唄
惣流・千羽矢・ラングレー 作
「体外へ放出したHPが・・・ピカチュウの足元で水をはじく板状に!!」
「うおおおおおおお!! くらぇっ!!」
「<10まんボルトオォォ>!!」
――――あの瞬間。
背筋がゾクゾクするような興奮を覚えた――――。
「・・・おや、<水も滴るいい男>のご帰還かい」
スオウ島に戻ったワタルを見て、キクコがからかうように言った。
海中に潜り難を逃れたワタルだったが、さすがにずぶ濡れだけは免れなかったらしく、
普段は逆立てている髪も、未だ湿り気をおびたままオールバックにまとめられていた。
「・・・何を下らないことを言っている」
「あら、面白くないわね」
憮然とした表情で言ったのはカンナである。
「それより、会ったんでしょう? あの子に」
そう言って、カンナは含み笑いを浮かべた。
「・・・あの子?」
「イエローよ。イエロー・デ・トキワグローブ」
ワタルが足を止める。
「・・・何故わかった?」
「そうはいないからよ。あなたをそんな濡れネズミに出来るトレーナーなんて、ね。
そしてグリーンは別の海域、ブルーはシバが足止めしていた・・・」
「だから残りはレッドかイエローしかいない、か?」
「そうよ・・・それにレッドの方は空振りに終わったみたいだしね。フフフ」
さもおかしそうに笑ったカンナを、ワタルは鋭い視線で睨み付けた。
「・・・おお、怖い」
大げさに縮み上がって見せたカンナを無視し、ワタルはスオウ島の奥へと消えた。
カンナから逃れ、キクコの差し向けた刺客すら退けたトレーナー、イエロー。
実際に戦った今、実力の差は歴然と・・・いや、比較の対象にすらならない。
あのピカチュウは、本来はレッドのもの―――― つまり、あれはイエローの「本来の」トレーナーとしての実力ではないのだ。
だが。
それならば・・・あの瞬間感じた、ゾクゾクする程の興奮は何だ?
何故、奴の名を聞く度に全身がざわめく?
――――神経は落ちてくばかりで鼓動はずっと暴れ出しそうだ
機は熟した。
全てを無に帰し――――作り替える時が来た。
全て滅ぶがいい。この力を与えてくれたトキワの森だけを残して。
ワタルは、プテラと共に鍾乳洞で待っていた。
『誰を待っているの?』
不意に、カンナが通信を入れた。
その問いに、ワタルは即座に答えた。
「・・・イエローだ」
『イエローを?』
「イエローは・・・必ずここに来る」
確信に、根拠などない。
しかし分かるのだ。
イエローが自分の元に近づいていることを、鼓動が、血の流れが告げている。
まるで、森の力が呼び合うかのように。
『・・・まるで恋人を待っているみたいね』
「・・・恋人?」
ワタルは意外そうな顔をした。
『そう、恋人』
楽しげに、カンナはワタルを眺める。
『イエローのことを考えている時、あなたとてもそわそわしてるもの。自分では気付いていなかったでしょうけど・・・それは、恋をしているときによく似てるわ』
「・・・・」
・・・恋?
『あの子を手に入れたい。他の誰にも渡したくない。いっそ壊してしまいたい―――― それは、恋にとてもよく似ている――――』
「・・・何が言いたい、カンナ」
『あの子のことになると、あなたは普通じゃないってことよ』
そう言って、カンナはくすくすと笑った。
「・・・下らんな」
一笑に付して、ワタルはまた闇を見つめる。
そんなワタルを見て、カンナはまたくす、と笑う。
『・・・あら、あなたの予想通り。<お姫様>のご到着よ』
「・・・来たか」
ニヤリとワタルは満足げな笑みを浮かべた。
一歩一歩、イエローが近づいてきている。
暴れ出す鼓動が、血のざわめきが、それを告げている。
「そうだ・・・早く来い、イエロー」
闇の中、ワタルは一人呟く。
「他の誰にも渡さない。お前はこのワタルが――――」
この気持ちが、胸の高鳴りが、何であろうと。
イエロー、お前だけは、このオレが――――。
――――それはとても、恋に似ている
END
後書き:
ワタル×イエローのはずが、いつの間にやらワタル×カンナに!?( ̄□ ̄;)がーん
ちなみにタイトルはBUCK-TICKから取りました・・・だって似合うんだもん、ワタル様(爆)
・・・「あの時はハクリューのバブルこうせんで潜ったんだから濡れないだろう」とか
「その前に雷雨直撃してたけど髪型崩れなかったぞ」とかゆーツッコミは禁止(核爆)
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