第六話「桜の花の咲く下で!?」Cパート




ウッソは、シャクティを撮るのをやめにすると、さっき決めたとおり、風景を撮るために山道へと入っていく。
しばらく進んでいくと、大量の荷物を一人で抱えて、登ってくる少年を見かけた。
どうやらこれから頂上に花見にでも行くのだろう。
『穴場と言っても知ってる人は、知ってるんだなぁ・・・・。』
ウッソは、その程度にしか考えずに、その少年とすれ違う。
すれ違ったあと、振り返って少年の背中を見送る。手伝おうと思ったからではない。
『花見に来るのに一人で・・・・・・しかもあんなに重そうな荷物を持ってくるなんて・・・変わった人だなぁ・・・。』
変わり者をもう一度見るために思わず振り返ったと言ったところか。
写真を撮るのに、手間取りすぎると戻るのが遅くなってしまう。
みんな(と、言うよりもカテジナとレコア)に心配をかけないためにも、なるべく早く戻ってこなければいけない。
ウッソは、少年のことをあっさりと忘れ被写体を求め、少しはずれた道に分け入って行った。
『そういえば・・・・純粋な風景を撮るのって何年ぶりだろう?』
そんなことを考えながら、ウッソは歩みを進めるのだった。




「あんたねぇ、ふざけるのも大概にしなさいよ!この山がぜぇ〜んぶ自分たちの物だって言いたいわけ?」
「そうよ。だから、もちろんこの場所も当然・・・・ね。」
見知らぬ女に、花見に水を差された。のみならず、この女はこの場所の所有権まで口にするのだ。
この時点でアスカの頭からは、カテジナのコトはきれいに消え去っている。
セシリーの話によると、この土地は彼女の父親が当主を務めるクロスボーン財閥の物で、桜も当然彼女たちの物だという。
どうやら、どこかに生えているのを、強引に引き抜いて持ってきたらしい。
「さ、わかったら、どいてくれる?全く・・・・・人の土地に勝手にはいるなんて・・・どうかしてるわね。」
「あぁ、なるほど!だからこんなに桜があるのに、人がいなかったんだね。」
シンジは、ポンッと手を打って納得する。
「納得するなぁぁぁぁっ!」
叫び声を上げると、アスカは、ビッとセシリーを指さし、反論を開始した。怒りで少し酔いはさめたかの様に見える。
「そぉんなに、誰にも入られたくないんなら、見張りでも立てておきなさいよ!」
「ちゃんと、見張りはいたはずだけど?」
シンジは、何かを思いだしたかのように、口に手を当てた。
「そんなの、いなかったじゃない!・・・・って、シンジ、どうしたのよ?」
「いや・・・ほら・・・・ここに来る時さ、アスカが殴り倒した人いたじゃない。」
「いたっけ?そんなヤツ。」
「ほら、この山に入るとき、アスカに話しかけてきた人達いたじゃない。あの人達じゃないかな?」
「あぁ・・・あの痴漢ね。」
確かに、セシリーの言うとおり見張りはいた。仕事もちゃんと、全うしようとしていたのだ。
ただ、山に入ろうとしたアスカ達を咎めようとしたら痴漢に間違えられ、有無を言わさず、殴り倒されただけの話であった。
「痴漢を殴り倒したのが何かまずかったわけ?」
「あれが・・・その見張りだったんじゃない・・・かな?」
なるべくアスカの怒りを買わないように、おそるおそる、といった風に意見を言うシンジ。
ピタッとアスカの動きが止まる。一瞬の沈黙のあと、アスカはまくしたてた。心の動揺を隠すかのように。
「だったら、そう言えば良いんじゃない!山に背広姿で立ってて、何も言わずに乙女の肩を掴んだのよ!?
痴漢扱いされて、当然じゃない!大体ねぇ・・・。」
己の正当性を声高に叫ぶアスカの頬に一筋の汗が流れてるのをシンジは見逃さなかった。
「アスカ・・・・自分でも無理があると思ってるでしょ?」
「うっるさいわね!あんた、どっちの味方なのよ!」
「ボ・・・ボクは別にそんなつもりじゃ・・・・。」
”いつもの”パターンが始まるのを横目で見ながら、怒りをぶつけるタイミングを逸してしまったカテジナは、
ニヤニヤとした笑いを浮かべたまま、ビールを片手に、シンジ達のやりとりを楽しんでいるカイに近づいていく。
視界に入ってきた、カテジナに一瞬ニヤついた笑顔を凍りつかせるカイ。集合したときのやりとりが一瞬脳裏をかすめ、
ほろ酔いだった頭が冷めていくのを感じていた。
「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」
「は・・・はい。なんでしょう・・・。」
思わず敬語になってしまう。
ただ近づいて普通に話しかけただけで、この怯えよう、朝にカイを睨んだ目は、よほど怖ろしい目つきだったのに違いない。
「私たちが来たときには、見張りなんていなかったわよね?」
別に、カイを責めるために来たのではなかったようだ。思わず胸をなで下ろしつつ、それでも少し得意げに応えるカイ。
「どんな物にだって、抜け道ってのはある物だぜ。職業柄そういうのには詳しいんでね。」
「ふーん・・・抜け道探したり、隠れたりするのは、学生時代からの得意技って訳ね。」
レコアから、カイの在学中の話を聞いているのだろう。
いや、現在もビーチャや、キースなど、後輩の育成(汚染)に余念の無いカイだ。
カテジナのこの酷評も無理からぬ所か。
「見張りの存在を、知っていたってコトは、ここがクロスボーン財閥の持ち物だって知ってたのね?」
「まぁ・・・ね。でも、まさか今日、花見に来るとは思わなかったんでね。」
答えながら、カイは、再びシンジ達に視線を戻した。





「ケンカなら、他でやってくれないかしら?早く、ここから去ってくれないと迷惑なんだけど。」
シンジを締め上げる、アスカに向かってセシリーは冷たく言い放つ。
その言葉にカチンときたアスカは、一瞬、怒りの表情を見せる。
しかし、その表情は、すぐに笑顔に変わる。もちろん爽やかな笑顔ではない。
例えるなら、やり手ババァのような、いやらしい笑みだ。
「ふぅ〜ん・・・。」
さらにジロジロと値踏みをするようにセシリーを上から下まで、眺める。
「な・・・なによ。」
さらに辺りを見回すと、フンッ、と鼻でセシリーを笑い飛ばす。
「こぉ〜んな、広いトコで、たぁった一人で、お花見ぃ〜?寂しい人ねぇ〜?」
シンジの首根っこを掴んで引き寄せ、さらに1−Aの面々を指さし、得意げに語り出す。
「お金で、お花見の場所は買えても、友達までは買えなかったのねぇ〜。かわいそうに。」
プッと、吹き出す者、憐れみの目で見る者そして、鬼の首を取ったかのような顔のアスカ。

「ひ・・一人でお花見に来るわけ無いでしょう!」
「あぁ〜ら?どこにお連れの方がいるのかしらぁ〜?」
鬼の首を取ったかのような笑顔のままアスカは訪ねる。
やりこめることができそうなのが嬉しいらしく、ものすごく幸せそうだ。
「も・・・もうすぐ来るわよ!」
「負け惜しみ言っちゃってぇ〜。」
「負け惜しみなんかじゃないわ!・・・・シーブック・・・何してるのよ・・・。私がこんな小娘に恥をかかされるって言うのに。」
「誰が小娘ですってぇ!?」
「確かに、アスカよりも、かなり大人っぽい人だなぁ・・・・。」
「なぁんですってぇ!」
持っていた首根っこをぐいっと締め上げる。
「ア・・・アス・・・カ・・・苦しい・・・・・・。」
コキャッとイヤな音がして、そのまま動かなくなる。
「い・・・今、変な音がしたみたいだけど・・・・。」
壊れた人形のようになったシンジを見ながら、セシリーは戦慄を覚えていた。
「ん?あぁ、しばらくほっとけば、起きあがってくるわよ。」
「冷たい・・・いえ、酷い人なのね。自分の恋人にこんなコトするなんて。」
「ぐ・・・だ・・誰が、こいつの恋人なのよ!」
顔を真っ赤にしながら、ガクンガクンと、首の定まらないシンジを揺さぶる。
なんだか、ヘボいおもちゃのように、首が揺れるシンジは、
シンジに対していい印象を持っていないカテジナや、初対面のセシリーを持ってしても、憐れみを誘うモノであった。
「彼氏だろうと、そうじゃなかろうと、コレは酷すぎじゃなくて?そんなことが平気でできる人に、桜を愛でるなんてできるわけ無いと思うけど。」
吹き出しそうになるのを必死にこらえる、1−Aの面々。カテジナは、クスクス笑っているし、カイにいたっては大爆笑している。
アスカがキレそうになったその瞬間。
「あ・・・あのなぁ・・・セシリー・・・・いくらなんでも、これだけの荷物を、オレ一人に持たせるなんて・・・あんまりじゃ・・・・ないか・・・。」
息も絶え絶えになりながら、自分の体より大きなリュックを背負っている少年がそこにいた。
アスカは、その姿に少し毒気を抜かれる格好になってしまった。
少年の名は、シーブック・アノー。ロンド・ベル学園2−Bの生徒でセシリーのクラスメイトだ。
セシリー&シーブックのカップルは、校内ではちょっと有名であった。
昨年の『ミス・ロンド・ベル』であり、財閥の娘であるセシリーはなかなかに人気があったのだ。
そのセシリーを、見事射止めたシーブックは、昨年の『殺りたい男No.1(非公開投票)』に選ばれたことは、二〜三年の男子生徒の間では、まだ記憶に新しいことだ。
「あら?シーブック遅かったのね?」
「遅かったって・・・あのなぁ・・・・。」
再びアスカの顔にニヤリとした笑顔が戻る。
「あら?それがあんたのお連れさん?ふ〜うん・・・・自分こそ、彼氏を下僕扱いだなんて、ずいぶんお優しいことで。」
セシリーの顔が、さっきのアスカに負けないくらい真っ赤になる。
「こ・・・こんな侮辱は初めてだわ・・・・。」
セシリーの握った拳がわなわなと震える。
確かに、財閥の娘として育ち、昨年は、『ミス・ロンド・ベル』にも選ばれたセシリーだ。
陰口ぐらいなら叩かれたこともあるだろうが、こんなに正面切ってボロクソに言われたのは生まれて初めてだったに違いない。
「セ・・・セシリー、少し落ち着いた方が・・・。」
「あら?私は冷静よ、シーブック。」
そう言いつつも、こめかみに浮かんだ青筋は隠しようもなく、シーブックはイヤな予感に、胃が痛くなる思いだった。
「ただ、この身の程を知らない娘に、格って言うのを教えてあげようと思ってるだけだわ。」
『やっぱり頭に血が上ってるじゃないか・・・・・・。』
シーブックは、かろうじてその言葉を飲み込む。セシリーは腕力に訴えることをしないだけで、どうやら、シンジと同じ様な苦労をしているらしい。
「あなたに決闘を申し込むわ!」
ビシィッ!とアスカに指を突きつけ、高らかに宣言する。
「まだ、あなたの名前を聞いてなかったわね・・・・さぁ、名乗りなさい!」
「人に名前を聞くときは、まず自分が名乗るのが礼儀ってモノよ!」
どうやら、さっき名乗られたのをすっかり忘れているらしい。
「アスカ・・・・この人は、セシリーさんだよ。さっきそう名乗ってたじゃないか。」
いつの間にか復活していたシンジが、よせばいいのにすかさずツッコミを入れる。
だんだんと、復活が早くなっているのは、まだまだ育ち盛りだからだろうか?
「う・・・うるさいわね、バカシンジ!・・・コホン・・・アタシの名は・・・惣流・アスカ・ラングレーよ!よぉーく覚えときなさい!」
なんだか雲行きが怪しくなってきた・・・そう感じた1−Aのメンバーは、「決闘云々」のあたりで、いつの間にか遠巻きに見ている状態になっている。
もちろんシンジは、逃げられない。この状況で近づいてくるのは、ジャーナリストを自認するレコアぐらいのものだ。
「では、惣流さん・・・この決闘・・・受けますわね?」
「セ・・セシリー、やめた方がいいよ。惣流・アスカ・ラングレーって言ったら新入生の中でも・・・・・。」
「シーブックは黙ってて。これは、女のプライドの問題なの。」
『そういう話だったのか?』
そう聞き返したかったが、言っても聞くわけはないと思い直し言うのをやめる。この辺がシンジとの差なのだろう。
「おもしろいじゃない!アタシに決闘なんて、百億光年早いってコトを思い知らせてあげるわ!」
「アスカ・・・光年は距離の単位・・・。」
ゴキッ!
言い終わらないうちに、またもイヤな音が響く。
『キジも鳴かずば撃たれまい・・・・・。』
落ちていく意識の中で、シンジはそんなことを考えていた。
「解っているなら、気を付ければいいのに。」
もし、シンジの心の声が聞こえるのならば、おそらくみんな口を揃えて言ったことだろう。
「では・・・決闘の内容ですけれど・・・。」
セシリーが口を開きかけたその時!
「その決闘、ちょっと待ったぁ!」
桜の木の上から、何者かの声が響いた。
「この勝負・・・・私があずかる!」
桜から飛び降りたその男の姿は・・・・黒、赤、黄色に塗り分けられた覆面を被った世にも怪しいものだった。



第六話  完  
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あとがきぃ♪


何が五話と六話の間はあんまり開けないでおこう、だ。┐(´ー`)┌ (爆)
でもね・・・言い訳もあるのよ。3度も消えたし。ファイルが。(T-T)
同じトコ何度も書くのってしんどいのよぉ。(ToT)
バックアップ取ってないのが悪いって言われたらそれまでなんやけどね。(。。;
ま・・・まぁ、とにもかくにも、第六話です。(^^;
思ったより長くなってるんでやんの。初のCパート突入ね。(笑)
あと、次回からアイキャッチ代わりの物が入ると思われます。(謎)
最初、隊長の所みたいにしようかとも考えたんだけどね。やっぱヤメってコトで。(さらに謎)
なお、トウジ達はこの先、多分出番無いです。(笑)
なんか、話は「引き」になってますけど、しばらく改装作業のため更新できないかと・・・・ゴメンね。(爆)

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