第七話「華やかなる戰い!?」Eパート




刀を取って桜の前に立つ四人の少女は、まさしく四者四様の課題への挑み方をしていた。
アスカは、相変わらずめちゃくちゃに切りつけているだけだし、
カテジナは斧でも振るうような格好である、「切る」と言うよりも「叩き折る」つもりなのだろう。
ちずるに至っては、鋸のように刀を使おうとしている。
錆びた刀をノコギリ代わりに使っても、切れるわけはないと思われるし、何より、もし切れるとしても何時間かかるか解った物ではない。
この時点で、まずちずるは脱落と見ていいだろう。
最後にセシリーだが、居合いのような構えを取ったまま、目を閉じ、なにやら精神を集中させているようである。
武芸でもたしなんでいるのだろうか?
「はっ!」
短い気合の声と共に、繰り出される一閃。
その軌道は見事に桜を一刀両断に・・・・・・してはいなかった。
衝撃で手が痺れ、思わず刀を取り落とすセシリー。痺れの走った手を眉をしかめながら見つめている。
「・・・・・・・・・。」
しばし無言。セシリー以外の者も誰も口を開かない。静寂の中、他の3人が桜と格闘している音だけが響く。
「できるかぁぁぁぁっ!」
思わず絶叫してしまう。武芸の心得があろうとなろうと、こんなモノで桜を切り倒すことなどできる訳がない。
でもあの自称忍者はやってのけた。一体どうやって?
『きっとインチキだわ。間違いなく。』
セシリーは舞台の上で見守るシュバルツをしばらく見据えたあと、舞台に向かい歩き始めた。




一方その頃のウッソ・エヴィンはと言えば、全力でただ闇雲に走っていた。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」
いきなり襲いかかってきた黒い影から逃げるためだ。
黒い影がなんなのかは、確認していない。
振り返ることすらせずに走っているため、その影がなんなのかはわからないのである。
ただ一つだけわかっていることがあった。それは、こいつに捕まってはいけないということだけだ。
最初は飛びかかられたのに、驚いて反射的に逃げただけだが今は違う。
ハッキリと背中越しに殺意を感じているからだ。
今ウッソはまさしく風よりも速く走っていた。命を懸けて。アスカやシンジに心の中で当たり散らしながら。
「何でボクばっかりこんな目にーーーーーーーッ!!!!!」




でたらめに切りつけることを延々と続けるのにも疲れたアスカは、
刀を地面に突き刺し地面に座り込むと、桜を睨んだまま動かなくなった。
険しい表情のまま、ブツブツと何か呟いている。かなりストレスも溜まってきているらしい。
時折冷たい微笑を浮かべるのが、妙に怖ろしい。
シンジ達には我慢が限界に達するのももう時間の問題に思えた。



アスカがすっかり危険人物化している頃、
カテジナは目を閉じ人差し指を眉間に当て、何故、シュバルツにできて自分にできないのかを考えていた。
『タイヤ使っていいのならこんなの叩き折るのは訳ないのに・・・。』
すっかり、切らなくてはいけない事を忘れ、叩き折ることに意識が向いてしまっていた。
実際先ほどから、カテジナはこの刀で切ることではなく、折ることを主眼に置いた行動をとっている。
『ん・・・おかしいな・・・あの忍者は確かに切っていた・・・。切断面からもそれは明らかだ・・・。』
少しずつ・・・少しずつ何かが掴みかけている・・・カテジナは、その何かを必死にたぐり寄せていた。



惣流・アスカ・ラングレーは考える。アレはきっとインチキであると。
どうやら、シンジ達が考えるほど、冷静さを欠いているわけでは無さそうだ。

あの刀で桜を切り倒すには、どうすればいいのかを考えているカテジナに対して、
アスカは、シュバルツが一体どんなイカサマをやったのか・・・と言うことに思考を巡らせているのだ。
『そうよ・・・おかしいと思ったのよ。このアタシがこれだけやっても切れないなんて・・・。きっとイカサマしてるに違いないわ。
ニセモノにできて、本家本元ドイツ人のアタシにできない訳なんてあるはずがなんだから。』
と言う、かなり意味不明の納得の仕方をしていた。
シンジがもしこの心の声を聞いていたら、
「アスカだってクォーターだから本家本元ドイツ人とは言わないんじゃないのかなぁ?」
などど、ツッコミを入れ、間髪入れず殴られると言ういつもの微笑ましい光景が拝めたことであろう。
シュバルツがイカサマをしている、と予測していることについてはセシリーと同じ結論にたどり着いたと言えるだろう。
怪覆面の偽ドイツ人がどんなイカサマを使い、桜を切り倒したのか?アスカの思考は其の一点に集中されていった。




「で・・・・どんなイカサマを使ったのかしら?」
何のひねりも遠慮もなく、完全に決めつけてかかったセシリーの問い。しかし、シュバルツは冷静だ。
「何のことかわからんな。」
ピクリと一瞬セシリーの形の良い眉が跳ね上がる。
シーブックはハラハラしながらやり取りを見守っていた。これ以上セシリーの機嫌が悪くならないようにと、願いながら。
セシリーはアスカやカテジナと違い、公衆の面前で暴れたりはしない。
その分、誰も見ていないところでストレスを発散させようとするのだ。もちろん被害者はシーブックである。
暴力に訴えかけることは無いものの、ネチネチと文句を聞かされたあげく(もちろんシーブックは悪くない事でも)、
最終的には何故か、シーブックが不甲斐ないからそうなったという結論に達し、これまたネチネチと叱責されるのだ。
シンジのように殴られておしまいならまだいい。体の痛みはすぐに消えるのだから。
精神的に受ける苦痛というのは、表面からは見えないだけに、深く残るモノなのだ。
シーブックは、つきあい始めてからのこの半年で、数え切れないほどの心の傷を負っていた。
シーブックの不安など知るはずもなく、セシリーは更にシュバルツを責め立てた。
声はやや震えている。怒りのボルテージが上がっているのだろう。
「あなたがイカサマを使って、桜を切り倒したのはもう解ってるのよ?」
「イカサマなど使っておらん。」
「まだシラを・・・。」
シュバルツの否定に対しセシリーは抗議の声を上げた。
しかし、それはその後に続くシュバルツの気合いのこもった声にかき消される形となる。
「あれぞ、ゲルマン忍術の奥義!イカサマなどと、人聞きの悪いことを言うのではないわぁ!」
「わかった・・・わかったわよ。イカサマだなんて、悪かったわね。」
耳を押さえつつセシリーは、これ以上怒鳴られてはたまらないとばかりに、形だけでも謝罪する。
内心では、絶対イカサマだと思っているのだが。
「明鏡止水はどうなったの?」
「・・・・・・・・・・。」
シンジの呟きに、シュバルツの動きが止まった。
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
言葉もなく、シンジを見つめるシュバルツ。シンジもまた、シュバルツの答えを待っている。
いや、シンジだけではない。その場にいる者全てが・・・まだブツブツ呟いているアスカを除いてだが・・・シュバルツに注目していた。
「やっぱりイカサマですのね?」
沈黙を破ったのは、セシリーだった。そら見たことかと言わんばかりの満面の笑みだ。
「だから違うと言っておるだろうがぁ!」
やや声に力がないのは、イカサマの指摘のせいではない。イカサマはしていない。それは本人だからよく解っている。
明鏡止水などと言っていたことを、すっかり忘れていた自分に驚愕しているのだ。
勢いだけで喋ってる状態に水を差されて冷静になったら、結構恥ずかしかった。今シュバルツはそんな状態だ。
「そ・・・そんなことはどうでもいいっ!」
一言、明鏡止水はゲルマン忍術の奥義だと誤魔化せば済んだだろう。
だが、そんな発想は湧かなかったらしい。こんな覆面を被ってはいるが、意外に根は正直でイィヤツなのかも知れない。
「とにかく、インチキもイカサマもやってはいない。何なら、刀を調べて貰ったあと、もう一回やってもいいが?」
そこまで言うのなら・・・と、刀を調べ、また、ボディチェックまでやったあと、シュバルツにもう一回桜を切らせることになった。
刀のチェック、ボディチェック、全て完了し、いざ、桜に!と言うときになって、ぽつりと豹馬が漏らした言葉に、シュバルツはまたも凍り付く。
「でもさ、忍者って言うんだから今ボディチェックしても、どっかからか、なんか出せるんじゃねぇか?」
「そういえばそうやなぁ。」
「忍者ってインチキのプロってイメージあるしね。」
十三、シンジと次々に同意者が現れる。
「な!?だからインチキではないと・・・。」
狼狽するシュバルツにレコアが追い打ちをかける。本人には、追い打ちをかけているつもりは無く正論を言ってるつもりなのだろうが、
シュバルツ的には追い打ち以外の何物でもない。
「それを証明するために、今から切るんでしょ?後腐れのないようにした方がいいと思うのよ。」
一体これ以上どうしろと言うのか?シュバルツは思わずそう叫びそうになる。
その「どうしろ」が、今まで沈黙を守っていた男から告げられる。
「そうだな・・・・参加者はみんな水着なんだから、こいつにも海パンいっちょでやってもらえばいいんじゃないか?」
別に野郎の海パンなんて見たいわけではないが、「なんとなく面白そうだから。」と思いつつ、
カイ・シデンは、いつものニヤついた顔のまま、そう言い放った。




海パンいっちょに三色覆面。背中に背負うは忍者刀。怪しいさえ通り越した格好である。
町中であったら絶対に近づきたくは無い。目を合わせるのだってイヤなくらいだ。
ちなみに海パンの色はマスクとお揃いだと言うことをここに記しておく。
そんな姿で、精神統一のためだろうか?印を結んで目を閉じている。
ふいにカッ!と目を見開き、桜に向かっていく。そして、短い気合の声と共に、見事に桜を両断した。
目を閉じたまま、背中の鞘に刀をしまう。海パンいっちょでなければ、結構格好良く映ったのかも知れない。
だが、この姿では、かなり危ないヒトだ。海パン姿で、刀持って浸ってるなんてどう見ても危険人物だからだ。
しかし、周りのそんな目もお構いなしに、シュバルツは冷静そのものだ。
いや、よく見るとマスクから覗く目の周りはほんのりと朱に染まっている。
やはりこの男といえども、海パンいっちょに覆面は恥ずかしい格好との認識はあるのかも知れない。
「これで解っただろう。私はイカサマなどしてはおらん。全て、己の心技体がなせる技よ。」
さすがにもう誰もケチを付ける者はいなかった。
「さぁ、解ったらお前たちもあきらめずにやってみるのだな。いいか!明鏡止水とは・・・。」
シュバルツは言いたいことを最後まで言うことは出来なかった。
「あんた・・イカサマやってるでしょう!!!」
真っ直ぐに人差し指をシュバルツに突きつけ、激しく非難する。
「アタシには全て解ったわよ。あんたのイカサマの秘密がね!・・・・って、あんた何で海パンいっちょなのよ・・・・。しかもマスク被ったままで。」
嫌々をするように首を振り、後ずさりながら、更に続ける。
「本当に変態だったとはね。最初見たときからそうじゃないかとは思ってたけど。」
「いや・・・アスカ・・・これはね・・・。」
アスカがいきさつを全く把握していないと感じたシンジは、彼女がまた何かしでかす前に、説明しようと考え、アスカに呼びかけた。
「なに?あんた、まさかこの変態の肩持つってんじゃないでしょうね?」
怒ったような、哀れむような、そんな複雑な表情でシンジを見つめる。
「いや・・・そうじゃなくってさ。アスカ、ちょっと耳貸して。」
シンジに耳打ちされると、徐々にアスカの顔が赤くなっていく。
「と、言うわけなんだ。わかった?」
苦笑いを浮かべながら、耳元かから口を離し、アスカに呼びかけてみる。
「・・・・。」
アスカは俯いたまま黙っている。
「ア・・・・アスカ?」
反応がないのを、不審に思い顔を覗き込んでみる。
と、その瞬間アスカは顔を上げ、シンジの耳を引っ掴んで、耳元で怒鳴りつけた。
「このバカッ!!!何でもっと早くそれを言わないのよっ!!!!!」
「ご・・・ごめん。でもそんなコト言ってもさぁ・・・。」
「なによ?」
「いや・・何でもないんだ・・ハハハ・・・。」
早くも何もアスカが全然周り見てなかっただけじゃないか・・・言いかけた言葉は剣幕に押される格好で何とか飲み込んだ。
「あー・・・・お取り込み中の所すまないが、そろそろ服を着たいのだが。」
早く服を着てしまいたいらしい。そんなもの勝手に着ればいいとも思うのだが、理不尽な反面、妙なところで律儀さがある男だ。
だが、返ってきた答は冷たいモノだった。
「そんなのダメに決まってるじゃない。」
アスカは、当然のことを言ってるかのような表情だ。
「な・・・なんですとぉっ!」
何故か「ですます」口調になるシュバルツ・ブルーダー。
「あんたねぇ、ヒトに水着にまで着替えさせておいて、自分は服着たまま高みの見物するつもり?」
澄ました顔で言い放つ。しかし、シンジはアスカの瞳の端に一瞬映った、「意地悪」としか表現できない光を見逃さなかった。
春とは言え、水着になどなるとやはりまだまだ寒い。
アスカは内心、水着コンテストなどと言い出したシュバルツに、どうにか仕返しができないモノかと、機会を狙っていたのだ。
「言い出しっぺが、水着にならないのはどう考えてもおかしいわよね。シンジもそう思うでしょ?」
「えぇっ!?何でボクに振るのさぁ!」
いきなり同意を求められて当惑・・・と言うより動揺してしまう。
第一、おかしいのはアスカの理屈である。
そもそも、水着コンテストの主催者や司会者が水着にならないとおかしいなど言う理屈があるはずがない。
だからそんな理屈に同意を求められても困るのだ。と、言うよりも、同意を求められるとは思ってもみなかった。
「いや・・・しかしだな・・・。」
当事者のシュバルツにしたら、もっと動揺しているだろう。言葉にもいつもの歯切れの良さ(と言うか勢い)がない。
「惣流さんの仰る通りね。是非、シュバルツさんには、そのまま仕切っていただきたいものですわね。」
セシリーもアスカに同調し始めた。どうやらセシリーも寒かったのだろう。
愕然とセシリーを見つめるシュバルツ。もはや言葉も出ないようだ。
目が大きく見開かれているのは解るので、そこから察するにかなりショックを受けているらしい。
ちなみにアスカはマントを羽織ったままだが、セシリーは水着そのまま、アスカよりも寒さを感じていることは間違いなかった。
案外、アスカが優勝者用のマントを着けてきているのはその辺のこともあったのかも知れない。
『そう言えばアスカってどんな水着を着てるんだろ?』
ふと、気になってアスカを凝視してしまう。
マントの前面の合わせ目からは、赤い色だと言うのは解るがそれ以外はよく見えない。
スケベ心か、はたまた好奇心か。
シンジは、合わせ目の所をよく見ようと少し前屈みの状態で覗き込む姿勢になった。
「なに人の胸ジロジロ見てるの・・・・よっ!」
言うと同時に肘を頂部に炸裂させるアスカ。前屈みになってたシンジは顔から地面に突っ込むことになった。
「ったく・・・何で男ってこうスケベなのかしら。」
『違うんだアスカ・・・そんなつもりじゃなかったんだよ・・・。ただ・・・どんな水着か気になっただけで、けして胸を眺めてたわけじゃ・・・。』
その言い訳は顔が地面にめり込んでいたおかげで、アスカに届くことはなかった。
もしも届いていたら、同じコトだと言われて更に殴られていたに違いない。そう言う意味では不幸中の幸いとも言える。
シンジが命拾いしている頃、ようやく我に返ったシュバルツがぽつり、と呟いた。
「お前ら・・・そんなに私の海パン姿を見ていたいのか・・・?」
「「んな訳あるかぁ!」」
アスカとセシリー、2人のツッコミは見事なハモりを見せ、山に響きわたったのであった。



日本刀の本質とは、”切る”ことではなく”斬る”事である。
単にイメージの問題と言われてしまうかも知れないが、今はそのイメージが大事なような気がしていた。
それもただ斬るというイメージを持つだけでは駄目であろう。何か他の要素もあるに違いない。
その他の要素・・・それがもう少しで掴めそうな、そんな気がカテジナにはしていたのだ。
薄ぼんやりと、その何かが形として見えてきたその時。無情にもそのイメージは四散してしまう。
アスカ、セシリーのツッコミデュエットのせいで、思考がかき消されてしまったからである。
絶好調のシュバルツもかくや、と言う声で2人同時に叫んだのだ。
集中力が途切れても、無理からぬ所であろう。
「あなた達ねぇ・・・・・。」
怨念を込めて静かに振り返る。怒りにまかせて勢いよく、ではないところが逆に大きな怒りを表しているようで、迫力が増している。
が、その迫力もすぐに消え失せることになった。
「アッハッハッハッハッハッハッハ・・・何・・・その格好は!」
シュバルツの今の出で立ちがよほど”ツボ”に入ったのか、指をさし、腹を抱え、涙まで流しながら笑い続ける。
シュバルツはと言えば、拳を握りやや下を向いて体を震わせている。
自分でも恥ずかしいと思っていたところに追い打ちをかけられたのだから無理もない。
プチリ。屈辱に耐えるように身を震わせていたシュバルツから何かが切れるような音が聞こえた気がした。決定的な何かが。
「黙って聞いておれば、いい気になりおって。貴様ら全員この場で引導を渡してくれるわぁっ!」
言うが早いか、いきなり高々とジャンプし桜の花の中に突っ込んだ。羞恥のあまり逃げてしまったのだろうか?
いや、違う。何故か別の桜の花から花びらをまき散らしつつ再登場を遂げるシュバルツ。
この一瞬で服を着たのであろう。もはや海パン姿ではなくなっている。着替えの速さはさすが忍者とでも言うべきか。
「いくぞぉっ!シュトゥルム!ウント!ドランクゥゥゥゥゥゥッ!!!!
かけ声と共に両手を腕組みのような形で交差させ、グルグルともの凄い勢いで回転をし始める。
よく見ると、その両手の甲の部分からは鋭利な刃物が出ているではないか。物騒なことこの上ない。
「ちょ・・ちょっと・・・何するつもり!」
セシリーが悲鳴を上げる。
「あんたねぇ!刃物なんて振り回して!危ないじゃない!」
アスカは猛然と喰ってかかった。
「なんか回っとるで!」
「げぇっ!こっちに来やがった!」
豹馬、十三たちの叫びが引き金になり、全員が蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。
何しろ刃物を持ったまま高速回転しながら、そこら中を手当たり次第に移動しているのだ。
物騒と言うよりも、命が危ない。
「アッハッハッハッハ・・・さっきの格好って・・・。」
「あ・・・・やっと少し切れたような・・・。気のせいかな?」
・・・・・いや、若干数名は違っているようだ。
カテジナはまだ笑っているし、ちずるはまだ錆びた刀をノコギリのように使っているらしい。
本人は切れたような・・・・とは言っているが、その実はしつこく擦ったので筋というか型が付いただけだ。
「違うンだ・・・アスカ・・違うんだ・・・。」
「むにゃむにゃ・・・・もう食べられないわ・・・。」
シンジはシンジで、まだアスカに謝っているし、レイに至ってはお約束な寝言を呟くだけで起きる気配もない。
「フハハハハハハ・・・・どうした、どうしたぁ!」
なにが「どうした?」なのかは、よく解らないがとにかく凄い迫力ではある。
桜や舞台、簡易更衣室、カラオケセットなど、当たるを幸いとばかりに全てなぎ倒し、切り倒し、破壊して移動しているのだから。
すっかり暴走竜巻人間と化したシュバルツは、いまだ少し離れた所に生えている桜の下で
「うふふ・・・・・うふふふ・・・・・この下には・・・。うふふふふ・・・。」
などと、うすら怖い含み笑いを繰り返しているシャクティに一直線に向かっていた。
「ここ・・・・それとも・・・ここ・・・?うふ・・うふふふふ・・・。」
しゃがみ込んで土の状態を確認しているのは、最近掘り返された場所を探しているからか?
そんなにも桜の木の下の死体が見たいのだろうか?
このままシュバルツの接近に気付かなければ自分がそうなってしまうかもしれないと言うのに。
キレてしまっているシュバルツは、シャクティに近づいても勢いが落ちる気配すらない。
「アハ・・・アハハハハ・・・苦しい・・息が・・・。アハハハハ・・・。」
「んー・・・でもこのペースだったら・・・あと何時間かかるかしら?」
若干二名は事態そのものに気付いてないようであるが。
更に言うと、シンジはあのまま気を失っていて、レイは依然眠ったままだ。
カラオケセットを真っ二つにしたときに、すぐ近くを通ったはずなのに一切構わず熟睡している。
それだけ酒が回っているのか、はたまた鈍いだけなのか。
しかし、今はそんなことを気にしてる場合ではない。シャクティの命が風前の灯火なのである。
眼下で起こる惨劇に誰もが思わず目をつぶる。
と、その時だ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
悲鳴と言うよりは絶叫をあげつつ、突進してくる人物が1人。
長らくこの場より姿を消していた、ウッソ・エヴィンである。
一体何があったのかは知らないが、服はボロボロ髪はボサボサ、しかも何かに取り憑かれたかのような形相だ。
そして、そのウッソを追うように・・・と言うよりは、確実に追尾している真っ黒い影。
二つの疾風は真っ直ぐにシュバルツへと向かっている。
ウッソも、もはや周りが見えてなどいないのだろう。逃げるのに必死なのだ。
「アハハはハハ・・・・・・・って、ウッソ!?一体何が・・・・。」
さすがにウッソの悲鳴は聞き分けたらしく、カテジナがようやく正気(?)に戻る。
ただならぬウッソの状態を見、そしてウッソが向かっている方向を確認する。
もちろんウッソの方向はシュバルツめがけて一直線だ。おそらくシャクティが居る辺りが衝突点だろう。
カテジナにしてみれば、シャクティはどうでもいいとしてもウッソは助けないといけなかった。
もう一刻の猶予もなかった。考えている暇はない。
カテジナはタイヤを構える。一体何処から出してるのかは、永遠の謎であろう。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
全身の力を振り絞り、タイヤを投げつける。ちょうど間に入ってくれればシュバルツとの直撃だけでも避けられるだろうとの考えだ。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
「そら、そら、そらぁぁぁぁっ!!」
「うふふふふ・・・・・うふ・・・うふふふふふふ・・・。」
三者三様に我を忘れてる真っ直中、うなりを上げてタイヤが飛んでくる!
タイヤは見事に狙いをはずれ、ウッソの顔面に直撃する。
「げごぉっ!」
カエルの潰れるような鳴き声を上げ、ウッソは吹っ飛ぶ。吹っ飛ぶ先には例の黒い影。
跳ね返ったタイヤは回転する剣の一方の切っ先に突き刺さる。
どうやらシュバルツのこの技はバランスが大事だったらしく、
一方だけにでかいタイヤが刺さった結果、みるみるうちに失速して倒れてしまった。
「あぁっ!ウッソッ!」
焦っていたとは言え、何というミスをしてしまったのか。一番助けたい人間にタイヤを当てる大失態を侵してしまった。
しかもどうやらウッソを追っていたらしい物体の方へ飛んでいってしまってるのだ。
「くっ・・・。」
さすがにスペアのタイヤはないらしく、ウッソの元へと走り出すカテジナ。
「うぎゃぁぁぁぁぁっ!」
目まぐるしく変わる状況に呆然としていた一同も、ウッソの悲鳴で我に返ったようだった。
「うわぁ・・・・ボロ雑巾がウッソをボロ雑巾に・・・。」
目に映った光景は、雑巾のようにうすら汚れている、犬にボロ雑巾のようにされつつあるウッソと、
それに駆け寄るカテジナ。そして、ぶっ倒れたままのシュバルツだ。
黒い影・・・その正体は犬だった。先ほどまでは猛スピードで動いていた上にあまりにも汚れきっていたため、
犬とは誰も気付いていなかったのだ。追われていたウッソでさえも。
「こいつ!ウッソから離れろと言うのに!」
ようやくウッソの元に辿り着いたカテジナが、犬を蹴り上げようとするが、犬は唸りながら素早いステップでかわす。
「こいつ・・・。!」
カテジナはカーッと、頭に血が上っていくのを感じた。
「もう容赦はしない。覚悟しなさい!」
カテジナが本格的に臨戦態勢を取ったその時。
「うふふふ・・うふ・・・。あら・・?フランダース・・・・こんなところでなにしてるの・・?うふふ・・・。」
シャクティの言葉に時が止まった。
「あなた・・・まさか・・・この狂犬を知ってるの?」
絞り出すような声で、カテジナが問うた。表情はもちろん引きつっている。
「うふ・・・・半年前に急にいなくなるから・・・心配してたんだけど・・・。うふふ・・・こんなに元気で安心したわ・・・うふふふ・・・。」
喜んでいると言うよりは、企んでいるような笑いを浮かべるシャクティ。
だが、他人にどう見えようとも今回は喜んでいるようだ。
フランダースと呼ばれたその狂犬は嬉しそうに尻尾を振りながら、シャクティに飛びついていく。
「ちょ・・・ちょっと待って。あなたとウッソは幼なじみでしょ?だったら、どうしてこの犬がウッソを襲ったりするのよ?」
カテジナはふとメールでの文通時代に聞いていた「2人は幼なじみ」と言う話を思い出し、シャクティに詰め寄った。
「え・・・?なんのことですか・・?」
思わず含み笑いすら止めてシャクティは問い返す。
ちなみにクラスメートでさえも含み笑いをしていないシャクティを見るのはコレが初めてだ。
「なんのこと?じゃないわよ!その狂犬が、ウッソにこんなに酷いことをしたのよ!」
ボロボロのウッソを指してカテジナはシャクティを睨み付ける。
「あぁ・・・きっと再会が嬉しくてじゃれついてたんじゃないかしら?フランダースったら・・・お茶目さん・・・・・うふふふ・・うふふ・・。」
・・・・・・絶対ウソだ。アレはじゃれてなんていなかったぞ・・・・・。
声に出す者こそ居なかったが全員一致の意見だろう。
「って、そんなことはどうでもいいのよっ!勝負はまだ着いてないんだからね!」
アスカは錆びた刀を振り上げながら勝負の続行を訴える。まだまだやる気満々だ。一体何処からこんな元気が出てくるのであろうか?
「・・・・・・・・どうやって続きを?」
シーブックが、いかにも疲れた・・・・と言った風に当たりを指し示す。
気が付けば一面にあったはずの桜は二本を残して全て切り倒された後。勝負はおろか、元の花見すらももはや出来る有様ではない。
おまけに、残ったウチの一本の根元では、相変わらずちずるが作業の真っ最中だ。騒ぎの最中でも地道にやっていたのであろう。
「あぁ・・・・なんてこと・・・。」
セシリーは、崩れるようにしゃがみ込んでしまったが、無理もない。ここは彼女の家の私有地なのだ。
いつの間にかシュバルツも姿を消していた。
「ちずる・・・もう終わったよ。」
「え・・・?そうなの?もう少しだったのになぁ・・・。」
何処がもう少しだったのかは置いておいて、残念そうに豹馬に従うちずる。いつの間にかシュバルツも姿を消している。
もはや勝負を続行する意志があるのは、アスカだけのようだ。
「・・・・・・・なんか・・・虚しいわね。」
「帰るとするか・・・。」
「今回も散々だったなぁ・・・・。」
口々にそう言いながら引き上げる準備を始める。
ウッソや、シンジも意識を取り戻したようだ。
日もすっかり傾いて、綺麗な夕焼け空が、山頂を照らす。
「夏草や、強者どもが夢の後・・・か。まぁ、今は春だけどな。」
妙な感慨を込めて、カイ・シデンは呟いた。



「あぁ〜あ、散々な花見だったわねぇ。」
花見も勝負も中途半端。
アスカにとっては、どうやら不完全燃焼の休日だったようだ。
「何言ってるんだよ、元はと言えばアスカが・・・。」
だが、それは他のみんなとて、同じ様な物だ。振り回されていた分、疲労感はむしろ大きいかも知れない。
「アタシがなんだって言うのよぉ?」
「アスカが何にでも突っかかるからじゃないか!」
珍しく引かずにやり返すシンジ。アスカも顔色を変えてやり返す。
「なぁんですってぇ!」
「ま・・ま・・・もうえぇやないか、お二人さん。」
これ以上のトラブルは勘弁とばかりに十三が仲裁にはいる。
疲れた愛想笑いがもの悲しく見える。
「ふん・・・。ま、今回は許して上げるわ。」
これまた珍しくあっさりと引き下がるアスカ。何だかんだで彼女も疲れてるのかも知れない。
その後は特に揉めることもなく、かといって喋る元気もなく下山していく。
ふもとに着く頃には、すっかり日も沈んでいた。
他のクラスメート達と別れ際、シンジは違和感を感じた。
だが、それがなんなのかまでは気付かない。意識の半分ぐらいは
『早く帰って、お風呂入って寝たい・・・。もう疲れたよ・・・。』
と、言う気持ちに支配されてたからだ。
それでも、アスカとの別れ際、先ほどの違和感を口にする。アスカなら、違和感に気付いてるかも知れないと考えたからだ。
「んー・・・・やっぱおかしいような気がする。ねぇ・・アスカ。」
「どうしたの?シンジ。」
「なんかさ、ボク達大事なコト忘れてるような気がしない?」
「大事なこと・・・・?あぁ!そう言えばそうね。とぉっても大事なこと、あんた忘れてるわよ。」
アスカはうんうんと、頷きながら何故か得意げにシンジに語る。
こういうのが引っかかってると、疲れてても熟睡できないときがある。シンジは先を促した。
「勿体ぶらないで教えてよ、アスカ。」
「全く・・・何で男ってこうスケベなのかしら。あんたの言う大事なコトって、どうせアタシの水着がどんなのか見れなかったことでしょ?」
「いや・・・そうじゃなくて・・。」
「大丈夫よ。心配しなくっても夏には見れるでしょ?」
「だから違うんだってば。アスカ・・・。」
シンジの言う言葉は耳に届いてはいないようだ。なおもアスカは続ける。
「よく考えたら、アタシも悪いのよね。いくら寒くったって、せっかく着替えたんだから少しぐらいは見せてあげても・・・って、どうしたのよ?シンジ。」
「いや・・・もういいよ。」
聞いた自分がバカだった。心からそう思った。
「解ったわよ・・・。そんなに見たいんなら・・今度一緒に屋内プールにでも行きましょ。それでいいでしょ?」
もはや止まらぬ勘違い。結局シンジの感じた違和感は、解消されることはなかった。
『それはそれで嬉しいけど・・・。結局・・・何を忘れてたんだろう?ボク達は・・・。』
沈黙を肯定と受け取ったらしく、アスカは朗らかに笑いながら言った。
「決まりね。じゃ、また明日!」
話してるうちに、もうアスカの家の前に着いていたのだ。シンジはアスカに手を振りながら考える。
『プールに行くのはいいけど・・・もうあの手の勝負事は勘弁して欲しいな・・・・。』
感じていた違和感は、今度は全く別の不安に取って代わられた。心配事ならいつものことだ。
きっと、シンジは今夜熟睡できるに違いない。
違和感を思い出すこともなくシンジは自宅へと足を向けた。



同時刻・・・・山頂にて。
「むにゃむにゃ・・・だから・・・・もう食べられないって言ってるの・・・。」
綾波レイに幸あれ。



第七話  完  
NEXT EPISODE



あとがきぃ♪


ウェッヘッヘッヘッ( ;;゚Д゚)
壊れてます。えぇ、壊れてますとも。( ゚Д゚;;)
なぁんか・・・ダラダラ書いてしまいましたなぁ・・・。(笑)
ったく、いつまでかかってるのやら。┐(´ー`)┌ (笑)
ま、過ぎたことは綺麗サッパリ忘れて明日のことでも考えるかぁ。(滅
あ・・・あともうすぐサブタイトル変えちゃうかも知れません。今までのも全部。(爆)
で、あとがきの形式とかも変えてしまおうかなぁ・・・とかも、思う今日この頃。(゚ρ゚)
あとがきの方は、前のヤツを変更とかはしませんが。(笑)
なんとなくね、気分一新したいって思いまして。(滅

ちょっとオチの部分長すぎですかね。
ま、いいのですよ。ダラリと書いてしまってるんですから。(滅
ちなみにプールの話は書かないと思います。だって、夏のネタが無くなるから。(滅
関係ないけど八話の出だしに
「何だか一年以上花見してた気がするなぁ・・・。」
ってネタをやってみたかったけど、元ネタ知ってても面白くないので辞めようと思ったことは
ジョジョにも誰にも言えない秘密なのです。(゚ー゚)(核爆)
では、次は少しでも早く書けることを願いつつ。(;;゚ー゚)ノ~~


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