福田昌範の吹奏楽講座

第13章 バンドの最終チェック(その2)

 

 吹奏楽やコンサートでは、演奏するに当たって様様な観点から
バンドをチェックする必要があります。

 ここでは、その一例を挙げて見たいと思います。

 


9  ダイナミックス

 ダイナミックスは楽曲を仕上げる上で、たいへん重要なポイントになってきます。
どのようなタイミングでcresc.やdecrescをかけるのかによっても、聞き手に与える印象は変わってきますし、
その(タイミングの)指示が明確になればなるほど、バンド全体の統一感となって伝わってきます。
また、楽器によって、微妙にタイミングをずらす事によっても、曲想はずいぶんと変わってきます。
 また、スコアなどには、すべてのパートに「フォルテ」と記入されていても、メロディや伴奏のダイナミクスレンジ
を微妙に変えることにより、楽曲のコントラスト(遠近感)を変えることが出来ます。

 ソロについて言えば、「p」と記入されていても、吹奏楽の中では、多少大きめに演奏した方がうまくいくようですし、
打楽器群は、全体的には控えめに演奏した方がバンド全体には好印象に受け取られる事が多いようです。
(もちろん、楽曲によっては異なりますが・・・・・・・・・。)
 また、このダイナミックスはバランスとも密接な関係があります。バンドのダイナミックスが適当であるかどうか、
ホールなどの大きい会場で確かめる事も重要な練習になってきます。

10 アインザッツ

 アインザッツ(拍子感)を揃えるのは、たいへん重要な練習の一つです。
拍子感をそろえるためには、やはり団員が同じテンポ感やビート感を持っていないと、なかなか合いづらいものです。
メトロノームをなど使って、テンポ感をそろえることも、このアインザッツを揃える事に大いに役立ちます。
 アマチュアのバンド指導の場合、まず最初にやらなくてはいけない事は(アーティキュレーションや音色や
フレーズ感は後回しにして)、「音を並べる。」という作業です。
音楽を考えると、適切ではないかもしれませんが、まずは、音が並ばない事には何もできません。
その後、その並んだタイミングを忘れずに、フレーズにあった音色で演奏することも楽曲を完成させる近道になります。

 また、忘れてはならないのが「音のスピード感」をそろえる練習です。
例えば、はっきりしたフレーズで、TpとTubaが同時に同じ発音で音を出した時に、(楽器の特性や、音域の関係で)
どうしても、遅れて聴こえがちになります。この場合、Tubaなどに「もっとスピード感のある発音で」という風に、
発音をそろえる必要があります。これを、「音のスピード感を揃える。」といいます。
もちろん、この逆の例も多々あります。

11 フレージング

 フレージングは作曲者の意図する処よりも、演奏者にゆだねられる事が多くあるようです。
しかし、吹奏楽の指導者は、複数の楽器が同じメロディを演奏している場合は、的確な指示の元、
歌い方を統一する必要があります。その際、「そのフレージングが万人に受け入れられるものなのかどうか?」
を、演奏者とともに考え、不自然なものにならないように適切な配慮をしなくてはなりません。
 また、同じ楽器群が同じフレーズを演奏する場合は、チェンジブレスやカンニングブレス(本当はスタッガーブレスと言う。)
を指示して、フレーズがブツ切れにならないように配慮した方が良い場合も多々あるようです。

12 主旋律と対旋律

 楽曲の多くは、主旋律と対旋律と伴奏で構成されています。
いろいろなフレーズによって、どのパートが主旋律や対旋律を受け持っているのか?を演奏者と一緒にアナリーゼし、
そのフレージングや音色を研究する必要があります。
 また、どちらの声部も「どの楽器を主体に組み立てるのか?」によって、旋律の音色を変え、立体感を作り出す事も
できます。

13 スタイル

 演奏スタイルは、指揮者と演奏者の共同作業です。楽曲の雰囲気やフレーズごとの内容を明確にする事により、
演奏スタイルはフレーズによっていろいろな変化を成し得ます。
 例えば、マーチなどのはっきりした楽曲の場合は、全員が「行進できる」ことを念頭に置き、「はっきりと明確に」
演奏する必要がありますし、エルザの大聖堂への行列などのやわらかい曲は、やわらかく歌心を持って演奏する
必要があります。この演奏スタイルが、適切でない演奏は、得てして音色やフレーズ感(音のスピード感など)
を考え違いをしている演奏が多いようです。

14 個々の技術

 個々の技術を伸ばす事は、バンドにとって「最重要課題」です。バンドは個人個人の集合体であり、その一人一人
の素材が高級であればあるほど、バンド全体は輝きを増してきます。

個々の技術を伸ばす為には、

・ロングトーンなどの毎日の基礎練習(基礎力のアップ)
・教則本を練習することによる応用力のアップ(いろいろな楽曲はすべて、教則本の応用なのです。)
・ソロのCDを聞く事や演奏会に行く事による、良い音のイメージ作り(音のイメージのアップ)
・雑誌や専門誌を読み研究する事による、楽器の演奏へのヒント(知識の増加)
・人前で吹く事(演奏会やコンクール)による演奏する悦びの経験(舞台経験の増加)

が必要です。これらを総合的に捉えたい場合は、専門の先生にレッスンをつく事をお薦めします。
(蛇足ですが、コンクールなどの、楽曲を練習しているだけでは、決して楽器は上達しません。)

15 安定感

 安定感は演奏においては欠かせない条件の一つです。
たとえば、CDを聴いたりするときでも、どんなに素晴らしい演奏を聞いていても、演奏の途中で針がとんでしまったり、
(何らかの原因で)途中でCDがストップしてしまうと、興ざめしてしまいますね。
それと同じ事で、ライブ演奏(演奏会やコンクール)で、(素晴らしい演奏であればあるほど)途中でミストーンや
リードミスなどが何度も起こってしまっては、観客はまたたくうちに興ざめしてしまいます。
それらの、ミスが起こらないように演奏者は「最高の努力と細心の注意」を払って、毎回の練習に励まなくてはなりません。

 また、不自然なテンポ感が演奏中に生じてしまう場合も安定感に欠けてしまいます。
指揮者は練習どおり(又はそれ以上の自然な音楽の流れのある)のテンポ感で本番を指揮をするように心がけるべきです。

16 理解度

 コンクールや演奏会などで指揮者と演奏者が渾然一体となった中に名演が生まれる事が多々あるようです。
そのためには、指揮者(指導者)は、練習の段階で一つのフレーズにどのようなイメージを持って取り組んでいるのか?
また、演奏者は、指揮者(指導者)の音楽観をどのように理解し消化して楽器に生かすのか?
を絶えず考えていかなければなりません。

 また、これは指揮者と演奏者のバランスにも繋がっています。
演奏者には「指導者の考えを受け入れるだけの技量」が必要になってきますし、
指揮者(指導者)には「指揮者の考え方を伝えるテクニック(何らかの手段)」が必要になってきます。

 「指揮者の考えと演奏者の考えが一致する事」、そして、「指揮者と演奏者の技量が高い次元で均衡する事」が
感動の名演への第一歩となることでしょう。

 

(C)2017 Masanori Fukuda

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