓄のある言葉を話すのだが、これを読むと「浅田さんは相当中身の濃い 人生を送ってるんだろうなぁ」と思えてくる。著者経歴に「様々な職業を経て」、と書いてあるが、相当いろいろな職に 就いたんだろうなぁ。


『プリズンホテル 春』浅田次郎(徳間書店)
笑い1.0点 涙4.0点 恐怖0点 総合5.0点
 木戸孝之介の小説二篇が、文壇の最高権威たる日本文芸大賞にノミネートされた。孝之介は選考会の結果を待つため、 そしてある人を探すために<プリズンホテル>に向かった。その頃、52年という信じがたいほど長期の懲役を終えた 一人の老人が<プリズンホテル>を目指していた。

 毎回、荒唐無稽な設定で楽しませてくれたこのシリーズも本書でいよいよ完結する。「偶然のめぐりあい」ばかりで あまりにもできすぎてるストーリーは相変わらずだが、それがこのシリーズの醍醐味なのだと思う。
 今回の宿泊客は、木戸孝之介の身内と編集者御一行、大曽根一家、子役の卵とその母(役者)、52年の懲役を つとめた老人とその連れ、教師。とバラエティに富んでいる。
 「」は出会いと別れの季節、そして雪どけをむかえる季節でもある。本書は「春」というタイトルに偽りなしの シリーズ完結編になっている。
 この総合5点は、シリーズを通して読んだ評価なので、初めて読む人は「プリズンホテル」から 読んでいただきたい。


『地下鉄(メトロ)に乗って』浅田次郎(徳間文庫)
笑い1.0点 涙3.0点 恐怖1.5点 総合4.0点
 自殺した兄の30回目の命日に、真次は同窓会に出ていた。その帰りに彼は、地下鉄のホームに見知らぬ出口を見つける。 そこは、兄が自殺する数時間前の東京につながっていた。
 さらに次の日、眠りについたはずの真次は、気がつくと闇市で混み合っている戦後の東京に立っていた。そこで 彼はアムールという男に出会う。

 第16回吉川英治文学新人賞受賞作。
 古本屋で買ったこの文庫には、どこにもあらすじが書いてなかったので、どんな話なのか全くわからなかった。 だから、タイムトラベルものだと知ってビックリ。浅田次郎ってこういう小説も書くのか、という思いだった。 タイムトラベルといっても、SFではなく『流星ワゴン』のような感じの感動的なストーリーだ。ただ、 地下鉄のホームから、地下鉄の車内から、夢からと、まるで法則の感じられない唐突なタイムトラベル は、少々強引で都合がよすぎる気がした。
 本書を読んで一番気になったのは、「地下鉄っていつごろできたの?」ということだ。地下に線路を敷くというのは、 とても難しいように思えるのだが、戦時中にはすでにあったのだろうか。そんな昔からあるなら、僕の地元にも 地下鉄が走っていてもいいのになぁ。空気は悪いけど、踏切はないし、雨や雪の影響はないし、結構いいことづくめ な感じがする地下鉄って、もっと普及していてもよさそうなのに。


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