8月19日 闘え!警察窓口

 本日はプラハを出る日である。が、すでに切符を購入してある夜行列車の出発時刻は22時過ぎなので、それまではプラハ・・・実質的には今日も一日プラハで過ごすようなものです。
 基本的に観光が下手なのか、まだ実質3日しかプラハに居ないにも関わらず、もう見たいところというのが思いつきません。結局、ふらふらと行ってしまうところいえば、インターネットハウスであったりして、世界的な観光都市に対する畏敬もなにもあったもんじゃありません。
 ふらふら歩いてみるのですが、結局、宮殿だったり、カレル橋だったり、広場だったりとだいたい同じようなところに出てしまうもんなんですね。お金は無いけど暇・・・なちんたさんは、広場でも他の多くの人がそうしているように、地べたに座ってストリートミュージシャンの演奏を眺めたり。1回の公演(?)が10分程度で、それを3回も4回も。一応、リーダーらしきおじいさんのコミカルでちょっとかわいい挨拶がおもしろく、つい何度も何度も見てしまった。  


 もう3日とも同じような所をふらふらと歩いていてそのたびに強く感じるのは、ホントにプラハは良くも悪くも観光都市なのだなぁということ。そこら中に観光客が居るのは当然として、プラハの商売のほとんどが観光客相手の飲食店か土産物屋。ツアーなんかも多かったな。街の営みとしてはずいぶんいびつな形の街であるとは思う。しかし一方では、それもまた当然かな、と納得できるほどの街の美しさもある。ガイドやらパンフレットにはいろいろな高名な建物やら史跡が案内されているのだけれど、実際に街を歩くと、この町はどれが観光スポットでどれがそうでないのかよくわからない・・・ほどに、古き良きヨーロッパを隅から隅まで残していて、単なるアパートメントや安ホテルまで非常に趣のある建物だったりする。街の建物全部が重要文化財みたいな街なので、げっぷが出るほどその中に浸ることになる。まぁそれほどまでに魅力のある街だな、と。  


 夕食。ホントにプラハ最後となる夕食。中央駅近くのレストランでビールとお肉。う〜、こういう豪華な(そして安価な)お食事とももうお別れ、明日からはまた物価の高いドイツ(チェコを知るまでは「うわ〜い、食べ物が安いぞう」とか喜んでいたのに)で細々と暮らして行かなくてはいけない。
 飯を食っていると、相席で隣の席に座っていたバックパッカーに声をかけられる。

 「中国から来たのか?」
 「いや、日本だよ」

 彼はメキシコから来たバックパッカー。だいたいちんたと同じような時期にヨーロッパに来て、同じような時期にメキシコに帰るつもりらしい。

 「メキシコは遠いんだよね〜」

 ヨーロッパから帰るにはアメリカ経由で18時間近くかかるのだそうだ。いやいや、日本なんて22時間かかるんだぜ、と教えると「そりゃ遠いや」と驚いていた。中華航空だからそんなにかかっちゃうんだけどね。ま、ややこしくなるのでそういうことは言わない(言えない)。とりあえずプラハはいい街だよね〜、メシは安いし、街はきれいだしさということでは、お互い同意。ホントそう思うぜ。ところで日本には行ってみたいと思うかい?

 「う〜ん、興味はあるけどな。物価が高いから無理だろうな」

 わしもそう思う。エアチケットを考慮しなければ、やはり日本で1ヶ月旅行していた方が遙かに金がかかったような気がする。ま、金をかけたくなかったら、日本の北海道という北の方にはライダーハウスという格安の施設があってね・・・と、こんなところでライダーハウスを喧伝してしまうわたくし。果たしてこれで彼の心は動いただろうか?  


 中央駅に戻る。まだ20時。列車の発車時刻まであと2時間もある。となると、暇つぶしはあれ。駅の中、それも出札窓口の目の前にある。カジノ。非常に簡素なカジノなので、スロットマシンしかないのだけれども、ちんたにとってはそれがすべて、それで十分。相変わらず、100ck札(約300円)とかを崩して、超シビれながらスロットマシーンを叩く。基本的にギャンブラーとしてお安くできているのかもしれない、わたくし。
 本日のカジノはめでたく勝利を収め、50ck(約150円)浮いた。これだけ浮くとほくほく。もうチェコを出てしまうのでコルナ、特に小銭を残しても仕方がないので、駅の売店で買いまくる。ペットボトル、スニッカーズ2個、ハム入りのバゲット二つ・・・これだけ買えてしまうのだから、やはりチェコいい国、らぶりープラハ。  


 フランクフルト行きの夜行列車は発車20分前にホームに滑り込んできた。まずは自転車をデッキに放りあげてチェーンで固定する。前輪を外して固定すると実に収まりが良くなってよろしい。客車はコンパートメントで、自分の部屋にはおばあさんが二人・・・らしい。はぁ、朝になればフランクフルトだね。その時、車掌がやってきた。

 「あの自転車はおまえのか?」

 そうだけど?

 「自転車は載せられない、降ろせ!」

 な、なに!?  


 ちょっとまて、切符を買ったときには自転車も載せられる列車をって・・・

 「だーめだだめだ、降ろせ降ろせ」

 うわっぷ、ちょっとまて、じゃあ、どうしろってんだ?自転車はどうするんだ?切符はどうなるんだよ?

 「知らないね」

 ・・・最悪である。いきなりの急展開。自転車を置きざりにフランクフルトに行くなんてもちろんできない。かといって、このままホームに降ろされて列車を見送れば、10000円近くかかった切符はパーである。ただでさえプラハでは散財したんだ、そんな無駄ができるわけない。しかし、目の前にいる車掌は、とんでもない剣幕でちんたがやるのももどかしいとばかりに自転車を降ろそうとする。ま、待て、降ろすから降ろすから、待て、コンパートメントに荷物があるので・・・

 「だめだだめだ、今すぐ降ろせ」

 とりつくしまがない、ケンもほろろとはまさにこのこと。英語が通じないのでややこしい話がさらにややこしくなって、日チェコ怒鳴り合い紛争の様相。ちんたさん大パニック。とにかく自転車を降ろす、そして荷物も降ろす。で、どうすりゃいいんだ?  


 とにかく出札窓口に文句を言いに行くんだ、そこで自転車も載せられる証明でもしてもらおう。広いプラハ中央駅のコンコースを自転車にまたがってぶっ飛ばすちんた。駅の通路でありながら、時速40km/h、タイムトライアル大会でも出なかったような大スプリントで駅構内を疾走、息を切らせながら出札窓口に行って、切符と自転車を指さしてクレーム。

 「ああ、これは自転車は載せられないわよ」

 今更言ってんじゃねぇよ馬鹿野郎。何言ってんだどあほう。

 窮地。

 渡欧以来最大のピンチだ。今までは何とかなるだろうと思って何とかなってきた。が、今度はどうだ?八方ふさがりだ。発車まではもう15分を切っている。どうするか。このまま列車を見送るか?で、明日もプラハに居残るのか?冗談じゃない。

 どうにもならないまま、再び駅構内を疾走。ホームに戻る。

 いちかばちか、あの手に出るしかない・・・か。
 鞄の奥から輪行袋を取り出す。袋に詰めてしまえば自転車じゃない、荷物だ。載せられるのではないか?しかし袋に詰めるにも、発車まで残された時間は10分を切っている。そんな時間で詰められるのか?普段は15分近くかかっている作業である。おまけに今はリアにキャリアを付けていて本来ならこれを外すところから始めなくてはいけない。  


 だめ元でやっちまえ、やるしかない。

 とにかく輪行袋を広げ、前輪と後輪を外す。本来ならここで前輪+フレーム+後輪をサンドイッチにして紐で結んで固定しなければいけない、がそんなことをやっている暇はない。キャリアを付けたまま、固定しないまま、とにかく袋に放り込む。なんだか粗大ゴミをゴミ袋に放り込んでいるような感覚だ。それでもとりあえず、3分で形だけは包み終える。広がったお店もかき集めて鞄に詰め、もう一度デッキに放りあげる。

 「これなら自転車じゃない、荷物の一つだろ?え?!」  できそこないの一休さんのとんちのような理屈で、さっきの車掌とは別の女性車掌に問いただす。今から思えば確認より脅迫の域に近かったのではないと思うが、こちらも必死なのである。気迫で押し切ったのかとんちが利いたのか、女性車掌は「OKOK」とのこと。よーし、OKだな、言ったな?言ったな?

 ふ〜〜〜〜〜〜(安堵)  


 肩で息をしながらコンパートメントへ。同室のおばあさん、なにごとかと不思議そうにこちらを見ている。と、とりあえず、乗れた。
 しかし、乗れた後もやはり生きた心地がしない。またあの男性車掌が来て、やつには通用しなかったらどうしよう?国境近くの駅に真夜中に放り出されることにでもなれば、プラハで放り出される以上にしゃれにならない。検札に来たり、国境越えのパスポートチェック(国境前後でチェコ警察、ドイツ警察と二度来る)なんかの度にびくびく。タダでさえ心配性のちんたさん、小心者メーターはすでにレッドゾーンというより噴けあがってオーバーヒートになってしまっている。・・・・もうチェコなんて、チェコなんて(らぶりーじゃなかったのか?)。

 ゆっくりと眠れるようになったのは、午前2時過ぎ。パスポートチェックも終わり「もう、何も戻ってこないべ」と安堵した辺りであった。

 ちんた、もう、ぐったり。  




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