常滑市大野町
旅
2010 10 19
突然の思い付きで短い旅をはじめる。
記憶を手繰り寄せるような旅で、夢の世界に入り込むかも知れない。
午後2時を過ぎて名古屋駅まで歩き、名鉄の構内を歩き電車に乗る。
40分ほどで大野町に着く。
大野町は常滑市の北に位置した古い町並みを色濃く残す港町になる。
名鉄常滑線は空港線と名称が変わったことも大野駅が無人駅であることも知らなかった。
無人の改札を抜け少し歩けば矢田川が流れ、その川べりを歩く。
僕の小さな旅はそうやってはじまる。
昔、僕はこの町の電気屋さんで働いていたことがあるので、路地を知り尽くしていた筈だけど、
記憶に頼ることは無理と悟り、勘を頼りにふらつくことにする。
昔と書くことは止めた方がいい。
37年の昔になる。
古い町は死んだ町かも知れない。
民家は空き家が多い。
ぶらついて国道に出る。
車は少なく、道路沿いの町並みを眺め路地に入る。
大野町は路地で出来ている。
「世界最古の海水浴場」と書かれた看板を眺める。
路地をうろついていると、海に出る。
あー、海だと感動する。
1時間ばかりを海を眺めて過ごす。
風はなく夕闇に包まれる海を眺めていると感傷的になる。
今年の夏は猛暑が続き、きっとこの浜辺は海水浴客で賑わったんだろうと想像する。
大野町は以前は海水浴客で溢れたものだった。
夏の路地は賑やかで旅館も多かった。
これは少なく見積もっても40年という時間を戻るしかない風景になる。
そうでも、いくつかの古い旅館が大野には残っている。
その旅館の風情を眺め、いつか泊まってみたいと思うけれど、
名古屋から準急で40分の土地に泊まるには勇気がいる。
自転車で走ったとしても2時間の距離になる。
路地の散策を続けていると、港に出る。
信じようが信じまいが、江戸時代には伊勢湾で捕鯨が出来た。
伊勢湾の捕鯨の北限が大野町で、そんな絵図が今に残る。
そうなると、港は栄えたものだろうと想像するけれど、今はひとつの人影もない。
矢田川の川べりの風景をデジカメで写す。
さっき、その画像を眺め、突然に「廃市」という小説を思い出す。
福永武彦の小説の題名だ。
大野町は、決して「廃市」ではない。
町おこしは盛んで、この町が好きな人がいくつかのブログで紹介もしている。
出会う人は挨拶をしてくれて、駅前には老舗のえびせんべいのお店もある。
昔栄えたひとつの町が錆びるように今に残り、人も残る。
短い旅を終え、暗闇に包まれた駅のベンチに座り電車を待つ。
電車に乗れば、一駅ごとに乗客は増え平日の喧騒に戻ろうとする自分に気づく。。
電車は40分で名古屋駅のホームに流れ込み、夢が覚める。
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革工房うえすと