「なぁんでアタシがあの女のお見舞いに行かなきゃなんないのよぉ。」
あからさまに不満そうな声は、アスカだ。
「そんなコト言ったってさ、ボクらにだって責任はあるわけだし・・・。」
「責任?なに言ってんのよ、あの女が勝手にグースカ寝て、置き去りになっただけじゃないのよ!」
シンジとアスカは、風邪で休んでいる綾波レイの見舞いに向かっていたのだ。
花見の時、酔ったまま寝てしまい、気が付くと朝だったらしい。どうやらその時に風邪を引いてしまったと言うことだった。
シンジは、誘った手前、忘れて帰ってきたことに責任を感じているのだ。
「いや、だから、フツーは寝てる人間置き去りにしたりしないってば。それにもうすぐそこみたいだからさ、今更そんなコト言わないでよ。」
職員室で貰ったメモに目をやりレイの住所と現在位置を確認しつつ、シンジは苛立つアスカをなだめにかかっていた。
「でも、別に、クラスの人間じゃないのに誘ったのは、あんたでしょう?アタシにはなぁんの責任もないんだからね!」
だが、アスカは口を休める様子もなく、文句を言い立てる。そもそもシンジがレイのお見舞いに行くということが気にくわないのだ。
そんなアスカの様子にさすがにシンジもだんだんと腹が立ってきた。何しろ学校出てからずっとこの調子なのだから無理もない。
「そんなにイヤなら、来るなんて言わなきゃ良かったんじゃないか!」
シンジもたまにこうしてアスカに反撃することがある。
いらぬ突っ込みには、拳で答えることの多いアスカだが、口には口で返すことが多いからだ。
もちろん、やりすぎると殴られることには変わりはない。
「一緒に来てって言ったのは、あんたの方でしょ!?」
「だから、その時に断れば良かったんじゃないか!」
「な・・・そんなの断れる訳無いでしょう!」
「なんでさ?」
アスカはハッと口を噤んだ。
レイと二人ッきりにするのはキケンだと思ったから。などとはさすがに言いたくない。
「えーっと・・・ほら、あれよ。虎穴に入らずんば虎児を得ずってヤツよ。」
「・・・・・・その例え全然違うと思うんだけど。」
「う・・・うるさいわねっ!」
顔を真っ赤にしながら放ったアスカの肘が、的確にシンジのアゴを捉えたのだった。
「んー・・・・確か、ここのはずよねぇ・・。」
オンボロマンションを見上げつつ、失神しているシンジの手から奪い取ったメモの住所を再確認。
メモを持って無い方の手には、グッタリとしたシンジの襟の後ろの部分が捕まれている。
よくよく考えてみれば、お見舞いに行くのがイヤだったのだから、そのままシンジを連れて家に帰れば良かったというのに、
ここまで来てしまっているというのが、なんとも間の抜けた話ではある。
「402号室・・・・ここね。ほら、シンジ、いい加減に起きなさいよ!」
シンジの頭を軽くこづきつつ、アスカはインターホンを鳴らす。
「・・・・・・・。」
反応はない。
もう一度押してみる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
やはり反応はない。
「おっかしいわねぇ・・。」
「うーん・・・・・。あれ?どうしたの、アスカ?」
痛む頭を振りながら、意識の戻ったシンジが問いかける。
引きずられたときに、背中や腰も打ったのだろう。腰や背中を痛そうにさすっている。
「呼び鈴ならしたのに、反応がないのよ。」
シューティングゲームでもやっているかのような連打で、更に押し続けるが、相変わらず反応は無しだ。
「壊れてるんじゃないかなぁ?」
「もうっ!それならそれで、壊れてます、の張り紙ぐらいしときなさいよね!」
文句を言いながら、ドアノブをガチャガチャと苛立たしげに回す。
「ちょ・・・ヤメなよ、アスカ。」
力のない愛想笑いをしながら、シンジはアスカを止めようとした時だ。
「あら・・?開いてるじゃない。」
「え・・?」
アスカが扉を押すと、ギィッ・・・と、錆びで軋んだ音を立て、ドアが開く。
「不用心だなぁ・・・。」
開いた扉から、中を覗き込みながらシンジが呟いた。
中は、電気がついておらず、薄暗い。
奥の部屋から、少し明かりが漏れているので、おそらくそこに誰かいるであろうコトは解る。
「一応、誰か居るみたいね・・・。全く、居るんならさっさと出てきなさいよね。」
文句を続けつつアスカは部屋に上がり込もうとした。
「ア・・・アスカ、呼び鈴壊れてるんだから、仕方ないじゃないか。それに勝手に入ったら不味いって。」
袖口を掴み咎めるシンジの手を振り払いつつ、アスカは構わず上がり込む。
「おっじゃまっしまぁ〜す。・・・・コレでいいでしょ?」
そう言って笑いかけるアスカに苦笑しつつ、シンジも靴を脱ごうとする。
と、その時、ふと男物の靴が目に止まった。
「ねぇ、アスカ、誰か他に居るみたいだよ。」
「んー?家族の人じゃない?」
特に気にした様子もなく、明かりのついた部屋へと歩みを進める。
「あ・・・待ってよ、アスカ。」
そして、二人は扉を開ける。
「お見舞いに来てやったわよ、ありがたく思いなさいよねっ!」
写真部部室の暗幕の奥で、ウッソ・エヴィンは1人、現像に励みつつぼやいていた。
「全く・・・あいつらと関わると、ろくなコトにならないなぁ・・・。」
午前中の授業は休んだ。昨日フランダースに噛まれた傷を見てもらうために病院に行っていたからだ。
「あのクソ犬め、なんでか知らないけど、昔っからボクのこと噛むんだよなぁ。居なくなってせいせいしてたってのに。」
半年前、フランダースが居なくなったのはウッソの仕業ではない。居なくなれと、毎日のように念じてはいたが、直接手を下してはいないのだ。
だから、ある日シャクティから鎖が切れて居なくなっていたと聞いたときは、神様ってホントはいるんだとさえ思ったモノだ。
昨日、アレがフランダースと知ったときは、神様もいるけど、悪魔もいるんだとホンキで思った。
ついでに言うなら、その悪魔はきっとシンジとアスカであろうと。
「ダメだ、こんなコト考えても傷に障るだけだ。なにかもっと楽しいこと考えなくっちゃ。」
現像の手を止め頭の中から、楽しいことを検索してみる。真っ先に思い浮かんだのは、カテジナのことだ。
今度会ったときには、怪我をネタに甘えてみるのも悪くないかも知れない。
何だか楽しくなってきた。
ウッソは更に考えた。
「あ・・・そうだ、出来た写真を持って行こう。それなら家に会いに行く口実もできる。」
昨日はほとんど写真は撮れなかったが、少ない枚数ながら、綺麗な景色は撮れたと自負している。
「早く仕上げて、今日の帰りにでも行ってみようっと♪」
すっかり機嫌が良くなってきたウッソは更に思考を続けた。
昨日のことで惜しまれるのは、カテジナの写真をほとんど撮っていないコトだ。
目を覚ましたあとで聞いたのだが、女性陣は水着になっていたという。
「カテジナさんの水着・・・撮りたかったなぁ。」
「一枚五百円な。」
「うわぁっ!」
ふいにかけられた声に、心臓が飛び出るほどの驚きを感じる。マンガだったら、そう言う描写で描かれてることだろう。
頭の中で考えてるだけでなく口に出していたことに、今初めて気付いたのだ。
「そんなに驚かなくてもいいじゃんかよぉ。」
暗幕の向こう側から、ビーチャの声が聞こえる。どうやら、独り言は全部暗幕の向こうに聞こえていたようだ。
「ビ・・・ビーチャ先輩・・?一体いつからそこに・・・。」
悪態をついたり愚痴ったりしてる所を聞かれてると不味い。
ウッソには崩したくないイメージというのがあるのだ。主にカテジナに向けての備えであるのだが、
誰かに本性を知られると何処から漏れるか解ったモノではない。細心の注意が必要だったのだ。
それがよりにもよってこんな口の軽そうな男にばれてしまったかも知れないとは。
万一聞かれていたら、どうやって口封じをしなくてはいけない。
だが、一体どうやって?
頭をフル回転させているウッソにかけられた言葉は、拍子抜けしてしまうモノであった。
「ん?ボク、カテジナさんに会いたいのぉゥ とか言ってるあたりから。」
ウッソ的にやばい部分は聞かれてはいない。その事にホッとしつつも
『そこまで、デレデレした言い方じゃなかっただろうが!
っつーか、男がゥ つけて喋るなって、気色悪い。』
などと考えているのだが、そんな素振りは微塵も見せない。
「なんか、聞かれたら困るようなコト言ってたのかよ?」
「違いますって。それより、何が五百円なんです?」
解ってはいるのだが、話を逸らすためにわざと聞いてみた。
「花見ん時の水着の写真だよ。さっき取りに行ったらさ、けっこう綺麗に写ってたぜ。」
取りに行った。と言うことは、どうやら自分で現像はしていないらしい。
「へぇ・・・。良かったじゃないですか。(写真部なんだから、自分で現像ぐらいしろよな。)」
「ホントは、着替えなんかも撮る予定だったんだよな、ビーチャ。」
モンドの声だ。どうやら彼も暗幕の向こうにいるらしい。
「失敗しちまったけどな。」
楽しげに昨日のことを話す二人に、ウッソは内心怒りを覚えた。
『着替えの撮影だってぇ!そんなモノ、成功されてたまるかぁ!ボクだって、まだ見たこと無いってのに!』
「で、見るの?見ないの?」
「もちろん見ます。」
思わず即答してしまう、ウッソであった。
二人が、レイの部屋で見た光景は、金髪の男がレイの布団に手をかけている姿だった。
「ちょ・・・・あんた何やってるのよっ!」
見知らぬ男が病気で寝込んでる女の子の部屋に入り込み、今にも襲おうとしている光景。少なくともアスカはそう理解した。
そして、不届きモノを成敗するために猛然とダッシュする。
「ん?君たちは・・・・。」
男は何かを言いかけるが、アスカの突撃は止まらない。
「アスカ!ちょっと待って!」
何かに気付いたらしいシンジがアスカを止めようと手を伸ばすが、間一髪間に合わない。アスカはもう男を射程距離に捉えていた。
目の前で起こった目を覆う惨劇。いや、惨劇はいつものことなのだろうが、今回はそのレベルが違う。
曲がりなりにも男であるシンジには、直視することが出来なかった。
口から泡を吹き、白目を剥いたまま、男として最も大事な場所を押さえて床に転がる金髪の男。
『こういうのを見ると、自分まで痛くなる錯覚が起こるのはどうしてだろう。』
フンッ、と鼻を鳴らしながら男を見おろすアスカに向けて、恐る恐るシンジは告げた。
「アスカ・・・・その人・・・多分ウチの学校の先生・・・。」
「え・・・・?」
もう一度、見おろす。先ほどと違い、少し動揺した目つきだ。
「ホントなの?」
ゆっくりと頷くシンジ。
「入学式の時にチラッと見た覚えが有るんだ。
それにしても・・・・どーすんのさっ!先生にこんなコトしちゃッてっ!」
「こいつ・・・・先生のクセに、あんな破廉恥なことを・・。」
アスカの動揺は、シンジのモノとは意味が違うようだ。
「ねぇ、アスカ・・・・。先生はお見舞いに来ていたんじゃないかな?」
シンジは自分の推測を話し始めた。
「なら、何で布団に手をかけてたのよ?」
「布団を直してあげてたんじゃないかなぁ?
大体、アスカが思うようなコトしようとしてたんだったら、ボクらが入ってきた時にもっと慌ててると思うんだけど。」
シンジの指摘でアスカの顔色が蒼白になる。冷や汗もかいているようだ。
シンジの言うことが正しいと判断したようだ。
「どうするんだよぉ・・・。」
最低でも停学ぐらいは喰らってしまうんだろうな・・・・入学してまだ間がないというのに、しかもアスカのとばっちりで。
シンジはアスカを連れてきたことを心から悔やんだ。
『あぁ・・・アスカなんて連れて来なきゃ良かったよ。でも・・・1人で、女の子のお見舞いなんて恥ずかしいし・・・。
あ・・・そうか、豹馬君達を誘えば良かったんだ。なんで、今頃気付いたんだろ・・・。ボクのバカ・・・・・。
って言うか、この現状をどうすればいいんだ?アスカったら、ボクが止めたのにも、構わず突っ込むんだもんなぁ・・・。』
シンジがこのようなことを考えてる間も、アスカは眉間に皺を寄せたまま無言の状態を続けていた。
「・・・・・・・。」
「ねぇ・・・アスカぁ・・。」
沈黙が生み出す不安に耐えきれなくなったシンジは、アスカに呼びかけてみた。
恐る恐る、と言った風な感じの声が、心理状態をよく表していると言える。
「情けない声出さないでよねっ!」
そのシンジの声がきっかけにでもなったのであろうか?どうやら、何かを思いついたらしく、眉を寄せた先ほどまでの焦りの表情は、どこかに失せていた。焦りどころか、笑みさえ浮かべている。
「いいこと、シンジ・・・アタシ達は、病人の寝込みを襲おうとしていた、不届きモノを退治した・・・それだけよ?」
”達”と、さりげなくシンジも共犯者に仕立て上げる。
「ちょっと、アスカ!”達”って何だよっ!」
無論シンジは抗議の声を上げようとしたが、そんなモノは無視だ。
「まずは、この不届き者があとでなんて言い逃れしようともどうにも出来ないようにしないとね。わかるでしょ?シンジ。」
わかるでしょ?と言われても、シンジは動揺しているのだろう、咄嗟にアスカが何を言ってるのかが解らなかった。
「え・・・・?」
つい先ほどのシンジとアスカのやり取りとは反対に、今度はシンジが同じようにアスカに聞き返した。
「だから、この男は、教師という立場にありながら、寝ている女子生徒を襲おうとした。そして、それを正義の使者たるアタシ達が成敗しただけじゃない・・って言ったのよ。」
今度はシンジにも理解できた。要するに、彼を悪人にでっち上げてしまおうと言っているのだ。
しかも、自分に共犯者になれとまで言っている。なれ、と言うよりは決定事項なのだろう。
酷い話である。だが、やったのはシンジだけだと言われないだけマシなのかも知れない。
「それは・・・ちょっと・・・不味いんじゃないかな・・・?ほら、やっぱり罪の上塗りは良くないし。」
滝のような冷や汗をかきながらも、シンジは何とか思いとどまらせようとはするのだが、アスカの決意は硬い。
レイの方へと向かうと、眠りが深いことを確認する。
ニヤリ、と笑い布団をはぎ取ると、シンジに後ろを向いてるよう指示を出した。
「アスカ・・・何するつもりなのさ?」
「何って・・・ちょっとだけ前をはだけさせて、いかにもってシチュエーションを演出しようかなぁ〜って。」
やるからには徹底的に、とでも思っているのだろうか?明るく返答するアスカの声には躊躇や罪の意識は全くない。
『何もそこまで凝らなくてもいいんじゃないかな?』
と、思いつつも後ろを向くシンジ。
もう完全に共犯者だ。シンジは、心の中で、二人に謝罪した。
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・。でも・・・仕方ないんです。停学とかなりたくないし。』
幼い頃から数えて、何度こうやってアスカの片棒を担ぐ羽目になっただろうか。
ただ、どの事件も最初は悪気がない・・・と言うよりもむしろ、善意、厚意、義憤などから起こした行動が、結果裏目に出るだけの話なのだ。
今回のことだって本当はそうなのだから、被害者であるこの名も知らぬ先生にちゃんと説明し、謝罪すればわかって貰えるかも知れないのだが
いかんせん謝ると言うことが、滅多に頭に浮かばないアスカなのだからしょうがない。
「う・・・何が・・・起こったのだ・・・?」
シンジの後ろから聞き慣れない声が聞こえる。どうやら金髪先生(仮称)が目を覚ましたらしい。
『あ・・・不味い、目を覚ましちゃった、どうしようか?』
シンジが思いつくよりもアスカの行動は早かった。
「あらぁ?先生、起きたんですかぁ?」
目は笑っていない笑顔で話しかけている。もちろん腹の内は、顔を見られているか否か、の一点を確かめることしか考えていない。
「顔色が悪いようですけど、大丈夫ですか?」
「あ・・・あぁ。しかし、一体何が起きたというのだ。」
お宝を蹴り上げられたショックで記憶が飛んでいるらしい。シンジは、記憶が飛ぶほどの勢いで蹴り上げられた金髪先生に深く同情した。
相手に記憶さえなければ、何も罪をでっち上げたりすることもない。シンジとアスカ(特にシンジ)は、胸をなで下ろした。
ゆっくりと立ち上がりながら、金髪先生は微笑した。少し冷たいという印象を与えるが、
少し切れ長のその目は、涼しげで魅力的である。さぞ女生徒には人気があるのだろうと、普段そう言うことあまり考えないシンジでさえ思った。
やや足下がふらついているのは、ダメージが残っているせいであろう。
「私は、シャア・アズナブル。彼女の担任だ。君たちは確か・・。」
「あ・・A組の碇シンジです。」
「同じくA組の惣流・アスカ・ラングレーです。先生がわざわざお見舞いに来られるんですね。」
「生徒思いなんですね。シャア先生って。」
ばれていないと言う安堵感からも、二人の声は明るい。
「彼女は一人暮らしでね、それにどうもクラスに馴染めていないようなので、少し気になって様子を見に来たのだが・・・他のクラスにちゃんと友人が居たとはな。彼女はいい友人を持った。」
なかなかいい先生である。なかなかそんな風に生徒一人一人に気を配れる物ではない。
シャアと話しながら、シンジはあのままでっち上げを行わなくて本当に良かったと思っていた。
『お見舞いに来てたはずの先生が・・なんてコトになってたら、綾波だってショック受けるかも知れないし。』
などと考えながら、ふとレイに視線を落とすと、いつの間に目を覚ましていたのだろうか?彼女と目が合ってしまった。
「碇くん、お見舞いに来てくれたのね。」
少し体を起こして真っ直ぐにシンジの方を見つめるレイ。相変わらずの無表情だが、心なしか嬉しそうにも感じられる。
「あ、ご・・ゴメン、起こしちゃったんだね。少し騒がしかったかな・・・。」
「あんたねぇ!アタシだってきてるってのに、何無視してんのよ。」
「あら・・・いたの・・。」
「ぬわんですってぇ!」
三人の生徒達の微笑ましい(?)やり取りを見ているうちに、ここはこの二人に任せて、自分は帰った方がいいだろうと判断した。
若者同士の交流に大人は必要ない。まして自分は教師だ。いない方が彼らも楽しくやれるだろう。
最後に、声をかけてから行こう。そう思い彼らの元へ近づいたのが悪かった。
さっきのダメージは思いのほか深かったらしく、足をもつれさせてしまったのだ。
そのままドサリと、倒れ込んでしまった・・・・・・・綾波レイの上に。
「・・・・・・・・・・・。」
「先生!?」
「な・・・・な・・・。」
シャアの顔はしっかりと、レイの胸に埋められている。
「・・・・・・・・。」
レイの表情は変わらない。無表情のままレイの手が、胸に埋められたシャアの顔を上げさせ、頬をゆっくりと包み込む。
シャアは、ばつが悪いような、戸惑ったような、そんな表情を浮かべている。
そして・・・一瞬のうちにそれは起こった。
ゴギッ!
シャアの首が嫌な音を立てて折れ曲がっていた。
「うわぁ!」
「ひぃっ!」
力無くレイの上から転がり落ちるシャアと目が合ってしまい、抱き合うような格好で悲鳴で上げるシンジとアスカ。
目が合う、と言ってもシャアの目は白目を剥いているで、一方的にシンジ達が見たと言った方が正しいかも知れない。
「し・・しし・・・・死んでる・・?」
「バカッ!死んでないわよっ!」
ビビリまくる二人をよそにレイは無表情のまま、シャアに馬乗りになり、パンチを連続で叩き込み始める。いわゆるマウントパンチだ。
声を出すことも出来ずに見守るシンジ達。かなり凄惨な光景だ。
しばらく殴り続けた後、立ち上がったレイは恥ずかしそうに胸元を覆い一言呟いた。
「・・・・・何をするのよ。」
それは、ピクリとも動かなくなったシャアこそが言いたかったセリフであろう。
ここまでやっておきながら、変に恥じらってる辺りがなんとも、怖ろしい。
「あ・・・あははは・・・・・。どうやら、元気みたいで安心したよ・・・。。ね?アスカ。」
「そ・・・そうね。な・・・長居しても悪いからそろそろ帰りましょうか。」
「「じゃ、そういうことでっ!」」
二人は振り返りもせず、駆け出した。
現像も終わり、ビーチャから写真も受け取りすっかりご機嫌モードのウッソは、足取りも軽くカテジナの家へと向かった。
「あ・・・カッテジッナさぁ〜ん♪」
家の前まで行くと、窓辺でたたずむカテジナを発見し、明るく声をかける。
しかし、カテジナからの反応はない。聞こえていないのだろうか?
「あれ?・・・カテジナさぁん!何やってるんですかぁ?」
呼び鈴を鳴らそうか?とも思ったが、あの様子では反応してくれるかどうかも怪しいモノである。
今度は少し大きな声で声をかけてみたのだ。
「あら、ウッソじゃない。どうしたの?」
今度は気付いて貰えたようだ。
「そこじゃ、何だから、お上がりなさいな。」
そう言うと、カテジナは窓辺から姿を消した。玄関を開けに来てくれるようだ。
少したってから、扉が開きカテジナの笑顔がウッソを迎えた。
「いらっしゃい、ウッソ。」
招き入れられ、カテジナの部屋に通された。
あまり女の子らしいと言った感じの部屋ではなかったが、それでもウッソは憧れの人の部屋に入った喜びと緊張で、表情や動きが硬い。
「飲み物持ってくるから、適当にくつろいてでね。」
カテジナが部屋から出ていくと、ウッソは大きく息をついた。
「ふぅ・・・コレがカテジナさんの部屋かぁ・・・。」
1人になって、少し緊張もほぐれたのだろう。部屋を見回す余裕が出てきたようだ。
机の上にノートパソコンがある。このノートパソコンをカテジナが持っていたおかげで、ウッソとカテジナは知り合ったようなモノである。
そう考えると、思わずノートパソコンに感謝したくなるウッソであった。
「ん・・・これは・・?」
ノートパソコンの側に赤いカードがあることに気付いた。そう言えば、窓辺から覗いたカテジナは手に持っていた何かを眺めていたようにも思える。
おそらくは、このカードを眺めていたのだろう。そう判断したウッソは、好奇心から、そのカードを手に取ってみた。
カード見たウッソは思わず疑問混じりの驚きの声をあげた。
「なんだ・・・これ?」
カードの表面には、仮面舞踏会で使われるような、目元を覆うマスクが描かれており、その隣には機械的な文字でこう書かれていた。
”明日深夜0時、コメットを頂戴する”・・・と。
「これって・・・・よく映画なんかで、泥棒がやってる犯行予告・・・?」
Bパートへ
ロンドベル学園INDEXへ
メイン
タイトルの付け方、今回から変えてみた。そのうち全部のタイトルも付け替えるの。(゚ー゚)
なんか展開がバレバレくさいなぁ。(゚ρ゚)マ、イィカ(滅