★トキワ署ピカピカ日記★

〜第一章 幼稚園はピカピカ〜

 朝のミーティング終えたトキワ署では日常業務が始まった。オフィスでの書類整理や管轄地域の巡回、その他にも細々とした雑事をこなし、時には重大事件の捜査に駆り出されもする。どんなにのほほんとして見えても警察官の仕事は過酷な重労働だ。どこの分署でも人手不足は否めない。

「頭が割れるぅ〜(><)」

「だからやめとけって言ったじゃんか。無理ばっかしてると体壊すぜ。」

 デスクでうめいているブルーの隣でレッドはのほほんとお茶をすすっていた。

「何であんたは朝まで飲んでても平気なのよ〜。」

 ブルーは半泣き状態だった。レッドが出向してきてからというもの、なんと彼に16連敗もしているのだ。彼らの名誉のため(?)に付け加えておくと、勝負が全て飲み比べというわけではない。ちゃんと警察官らしい(?)勝負もしている。

「だいたい、あんたの体ってどういう作りしてるのよ。信じらんない、あんた本当に人間?新種のポケモンの間違いじゃないの?」

 はっきり言ってこれはただの八つ当たりである。ブルーとしてもそれなりに自分が一流の警察官であるとの自負があった。例え女でも、男に負けない働きをしてみせる。そしていつかは自分がカントー初の女性警視総監になるという壮大な夢があった。だが、その夢もレッドに打ち崩されてしまったのだ。

 ブルーがレッドの存在を知ったのはレッドがトキワ署に出向してくる遥か前、彼が難事件凶悪事件を片っ端から片付けてあっという間に巡査長に駆け上った頃に遡る。ところがある事件を境にレッドは捜査課からの転属を希望し、彼は辺境地での救助隊に入ってしまった。救助隊といえば聞こえは良いが、今のご時世、そんな辺境地に入って行く馬鹿はそうはいない。何故ならめったに人の寄り付かない辺境の地はいまやたちの悪いチンピラのたまり場所であるからだ。

 凶悪犯は出没しないかもしれないが、警官の常駐する派出所すらないこうした土地では大都市よりもかえって治安が悪い。炎が燃え上がることはないが、灰がくすぶりつづけている。そんな状態なのだ。もちろん、こうした事態を解決するなら功績は大きいだろう。だが救助隊の仕事はあくまでも人命救助だ。そしてレッドはそれ以上のことはしていない。しようともしない。開店休業状態のオフィスで日がな一日自分のポケモンたちとのんびりと過ごしている。少なくともそういう噂だ。

 一時は後輩の憧れだったレッドはすっかり引退生活に入ってしまったかのようだった。そんな時だった。レッドがトキワ署に出向してきたのは。

 これ以上レッドにただ飯を食わせておいてはそれこそ警察の威信に関わる。口にこそ出さないが、ブルーにも警察官としての誇りがあった。その誇りのために彼女はレッドを倒し、彼を退職させるか更生させるかしなければならないと思ったのだ。

 ところが、だ。レッドは強かった。そして全てにおいて彼の判断は的確だった。レッドは確かに今でも一流警察官としての力を持っている。とてもじゃないがブルーは歯が立たなかった。悔しかった。負けたまま引き下がることはできなかった。そうしてブルーは16連敗と敗北の記録を重ね続けていた。

「レッド巡査長、おはようございます!」

 大きな声がして、まだ少年のような幼さを残した刑事が交通課のオフィスにやってくる。レッドを理想の先輩として慕っているマツモト・サトシ巡査だ。彼は今年警察学校を主席で卒業し、出身地のマサラから通勤圏内であるこのトキワ署の捜査課に配属になった。

「今日も朝から元気だな、サトシ。」

「元気元気元気印!気合で犯人逮捕、お手柄ゲットだぜ!!」

 警察学校を主席で卒業。どんなに優秀な刑事がやってくるかと署内では大いに話題になったものだが、実際に配属されてきたらばこれがとんでもないおっちょこちょい。朝は寝坊して遅刻ぎりぎりで駆け込み、滑って転んで突っ込んで、免許は持っているはずなのに車もバイクもすぐに事故って取り上げられる始末だ。捜査に出ればついでにポケモンゲット、犯人には逃げられ、幼稚園児にもらったお土産で彼の机は署内きっての乱雑さ。

「気合も結構だけどね、幼稚園児と遊んでて犯人に逃げられたら話しにならないでしょ〜・・。」

「何言ってるんですか、先輩。地域の皆様の安全が第一。近くに凶悪犯が潜んでいるとなれば幼児を無事に家まで送り届けるのも警察官の務め。な、カスミ。」

「はいはい。それは良いけど、遅刻はやめなさいよ。」

 嫌味も文句も何を言われても動じない、気にしない。どこ吹く風と身も心もタフな彼。だんだん周りも分かり始めてきた。こいつの突き抜けたパワーに周りが負けたのだな、と。

「何が幼児の安全確保よ〜。ちょっとやそっとでやられるような連中じゃないでしょうに・・」

 無駄と分かっていてもブルーは言わずにはいられなかった。負けたくないから。これ以上昼行灯を増やしたくなかったから。

「ブルーさん、警邏の時間です。」

 二日酔いのブルーを引き連れて昼下がりの警邏へとミニパトを走らせるイエロー。彼女はこのミニパトに“ドドすけ”という愛称をつけていた。

「サトシ君には何を言っても無駄ですよ。実際、始末書も多いけど成績は優秀なんですから。」

「それは相棒のおかげじゃないのぉ〜。オーキド一族は警察業務の乗っ取りを企んでるのよ〜」

「何言ってるか自分でも分かってませんね・・(−_−;;)」

 サトシの相棒はサトシより一年早く警察学校を主席で卒業し、去年はヤマブキ本署に勤務していたオーキド・シゲル警部補だ。名前からも分かるように、シゲルはグリーンの血縁者だ。二人ともオーキド警視正の孫であり、特にシゲルはかなりのエリート意識をもっていた。

「何であいつらトキワに来たのかしら。」

 二人ともマサラに住んでいるのだからここが一番近くて勤務しやすいということもあるかもしれない。だが、もしグリーンが言ったようにトキワ署がカントー中から警官が“島流し”にされてくる場所となっているのなら、何故二人はトキワ署に来たのだろう。それなりにエリート意識のある彼らが一体ヤマブキ本署で何をやらかしたのか、そして何かあったのなら何故それが聞こえてこないのか、ブルーには不思議でならなかった。

「だいたい“島”だなんて失礼よねー。いまどき警察署なんでどこだって能力はあっても一癖ある連中ばかりなのに。イエロー、知ってる?最近では警察官になるのは早死にしたいお馬鹿さんなんですってー。」

「レッドさんに16連敗したからって自暴自棄にならないで下さいよー(>0<;;)」

「それを言わないでよ!」

 気にしていることを言われてブルーは怒鳴った。だが二日酔いで頭が割れそうな頭痛を抱えている身でこれは自殺行為とも言える。怒鳴った直後ブルーの意識が遥か彼方へと飛んでいったことは間違いなかった。

「相変わらずブルー君が吹っかける勝負に付き合ってやってるそうじゃないか。君も人が良いねぇ。」

 交通課課長のカツラとレッドがカツラの課長室で碁を指している。講師として出向してきていると言っても、レッドはトキワ署だけに出向しているわけではない。だから毎日トキワ署に来ることもないのだが、講習会の有無に関わらずレッドはほとんどの時間をトキワ署で過ごしていた。

「そうでもないよ。なかなか面白いしね。良い警察官なんじゃない?」

 何故にカツラと碁なのだレッド。じじくさいぞ。そう思った皆様、ご安心下さい。たまたまこの時手が空いていたのがカツラだっただけの話でございます。

「惚れたか。」

「さぁ。そうとも言うかもなー。」

「まぁ、ほどほどにな。」

「ああ、もう幼稚園終わってる時間だ。」

「今日も元気にしびれてくるか。勝負あったな。」

「それって、勝った方が言う台詞なんだけど。ま、いいか。そんじゃー、お邪魔さまー。」

 そのままレッドはトキワ署を出て真っ直ぐ幼稚園へと向かって行った。ちょうどその頃、警邏中のイエローとブルーも幼稚園の前を通りかかっていた。

「こーら、幼稚園児。ちゃっちゃとおうちに帰りなさい。おやが心配するわよー。」

「ブルーさん、子供を脅さないで下さい・・(^_^;;)」

 二日酔いでずたぼろのブルーは自慢の美貌も今は悲惨な状態だった。とても幼稚園児が笑顔でじゃれ付けるような雰囲気ではない。

びがぢゅう〜〜(@@)

 園庭の奥から飛んできた恐怖の声と電撃。瞬く間にブルーは体中ビリビリしびれて黒焦げになっていた。警察官はやはりハードなお仕事なんである。

「あー・・ピィちゃん、やっちゃった・・」

「あーあ。毎日懲りないね。」

 やってきたのはトキワ署から自転車を飛ばしてきたレッドと捜査の途中に寄ったサトシたち。

「私が何したって言うのよぉ〜・・」

「おや、それじゃ僕のピィが悪いとでも?」

 サトシの後ろから出てきたグリーンそっくりの顔。シゲルである。ブルーが今一番会いたくない人物だった。

「そういえば先輩、レッドに16連敗だそうですね。」

 にっこりと笑顔で振り下ろされる痛烈な一撃。レッドに16連敗。ブルーの脳裏に昨夜の悪夢が再び蘇ってきたのだった。

 「ピカピー!!」

 ブルーをビリビリしびれさせたピカチュウの後ろから更に2匹のピカチュウが駆けてくる。サトシとレッドのピカチュウだ。

「ピカ−(><)」

 ブルーをしびれさせたピカチュウは園庭に置かれている遊具の陰でふるふると震えていた。このピカチュウ、レッドたちのピカチュウよりも小柄で極度に人見知りが激しく、臆病なところがある。シゲルのピカチュウ“ピィ”だ。

「もう大丈夫だよ、ピィ。悪いお姉さんはやっつけたからね。」

「シゲル、シゲル。一応警察官なんだってば。」

 サトシの罪のない一言。これが一番きついかもしれない・・イエローははらはらしながらも反論することができなかった。何故なら、以前ブルーのフォローをしたところ、更に強烈な一撃(言葉)がシゲルから飛んできたからである。この時はブルーが9連敗した日だった。

「大体何でポケモンが園児なのよ〜・・!(><)」

 ポケモン幼稚園。トキワシティに唯一ある幼稚園がこれだった。何故にポケモンの幼稚園なのか?つづくったらつづく!!

To be continued

“今日のピカ ピカ度95ピカ"(ウソ)
ピィちゃん(^^)
りかりんさん画、ピィちゃん。 おみみの花はシゲルの手作り。 かわいさ爆発でちゅう!
(ここのみ、文責サトチ(^^;))


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