第六話「桜の花の咲く下で!?」Bパート




「あれ?ウッソ君も来てたんだ。」
シンジがウッソに笑いかける。
別に含みのある笑いではなかったのだがその笑いすらも、ウッソにはなにかあるように思えてならない。
被害妄想というヤツだ。
『来てたんだ・・・じゃないよ!そりゃ、入学式の時には何かおもしろいこと起こらないかなぁ・・って思ったけど・・・
お前らと関わると、おもしろいことどころか、ひどい目にあってばかりじゃないか!もう、近づかないでくれよ!』
心の中で、叫んではみるが、もちろん声には出さない。
どうやら、カテジナのせいでさらわれた事件(5話)も、ウッソの心の中ではアスカとシンジのせいになっているらしかった。
「バカシンジ!なに、ボケーっとしてんのよ!こっち来て手伝いなさいよ!」
「あ・・・うん、すぐ行くよ!」
ふと、ウッソが見れば、少し離れた所にある、見晴らしのいい場所に生えている桜の下に、
シートを広げている1−Aの面々の姿があった。
アスカは当然のような顔で、手伝っていない。
「なに・・・・やってるの?」
「何って・・・花見の準備だけど・・・・ウッソ君知らなかったっけ?」
そんなこと聞いているわけがない。聞いていれば、ここには来なかっただろう。
「ほら、金曜の朝にアスカが言ってたじゃない。人がほとんど来ない穴場があるから、そこで花見するって。ウッソ君は、どうしてここに?」
「え・・・あぁ・・・ボクは写真部の撮影会を兼ねた新人歓迎会で・・・・。」
少し、上の空でシンジに答える。
「ふーん・・・・じゃ、ボク、アスカが怖いからもう行くね。」
みんなを手伝いに行ったシンジをのうしろ姿を見送るウッソの心には、イヤ〜な予感が広がっていくのだった。




アスカは、自分の横を走り抜けようとするシンジを呼び止めた。
「ねぇ、あいつとなに話してたのよ?」
「ウッソ君、写真部の活動でここに来てるんだって。」
「ちっ、あいつ協調性のかけらもないわね!せっかく、人がクラスの親睦と結束を固める、ナイスなアイディア出したって言うのに。」
「協調性・・・・・。」
シンジは、思わずアスカをジーッと見つめながら
『アスカって、協調性って言う言葉をなんだと思ってるんだろう。今度、機嫌の良さそうなときにでも聞いてみようかな・・・・。』
などと考えていた。
そんなシンジの後ろから、いつの間にそばに来ていたのか、レイが声をかける。
「碇くん・・・・。手伝ってもらえる?」
「え!?あ・・・うん。えと・・・・何を手伝えばいいのかな?」
「ちょっと待ちなさいよ!今、アタシがシンジと話してるんでしょう!なぁんで、あんたが割って、入ってくんのよ!」
シンジとの会話が邪魔されたのが気に入らないのか、単にレイに腹を立てているのか、あるいはその両方かも知れない。
アスカは、怒りの表情で、レイをにらみつける。
「・・・・・・。」
レイも、無言で冷ややかににらみ返す。
「あ・・・ちょっとふたりとも・・・。」
ちょうど間に挟まれる格好になった、シンジは生きた心地がしなかった。
せっかく、楽しもうと思って来ているのに、これではいつもと同じにアスカの大暴れになってしまう。
第一この位置関係だと、確実に巻き込まれて、大ダメージは必至だ。
『なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ・・・・・。でも・・・・怖いし。
逃げちゃおうかな?で・・・でも、足が動かない・・・。動け、動け、動けったら!今動かないと、なんにもならない・・・って言うか、巻き込まれるじゃないか!?』
シンジは、その場の空気に気圧されて、止めるどころか逃げることすらできなかった。
しかし、いち早くこの空気に気づいてくれた者がいた。
「あ・・・あのさ、手伝うことあるんなら、オレ達がやるからさ。こっちの準備はもう終わってることだし。」
豹馬だ。
普段は、どちらかと言うと気の利かない方の部類に入るこの男だったが、
さすがに前の一件(4話)で、無事に帰りたければ、アスカを暴れさせてはいけないということを学習したのだろう。
ましてや、レイは以前の大暴れの時の発端なのだ。豹馬といえども、危険に気づくという物だ。
「さ、行こうぜ!」
半ば無理矢理、レイを連れていこうとする。
抗議の声を一瞬上げそうになるレイだったが、
浪花十三、西川大作、南原ちずる、北小介、と言った豹馬の仲間も駆けつけてきて、口を開く前にレイを運び去る。
「ね・・・アスカ、お願いだから、みんな仲良くやろうよ。せっかく遊びに来てるんだし・・・・ね?
それに今回の花見の発案者は、アスカじゃないか。クラスの親睦を深めるんでしょ?・・・ね。」
必死にアスカをなだめるシンジ。説得の効果があったのか、アスカはレイから視線を外す。
『ほっ・・・何とか収まった・・・かな?』
安心したのもつかの間、アスカはシンジをギロリとにらむ。
「で・・・なぁんで、あの女がここにいるわけ?」
「え・・・・。」
「なんで!あの女が!ここにいんのよ!
「あの女って・・・綾波のこと?」
アスカの剣幕に激しく狼狽しながらも、しどろもどろで答えるシンジ。
「いや・・・だって・・・来たいって言うから。」
「ったく・・・どこで嗅ぎつけたのかしら?油断も隙もないわね・・・。
あんたも、あんたよ!これはクラスの集まりでしょ?勝手に部外者連れて来るんじゃないわよ!」
「だって・・・・前に、生徒手帳届けてくれたし。その・・・無下には断れないでしょ。」
『なんでアスカは怒ってるんだろう?別に一人ぐらい増えたっていいじゃないか。』
鈍感なシンジには、アスカの怒りの意味がよく解らなかった。
「あ・・・準備できたみたい。行こうか、アスカ。」
だが、解らないなりに、これ以上この話題はまずいということを感じ取ったシンジは、
アスカの気をそらせるためにも、みんなのもとへ向かうのだった。
「あ・・・待ちなさいよ!バカシンジ!・・・・もうしょうがないわねぇ・・・。」
アスカは、渋々シンジの後に続いた。




「はぁ・・・・なんか騒がしくなっちゃったわね。」
大騒ぎになっている、1−Aご一行様を眺めながら、レコアはため息をもらす。
記念撮影こそ終えたものの、のんびりと桜を撮るという雰囲気ではない。
カテジナはといえば、ただならぬ雰囲気でアスカを睨んでいるし、
カイを始めとするビーチャ、モンド、キースの四人は、なぜだか向こうの宴会に加わっている。
ウッソは、桜の下に腰を下ろし、ぼんやりと空を眺めた。
「あぁ・・・・今日は、いい天気だなぁ・・・・。ホントは絶好の撮影日和なんだろうなぁ・・・・。」
ウッソは、ふとカテジナに目を移す。
怒りを一杯に込めた目で、アスカ達が騒いでるのを見ている。
しかし、ウッソには
『桜の花びらが舞う中で、たたずむ凛々しいカテジナさん・・・・・絵になるな・・・。』
としか映っていない。
客観的に見て凛々しいを通り越して、「鬼気迫る」の方がふさわしいで表情である。
現に仲のいいレコアでさえ、ちょっとカテジナから離れている。
恋は盲目といったところか?
『あいつらさえ来なければ・・・・・。凛々しい以外にも、いろんなカテジナさんが撮れたのに・・・。』
せめて、このカテジナだけでも撮ろう。ウッソはそっとカメラを手にした。




一方、1−Aの方は、カラオケセットを使って、大歌合戦となっていた。
「そういえば、誰がカラオケセットなんて持ってきたのよ?ずいぶん気が利いてるじゃない。」
しっかり、マイクを手に握り、一曲歌い終えたアスカは満足そうだ。
「あ・・・そういえば、そうだね。アスカも、さすがにもってこいとは言わなかったし。」
「それがな。意外なことにあいつなんや。」
アスカとシンジの疑問に答える十三の指さす先には・・・・・綾波レイがいた。
「「うそ!?」」
驚きの声を、ぴったりシンクロさせてシンジとアスカはレイをまじまじと見つめる。
当の本人はいつもと変わらない無表情で、歌のリストブックを眺めていた。
シンジもアスカも知り合って間もないレイのことを、それほどよく知っているわけではない。
それでも、この無表情で、無愛想な少女が、マイクを握って熱唱している姿は、今ひとつ想像できなかった。
「・・・・・・・やっぱり演歌にするわ。」
ぽつり、と呟いて綾波レイは、本を閉じた。




こっそりと、カテジナを写真に収めたウッソは、なるべく1−A、というよりはウッソにとっての疫病神アスカとシンジを見ないようにしつつ、
何かいい被写体になりそうな物はないかと、その辺りを歩き始めた。
よく見ると、この辺りは桜以外の景色もなかなかに壮観なのだ。
『久しぶりに、風景でも撮ろうかな。』
そんなことを考えながら、山道の方に入ろうとしたが、三分咲きの桜が、目に付いた。
満開の中にあって、一つだけ三分咲きなのだ。その桜の下にはシャクティがいる。
『うーん・・・・黙って立ってれば、シャクティだって、捨てた物じゃないのに・・・。
でも、まだまだだよな。発育が。5年後に期待!ってヤツかな?』
オヤジ臭くも勝手な想像を、しながらウッソはアレも撮っておこうと思った。
『三分咲き同士で、被写体としては悪くないね。』
三分咲きの桜の下で、微笑んでいる少女。ウッソの発想は品があるとは言えないが、構図そのものは、キレイかも知れない。
ウッソがカメラを構えた時。
「ふふふ・・・・桜の下には、死体が埋まってるって、誰が言い始めたのかしらね・・・・。うふ、うふふふ・・・。」
ウッソは黙って、カメラをおろした。




「レコア部長ぉ〜♪部長もこっちで一杯やりませんかぁ〜♪」
すでに、完全に”できあがっている”ビーチャが千鳥足でフラフラと、レコアに近づいてくる。
「ビーチャ・・・・あなた、あれだけ言ったのに、アルコール持ってきたのね?」
レコアは、露骨にイヤな顔をしながらも、ビーチャにつめよる。
「オレじゃないですよぉ・・・オレが部長の言いつけ破るわけないじゃないですかぁ♪」
普段なら、レコアに対し少なからず恐れを抱いてるビーチャなのだが、そこは酔っぱらい。
少しも臆することはない。
「あいつらが持ってきてたんですよぉ〜♪・・・・う・・・・・気持ちわりぃ・・・。」
言い終わると、ビーチャはうずくまってしまう。何をしたかは・・・・・・言わぬが花というヤツだろう。
レコアが、ビーチャを責めるよりも早く、カテジナのタイヤがビーチャの後頭部にめり込んでいた。
「カ・・・カテジナ?」
ウッソが、カテジナとの楽しいひとときを、期待してここに来たのと同様、カテジナもウッソとの、お花見を楽しみにしていたのだ。
それが、あの無粋な連中のせいで台無しになった・・・・。カテジナの怒りの理由も理解できるだろう。
『あの赤毛の女め・・・・どこまでも邪魔をする・・・。』
1−Aの面々は、すっかりアルコールが入ってご機嫌だ。しかもあろう事か、写真部の人間まで巻き込んでいるではないか。
怒りのカテジナが近づいていることにまだ気が付いてはいなかった。





「ア・・・アスカ!やっぱりまずいよ!ボクら、高校生なんだよ?お酒なんて・・・。」
「あによぉ・・・あんた、アタシの酒が飲めないって言うの!?」
真っ白な頬にほんのりとさす、桜色・・・・・少し色っぽいかも知れない。・・・・この絡み方さえなければ。
『う・・・そういえばアスカって、酒乱の気があったんだ・・・・。どうか、暴れたりしませんように。』
シンジはふと二年ほど前のクリスマスの惨劇を思い出す。


「やっぱり、よそうよ、アスカ。お酒なんか飲んでるの見つかったら、怒られるし。」
「あのねぇ、クリスマスなんだから、シャンペンぐらい飲むのがあったり前でしょ!」
二年前、仲のよい友人達とクリスマス会をアスカは企画していた。会場は碇家だ。
その時に、シャンペンや、ワインぐらいは付き物だと言いだし、シンジがいさめるのも聞かずに、アルコールを持ち出したことがあったのだ。
本来なら止めるべき大人(この場合は、ゲンドウ、ユイ夫妻)が、夫婦水入らずで、食事に行ったのも不幸の後押しといえたのかも知れない。
「大丈夫や、シンジ。ここには、ワシらしかおれへんねんから、誰かが喋ったりせぇへん限り、バレへんて。」
「そうよ!鈴原。あんたにしては珍しく気が効くこと言うじゃない!」
悪友の鈴原トウジの無責任な発言を、シンジは今も忘れない。
最初の一杯はまだよかった。アスカも特に酔った様子は見られなかったのだから。
だが、その時のワインが飲みやすかったのだろう。二杯、三杯と、立て続けに飲み干したあたりから、
徐々に、雰囲気がおかしくなり始める。
頬は軽くピンクに染まってるだけで、メチャクチャに酔っているようにはとても見えない。
しかし、その目は徐々に座り始め、だんだんと人に、酒を無理に勧めるようになってくる。
足取りも、ろれつもしっかりしているので、とっさには記憶が飛ぶほど酔ってるとは思えないのがまたタチが悪い。
最初の犠牲者は、やはりシンジだった。飲み過ぎを軽く諫めただけなのに、手加減なしに殴られた。
さすがに異常に気づいた、トウジと、洞木ヒカリが、止めにはいるが当然聞き入れるはずもない。
トウジは、蹴りをくらって吹っ飛んでしまう。ヒカリはその巻き添えで失神だ。
その後も、暴れ続けるアスカによって、窓ガラスは割れ、激しく降っていた、雪が吹き込んでくる。
震えながら物陰で、、そこまでの様子をビデオに収めた相田ケンスケも、そのあと当然襲われている。
アスカを含む全員が気づいたときは、病院のベッドの上だった。
雪の激しく吹き込む中倒れていたため、全員肺炎を起こしていたのだ。なお、アスカは、単に酔いつぶれて寝た物と思われる。
当然全員厳しく怒られたことは言うまでもない。


今、シンジはその時のことを、明確に思い出していた。
今は春なので、肺炎になることはさすがにないだろうが、アスカが暴れ出すのだけは何とか避けたい。
せっかくのお花見だ。穏便に済ませたいと思うのは、シンジばかりではないだろう。
何とか、アスカから、アルコールを取り上げないと・・・・・・。
そう、意を決して、何か良いアイディアはないかと思案を始めたシンジの目に入ったのは・・・・怒りのオーラを身に纏ってるのではないかと錯覚するほど、殺気を放っているカテジナの姿だった。





『もうだめだ・・・・クリスマスより酷いことになりそうな気がするな・・・・。
そうだ!今のウチに逃げればいいんだ!ホントにイヤだったら逃げてもいいらしいし。』
シンジは立ち上がろうする。が、それはかなわない。
アスカががっちりとシンジの手を掴んでいるからだ。
「どこ行こうってのよ?バカシンジ!」
『は・・・・春なのに、メリークリスマス・・・・・』
クリスマスの再来・・・・・いや、おそらくそれ以上のことが起こるであろう今の状態に、シンジは錯乱状態に陥る寸前だった。
迫り来るカテジナと、腕を掴むアスカ。交互に見比べたシンジは、命の危険さえ感じていた。
「ん?なによぉ、あの女・・・・こっち睨んじゃってさぁ・・・・・・。」
アスカが、カテジナに気づいた。しかも、殺気を感じ取ったため、臨戦態勢に入ろうとしている。なお、シンジの腕は掴んだままだ。
「終わった・・・・。せめて、なるべく軽い怪我で済みますように・・・・。」
覚悟を決め、目を閉じたその時、聞き覚えのない声がシンジの(もしくは1−A全体の)窮地を救ったのだった。
「あなた達!!人の敷地内で一体何をしているの!」
オレンジがかった金髪を縦ロールにした、いかにも「私はお嬢様」と言った風の少女が、アスカとカテジナを睨み付けていた。
「なによぉ?あんた・・・えっらそうにしちゃってさぁ。」
シンジの手を離すと、酔っぱらいモードに入ったアスカは、この少女・・・・・セシリー・フェアチャイルドに絡み始める。
「私は、セシリー・フェアチャイルド・・・・この、場所の持ち主の娘ですけど?」
「「「「え・・・・・・・?」」」」
そこにいた全員が、セシリーに目を向ける。
シンジは、助けが入ったのではなく、危険が増えただけだと気づいたのだった。





Cパートに続く・・・・・。(アイキャッチ?なにそれ?(核爆))
Cパート〜♪
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