第四話「女の戰い!?」




「覚悟はいいか?ですってぇ!はんっ!このアスカ様を誰だと思ってるのよ!」
シンジが目を覚ましていたなら、きっとこう突っ込んだだろう。
「アスカ・・・・・今自分で名乗ったじゃないか。」
と。
当然その後殴られるのだが。
何にせよアスカの当面の標的はカテジナへと移ったようである。
一方ここは、掃除道具入れの中。
『・・・・・・助かったみたいね。ありがとう。感謝の時に言う言葉。』
綾波レイは、突然乱入してきた見知らぬ救世主に心の中でそっと感謝した。
一方、その外である、心霊研部室では激しい視察戦が行われていた。
どちらもにらみ合ったままぴくりとも動かない。
いや、動かないのではない、動けないのだ。
『なによ、なによ!ぜんぜん隙が無いじゃない!』
『くっ・・・・何だ、このプレッシャーは・・・・。』
「あの子・・・・やるわね・・・。」
レコアがアスカの方を見て呟く。
「あの子がどうかしたんですか?」
レコアにつられて、ウッソもアスカの方を見ながらたずねた。
「カテジナはああ見えても、恐ろしく強いのよ。」
レコアは、ウッソの方を見ずにカメラを構えたまま答える。
「はっきり言って、キレたら手がつけられないわ。彼女の逆鱗に触れて壊滅させられた、暴走族やスケ番グループもあるって言うわ。」
「へぇ・・・。カテジナさんって強いんだぁ・・・・。(っていうか、このへんじゃまだスケ番グループなんているのか。そっちの方がある意味凄いよ。)」
「そのカテジナが一歩も動けないでいるなんて・・・・。あの子・・・ただ者じゃないわね・・・。」
どれぐらい睨み合っていただろうか。
先に動いたのはアスカの方であった。もともと、非常に短気であるためにこういう睨み合いは性に合わないのだ。
異常な踏み込みの速さから、正確にカテジナの顔面に前蹴りを繰り出す。
だが、カテジナはよけもせず、タイヤで受け止め押し戻す。
「くっ!?」
バランスを崩しのけぞった格好になるアスカ。
そのままタイヤが振り下ろされる。
「墜ちなさいっ!」
だが、アスカはのけぞらされた勢いを利用し、バック転でタイヤを回避する。
間合いを取り、体勢を立て直そうとしたアスカに向かい、いくつものタイヤが飛んでくる。
『カテジナさんって、どこにタイヤをしまってるんだろう?』
緊迫した戦いの中、少々ずれたことを考えいるウッソであった。
「うふ・・・・ふふふふふ・・・ふふふふふ・・・うふふふ。」
「牡羊座のあなたの今日の運勢は・・・・」
いや、ずれているのはウッソだけではなかったようだ。
どうやら、この戦いを気にかけているのは、ロンド・ベル学園の歴史の中でも屈指の名勝負であろう
この勝負を、記者魂、そしてカメラ魂にかけて見逃すまいとしているレコア・ロンドと、
どうあっても、カテジナに勝ってもらわないとボロ雑巾にされることが決定されている綾波レイの二人だけであった。




二人の戦いはお互いに決定打を与えられないまま、完全に日が沈むまで、続いていた。
実のところ、ウッソはもう帰りたいとか思っていたのだが、相も変わらず熱心に戦いを見守るレコアと、
なにより自分のために闘っているカテジナを放って帰るわけにもいかず、少々うんざりしながらもこの場を去れずにいた。
ララァはこの激しい戦いの喧噪をよそに机に置いてある水晶玉を一心不乱に眺めているし、シャクティは、なにが嬉しいのか
「うふふふふ・・・・ふふふふ・・・・うふふふふ・・・・・。」
と、ただ笑い続けているだけであった。
レイの入っているはずの掃除道具入れは、何の反応も示さない。
ふう、とため息を付くと、
『そういえば、部屋に飛び込んできた、あいつはどうしてるんだ?』
ふと、シンジの事を思い出し、扉の残骸の辺りに目を向ける。
シンジは打ち所が悪かったのか、まだ気を失っていた。
『ちぇっ、いい気なモンだよ。』
そもそも、こいつが飛び込んでこなければこんな事にはならなかったのだ。
ウッソは、もともとシンジに好印象を抱いてなかったのも手伝い、この騒ぎの元凶が全てシンジにあると決めつけた。
あながち、間違いというわけでもないのではあるが。
『なのに、何でこいつはのうのうと寝てるんだ?』
そう考えると無性に腹が立ってくる。
『とりあえず、たたき起こそう。』
ウッソは、シンジに近づき少々乱暴に体を揺さぶる。
と、それがたまたま、カテジナ越しにアスカの目に入ってしまう。
「ちょっと!あんた何してんのよ!」
アスカの気が一瞬それる。その隙を見逃す様なカテジナではなかった。
「そこだっ!」
カテジナのタイヤがうなりをあげて、アスカを狙う。
シンジに気を取られていたアスカは、飛んでくるタイヤに対しての反応が一瞬遅れてしまう。
『くっ!?よけきれない!』
アスカはとっさの判断で、タイヤを蹴り返した。
が、いかんせんアスカは軽量である。タイヤを何とか蹴り返したものの、バランスを完全に崩し、勢いよく後ろにひっくり返ってしまう。
だが、この絶好のチャンスをカテジナは生かすことができなかった。
カテジナが全力で放ったタイヤがまさかそんな返し方をされるとは思っていなかったらしく、
蹴り返されたタイヤをまともに顔に喰らってしまう。
「がっ!?」
吹っ飛ぶカテジナ。その先には・・・・・
ごずっ
鈍い音を立てて、後ろにいたウッソに後頭部をぶつけてしまう。
そして、そのまま気を失ってしまった。もちろんウッソも含めてだ。
「あいったぁ・・・・・。」
同じく倒れたときに後頭部を強打したアスカが、たんこぶをさすりながら立ち上がると、
そこにあるのは、今まで敵だった女と、仲良く気を失っている見覚えのある少年だった。(アスカは、クラスメートの顔をよく覚えていなかった。)
「・・・・・・・・・・・え?」
一瞬、呆気にとられるものの、すぐに気を取り直し、
「やっぱり、アタシが最強って訳ね!」
両手を腰に当て、ふんぞり返って勝利宣言を行った。
べこっ
アスカは後ろから、こぶの部分を強打され、白目をむいてバッタリと倒れてしまう。
後ろに立っていたのは、いつの間に掃除道具入れから出てきたのであろうか?モップを握ったレイが立っていた。
モップを持ったままレイは呟いた。
「ごめんなさい・・・・こういう時どうゆう顔をすればいいか解らないの・・・・。」
そう言いつつも、レイの目は「してやったり!」という輝きを見せていたのだった。
あまりのあっけない幕切れに思考能力がしばし停止してるレコアと、相変わらずマイペースなララァとシャクティを残し、
「じゃ・・・・・さよなら。」
レイは部室をあとにした。




「う・・・・ううん・・・。」
死闘の痕も生々しい心霊研の部室で最初に目を覚ましたのはシンジだった。
「あれ?何があったんだろう・・・・・・・。」
辺りを見回すと見覚えのない女が一人と、クラスメートが一人自分の側に倒れていた。
「アスカはどうしたんだろう?」
外はすっかり暗くなっていたため、ただでさえカーテンを閉め切って薄暗かった部室はすでに真っ暗になっていた。
「とりあえず明かりをつけなくちゃ。」
シンジは電気のスイッチを入れる。
「うわぁ!?」
驚くのも無理はない。部室には扉の破片やタイヤが無数に転がり、机や椅子などもぐちゃぐちゃになっている。
まるで嵐の通り過ぎた跡のようだ。
参考までに言っておくと他の三人の姿はもはや無い。
「ア・・・アスカは?」
慌てて周りをよく見ると、アスカが前のめりに倒れているのが目にはいった。
見れば、後頭部に大きなたんこぶを作っている。
「な・・・何があったんだろう?」
とりあえず、アスカを何とかしよう。そう思いアスカを助け起こすシンジ。
アスカは、ぐったりとしたままだ。
「よいしょっと。アスカ・・・ちょっと太ったかな?」
アスカが聞いていたら、ただではすまないような一言を呟きながらシンジはアスカを背負う。
少し、ウッソとカテジナのことが気になったが、
「・・・・・・そっとしておこう。イヤな予感がするし。」
ある意味シンジの予感は当たっている。ここで、カテジナを起こそうモノならアスカに襲いかかることは明白だからだ。
だが、シンジはアスカとカテジナが死闘を繰り広げていたことを知らないはずだ。
幼少の頃より鍛えられた「危険に対する勘」と言うやつであろう。(だったら、アスカに余計なツッコミをしなければいい、と言う意見もある。)
『そういえば、昨日ボクも気を失ったんだっけ。アスカもこうやって運んでくれたのかな?なんだか、ちょっと照れくさいや。』
シンジは、そんなことを考えながら家路についた。
昨日、アスカがシンジを運んだときは、引きずっていたなどとは夢にも思っていないシンジだった。



アイキャッチをはさんで、Bパートに続く・・・・・。←アイキャッチをそのうちホントに入れることにした。(笑)
Bパート〜♪
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