- #04 Vogare Longa-
  
     

 

式典が終わり、その場に立ち会ったペリクレ社の人間はみな
いっせいに一つの場所へと向かった。
「私たちも行こう!」
ニコラがいい、他の子も体を向けた。
瞬間、私の手を握っていたニコラとジュリアーニが体を泳がせた。
「……アレッサ」
私は一人、その場に立ち尽くしていた。
「行こう、アレッサ?」
私は何度も首を横に振った。
みんな、どうして良いか途方にくれた。
「私のことはいいから、みんな行ってよ。せっかく見つかったんだし」
私は笑って言った。
「それはあんたに言う台詞だよアレッサ」
「私は、会えないよ」
笑顔が曇った。また、みんなが黙り込んだ。
私はその場から逃げ出したくて、
つないでる手を離して一人別方向へと向かい始めた。
「本当にそれでいいの、アレッサ!」
私は立ち止まり、振り返らず小さくうなづいた。
私は会えない。
どんな顔をして会えるというんだ。
正直なところは会うのが怖い。
言われる言葉はわからないけれど、
きっとディビアーノさんは私を責めないけれど、
それが逆に私にはつらい。
逃げなくちゃ。
私は一歩足を踏み出した。
「どこへ行くの、アレッサ!」
突然人ごみを抜けて鋭い言葉が飛んできた。
私だけでなく、みんなが声の方向を向いた。
ゆっくりと人ごみが割れる。
「ディビアーノさん!」
まさかの人物がこちらへ歩いてきた。
周りには式典に参加したシングルや社の人たちもいる。
私はおろおろして辺りを見回した。
「逃げ道なんてどこにもないわよ」
ディビアーノさんは厳しい口調で言った。
私は目をつぶって両手を握り締めた。
みんながディビアーノさんの行動に注目していた。
すると、ふわっとした感覚に包まれた。
私はゆっくりと目を開けた。
ディビアーノさんの顔がそばにあった。
「ただいま、アレッサ」
「え、あ、う」
「そういう時は素直にお帰りって言ってくれなきゃ」
「でも、私のせいでディビアーノさん……」
「え、ああ、まあ、色々とあってね」
ディビアーノさんは照れ隠しに笑った。
「昔からディビーには急にいなくなる癖があってね。
 ただ本当にまれなことだったから、誰も思い出せなくて。
 私たちもそのことに思い当たったのはディビーがいなくなって
 から少し経ってからなのよ。で、その時点で本当は教えて
 あげなくちゃいけなかったんだけど、
 私たちも確証はなかったし、色々あってタイミングがなくって。
 そのせいでアレッサにはすごく申し訳ないことをしたと
 思ってる。プリマを代表して謝る」
別のプリマの先輩が頭を下げた。それに倣うように、
他のプリマも頭を下げた。
「そんな、みなさん頭を上げてください」
「いや、もっと早く言ってればアレッサがここまで心を病むことも
 なかったんだ。責任は重いよ、謝ったくらいじゃすまない
 ほどにね」
「いいんです、本当にいいんです」
「ほら、アレッサが困ってるよ。みんなの誠意はちゃんと
 アレッサに伝わったから、そのへんでいじめるのは
 やめよう」
「いじめるとはひどいなあ、ディビー。そもそも誰のせいで
 こんなことになったと思ってるんだ?」
「そのことについてはもう十分怒られてきました」
「明日香さんに?」
ディビアーノさんは笑顔でうなづいた。
どうしてそこで明日香さんの名前が出てきたんだろう。
事情を知らない人間は一様に首をかしげた。

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