小説版ポケットモンスター 〜父と子と〜

 

第二章 〜ライジングバッジ〜

前章の出来事から約3日が経った。

……ここはワカバタウン。「始まりを告げる風が吹く町」と呼ばれている町で、東に行くと水路にぶつかる。
そこからはセキエイ高原への道がつながっているのである。
森の木々が生い茂っている町で、ポケモンの卵についての研究家であるウツギ博士もここに住んでいる。
そしてここは何やら学校みたいなところだ。しかもかなり大きい。
門には『ワカバ・ポケモンアカデミー』の文字が。ここは一体なんなのだろう?

その学校のある教室で、机を向かい合わせて何かトランプみたいな事をしている黒髪の少年がいる。
その向かい側の机には赤い髪の少女が。二人とも年は大体16ぐらいだろうか。
これはもしかしてポケモンカードだろうか?
実は、この二人こそがこの物語の主人公である。少年のほうの名前はアルス。少女のほうはアカネという名前だ。あれ?何所かで聞いたような…。
「さ、あんたの番や。」
「お…応。」
アルスが机の上に置かれたカードの束に向かって手をのばし、上から1枚とって自分の手札に加えた。
しばしその手札と格闘していたが…?

「…バクフーンの特殊能力『ファイヤーリチャージ』を使う。」
ピンッ…アルスの指先から銀色のコインが飛んだ。
カラン…それが机の上で数回回転してから、止まった。
「…よし、表だ。じゃあ炎エネを1枚トラッシュから持ってきて…と。」
ちなみにトラッシュとは、使い終わったカードを捨てる所である。
「さっきの炎エネを付けてバーストフレイムだ。」
ピンッ…もう一度、コインがアルスの指先から飛んだ。
カラン…そして…?
「チッ…、裏か。」
「ふーう、命拾いしたで…。次はウチの番やな。」
今度はアカネのほうがカードを引く。
「プクリンに『キズぐすり』を使うで。それからベンチのピクシーにレインボーエネをもう1枚付けてから…。」
「…?」
「このカードや!『ポケモン逆指名』!ウチが指名するのは・・・そのカツラのウィンディや。」
「…チッ。お前のベンチにはピクシーしか居ない。そいつだ。」
「そして…指を振る!使う技は炎の嵐や!炎エネ1枚とレインボーエネを2枚捨てて・・・最後のサイドカード取ったで。」
「…参ったな。オレの負けだ。」
どうやら決着がついたようである。

「これで三連勝や。」
「まったく、お前の戦法には毎回恐れ入るものがあるな。アカネ。」
「へへ…ウチだって伊達にデッキ組んでないしなぁ。」
「ところで、今日久しぶりにオレん家でスマデラでもやるか?」
「ええなぁ。そう言えばそろそろあんたの親父さん、帰ってくるんやろ?」
「よく分かったな。当たりだよ。」
「そら分かるわぁ、あんた嬉しそうやったし。」
「ははっ、まぁな。」
前章のアレフと言う男はどうやらアルスの父親のようだ。

そんなやり取りが交わされていたその時、
ガラッ!突然教室の扉が開いた。
「アルス君?アルス君はいない?」
突然教室の戸が開き、一人の女の先生が入ってきた。
「オレここに居ますけど?」
「すぐ職員室に来てちょうだい、大事な話があるの。」
そう言って先生はすぐに走り去ってしまった。何がなんだかわからないアルスが意見を求めて視線を向けると、友人達は溜め息をついたり皮肉な笑いを浮かべたりした。
「何だ?オレに急ぎの用事でもあるのか?」
するとアルスの隣に居た一人の男子が言った。
「あれってたしかマユコ先生だったな。お前何やった?」
「え?何が?」
「あの先生、若いけどタマムシ大学卒業してそんなに経ってないから、俺らの考えてる事とか全部わかっちゃうんだよな。怒られると厄介だぜ。」
「え!?ちょっと待て、オレ何もしてない」
「まぁ、頑張ってきぃや。」
「うん、頑張れ。」
「おい………。」
友達甲斐の無い友人達の応援を受けて廊下を職員室へと向いながら、アルスは何故職員室に呼ばれたのか考えた。
がしかし、アルスの頭の中には全然引っかかる出来事は無かった。
何故あんなに先生が急いでいたのかわからない。
「これは……大変な事かも知れない。」
とか呟いているうちにアルスは職員室の前に来ていた。
「失礼します。」
と言って扉を開けると、すでにマユコ先生が待っていた。
彼女は目配せしてアルスを室内に入れると、自分は後から入ってドアを静かに閉めた。
職員室の中は静かで、機械の作動音と教職員達がキーを叩く音とペンを動かす音しか聞こえない。アルスは自分が物凄く場違いな気がして、今すぐここから出たいと思った。
「あの…先生、オレ何かしましたっけ?」
「いいえ、今回はそう言うことで呼んだんじゃないわ。」
その時、部屋の外で、けたたましい始業ベルがなった。だがマユコは『戻りなさい』とも言おうとしない。何だか悩んでいるような目で自分を見下ろしている。
「あのぅ…ベル鳴っちゃったんで、戻ってもいいですか?」
「いいえ、戻らなくていいわ。」
アルスは真剣な眼差しでこっちを見ているマユコの顔を見上げた。
その瞬間、マユコが口を開いた。
「いい?アルス君、落ち着いて聞いて。」
あまりに真剣すぎる先生を前に、アルスはその場の空気がおかしい事に気が付いた。数人の教職員もちらちらと自分の方を見てくる。まるで気の毒な物を見るような目で…気の毒?何か悪い知らせなんだろうか?オレにとっての悪い知らせって……。…!
「さっき、P-UNITから連絡が入ったの。君のお父さんがグレン火山の調査中に行方不明になったって。」
「!!」
「病院に収容された隊員の一人に会ってほしいらしいの、あなたも知っている人でしょう。
とにかく急いで帰る支度をして正門で待ってて。私が車で送るから……。」、
「……。」




「アルス!一体どうしたんや!?」
「どうもこうもない、帰る支度してるんだ。ちゃんと許可ももらった。」
アルスがアカネの問いに対してうわ言のような声で返した。
「せ…せやかて…帰る支度って…一体どう言う事なん?」
「嫌な予感がするんだ…話し掛けないでくれ…。」
そう言うなり、アルスは自分のリュックを引っ掴み、教室から出ていった。
「嫌な予感って…。」
アカネは、その場に立ち尽くしていた。




「行方不明。」
アルスは走りながら、何度も何度も同じ言葉をくり返した。
「行方不明なんだよ。」
無理に安心しようとする。
「行方不明なんだ、居なくなっただけだ。」
アルスの心の片隅は、アルスが知らないうちに認めたくない事を認めていた。
それでもアルスは自分の心の一部に逆らい、話を聞いたり証拠を見せられるまで現実を受け入れようとはしないのだ。
グレン火山での行方不明=死に通じる事、くらい、知っていたのに…。




その比、ここはアルスが向かおうとしているワカバ総合病院。
若い医者二人が何か話している。
「どうだった?」
「全然だーめ。まだ鎮静剤効いてるし、面会謝絶だってよ。」
「鎮静剤?」
「アサギでぶっ倒れてからここの病因に搬送される間ずっと意識不明だったんだけど、ここ着いた途端に目ェ覚ましてえらい暴れたらしい。」
「暴れたって…パーになっちまったってのか?」
「さあね。子供みたいに泣き喚いて治療室から出ていこうとして、医者殴ったり蹴ったり大変だったって。「ポケモン貸せ」とか「グレンに行かなければ」とか言って、輸血くっつけたまんま。」
「おい冗談言うなって。輸血必要なくらい大怪我してる奴が暴力振るえっかよ。」
「いやいや本当に殴ったらしい。数人掛かりで取り押さえて麻酔打って怪我治療して。また暴れて傷口開かないように鎮静剤。」
「どっからそんな力が出てくるんだ。あ、そういやぁ仲間と…誰だっけ?面会に来るんだろ?」
「ポケモン四天王の…カンナとかいったかな?後は行方不明になったリーダーの息子。」
「リーダーの息子ねぇ。会いたくないだろうなぁ。」




それから約30分後……
アルスは、一つの病室の前に居た。
「私はロビーで待ってるから…面会がすんだら言って。家まで送るから。」
マユコ先生はそういうと足早にロビーのほうに戻っていった。
「……。」
アルスは戸惑ったが、勇気を出して足を進めた。事実、病室に入りたくなかったのだ。告げられる事を、全部何の戸惑いもなく受け入れられる自信はない。小さく開かれたドアの隙間から中に入り込み後ろ手で閉めると、外の雑音は全て遮断された。昼間だと言うのに厚いカーテンを閉め切り、蛍光灯がついている。
「……ワタルさん?」
アルスは、ベッドの上に寝ている人に声をかけた。
すると、ワタルは上半身を起こし、アルスのほうに首を向けた。
目につく所は包帯に巻かれ、点滴のチューブが伸びている痛々しい姿でワタルは微笑を浮かべていたが、アルスには無理をしているように見えた。
「アルス君…久しぶりだな。」
「うん…ねぇ、ワタルさん。」
前置きなどいらない。下らなく他愛もない話でこの場の空気を和ませたい気持ちはあったが、自分からお茶を濁し、逃げてはいけないのだ。さっさと聞いてしまいたかった。時間が立てば、ワタルが口にする事が何であれ、余計に受け入れにくくなってしまうだろう。
「オレの親父は……行方不明なんだよね?」
「……。」
「行方不明じゃ…ないの?」
「アルス君。」
「オレ、知りたいんだ。」
「……。」
ワタルは酷く迷うな顔をして、それから出来るだけ声を押さえて言った。
「……組織は表向きに…行方不明としている…。だが……唯一現場に…立ち会った…俺が死亡確認をしなかった……いや、出来なかったんだ…。」
「……親父は?」
「君の父さんが乗っていたリザードンが……火口に落ちていくのを……見たよ……。」
「そう…ですか………。」
アルスは口を噤んで黙り込んだ。実感なんか沸かない、わからない。もう『行方不明』と自分に言い聞かせて不安を紛らわす事も、それによって心の隅に逃げ場を作る事も出来ない。オレ……どうなっちゃうんだろう……。
「よく聞いてくれ、アルス君…俺達は…グレン火山を…探査中にイブキの裏切りで…何者かのの罠に落ちて…俺は…なんとか逃げ延びることが出来たが…アレフさんは……恐らく……イブキが手を組んだのは……ロケット団の連中だろう……。」
「!? バカな……ロケット団は2年前に解散した筈なのに…!?」

ロケット団。
ポケモンマフィアと呼ばれる超A級犯罪組織。
これまでロケット団は首領・サカキの命令でさまざまな犯罪を働いてきた。
シオンのカラカラ・ガラガラ大量虐殺事件、ヤマブキのシルフカンパニー占領事件、
しかし、2年前に勇気ある一人の少年により、ロケット団は解散した。解散した筈だった…。
首領・サカキの行方も分からない。

「…だが…火口の淵に…黒服の奴らが…何人か居たのを…見たんだ…。」
「復活…したって事かよ…。」
アルスが吐き捨てるように呟いた。
「そうだ…君の父さんから…別れ際に君に渡せと…言われた物があるんだ…。そこの洗面台の上にある…アイテムボールを…持っていってくれ…。」
「……?」
アルスは、言われた通りワタルのベッドの横にある洗面台の上に置かれていたアイテムボールを取り、
中身を取り出した。すると…中から出てきたのは竜の顔を象った一つのバッジだった。
「これは…ライジングバッジ!?」
ワタルがいきなり叫んだので、アルスは危うくアイテムボールを落としてしまいそうになった。
「なんだ…これって凄い物なのか?」
「アレフさん…いつの間にイブキから…掠め取っていたんだ…それは…リーグバッジ…って言って…セキエイリーグに…挑むために…必要な…8個のバッジのうちの一つだ…。」
ワタルはそれだけ一気に言うと、ふうっと一息ついた。
「…リーグバッジか…。(親父の形見になっちまったな…。)オレ…もう行くね。」
アルスは、静かに病室のドアを閉めた。




暫くして、再び病室のドアが開いた。
そして、一人の女性が病室に入ってきた。
「カンナか…。久しぶりだな……。」
カンナと呼ばれたその女性は、ワタルに言った。
「あなたともあろう者がこんなになって帰ってくるなんて…相当辛い目にあったのね。」
「…仲間に裏切られたんだ…。俺…これからどうしたらいいんだ…。」
「…仲間に裏切られた?」
「話すと長くなる…。せっかく面会に来てくれてすまないが…俺が退院したら話す…。今は…寝かせてくれ。」
そう言うとワタルは、目を閉じ、深い眠りに落ちていった…。




病室から出てきたアルスは、マユコ先生から、
「アカデミーからは今後、君に対する授業料、学費の完全免除が認められたそうよ。」
と言う話を聞き、そのまま車で自宅まで送ってもらった。
アルスは、自宅に帰るなり、玄関のカギを閉め、2階の自室へ向かい、ベッドに寝転んだ。
「(親父…なんで死んじまったんだ…。親父なら切りぬけられた筈だろ…。オレを一人にしないでくれ…。)」
アルスは、密かに泣いていた。たった一人の肉親が居なくなってしまったのだから…。




アルスは、悲しみながらも、さまざまなことを思い出していた。
父子家庭、父親が頻繁に帰って来ない家、 息子が何日もたった一人で待っている家。
そう言う家に、少しではあるが世間の風当たりは冷たい。
アルスの母は、アルスがずっと幼いころに病気で他界してしまった。
アルスの幼少時代は、非常に複雑な物だった。
「お父さん、またお仕事?」
「はい。でも今回は帰ってくるの、いつもより早いんです。」
「あなたも大変なのね。」
「大丈夫です、そんなに大変じゃないし。親父の方が大変だから。」
優しくてかっこいい父、いつも沢山の人に必要とされて頼りにされている父。アルスは何時でもそんな父親が大好きだった。
だが、その父親は、もう居ない………。




「エアームド!スピードスター!!」
「エアッ!!」
キュドドドドドッ!!…ここはアカデミーのトレーニングルーム、現在、アルスが誰かと戦っている。
「ミルゥ……。」
ドサ…スピードスターを受けたミルタンクが倒れる。
「戻るんやミルタンク!」
シュイン…赤い光がミルタンクに当たり、ミルタンクは主人のモンスターボールの中に吸い込まれていった。
「…エアームド、良くやった。戻れ。」
シュウン…アルスもエアームドをボールに戻した。
どうやらアルスが戦っていた相手はアカネだったようだ。
「最近やけに頑張ってるやないか。アルス。」
アルスの隣の椅子に腰掛けたアカネが、軽く笑いながら言った。
「前から真面目にやってたねんけど、それにも増して腕が上がってる。いつ抜かれるか、こりゃ油断が出来なくなったなぁ。」
「何言ってんだよ、アカネ。俺がいくら頑張っても、後一歩の所でお前に負けてるじゃないか。なんだかんだ言って結局、自分の腕前を自慢したいだけじゃないのか?」
「ははっ、図星やなぁ。」
そんな話をしながら、トレーニングルームから二人が出てきた。
あれから1週間。いつもと変わらない、日常。
病院に行った翌日、アカデミーに登校してから、クラスメイト達は口々に慰めの言葉をかけてくれたが、アルスは笑って受け流した。
新聞の一面にその関連の記事が載っていたらしい。
誰にもオレの気持ちなんて分かる訳がないと、少しひねくれた思いを抱きながら。
そんな中、ただ一人、慰めの言葉も、励ましの言葉もかけようとしなかった奴がいる。
彼の友人、アカネ。
親友というよりも、もっと別の言葉で表した方がいいような、何の遠慮もなく話が出来る一番気の合う友達だ。
「で、あんたこれからどうするん?」
そのアカネが、教室に着いてから、先程とは違う、少し深刻な顔でアルスに訊ねた。
「何が?」
アルスがきょとんとした顔で訊き返す。
「何がって…あんたなぁ…収入無くてどうやって生活していくん?」
「あぁ、その事か」
アルスは一息つくと、一言言った。
「貯金がある。それに…親父の生命保険も。」
アカネは彼の思いを読みとって、ワザと明るい笑顔を見せ軽い調子で言う。
「よかったやん、親父さん保険に入れといて。まだまだ食べて行けるやないか。」
「おいおい…親父は物じゃねぇぞ。」
そう言いつつアルスは二言目にいつになく深刻な顔でこう言った。
「オレ…5ヶ月すぎたらここを中退して旅に出るよ。」
「え…?」
アカネは一瞬、アルスが何を言っているのか分からなかった。
しかし、アカネはさっきアルスの言ったことを頭の中で思い出し、少し動揺しつつも、アカネはアルスを見て言った。
「そりゃあんたはウチと同じでもう15や。自立生活だって出来ていると思うけどなぁ…あと半年で卒業やろ?成績だって優秀なのに、それに生活だって普通に出来るんや。何でまたこんな時に…。」
アルスは、何時に無く真剣な顔つきになって、アカネに言った。
「だが…オレの親父を殺した奴に会いたい。それに…オレの親父が最後に残してくれた…この、ライジングバッジを無駄にしたくないんだ。」
「………。」
アカネは、しばらく何か考えるような顔をして、少し間を置いてアルスにこう言った。
「……そっか、そうやな。誰でも親殺されたら親殺した奴憎むの当然やな。」
「アカネ…。」
「頑張ってきぃや。」
アカネはそう言うと、教室から出ていった。
「……ありがとう、アカネ…。」
アルスは、礼を言った。
かけがえの無い、親友に…。




…そして、5ヶ月と半月が過ぎた。
アルスは、ウツギ研究所の前にいた。
ついさっき、アカデミーを中退して来たばかりだ。
アルスは、手を伸ばし、インターホンを鳴らす。
ピンポーン。
すると、すぐに応答が帰ってきた。
『はい、こちらウツギポケモン研究所ですが…。』
アルスは、インターホンのスピーカーに言葉を注ぎ込んだ。
「博士?オレだよ、アルスだ。」
どうやらアルスはウツギ博士と仲良しらしい。かなり馴れ馴れしい言葉遣いだ。
『アルス君?一体なんの用だい?とにかく上がってよ。』
「うん。」
アルスは研究所の中に入り、改めてウツギ博士と顔を合わせた。
「突然なんの用だい?」
「実はオレ…。」
アルスは、ウツギ博士にアカデミーを中退して敵討ちとチャンピオンを目指す旅に出ることを話した。
するとウツギ博士は、しばらく無言で考え込んでいたが…。
「そうか…君のお父さんの敵を探しに、か…。…よし、アルス君、旅に出るなら、僕が最近見つけたポケモンを一匹、連れて行ってくれないかい?」
「えっ…いいのか?」
「旅に出るならポケモンは多く居た方が良いだろう?みんな頼れる奴ばかりだから、好きな奴を選んで持っていってよ。」
「ありがとう、博士…でも、どうしてそんなにオレに尽くしてくれるんだ?」
「君のお父さんには世話になっていたからね。今度は僕がお礼をしなきゃ。さ、選んでよ!」
ウツギ博士は3個のモンスターボールを持ってきた。そして中のポケモン達を外に出した。
「チッコ!」
「ワニワニワニワニワ〜〜♪」
葉っぱポケモン・チコリータに大あごポケモン・ワニノコ。そして…。
火鼠ポケモン・ヒノアラシが出てきた、が、なんと…
「始めまして!」
「しゃ、喋った!!」
そう、突然ヒノアラシが人の言葉を話したのだ。これにはアルスもびっくり。
「そうなんだ。何故かコイツは人の言葉を喋れるんだ。僕も最初は驚いたよ…。」
「へぇ…面白い奴だな…。よーし!ヒノアラシ!オレの名はアルス!今日からお前がオレのパートナーだ!」
「うんっ、よろしくねアルス!」
「僕も、こいつは最高のポケモンだと思うよ!そうだ、これも持っていってくれ。」
そういうとウツギ博士は、アルスに赤い電子手帳みたいなものを一つ渡した。
「これは…?」
「それはポケモン図鑑と言ってね、君が出会ったポケモンのデータが自動的に書き込まれていくというものだよ。」
「そうか…博士、本当にありがとう…。」




…翌日の朝、アルスはリュックを背負い、ウツギ研究所の前に居た。
「それじゃあ博士、行ってくるぜ。」
「アルス君、君のこれからの道のりは、長く険しく、そして辛い事があるかもしれない。
それでも、挫けずに頑張るんだよ。」
「ああ、じゃあ…行ってきます!」
そう言って、アルスはワカバタウンから去っていった…。




…旅に出て半月が過ぎた。
アルスはワカバに戻ってきた。
あれから、キキョウ、ヒワダのジムリーダー・ハヤト、ツクシと対決し、ジムバッジを順調に集めてきた。
手持ちに居たビリリダマはマルマインに進化し、幼いころ最初にゲットしたエアームドもかなりレベルが上がっている。最初にウツギ博士に貰った喋るヒノアラシもマグマラシに進化していた。更に、ヨシノで偶然にもゼニガメを釣り上げ、つながりの洞窟でイワークをゲットし、手持ちに加えていた。
だが、今日が、年に一度の大イベントの日だったことを思い出し、わざわざワカバに戻ってきたのである。
アルスと同期の学生達の卒業式の日なのだ。何だか嬉しくなったアルスは、アカデミーの正門から飛び込んで大講堂へと走った。
「アルス!」
一番最初に走ってくるアルスに気付いたのは、他ならぬ親友・アカネだった。彼女はこっちに近付く懐かしい友人を見つけた途端に両手を振り回し、バカデカイ声を張り上げた。
「みんな、アルスや!」
アルスとクラスが一緒だったりした、騒ぐ仲間達が反応する。
「え?アルス?」
「マジかよ!?アルス!」
「出たな中退野郎めー!!」
「祝えー!俺達を祝えテメー!」
全速力で走り出したアカネは、ぶわっと飛び上がって勢いでアルスに抱き着いた。もう気分はハイテンションの最上級である。アルスの方も友人達の門出に大喜びでハイになっていた。アカネに押し倒されそうになり、どうにか持ちこたえて、改めてぎっちりと抱き合う。
「よう来たなぁアルス!見てみぃ、ウチら卒業してもうたわ!」
「おめでとうみんな。すっげーおめでとう!」
集って来た仲間達に殴られたり蹴られたりしながら、アルスは笑いの止まらない自分をおかしいと思った。同じく笑いの止まらないアカネが、アルスの頭を掴んでぶんぶんと振り回す。
「ウチもトレーナーとして今度から旅に出るんや!ウツギ博士にチコリータ貰ってな!」
「マジかよアカネ!?大変だな!!」
「アルス、あんたには負けへんからな!見とれよぉ!!」
「俺、エンジニアになれたんだ!!」
「俺は警官になったぜ!!」
「みんなめでてーなちくしょー!ちゃんと仕事しろよ!」
「お前に言われたかねえぜ中退野郎!お前こそ旅のほうはうまくいってんのか?」
「馬鹿にすんなよ!」
皆がそれぞれの道を見い出し、歩き始めた。皆散り散りになってしまうけれど、会おうと思えばすぐに会えるのだ。オレ達は、同じ世界に生きている。
「オレからみんなに祝辞だ!卒業ー…おめでとうっっ!!」
アルスは仰け反って腹から大声を張り上げた。旅立ちの日に相応しくからりと晴れた空に、アルスの声が響き渡る。
「ありがとなアルス!じゃあウチらから祝辞やっ!」
「何の?」
「え?何の?」
「何のだろう?」
「…何でもええわ!とにかく祝辞や!」
アカネは貰ったばかりの卒業証書を頭上に掲げ、騒ぎ過ぎて少し嗄れた声を出した。
「ウチらの仲間に祝福や!」
友人達が言う。
「一人で旅立った中退野郎に幸あれ!」
「頑張れよアルス!!」
気分が乗ると、こんな事も起こるもんである。
アルスは喜び過ぎて、笑いながら滲んで来た涙を擦った。全員で肩を組んで大声で笑い出し、アルスはもう一度叫んだ。
「オレ達は永遠に仲間だーっ!!」
「おーっ!!」
「同じ世界に生きてる限り友達だーっ!!」
「おおーっ!!」
騒ぎはしばらくの間おさまらなかった。卒業証書は貰わなかったが、アルスは何かを卒業した気分だった。友人達との絆の強さを確信し喜びを分かちあえる、こんな事はそうそうある事では無い。今日のこの日をいつまでも忘れる事は無いだろう、アルスはそう思った。



そして…翌日の朝。
「アカネ、無理だけはするんやないで。困ったことがあったら、母さんに電話しぃよ。」
…ここはアカネの家の前。アカネとその母親が話をしている。ウツギ博士もそばに居る。いよいよアカネも旅立つのだ。
「大丈夫や。」
「アカネちゃん。辛いことがあっても、決して挫けちゃ駄目だよ!」
「うん、そっちも研究頑張りぃや。それじゃぁ、行ってくるで!」
「頑張ってきぃよーっ!」
アカネはワカバから走り去っていった…。

第三章に続く


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