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翌日から私は入れ替わり立ち代り様々な人になじられ、けなされ、非難された。 「ペアがトッププリマを追い出すなんて、あんたホントに何様のつもり!」 本当にそう思う。私はなんてことを言ってしまったんだろう。 トッププリマ移籍はスキャンダル後の建て直しが難しい社に、 さらに試練を与える結果となった。 ディビアーノさんはお客を呼べる数少ないプリマだった。 その柱を折ったのだ。 私の環境は針のむしろだった。 あの日の落水で私は風邪を引いた。 けれどベッドにもぐりこんだまま私は外に出られなかったのは、 風邪のせいだけじゃない。 耳をふさいでもあの日の非難が聞こえ、 目を閉じてもあの日の嘲笑する人々の顔が思い浮かび、 さらに自分の不用意な発言から、 社内にも居づらい雰囲気を自ら作り出してしまった。 生まれ故郷を離れ一人でこの寮に住み込んでいる私には、 帰る場所はあったにはあったけれど、 今の私には外界はあまりにも恐怖で満ち溢れていた。 すれ違う人の視線が全て私に降り注ぐ。 「汚れたウンディーネ」 「トップを追い出す傲慢な女」 罵声と好奇に満ちた視線。想像するだけで恐ろしかった。 私の生活は完全に止まった。 無視をしていた相部屋の子たちが最初に異変に気付いた。 私の風邪は適切な処理をしなかったために見事にこじれた。 「肺炎を引き起こしかけてますね」 このことはさすがに社の人たちを黙らせた。 私は3日間病院に入院した。 退院して部屋に戻っても、私はベッドから出なかった。 相部屋の子たちが食事を運んでくれたけど、 全く食べる気にならなかった。 「もう1週間だよアレッサ、とにかくスープだけでも飲みなよ」 さすがに心配になったのか、相部屋の子が言ってくれた。 でも私は毛布を頭からかぶったまま、ひたすら震え続けていた。 「アレッサ、ねえアレッサ!」 徐々に私にかかる声は悲鳴に近くなっていった。 何度も体をゆすられた。 バタバタと音がして、入れ替わりいろんな人が私の元を訪れた。 謝罪する先輩や同僚たち、その気持ちは嬉しいけれど、 素直に喜ぶことなんて到底できなかった。 そしてさらに2日が経ち、私は気を失った。 目を開けると、白い壁と、泣きそうな相部屋の子たちの顔が見えた。 「気がついた? よかったアレッサ、ホントによかった……」 私の上に覆いかぶさって泣く子達を、私は遠い目線で見つめていた。 私が心配されている。 あんなにひどいことをした私のことを心配してくれている。 どうして、そんな価値、私にはないよ。 ……死ねたらよかった。 私はぽつりとつぶやいた。 相部屋の子たちははっとした表情になって、 何言ってんのと激しく抗議してきた。 でも今の私は頭の中が真っ白で、 思い浮かぶのはやっぱりあの日の光景だった。 これからもこれがずっと続くなんて耐えられなかった。 すると突然ぐっと胸元をつかまれ、左ほほに痛みが走った。 病室の空気が止まった。 私は、ゆっくりと前を向いた。 私を睨みつけているネディがいた。 「ネディ……」 学校にも行かなかった私を一番心配してくれていたのはネディだった。 あのスキャンダル以降で友人でいてくれた数少ない友人だった。 ヴォガロンガも見に来てくれると言っていたから、 あの中のどこかにいてくれたんだろう。 ネディは約束を破ったりしないから。 今日も見舞いに来てくれていたらしい。 けれど素直になれない私は 「どうして私のことをそこまで思ってくれるんだろう」 などと思っていた。 そのネディはしばらく私の胸元をつかんだまま私を睨んでいたけど、 それからゆっくりと目を閉じて、そのつかんでいる手の上に 自分のおでこを乗せるようにして私の胸に体を預けてきた。 私はじっとネディを見ていた。 ネディは何も言わずそのまま私の胸に顔をうずめたままだった。 「ごめん」 そうつぶやくしか、私はできなかった。 謝ったって何も解決はしないけれど、 ネディにだけは謝らなくてはいけない気分だった。 |
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