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『義経(上・下)』
司馬遼太郎(文春文庫)
 母親と生き別れし、鞍馬山で育った義経だが、その後、平家を追討した立役者となる。 だが、義経のその大きすぎる功労は兄・頼朝にとっては、鎌倉幕府の確立を危うくさせるものでしかなかった。 そして、ついに義経は、頼朝に追われる身となる。

 義経はもちろん、鎌倉幕府近辺の歴史小説は読んだことなかったので、2005年の大河ドラマ『義経』も 始まったことだし、読んでみようということになった。
 義経は、軍事に関しては、神がかり的な才能と運、カリスマ性を持っていたようだ。しかし、政治に関しては 全くの無能。部下や他の武将の心理に鈍感で、司馬さんは、「一種の痴呆であった」とまで言っている。 たしかに、利害が対立すれば、親兄弟といえども敵同士という世の中にあって、「頼朝は兄である」という ことのみを信じ、そのことを中心に物事を考えている義経は、甘いなという感じはする。しかし、ひとたび 戦となると別人のごとく輝き始める。そんなギャップが人気の秘密なんだろうか。正直、僕は、本書を読んで 義経に魅力を感じなかった。
 一方、頼朝は、20年も流人生活をしていた苦労人で、軍事の才能はなかったようだ。しかし、もちまえの 政治力で自らの手を汚すことなく平家を滅亡させる。そして、平家滅亡の後、邪魔になった義経を追討するという段階になって 初めて挙兵。政治的能力は高くても、卑怯というか、武士らしくないというか、人としてどうかと思ってしまった。
 義経と頼朝は、二人で一人という印象だ。だから、この二人が、協力して鎌倉幕府を開いていれば、 三代で滅亡なんてことにならなかったんじゃないかと思う。