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空の柱の上で
竜頭蛇尾バージョン(笑)

(以下は、「COMPASS」掲載作品中、投票審査時の獲得点数ダントツの最下位を誇る(笑)、「空の柱の上で」初稿(応募稿)です。
参考のため、誤字等も含め一切訂正せず、投稿時そのままに採録しました。 掲載稿とのとんでもない違いをお楽しみ?下さい)


 夜空の星の光だけが冷たく照らす、いつの時代のものとも知れぬ崩れ落ちた遺跡。
その瓦礫の間のわずかなすきまにもぐりこみ、息をひそめて身を隠す少年のすぐ上空を、シュウシュウと不気味な怒りの声をあげながら、緑色の竜が滑るようにくねって行く。
怒りに満ちた視線は、不遜にも彼の眠りを妨げた人間の姿を執念深く探し続けている。

 (……考えが甘かった、のか……)
 少年は、自分の軽率さを改めて悔やんだ。



「へえ、ここが『空の柱』かぁ。……なるほど、なかなか強そうなポケモンがいそうな感じだな。これなら、トレーニングにもってこいだぜっ! 行くぞ、みんな!」
 その、赤い上着と帽子の少年トレーナー……サトルが、仲間のポケモンたちとともに塔を駆け上がっていったのは、まだ日の高いうちのことだった。。

 彼は、ここ『空の柱』については、なにやら強いポケモンが住むらしい、と言う程度のおぼろげな噂しか聞いたことがなかった。 近々出場する予定の試合のために、ポケモンたちをトレーニングするつもりで訪れただけで、深入りするつもりなどなかったのだが、崩れる床から懸命に逃げているうちに、いつのまにか、最上階にたどりついていたのだ。

 彼が最後の階段を上がりきり、塔の頂にたどりついたとき、もう外は夜になっていた。
月明かりの下に歩み出た彼は、眼下の眺望に思わず息を呑んだ。

 冷たく冴え渡る月光の下には、一面の雲海が広がっていた。
 塔は、その広がる雲海のただなかに抜きん出てそびえたち、高いと言ってもたかだか数十メートルの高さしかないはずの、塔の頂上からの眺望は、まるで高山の頂上から下界を見渡すかのようだった。

 (いや、)
少年は思った。
(山でもない。塔でもない。
……ここは、空だ。 空の高みの、ただなかだ。……)
 
建造物であるからには、人間の造ったものには違いないが、まるで人間の領域とは思えない。
『神域』という言葉が彼の脳裏をかすめた。

 彼は改めて広がる雲海を見渡した。水平線のあたり、流れる雲の切れ目から見えるほのかな光は、岐凪(キナギ)の町の明かりだろうか。
岐凪近くの海域では、複雑に入り混じる海流の関係なのか、よく霧が出るという。その霧の中にごくまれに姿を見せるという、幻の島の伝説もあるほどだ。
そうか、これは海面から立ちのぼる霧なのだ。それが、周りの岩場からぬきんでてそびえるこの塔から見ると、まるで、高い空から雲海を見下ろしたように見えるのだ。
理屈がわかっても、それでその光景の神秘さがいささかでも減るわけではなく、彼はここが「空の柱」と呼ばれる所以となった光景を、陶然として眺め続けた。

どのぐらい、そうしていたろうか。 突然夜風が強く吹き付けてきて、彼は思わず上着の襟をかきあわせた。
もう、彼もポケモンたちもトレーニングには十分すぎるほど運動したことだし、ポケセンに戻って休もうか、という考えが頭をかすめたが、多少月明かりがあると言っても、オオスバメに夜間飛行をさせるにはいささか心もとない

(それに、)
と彼は、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
(せっかく、あんなに苦労して登ってきたんだから、こんなめったに人の来ないような所、ろくに見てもいかないなんて、もったいないよな!)
せめて、土産話のネタくらいは仕込んで行くとするか、と、あらためて彼は、一面の雲海から塔の屋上へと目を移し、好奇心にまかせて、少し屋上を探検してみることにした。

屋上はかなり広く、昔はなにか神殿のようなものでもあったのだろうか、大きな石でできた、崩れ落ちた壁や柱の残骸が、そこかしこに散らばっていた。今のような機械などない大昔に、よくこんなものを造ったものだ、と半ば感嘆し、半ばあきれながら、彼はさらに歩を進めた。
奥のほうには、舞台のように一段高くなっているところがあり、その上には、なにやら大きな彫像のようなものも置かれているようだ。彼は、近くでよく見ようと数歩歩み寄り、……次の瞬間、その『彫像』の正体に気づき、凍りついた。

 月光の下、一段高くなった台座の上には、まるで祭壇に祭られているかのように、巨大な深緑色の竜がとぐろを巻き、静かに眠っていた。

「伝説のポケモン?!」
 彼の胸は高鳴った。
悲しいかな、珍しいポケモンと見ればゲットしたくなるのはトレーナーの性(さが)だ。 そして彼は、自分のポケモンたちの強さを信じていた。
少年は深緑色の竜……レックウザに戦いを挑み、荒ぶる自然の猛威そのまま、と言われる、ホウエンの伝説ポケモンの凶暴なまでの強さを、目の前で見せ付けられることになったのだ。



 レックウザが向きを変え、また執念深くこちらの方に戻ってくる。 少年は、いっそう深く瓦礫の下に身を縮めた。

 (……あいつを倒すのは、無理だ) 少年は唇を噛んだ。

 惨敗の記憶が、彼の脳裏に苦くよみがえる。
 マッスグマの速攻も、ライボルトの電撃も、レックウザには大したダメージを与えることはできなかった。彼らの攻撃は、単にその怒りの炎に油を注ぐ結果となったにすぎず、レックウザの強烈な反撃で、彼のポケモンたちはつぎつぎと倒されていった。
手持ちのほとんどは正真正銘の瀕死状態、致命的な一撃だけはなんとか回避したとは言え、とても戦える状態ではない。

 (……そして、逃げることもできない)

 遅まきながら、あまりにも無謀すぎる挑戦だったことに気づいた彼は、ポケモンを戻して、あわてて逃げようとしたが、縄張りを侵され、眠りをさまたげられた怒りに燃えるレックウザは、トレーナーをも見逃そうとはしなかった。
最後の力を振り絞り、身を挺して辛うじて攻撃を食い止めてくれたサーナイトのおかげで、逆鱗の後の混乱の隙をついて、なんとか瓦礫の陰に這いこんで身を隠すことはできたが、この隠れ場所から出たが最後、人間の足では、階段までたどり着く前に確実に追いつかれるだろうし、まして、この状況で、傷ついたオオスバメにすがって空中に飛び出すなど、自殺行為以外の何者でもない。

もう、どのぐらい時間がたったのだろう。冴え冴えと光る星々は、次第にその光を失い、東の空は次第に紺碧から水色へと明るさを増している。それでもレックウザは、少年を探し続けることを執拗にやめようとしない。
まもなく夜明けだ。 明るくなれば、自分がここに隠れていることはすぐにわかってしまうだろう。
 ……八方ふさがりだ。

 サトルは薄明の空を見上げた。消え残る星に混じって漂う、銀の羽毛のような絹雲は、朝の光でもうすぐ緋色に染まるだろう。
たなびく雲は、彼に、その雲のような銀色の髪の持ち主を思い出させた。
 (ミオはもう、待ち合わせ場所に着いてるだろうか)
 彼は、わずかな間、目の前の現実を離れ、親友で、そして、良きライバルでもある、気の強い少女トレーナーのことを想った。

「それじゃ、大会の前に!」
「オッケー! いつものポケセンで待ち合わせなっ!」
 と、笑顔で手を振りあって別れた、ほんの数日前の事が、まるではるか昔の出来のようだ。
 怒りっぽい彼女の機嫌を損ねては、よく喧嘩をした(というより、大体は、彼女の機嫌が直るまで、もっぱら彼がひたすら謝るはめになったものだが)ことすら、今はほのかに甘い思い出のように思われる。
 もしも自分が、ここでたおれてしまったなら……。 共に出場しようと約束した大会に、彼が顔を出さなかったら、彼女はどうするだろう。自分のために、悲しんでくれるだろうか。

 彼は思い浮かべて……思わず、苦笑してしまった。
泣くどころか、どうしても、思い浮かぶ彼女の姿は、『あのバカ、どこで何をやってる!』と、怒り心頭に達した姿しかイメージできない。
「……駄目だ、こりゃ」
 それでも、なぜか、笑ったことで、張り詰めた心に、わずかに余裕ができたような気がする。彼の手足を縛っていた緊張が、少しだけ緩んだようだった。
「やれやれ。 ……そうそう怒られちゃ、いらんないよな。こんなところで、やられてなんかいられるもんか!」
もう一度、彼は残った気力を奮い立たせた。
 (ここは……人間の世界じゃない、オレのいるところじゃない! なんとしても、オレのいるべき世界、人間の世界へ帰るんだ!)

 彼は、行動を開始した。

 ポケモンたちの入ったボールを、一つ以外すべてベルトからはずし、愛用のバンダナでそっとくるんで、落ちないようにていねいに包む。そして、わずかにためらった後、ポケセンに着いているはずの少女にあてた、折りたたんだメモを一緒に入れた。
ポケモンたちをよろしく頼む、とだけでなく、面と向かって口にしようとでもしたら、恥ずかしさの余り顔から「オーバーヒート」が出そうなことまで、勢いで書いてしまったが……、永久に伝えられなくなるよりはまだましだ。どっちにしろ、彼女がこれを見るようなことになった場合、自分は、そんなことを気にできるような状態にないのは確かなのだから、と、彼はメモを包みの奥のほうに押し込んだ。

 そして、残った一つ……ジュカインの入ったボールを手に取った。
キモリの時から手塩にかけて育て上げた、大切な相棒だ。 飛行タイプなら相手をさせるのはまずい、と温存したのが幸いし、ただ一匹無事に残っていたのだ。
パーティ内では最速、素早さだけなら確実にレックウザを上回るだろう。こいつだけなら、レックウザの攻撃をかわして逃げ切れるはずだ。 中の床はすでにほとんど崩れ落ちて、彼にはとても下までは降りられないが、垂直の壁や木の幹の上り下りをものともしないジュカインなら問題はない。
とはいえ、ジュカインがいくら素早いといっても、少年が足手まといになっていては、レックウザの攻撃をかわすことは難しいだろう。
 (……オレも、ボールに入れたらな)
 彼は、軽く苦笑いして、ボールの中のジュカインにささやきかけた。
「ジュナ。……オレが合図したら、こいつらの入ったボールの包みを持って、一気に飛び出して階段に逃げ込め!」
「ジュッ?!」
 お前はどうするんだよ、と言いたげに、小さく抗議の声を上げたジュカインには答えず、彼はそのまま続けた。
「やつの注意を引き付けてくれれば、あとはオレがなんとかする。 戦わずに逃げろ! そして、しばらくしてもオレが呼ばなかったら、……こいつらを連れて、ポケセンに戻るんだ。 いいな!」
 サトルは、ジュカインのボールを、瓦礫のすきまの出口付近に置き、他のポケモン達のボールの包みをそのかたわらの床に置いた。

 (もし自分が……、)
そこまで考えた彼は、ごくり、と固唾を呑んだ。
 (……失敗、したとしても)
こいつなら、無事に仲間たちをポケセンまで連れ帰ってくれるだろう。

 そして彼は、たった一つ残された切り札を握り締めた。 レックウザに対峙した瞬間から、今もそのデータを刻み込み続けている、タイマーボールを。
充分にレックウザのデータを収集した、今のこのボールならば、ハイパーボールをもはるかにしのぐ性能を発揮するはずだ。
あと必要なのは、彼自身の技量と……そして幸運のみ。
チャンスは、一度きりなのだから。


 朝焼けの光がしだいに明るさを増していく中、少年はチャンスを待った。 慎重に、頭上を通り過ぎてゆくレックウザを観察し、タイミングを計る。
 (今だ!!)
 彼の合図と同時に、ジュカインが飛び出し、レックウザがそちらへ向きを変える。 レックウザの頭は少年の真上に、そしてその注意は完璧にそれたその瞬間、彼は隠れ場所から飛び出し、叫んだ。
「オレはここだ!!」
 向き直るレックウザに、少年は至近距離からタイマーボールを叩きつけた。 多くのポケモンで生命エネルギーが集中する急所といわれる、その額に。
レックウザの巨体が光となって吸い込まれ、ボールは激しく揺れ、警告ライトが明滅する。

「……入れ! 入れ!!  入れぇえ!! 入ってくれぇえええーっ!!」

 爪が食い込むほどに拳を握り締め、必死に祈る少年の目の前で、軽い、ポーン、という捕獲モード解除音とともに、ボールの動きが止まり……、
 少年は、泣きたいほどの安堵に満ちた深いため息をついて、そのままへたりこんだ。

 なんとかポケモンたちの応急手当てを終えて、彼が空の柱を後にしたのは、空が白々と明らむころになっていた。 やっとのことでポケモンセンターにたどりついた少年は、仲間たちの治療を頼むと、ロビーのソファーに倒れこみ、泥のように眠ってしまった。


「おかえり!」
 その声に目を覚ますと、銀色の髪を黒と紅のヘアバンドで留めた少女トレーナーが、笑顔で彼をのぞき込んでいた。
「聞いたよ! 凄い大物をゲットしたんだって? おめでとう!」
 そう言って目を輝かせる彼女に、ピッ、と親指を立てて見せながら、彼は無事自分の世界に戻ってきた実感をしみじみと噛み締めた。


……しかしその安らぎは、次の瞬間襲ってきた、彼にとっての最大のピンチによって中断された。

「あれ? こんなところになにか落ちてる?」
床に落ちていたメモを、彼女はひょいと拾い上げ……。
(しまったぁっ! 処分しとくの、忘れてたぁーっ!!)
 彼は、声にならない叫びを上げ、シャワーズの「とける」もかくやとばかりの、滝のような汗を流す事となったのだった。

 

 


 以上が、応募時に実質「冒頭とオチ」しかなく、校正期間中に山場を書き足した初稿です(笑) 今後MAP企画等に応募される方々への参考用にアップしてみましたが、いかがでしたでしょうか?

 参考になるかどうかわかりませんが(^^;)、制作時の裏話もこちらにアップしましたので、よろしければごらんくださいませ。


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