二人が窓を覗き込むと、そこには9人の女性に囲まれたカテジナの姿があった。
「なんか・・・険悪な感じだね・・・。」
もともと、あまり荒っぽいことが好きではないシンジには正直言って、苦手な雰囲気だった。
よく見れば、なにやら、ウッソが手足を縛られ、目隠しをされて捕まっているではないか。
アスカの話では、カテジナは悪人であり、今は不良仲間の溜まり場に行っているはずなのだ。
もちろんシンジは鵜呑みにしていたわけではない。
それでも、
『アスカの気の済むようにさせてあげよう。どうせ言ったって聞かないんだし。』
と思っていた。
ちなみにシンジの見解は、外に昼食を食べに行ったんだろうなぁ・・・という、平和なものであった。
それだけに、自分の想像とのギャップにかなりのとまどいを隠せなかった。
「ねぇ・・・アスカ。これってどういう事かな?」
もちろん、アスカの方も少しとまどっていた。これは、状況から見てどう見てもカテジナが悪人には見えない。
アスカの予定では、どうせ何かよからぬ事をしているであろうカテジナの姿を見せ、
シンジにアスカが正しかったことを証明するはずであったのだ。
これは、見た限りではカテジナが、悪人に囲まれてるようにしか見えない。
だが、アスカの心の中では、カテジナは悪人なのだ。それはこれっぽっちも譲れない。
しばし考え、ひとつの結論を導き出す。
「アレは、きっと仲間割れね!」
「でも、なんかウッソくんが縛られてるよ。今朝HRで言ってたじゃない、家に帰ってないって。
きっと、さらわれてたんじゃないかなぁ?で、あの人はそれを助けに来たんだと思うよ。」
シンジは冷静にツッコミを入れる。しかも、推測はバッチリ当たっている。
「う・・・普段は鈍いくせに、妙に鋭い意見を言うわね・・・・。でも、それは素人の推理に過ぎないわ!」
アスカの中でも答えが出たようである。
「アレはねぇ・・・・やっぱり仲間割れよ!きっと身代金の取り分で揉めてるに違いないわ!」
「じゃあさぁ、なんで、一方的にあの人だけやられてるの?反撃のそぶりもないよ?」
見れば、防戦一方で手を出す気配がないのだ。昨日あれだけアスカと闘ったカテジナだ。
まさか手が出ない、というわけでもあるまい。
「・・・・・・判ったわ!きっと、あいつらは身代金目的じゃなくって何かよこしまな目的で誘拐をしたのよ!」
思わず、ずっこけそうになってしまうシンジ。
「あ・・・あの・・・アスカ?」
「きっと、あの女は、えぇと・・・ウッソだっけ?あの子を独り占めにしようとして、仲間割れを起こした。
でも、先にウッソを押さえられたために、身動きがとれなくなった。荒っぽくして怪我をさせたら元も子もないわけだし。
どう?完璧な推理でしょ!」
『絶対に違うと思う・・・。』
シンジは、力説するアスカの推理を、心の中ででっかい汗をかきながら否定した。
倉庫内では、カテジナがそろそろ限界に近づいていた。
いくら何でも反撃も許されず、ウッソを押さえているジュンコを除いたシュラク隊八人の攻撃を、いつまでもかわせる物ではない。
フランチェスカ・オハラとミリエラ・カタンの、息のあったコンビネーションがカテジナの正面から襲いかかる。
かろうじて身をかわすも、後ろにいたマヘリア・メリルの蹴りをまともに喰らってしまった。
「くっ!?」
反射的に、タイヤを取り出そうとするが、ウッソの姿が目に入り自分の置かれた状況を再認識させられる。
『時間の問題ね・・・。』
「姉さん、そろそろ決めちまおうか?」
ケイト・ブッシュの問いかけに、ジュンコはこう答える。
「まだだよ、アタシらが受けた屈辱は倍返しにしなきゃ。決めるのはいつでもできるからね。」
苦渋の表情を浮かべひたすら、逃げに徹するカテジナを、余裕の笑みで見おろすジュンコであった。
「ね?これで、アタシが正しいことが証明されたわよね?じゃ、戻るわよシンジ。」
「え?ウッソ君を助けないの?誰が悪人にしても、彼が捕まってることには変わりないと思うんだけど?」
「はぁ?何でアタシが、あんな小僧を助けなくちゃいけないのよ?」
シンジは、このままクラスメートを見捨てて帰ることに抵抗があるのだが、アスカの方はへっちゃららしい。
かといって、自分で助けにいけるわけもない。
気の弱いシンジにあんな乱闘の場に飛び込んでいけるはずもないのだ。
『どうしよう・・・・・何かいい方法は・・・。そうだ!』
シンジは名案を思いついた。アスカを上手く乗せればいいのだ。
「ア・・・アスカ、ボク思うんだけど・・・。ここで、悪人をアスカが倒せばみんなもアスカを見直すんじゃないかな?」
「見直すってねぇ・・・あんた、アタシがみんなにどんな目で見られてると思ってるのよ!」
「うあ!?・・・ち・・・違うよ、アスカの評判がますますよくなって人気も出るなぁって言う意味で、
別にアスカが乱暴者と思われてるとか、凄くわがままとかそういうことを言ってるんじゃないんだ!」
焦りから、つい余計なことを口走るシンジ。
言ってしまってから「しまった!?」と思ったが、いつまでたっても鉄拳が飛んでこない。
『そうねぇ・・・・「正義の美少女」惣流・アスカ・ラングレーって言うのも悪くないわね・・・。
これで、ますますアタシの人気もうなぎ登りって訳ね!』
どうやら、終わりの部分は聞いておらず、初めの部分だけを聞いて妄想にひたっていたようだ。
「ひーふーみー・・・10人ね・・・。まずは奇襲をかけて・・・。」
とてもではないが、「正義の美少女」が浮かべるとは思えない笑みを浮かべるとアスカは、乱入のタイミングを計り始めた。
ぐらりっ、とカテジナの体制が完全に崩れる。
「もらったぁ!!!」
ユカ・マイラスが、とどめを刺そうとしたその時!
ガッシャァァァァァァン!!!
窓ガラスを蹴り割りながら、アスカが飛び込んでくる。
思いっきり助走をつけていたため、かなりの勢いがついていた。その
勢いのままユカを蹴り飛ばしてしまう。
「ぐあ!?」
完全に虚をつかれた格好になったため、いとも簡単に失神する。
あまりに予想外の出来事に、カテジナもシュラク隊もあっけにとられ、アスカに注目する。
アスカは、腰に手を当て、びしぃっ!と、カテジナを指さしながら、
「あんたの悪行もこれまでよ!昨日の借りもまとめて返して上げるわ!」
高らかに宣戦布告をやってのける。
『こいつ、もしかして、アタシらの仲間になりたいんじゃ?ユカを蹴飛ばしたのは、きっと何かの手違いね。だって、カテジナを敵視してるみたいだし。』
いち早く我に返ったフランチェスカ・・・フラニーが、勝手な勘違いを起こした。
「あんた!こっちの仲間になりたいんだろ・・・・・。」
フラニーは最後まで喋ることができなかった。
激しい勘違いをしたまま、無防備にアスカに近づいたからだ。
ごずっ!
鈍い音を立ててアスカのかかとが頭に振り下ろされる。
何が起こったのかも気づかないまま、歓迎の笑顔を浮かべたままで、フラニーは気を失ってしまった。
それが引き金となって、固まっていた他のメンバーとカテジナも我に返る。
「よ・・よくも、フ・・・・フラニーをやったね!?」
フラニーと最も仲のよい、ミリエラがアスカに飛びかかる。
しかし、アスカは慌てず騒がずカウンターでハイキックを叩き込む。
あっという間に、シュラク隊は3人の戦力を失っていた。
「ちょ・・ちょっと待ちな!この坊やがどうなってもいいってのかい!?」
ジュンコが人質のウッソを、これ見よがしに見せつける。
「アタシは正義を遂行するためにココにいるんだからね!
この天才美少女アスカ様の正義は、そんなことぐらいじゃ揺るがないんだからね!」
先ほどと同じポーズをとり、さらに言葉を続ける。
「それに・・・・その小僧とアタシに何の関係があるってのよ!笑わせないでよね!」
シーン・・・・・
またも、その場の時間が止まった。
『アスカ・・・そのセリフ・・・正義の味方のセリフじゃないよ・・・・。』
なぜか涙ぐみながら、心の中で呟くシンジの言葉は、その場にいる全員の心の声でもあった。
『こいつは危険だ・・・。』
生き残りのシュラク隊は全員そう思った。何しろ理屈も何も通りそうにないのだ。
強さのほどは、先ほど見せてもらっている。
微笑みかけていた勝利の女神が、死神の嘲笑に変わっていくようにさえ思える。
どうしたものか・・・・・。思案にふけっているジュンコの手が、いきなりねじり上げられた。
いつの間にか接近していたカテジナに、気がつかなかったのだ。
つい、耐えかねてウッソを放してしまう。
「しまった!?」
崩れ落ちるウッソを両手で抱き留め、鬼の形相でジュンコをにらみつけるカテジナ。
痛む腕を押さえたまま、後ろに飛びずさるジュンコ。
「ウッソは返してもらったわよ・・・・。」
人質というのは、力でかなわない相手を倒すときに、一見有効な手に思える。
しかし、裏を返せば人質を奪還されたときには、
確実なる敗北・・・いや、相手の怒りによりそれ以上の仕打ちが待っている、大変リスクの伴う作戦なのだ。
意識のないウッソをそっと横たえると、優しい声で語りかけた。
「少し待っててね。すぐにすむから。」
女神のような慈愛の微笑みを、ウッソに向けるとカテジナは立ち上がる。
鬼神のような表情で。
鬼神と死神が、哀れなシュラク隊を一掃するのにそう時間はかからなかった。
戦い・・・いや、虐殺が終わり、カテジナはウッソの元に駆け寄る。
ウッソの縄を解き、優しく揺さぶった。やがてウッソが目を覚ます。
女騎士がとらわれの王子様を救い出す、感動の再会・・・とはならなかった。
ごずっ!
ウッソの上に崩れ落ちるカテジナ。
「昨日のお返しよ!思い知った?アッハハハハハハ・・・・」
薄れ行く意識の中、身に全く覚えのない「借り」を返されたカテジナはアスカの高笑いを聞いた。
「・・・ジナさん!カテジナさん!しっかりして下さい!」
カテジナが目を覚ましたときに最初に見た物は、心配そうに覗き込むウッソの顔だった。
「う・・・うぅう・・ん・・・ウッソ・・・?」
「あ、気がついたんですね!カテジナさん!」
頭をふって意識をはっきりさせようとしたが、頭頂部に痛みを感じ呻いてしまう。
「っ・・・・油断したわ・・・・。戦闘中はこちらに向かってくる気配がなかったから、
思わず気を許しちゃったけど・・・・まさか、後ろから襲いかかってくるなんて・・・。」
一番最初の時点で、自分に対して宣戦布告をしてきたのに気を許してしまった。
その自分の迂闊さを、カテジナは呪わずにはいられなかった。
「昨日のお返しよ!とか言ってましたけど・・・・・逆恨みでもしてるんですかね?」
「さぁ・・・それは解らないわ。でも・・・・ウッソが無事で本当によかったわ。
気を失ってたけど・・・何かひどいことはされなかった?」
『まさか・・・寝てたとは・・言えないよな・・・・。』
ウッソは笑顔で取り繕いながら、
「もういいじゃないですか、カテジナさん。ボクもあなたも、こうして無事だったわけだし。」
「そうね・・・じゃ、帰りましょうか、ウッソ。」
「はい!」
倉庫を出るときに、ウッソはふと振り返りシュラク隊を見る。
『あ・・・・よく見ると綺麗なおねぇさん達だったんだ・・・・。また、会いたいなぁ・・・こんな風な形じゃなく。』
「なにしてるの?いくわよ、ウッソ!」
「はーい!」
二人は、沈みかけた太陽を背に歩き始めた。
第五話 完
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あとがきぃ♪
うにゅう・・・・シュラク隊タダの悪者になっちゃった。(爆)
あとで、少人数づつ出していこう。この人ら結構好きやし。(^^;
今回は(も?)なんか、体の調子を崩したのもあって(×_×)な感じ・・・。
体調も戻りつつあるので、次ガンバロ・・・。(・・;
だから・・・見捨てないでね♪(爆死)
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