ウッソとカテジナが目を覚ましたのは、シンジ達が帰ってからさらにしばらくしてからだった。
痛む頭をこらえつつ、駅まで一緒に帰る二人。
ウッソはチラチラとカテジナの方を盗み見る。
『機嫌悪そうだなぁ・・・。』
どうやら、自分が負けたと思いこんでるらしく、苦渋の表情だ。
『何か気の利いたコト言わなくちゃ・・・・。傷ついた女性を慰める純真な少年・・・絵になるじゃないか!』
その発想自体がすでに純粋な少年ではないのだが、ウッソにはそのようなことは関係ないらしい。
『よし』
頭の中で考えをまとめ上げると、カテジナに話しかけようとする。
その時、ふと、カテジナが振り返る。
「あら?」
「どうしたんですか?カテジナさん」
「おかしいわね・・・。確かに誰かがつけてきたような気がするんだけど・・・。」
「え?」
ウッソも、思わず振り返る。
「うーん・・・・そう言われてみれば、何かいるようないないような・・・。」
しばらく二人で、薄暗い夜道を眺めているが、何かがいる気配はない。
「きっと、気のせいですよ。今日はあんなコトがあったんで、気が高ぶってるからかも知れませんよ?」
「それも、そうね。でも、あの女・・・ホントに理不尽で腹立たしかったわね。」
放課後の乱闘のことを、ふと思い出したらしく、いかにも腹立たしいといった感じで吐き捨てる。
「でも、ホント助かりましたよ。カテジナさんが来てくれなかったら、どうなってたか・・・。」
「クラスメートだって言ってたわよねぇ。あの女。気を付けなきゃダメよ、ウッソ」
「大丈夫ですよ。多分目を合わせなければ襲ってきませんし。」
まるで、猛獣・・・・と言うよりは、猿の扱いである。
楽しげに談笑しながら、二人は駅で別れる。
「じゃあ、カテジナさん。また明日。」
「じゃあね、ウッソ。」
ウッソとカテジナ。それぞれは家路につく。だがその夜・・・・・・ウッソは家に帰ることはなかった。
みしっ
「なぁんで、あんたがアタシの部屋にいんのよっ!」
シンジの顔面にアスカの拳がめり込む。
予想だにしなかった行動に、シンジはまるで、香港映画の悪役のような吹き飛び方をする。
「シンジィ・・・・乙女の部屋に無断で入ったりして・・・・・覚悟はできてるんでしょうねぇ?」
つい先ほどまで、のびていた人間とは思えないほどの気迫で、すでに意識のないシンジに迫る。
と、その時アスカの部屋をノックする音が聞こえる。
「シンジ君、今日はもう遅いから、夕御飯はウチで・・・・って、シンジ君!?」
「あ、ママ!こんなヤツにご飯なんてあげること無いわよ!勝手にアタシの部屋に入って・・・・。」
アスカの母が、部屋に入ってるシンジを咎めないことに何の疑問も感じないほど、アスカは頭に血が上っていた。
怒りではなく、恥ずかしさで。
「あらあら・・・こんなになって、大丈夫かしら・・・。」
完全に気を失っているシンジに、慣れた動作で活を入れながら、
「シンジ君はね、あなたをおぶって帰ってきたのよ。そのシンジ君にこんなコトして・・・。」
「ア・・・・アタシだって、昨日はシンジを連れて帰ったんだからぁ!」
「・・・・・・引きずってたじゃない。」
アスカの反撃もあっさりと退けられる。
「な・・・・何でそんなこと知ってるのよ!」
顔を真っ赤にして、叫ぶのだが、これまたアスカの母・・・キョウコの一言に封じられてしまった。
「ユイさんに聞いたから。」
アスカは声も出ない。
『見られてたなんて・・・。』
さっきとは別の意味で恥ずかしくなってくる。
やはり、自分の母だけに知られてるのと、それ以外に知られてるのとでは、さすがのアスカでも恥ずかしさが違うらしい。
いや、むしろ、シンジの母に知られたのが恥ずかしかったのかも知れない。
「う・・・ひどいよ、アスカ・・・。いきなり殴るなんて・・・。」
鼻をさすりながら、シンジが抗議の声を上げる。ようやく意識が戻ったようだ。
「で・・・何を引きずってたの?」
当てこすりなどではなく、本当に解っていないシンジである。
「く・・・いいのよ!そんなことは!ほら、ご飯食べて行くんでしょ?いくわよ!」
アスカはシンジを引きずるように、食卓へと向かった。
「また引きずってる・・・・。」
キョウコは苦笑を禁じ得なかった。
夕食をごちそうになったシンジは、家路を急いでいた。
「すっかり遅くなっちゃったな・・・。早く帰らないと・・・。」
グオン!
後ろから来るバイクの音にとっさに飛び退くシンジ。
「うわ!?危なかった・・・って・・・あれ?」
走り去るバイクの後ろに、クラスメートの姿が見える。
『こんな夜中に・・・・どこいくんだろ?ま、いいか。早く帰らないと、怒られるし。』
どうせ夜遊びなんだろうな。その程度にしか考えなかったシンジは、
そのクラスメートが、気を失い両手をバイクの運転者の腰にくくりつけられていることに気づきもしなかった。
翌日の朝のHR後はちょっとした騒ぎになっていた。
ウッソ・エヴィンが、昨晩家に帰っていないと言うのだ。
『へぇ・・・あの後帰らなかったんだ。顔に似合わず不良なんだなぁ・・・・。」
昨夜の光景を思い出しながら、ウッソが夜遊びに行ってる物とばかり思い、
『ほっといてもきっと大丈夫だろう。先生に言ったら、ボクがチクリ魔だと思われるし。』
シンジは、黙っておくことに決めた。昨晩のことがトラブルの序章に過ぎないことなど、シンジには知る由もなかった。
「じゃあ、本当にあなたも、ウッソがどこに行ったか知らないのね?」
マーベットは、職員室にシャクティを呼び出し確認を取った。
「うふふふふ・・・知りません・・・・ウッソ、今頃・・・・どうなってるんでしょう?・・・ふふふふふ。」
『この子ホントは知ってるんじゃないかしら?』
思わずそう思わずに入られない、シャクティの雰囲気なのだが、どうやら本当に何も知らないらしい。
「そう、もう行っていいわよ。もしウッソから連絡があったら、私にも教えてちょうだい。いいわね?」
マーベットは、シャクティを追い出すと、大きくため息をつき、
『ホントに・・・・どこ行っちゃったのかしら?いきなりこんな問題が起こるようじゃ、この一年、先が思いやられるわね。』
的確すぎる予想を、頭に浮かべるのだった。
そして、昼休み・・・・・・・・・・・・・。
「碇くん、いる?」
1−Aの教室に綾波レイがたずねてくる。しかも、シンジを名指しで、だ。
それでなくてもシンジは男子生徒に評判がよくない。
なにしろ、アスカという人目を引きつける少女の彼氏だと思われているのだ。(本人達は否定しているが。)
この上、まだ女がいるのか?教室の男どもの視線が痛いほどにシンジにつきささる。もちろんシンジは視線に気づきもしない。
「あ・・・君は・・・・。」
「あーっ!あんたは!」
シンジとアスカが同時に声を上げる。見事なユニゾンだ。ただし、声に込められた感情は、まったく正反対だが。
「あんた、何しに来たのよ!」
敵意むき出しで、レイに詰め寄ろうとするアスカ。レイは一切無視してシンジの方に向かってくる。
「碇くん・・・・これ。」
差し出された手には、シンジの生徒手帳を差し出す。
「あ・・・ありがとう・・・。君が拾っててくれたんだ・・・。えと・・・君の名前は・・・。」
お礼の言葉を言ってから、まだ相手の名前も知らないことに気づき、改めてたずねる。
「・・・・・・レイ。綾波レイ。」
「そっか・・・・綾波って言うんだ。ありがとう、綾波。」
差し出された生徒手帳を受け取るときに、指が触れ合ってしまう。なんとなく照れ合う二人。
見ているアスカは当然おもしろくない。みるみるうちに、顔が怒りで真っ赤になっていく。
実は、アスカの凶暴さはまだこのクラスでは知られていなかった。
もちろん、シンジ達と同じ中学から来た者もいるのだが、そういう者たちは「アスカの事を知っているからこそ」他言はしなかったのだ。
なにやら、痴話喧嘩が起こりそうな気配に、野次馬達が好奇の視線を向けてくる。もちろん賢明なる一部の生徒は、こっそりと教室を抜け出していた。
「お!?奥さんの前で堂々と浮気?シンジも顔に似合わずやるねぇ〜。」
「豹馬、そないなこと、言うもんとちゃうで。・・・・プッ・・ククク。」
葵豹馬・・・いつも、5人でつるんでいる、グループの中心人物だ。少々、お調子者のところはあるがバイクの運転はなかなかのもである。(当然無免)
豹馬の声がきっかけになり、クラスが爆笑の渦に飲まれる。アスカのリミッターが外れたのも、同じタイミングだった。
笑い声は、すぐに阿鼻叫喚の叫び声に変わっていった。
この事件の後、1−Aで、シンジとアスカの仲をからかう者は一人もいなくなったというのは、ちょっとした余談である。
そのころ、ウッソは目隠しをされ、両手足を縛られた状態で、学園近くの、とある場所に監禁されていた。
『ここ・・・どこだろう?っていうか・・・何で、ボクがこんな目にあってるんだ!?』
夕べ、何者かに、薬物らしき物を嗅がされ意識を失ったのは覚えている。どうやら、さらわれたらしい。
何とか、いましめを解こうと、もがいてみるが、全く効果がない。
ぐいっ、と上から、押さえつけられる感覚がある。結構重い。
「おとなしくしてるんだよ、坊や。」
聞き覚えのない女の声だ。
『もしかして・・・・・アブないおねぇさんにさらわれた!?助けて!カテジナさん!お婿に行けなくなる!』
カテジナも別の意味で充分アブないのだが、そっちは気にならないらしい。
「もうすぐ、お前を助けにカテ公が来るからね・・・。ふふふ・・・さすがのカテジナも、大事な、坊やを人質に取られちゃあ、おいそれと手を出すわけにもいかないだろうからね。」
先ほどとは違う、女性の声。耳をよく澄ましてみるとまだ何人かいるらしい。
『なるほど・・・ボクはカテジナさんを誘い出すための餌ってわけか・・・。ってことは、他人から見るとボク達ってそういう関係に見えてるんだぁ。なんとなく嬉しいなぁ。』
状況も忘れて頬がゆるんでしまう、のみならず、思わず含み笑いまでもらすウッソ。
「くすくすくす・・・。ふふふふ・・・・。」
「・・・・・この坊や、本当に状況わかってるのかしら・・・。」
ウッソを押さえつけている女は、呆れたような呟きを漏らすのだった。
「あいつら・・・・。」
いつのまにか、机の中に入れられていた「招待状」と銘打たれた手紙を手の中で握りつぶし、
カテジナは、昼休みの教室を飛び出していった。ウッソを救うために。
第四話 完
NEXT EPISODE
あとがきぃ♪
はう!?めっちゃかくの遅いやん!?オレ。(・・;
何か最近体調悪いのよ・・・。パソの調子も悪いけど。(^^;
ま、いい訳はこのぐらいにしてと。(爆)
さてさて、なんだか、バトル物っぽくなってますが、
とりあえず、バトル編はこの次まで。5話はちょっち短めになる予定です。バトル物はワンパになっちゃうしね。(笑)
で、2000HIT越したら、ちょっとした企画ありますんで、よろしく。(笑)
第五話は・・・もうちょっと早くアップしたいなぁ・・・。(爆)
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