作者別一覧
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モーリス・ルブラン
(1)
・
MAURICE LeBLANC
モーリス・ルブラン
「虎の牙」(原題:LES DENT DU TIGRE)
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
創元推理文庫
値段
¥880
初版
1973-03-23
総合
☆☆
ストーリィ
☆☆☆
技術
☆
アルセーヌ・ルパン。19世紀のフランスに生まれたこの歴史的な英雄の名を、我々は日本人でありながらほとんど例外なく知っているはずである。漫画や劇場用アニメーションで良く知られるようになった「ルパン三世」の祖父であり、元祖怪盗紳士。決して縛につくことのない神出鬼没の大泥棒であり、城館やサロンしか狙わない謎の男であり、また変装の名人。幾多の名と顔を使い分け、時には王侯貴族として、冒険家として、また探偵として活躍する彼は、シャーロック・ホームズと並び推理小説史上の巨人として今なお君臨しつづけている。
本書「虎の牙」はそうしたアルセーヌ・ルパン一世の活躍を描いたシリーズの一篇である。原書はフランスのアシェット社より1921年に刊行され、その後ル・リーヴル・ド・ポッシュ社によって改定された。今回紹介する創元社の文庫版は、これらアシェット社の旧版とポッシュ社の新版の双方を参考にし、ヴァン・ダインやクイーンの翻訳で知られる井上勇が日本語にまとめ上げた――言わば完全版である。
詳しくは訳者本人により巻末の作品解説で説明されているが、本書は現在普及しているアシェット版をベースに物語の展開や構成面で割愛されたパートなどを旧版から拾い上げ、補完したような造りになっているらしい。あらゆる要素が詰め込まれているためお得感があるが、おかげで550ページを超える分厚い本になってしまっている。
また話の流れを大胆に断ち、いきなり過去のルパンの冒険談が差し挟まれるなどしているところもあるため、物語に「中だるみ」の要素を与えた、無駄に冗長な話にしてしまった、などという批判の声が出てくるであろうことが予想される。――だが全ての要素を詰め込む「完全版」というスタイルには、これらのネガティヴな要素は必ず付きまとうものだ。それを知りつつ、突こうとするのはいささか野暮な行為と言わざるを得ない。
個人的な話で恐縮だが、はじめて本書に触れたのはまだ10才前後の頃――小学生時代であった。切っ掛けがなんであったのかは既に忘却の彼方であるが、恐らく「今まで読んだことがないくらい分厚くて長い物語の本を読んで、それを自慢にしてやろう」などという、その年頃の子供らしい見栄や好奇心によるものであったに違いない。
ともあれ、学校の図書室から豪華なハードカヴァー版の「虎の牙」を借りてきて夢中で読んだ。比喩的な表現ではなく、本当に夢中にさせられた。寝食を忘れ、1日か2日で一気に読み切ったはずだ。
いま振り返ってみても、あれほどまでに胸を躍らせ、ページを捲るのももどかしく手に汗握りながら物語を追った経験は稀有である。ジュール・ヴェルヌの『神秘の島』とジェイムズ・P・ホーガンの『星を継ぐもの』を他に例はないのではあるまいか。
とにかく、この「虎の牙」には少年少女をミステリや冒険小説の虜にしてしまう、ありとあらゆる要素が含まれている。
ある日、アルセーヌ・ルパン(本書ではリュパンと表記されている)ことドン・ルイス・ペレンナは、コスモ・モーニントンという男が残した2億フランの遺産管理を依頼される。ペレンナの良き友であったモーニントンは、自分の血縁者の捜索をペレンナに依頼。これが発見された時は、その遺族に2億フランを。もし遺族が発見されなかった場合は、友ペレンナにこれを譲渡する――という遺言書を残して亡くなったのだ。
コスモ・モーニントンの友情に報いるためドン・ルイス・ペレンナは早速調査を開始するが、同件に関して裏付け調査を行っていた警視庁のヴェロ刑事が何者かに毒殺されるという事件が発生。関係者は俄かに騒然としだす。
ヴェロ刑事が今わの際に残した事件の手がかりは犯人により盗まれたり隠滅されたりしていたが、何者かの――恐らく犯人かそれに類する人物の――歯型と思われるものを刻んだチョコレートだけが唯一残された。そしてその歯形は、虎の牙を思わせる細く鋭利なものだったのである。
この虎の牙を手がかりにペレンナは調査を続けていくが、死体に褐色の斑点を浮かび上がらせる毒は、ヴェロ刑事だけにとどまらず多くの人間を犠牲にし、ペレンナの前に累々と死体を積み上げていく。二転三転する犯人像と事件の真相。命を狙われ、また警察からも追われるはめに陥るペレンナことルパン。とにかく最後の最後まで目が話せない、どんでん返しの連続が読者を待っている。
調査が進み、新事実が明らかになるたびにペレンナことルパンは犯人候補の名を次々と挙げていくのだが、それが次に浮上してくる新情報によって覆されるカタルシス。度々の調査を妨害し、限りなく黒に近い振る舞いを見せ続ける美女と、彼女に心を奪われたルパンとの対決、またその恋の行方。そもそも犯人はだれなのか。密室殺人のトリックは。20人もの警官が見守る中、忽然と現れた怪文書の出所とその送り主は。
謎が謎を呼び、好奇心や探究心を刺激する幾多の要素がグイグイと読者を引っ張っていく本書は、対象読者を活字を覚えたばかりの少年少女に限っておくにはもったいない傑作である。
無論、先に述べた完全版故の欠点や、過剰なまでのアルセーヌ・ルパンへの賛辞、装飾過多な文章、芝居がかった古臭い台詞、旧世紀の古典であるという時代的なハンデなど、本書や著者モーリス・ルブランの抱える短所は細かい部分を含めるとかなりの物になるだろう。
だがそうした些細な粗をものともしない、巨大な力が本書にはある。
今日でも、犯罪のトリックや事件そのものにだけ力を注ぎ、登場人物の人間を描写する手間やキャラクター個々に人間性や生活観、個性、魅力などを与えることが出来ずに終わってしまう本格推理小説は多い。
「タイトル」
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
講談社
値段
¥648
初版
2003-08-15
総合
☆
ストーリィ
☆☆
技術
−
「タイトル」
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
講談社
値段
¥648
初版
2003-08-15
総合
☆
ストーリィ
☆☆
技術
−
「タイトル」
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
講談社
値段
¥648
初版
2003-08-15
総合
☆
ストーリィ
☆☆
技術
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「タイトル」
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
講談社
値段
¥648
初版
2003-08-15
総合
☆
ストーリィ
☆☆
技術
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