8 11

夏の休暇に入った。

外で佇んでいたら僕の前をふたりの男女が通り過ぎた。
寄り添って歩いていた。
黙って歩いていた。
手を繋いで歩いていた。
若い男女だった。
結婚しているのか恋人同志なのかと考えながら、
僕はふたりを眺めていた。
視界から消えるまで眺めていた。
手を繋いだままでふたりは僕の視界から消えた。

願わくば、ずっと手を繋いだままでいて欲しい。


8 4

名城公園を散策した。
突然、目の前を黒い影が横切り、それは僕の3メートルほど右手に舞い降りた。
烏だった。
異様に大きく威風堂々としていた。
気に負けた。
威圧され少しの恐怖を感じ、目を合わさないように通り過ぎた。
なんだか、厭になって来る。
老いるとはそういうことでもあるらしい。

夏の昼間に公園のベンチに腰かけ時間が通り過ぎるのを感じるのが好きだ。
若い頃から好きだった。
夏の樹々の音を聴くのが好きだった。
夏の空気の臭いが身体に沁みるのが好きだった。

今年の夏もそんな時間を過ごした。
あと何回そんな時間を過ごせるんだろうな。