『QED〜ventus〜鎌倉の闇』
高田崇史(講談社ノベルス)
 シリーズ8作目。
 このシリーズを読んで毎回、わざわざ殺人事件を 絡ませなくても十分面白いのに、と思う。著者は、 すでに別のシリーズも確立したのだから、殺人事件とか ミステリな要素はそちらのシリーズに任せればいいと思う。 そしてこのシリーズは、祟や奈々たちが、旅をしながら 各地の歴史の謎を解いていくという感じにすれば。 それだけでも面白いんだけどなぁ。 まあ殺人事件がないと、ストーリーが創りにくいのかもしれない。
 NHK大河ドラマが今度「義経」になるから今回の謎は 源三代にしたのかな。でも、作中ではあまり義経については 触れてないんだけどね。

『一夢庵風流記』
隆 慶一郎(新潮文庫)
 戦国末期に、天下の傾奇者として名をはせた男―前田慶次郎の物語。
 派手な格好をして異様な振る舞いをし人々を驚かせる傾奇者。慶次郎は、 1m90cmの90kgという巨躯で、漆黒の愛馬「松風」を駆り、 朱柄の長槍を振り回す武勇に優れた「いくさ人」である一方で、 歌を詠んだり、日記を書いたり、文化的な面も優れていたそうだ。 文武両道に優れ、人柄も良く、明るく強く自由に生きた慶次郎のような 人生は憧れてしまう。しかし、どこにも属さず己の力のみで生きるというのは 難しい。
 天下を取ろう、自国の領土を広げよう、給料上げよう、というような 利害にとらわれず、自分の生きたいように生きるという人が戦国時代に もいたんだなぁ。

『アフターダーク』
村上春樹(講談社)
 渋谷。真夜中から空が白むまでの間の物語。
 作家デビュー25周年記念の書下ろし長編。
 楽しみにしてたけど、なんだかガッカリした。ほんとに村上春樹が 書いたのか疑いたくなるくらい今まで読んだのとは別物な感じがした。 タイトルはジャズの曲名から取ったみたいで、その辺は村上春樹っぽい けど、その他は違和感がだいぶある。舞台は都会だし、 ”デニーズ”や”すかいらーく”で物語が展開するし、「僕」ではなく「私たち」だし、 女性がたくさん出てくるし。
 そして、このまま映画やドラマが撮れそうなくらい描写が細かく、 見えるものすべてを書き込んでいるかのように錯覚してしまう。 ちょっと読みにくいし、説明過剰じゃないかと思うほどだ。 しかし、ストーリーについての説明は少ない。読者の想像力で補うといっても、 わかりにくすぎる。消化不良。

『屍鬼』
小野不由美(新潮文庫)
 山奥で時代に取り残されたかのように、いまだに古い風習を根強く残し続ける外場村。村人同士の絆が強く 余所者に敏感なこの村に、一軒の古めかしい洋館が移築された。誰も引っ越してくる様子もなく、主のいないその屋敷は 村人の関心の的になっていた。そんなある日、山深い集落で、三体の腐乱死体が発見される。そして、その日から、 村では怪死が続く。村でただ一人の医師・尾崎敏夫は、原因究明に乗り出し、そしてついに驚愕の結論に達する。

 文庫本で5巻完結という超長編。おそらく宮部みゆきの『模倣犯』に負けないくらいの長さだと思う。 そして、その宮部さんが、文庫では解説を担当している。
 狭い村の中に噂が伝播していく様子や、数組の村人家族にスポットをあて、彼らすべての行く末を書いていたり するので、展開が非常に遅い。村に蔓延する死の正体は何か、「屍鬼」とは何か、などについて情報が小出しにされたり、 読者はすでにその正体を知ってしまっているのに、村人はまだ気づいていないという状況が長く続いたりするので、 読んでいて非常にもどかしい。
 しかし、その正体を知った時は、衝撃だった。さらにその設定が面白い。死を蔓延させるモノに意思を持たせるとは。 とても長い長い小説だが、ほんとにあっという間に読み終えてしまった。読み終えて心地よいという小説ではないが、 ただ恐怖心を煽るだけのホラーでもない。極限状態の人間の心理や様々な葛藤など、心理描写にすぐれた小説だと思う。

『神様がくれた指』
佐藤多佳子(新潮文庫)
 出所したその日に、利き腕をケガしたスリと、ギャンブルにはまっている中性的な占い師。この二人の 偶然の出会いが、その後の二人の運命を変えていく。

 読む手を止められなくなる小説。出てくる人物が魅力的だし、ストーリーもスリルがあって、 人間ドラマもあってとても良い。ただひとつ、ラストというか後半部分にちょっと不満な点があった。 不満といっても、僕個人の好みの問題であって、ストーリー的には、意外性のあるラストでよいと思う。  これを読むと、絶対、電車に乗るときはスリに気をつけようと思うようになる。

『蒼穹の昴』
浅田次郎(講談社文庫)
 中国・清朝末期。幼い頃から兄弟のように過ごしてきた二人の男は、科挙と宦官という別々の道を 歩き始める。そして、西太后派と光緒帝派の政権闘争、そして外国からの侵略という大混乱の中心へ、 否応なく巻き込まれていく。

 文庫で全4巻という長さも全く気にならないほどハマル。
 三国志も水滸伝も読んだことない僕には、中国を舞台にした小説は初めてだけど、 中国史も面白い。特に、この清朝末期は、日本の幕末と似た面白さを感じた。 ただ、日本の幕末よりも、権力闘争、保身、自らの野望・利益のためというようなドロドロした 嫌な雰囲気が強い。
 西太后というと、冷血な悪女という先入観があったので、本書のように一人の女として苦悩する 西太后像というのは新鮮だ。そして、その西太后を手玉に取る黒幕の腹黒さ、能弁さ、悪賢さには 嫌悪感一杯だった。
 それにしてもやりきれない結末だ。

『QED 鬼の城伝説』
高田崇史(講談社ノベルス)
 誰もが知ってる昔話「桃太郎」に隠された真実とは?

 今回は、推理小説の部分の割合が多めな気がする。ただ、やっぱり歴史の謎が先にあって、 それに合った殺人事件を作っているようで、どうも不自然さ、都合のよさを感じてしまう。
 桃太郎というと、誰でも知ってるけど、「なんで犬、猿、雉なんだろ」「鬼はなぜ退治されるのか」 「なんで桃から生まれるんだろ」というようなことを深く考えたこともなかった。それにしても、 大和朝廷と鬼と製鉄って、よく出てくるなぁ。それと地名とか神社などの名前も、由来を探ると 面白い。でも、今、平成の大合併とかいう流れで、古くからの地名が消えて、カタカナのおかしな地名が うまれたりしている。ちょっとずつ歴史ロマンが消えていくようで残念だ。

『メリーゴーランド』
荻原 浩(新潮社)
 総工費23億円。第三セクター方式で始まった「駒谷アテネ村」。魅力もなく客足もさっぱりの へんてこテーマパークで、累積赤字は47億円。それでも、市の多額の補助金のおかげで、存続している。 民間企業から地方公務員に転職した遠野啓一が出向した先は、そのテーマパークの立て直しを目指す 「アテネ村リニューアル推進室」だった。

 『オロロ畑でつかまえて』と似たようなテーマだけど、こっちのほうが笑えないくらいリアル。 でも、内容は笑える。笑いが止まらない。
 税金を使って、わけのわからないハコ物つくる地方自治体って時々、テレビで見る。個人で経営している へんてこテーマパークなら、笑ってみてられるけど、税金とか利権とかの臭いがすると腹立たしくなる。 保身・追従・利権確保・責任転嫁・事なかれ主義・出るくいは打つというような、本書に出てくるような典型的な お役人たちって、まだ相当数いるのだろうか。本書に、次のような一文があり、その通りだなと思った。

 ここは古き良き日本、ほんとにそう思った。だけど、昔の日本がなんでもいいわけじゃないんだよね

それにしても、地方公務員も大変だなぁ。厳しい試験を突破して、情熱を抱いて公務員になったものの、 たいした仕事もさせてもらえず、目立った活躍やアイディアも許されない前例前例の世界。安定と引き換えに 失うものは大きいようだ。