小説版ポケットモンスター 〜父と子と〜

第三章(最終章) 〜For,example〜





そして…今。
アルスは、スタジアムに居る。
最強のトレーナーを決める、セキエイ高原のメイン・スタジアムに、アルスは立っている。
そして…あいつも。
アルスの眼前には、親友であるアカネの姿もあった。
そう…旅立ってから3ヶ月…。

親父…親父が居なくなってから本当に色々な事があったよ…。

コガネシティでアカネと合流してから、本当に色々な事があった。
まず、コガネジムでのもう一人のアカネとの出会い。
コガネジムに2人揃って挑んだとき、まるで鏡を見ているかのような感覚に陥った。
アカネがもう一人そこに居たのである。
世の中には同じ顔の人間が3人居ると言うが、まさか本当に居たとは夢にも思わなかった
『な…なんでウチがこんな所に居るん…?』
驚いた。声まで同じなのである。とするとやはり戦い方も…?
『ミルタンク、丸くなってから転がるんや!!』
『こっちも対抗したれっ!!』
まるで夢を見ているような戦いだった。戦い方までそっくりだった。
そして…決着は付いた。オレの親友、アカネの勝利だ。
『やった…やったでアルス!』
『良くやったなアカネ!!メチャクチャ腕を上げたなっ!!』
オレ達は喜んだ。だが、収まらないのが一人、
『うう……うわぁぁぁぁぁぁぁん!!酷いよ、酷いよ!』
『え゛!?』
オレ達は訳の分からないまま固まった。そう、もう一人のジムリーダーの方のアカネが泣き出してしまったのだ。
『ムキにならんといてよぉ…!もぉ、子供なんやから…。』
『ちょ、ちょっと!?お、落ち着いてぇな!?な!?』
オレはアカネがもう一人のアカネを必死に慰めようとする様を見て、
やっぱりこう言うところもそっくりだ…。と思った。
そう、アカネは小さいときからオレとの喧嘩や勝負に負けたりするたびにこんな風に大泣きしていた。
俺は自分が知らない間に笑っていた。

そして、渦巻き島でのルギアとの出会い。
ロケット団とのラジオ塔の戦い。

そして憎い敵、イブキとのグレン火山最深部での最終決戦。
父を殺したイブキは、絶対に倒さなければならない相手だった。と同様に、自分自身の敵でもあった。
イブキは強かった。さまざまなドラゴンポケモンを繰り出し、アルスを圧倒した。

自分も時々勝負を諦めかけた事だってあった。
だが、敗ける訳には行かなかった。オレは親父の仇を打ちたかった。親父に少しでも近付きたかったんだ。
そして…イブキの最後の一匹、親父を殺したリザードンと共に、イブキは火口へ堕ちていった。不吉なセリフを残して…。
『どうせ…お前達は…終わり…だ………!!』

…その直後だった。グレン火山が噴火し始めたのは。
オレの目の前は真っ白になった。
『うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
正直言って、オレはあの時死を覚悟した。だが…その時何かが飛んできた。
『どんな事があっても、最後まで決して諦めるな、アルス。』
爆発する炎の海から自分を導き助けてくれたのは、父以外の何者でも無かった。
『…親父!?』
幻覚か、幽霊か、なんでもいい。とにかく噎せ返る熱の中で朦朧としていたアルスは、一心に父のリザードンの影を追った。
死にたくなくて生きたくて、そこにいる父を見失いたくなくて、それだけを糧に意識を支えていた。
グレン火山最深部は、入り組んだ迷路のようになっており、枝分かれした通路を全て正しい道順で抜けきることは不可能に思えた。
『待ってくれ…親父…!』
だが、父はアルスを出口へ導くかのようにリザードンを飛ばしていた。
速い。父は速かった。急なカーブも速度を緩めずスムーズに曲って、直線ではどんどんスピードを上げて行く父。アルスは付いて行けないと思った。
『決して諦めるな、絶対に…。』
繰り返しかけられる、諦めるなと言う言葉。…諦めてはいけない。こんな所で諦めていいはずがない。ここで死んだら、イブキに負けた事になってしまう。
アルスは死に物狂いで父親の後を追った。ここで見失っては行けないと、何かがアルスに語りかけていた。もしかしたら、父自身の言葉だったのかも知れない。過ぎてしまった今となっては、それももうわからない事なのだが。
前方のリザードンは二股に分かれている通路を何の前触れも無しに曲がっていく。アルスは何度か壁に激突しそうになったが、彼はその事に気付かなかった。ただただ、父に追いつこうと必死だった。
だが、父に追いすがりながら、アルスはくじけそうになった。洞窟は来た時と同じ、果てしなく続いている。おまけに後ろからは溶岩が迫り、自分が乗っているルギアを飲み込もうと物凄い勢いで追ってくる。まるで、イブキの意思が宿っているかのように。
いくつ角を曲がったのだろうか。かなり長い時間飛んでいる。父のリザードンは目前に迫り、後少しで追いつく事が出来る。その時、狭く長い洞窟が終わり、2匹は火口の広間に出てきた。脱出に成功したのだ!

――親父……!
アルスが思わず手を伸ばした時、また父の声が耳に届いた。
『強くなったな……アルス……』
――……えっ?
その時、父は今までに無く早くリザードンを飛ばし、火口の出口へ向かっていた。
――親父! 嫌だ、待ってくれ! まだあなたを失いたくはない!!
しかしアルスの願いは空しく、父のリザードンはますます速度を上げ、火口から出て行った。後を追うように何とか飛んでいるアルスの視界が開ける。
一際大きな爆発音と共に、グレン火山の火口からルギアが飛び出してきた。
アルスが辺りを見回したとき、父と、リザードンの姿は、もう無かった………。

…イブキが、何故父を殺したのか…それは、結局最後まで、分からないままであった…。

アルスは、さまざまな出来事を思い出しながら、ゆっくりとモンスターボールに手を掛けた。
奥の祭壇には、ワタルの姿も見える。
「……勝負だ、アカネ。」
アカネもそれに応じる。
「…望むところや。手加減なしで行くで。」
アカネもモンスターボールに手を掛ける。
審判の声が響いた。
「それではっ!!セキエイリーグ、ファイナルバトル!!ポケモンファイトォーッ!!」
アルス・アカネ両者とも、それに応じる。
「レディ…」
『ゴーーーーーーーーッ!!!!!』
両者のモンスターボールが開き、光が漏れる。

そして…

新たなる伝説が…生まれる。



〜FIN〜

 

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