作者別一覧
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アルフレッド・ベスター
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レジーヌ・ペルヌー
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ALFRED BESTER
アルフレッド・ベスター
「虎よ!虎よ!」(原題:TIGER! TIGER!)
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
早川SF
値段
¥680
初版
1978-01-31
総合
☆
ストーリィ
☆
技術
☆
サイエンス・フィクション史に残る古典的名作。原書の発行は1956年。翻訳は中田耕治、解説は早川SF文庫の翻訳でおなじみの浅倉久志氏。……個人的に、どうせなら彼に翻訳もやってもらいたかった。
本書に対する各メディアや評論家、著名作家たちの評価はとにかくベラボウに凄い。「10年に1度の傑作」だのという文句はざらだし、サミュエル・R・ディレニィは「現代SFの最高傑作」と、ウィリアム・ギブスンは「麻薬的快感」と褒め称えている。おまけに辛口で知られる批評家デーモン・ナイトまでもが「並みの小説6冊に匹敵するほどの優れたアイディアがある。それでは飽き足らずに、もう6冊分の悪趣味と、矛盾と、不合理さと、完全な科学的誤謬を付け足している。(中略)ベスターはガラクタから芸術品を生み出した」と絶賛しだす始末。とにかく、本作が50年代のSF界にとっての風雲児だったことに間違いはないようだ。
日本でも人気で、1989年のSFマガジン「オールタイムベスト」長編部門で第7位にランクインしている。そのきっかり10年後に行われた同企画では第4位に昇格。発表から半世紀経った今でもその評価は衰えるどころか、逆に不朽の名作としての地位をますます確固たる物にしつつあるようだ。
確かに、豊富で斬新な(当時を考えたら、それはもう凄かったに違いない)アイディアを盛り込んでいるため、今読んでもなかなかに面白い。それだけベスターの感性やら筆力やらがブッ飛んでいたのだろう。
大まかな粗筋は、以下のようなもの。時は25世紀、「ジョウント」と呼ばれる生体瞬間移動(要するにテレポーテイション)技術の確立により、人々の生活や文化が我々の知る現代とは全く違ってしまった時代。ジョウントの発達で、地球や火星、金星などからなる『内惑星連合』と木星を中心とする『外衛星連盟』との戦争が勃発している社会がこの話の舞台である。
主人公ガリヴァー・フォイルは、破壊され漂流する宇宙船『ノーマッド』号の中で生死の境をさ迷っていた。そこへ、大企業プレスタイン社の宇宙船『ヴォーガ』号が通りかかる。フォイルは歓喜し救難信号を送って助けを求めるが、ヴォーガ号はそれを無視。フォイルを置き去りにしてしまった。
これに血が沸騰するほどの怒りを覚えたフォイルは、ヴォーガに復讐を決意。それまで絶対に死ねないと懸命の努力を始める。やがて彼は火星と木星の間でさ迷う野蛮人たちに回収されて顔に虎の模様のような刺青(タトゥー)を掘り込まれたり、乗っていた漂流船『ノーマッド』号に巨額のプラチナと軍事秘密パイアが積んであったために諜報部につけ狙われたりと色々あるが、ヴォーガに復讐することだけを心の支えに着々とその準備を整えていく。
ヴォーガを指揮しフォイルを見捨てるよう命じた責任者は誰なのか、戦争の行方は、フォイルの復讐はどうなるのか、機密とされるパイアとは一体何なのか――
見所は多く、話の展開はジェットコースターのようにスピーディで飽きさせない。ただ、ベスターに癖があるのか翻訳に問題があるのか(多分、両方だと思う)、人によっては少し読みにくい文章で綴られているとは思う。ただ、半世紀前に絶賛され、今なお名作として語り継がれている作品として頷けるものを持っているのも確か。強くお勧めはしないが、興味があるなら是非。
2003/11/26
BENY MATUYAMA
ベニー松山
「不死王」
形態
単行本
種別
ノヴェル
部門
中編
出版
−
値段
−
初版
−
総合
☆☆☆
ストーリィ
☆☆☆
技術
☆
ベニー松山の傑作短篇。今まで読んできた短篇中編小説の中で一本だけ「マイベスト」と呼べる作品を選ぶとしたら、この「不死王」を推すかもしれない。それだけ心に残っている作品である。
ベニー松山は1967年07月26日生まれの、スタジオベントスタッフ所属ライター兼小説家。通称ベニ松。早稲田大学に12年間在学した経歴があるらしい。当初はゲームライターとしての活動がメインであったが、ファミコン必勝本(JICC出版局)誌上に小説版ウイザードリィ「隣り合わせの灰と青春」の連載を開始。以後小説家としても活動することになった。ペンネームは、本人曰く漫画「プロゴルファー猿」の紅蜂のファンであったためそこから取ったとのこと。
本書は、コンピュータゲーム「ウィザードリィ」のノヴェライゼーションという体裁をとってはいるが、ほとんどオリジナルに近い。よって予備知識は全く不用である。トールキンの「指輪物語」が意識されていると囁かれているように、どちらかというとそちらの雰囲気の方が強いくらい。
この作品はJICC出版局(現在の宝島社)発行の「ウィザードリィ小説アンソロジー」という単行本に収録されていた。初版は1991年09月15日で、定価は1200円。他に佐山アキラ(=馳星周)の『酔いどれの墓標』、手塚一郎の『女神ソルジーナ』が収録されていた。が、これは絶版となっており現在は入手が極めて困難。
(聞いてくれ、俺はこの本を――恐らく発売間もない頃に――今はもう無い小さなゲームショップで100円で叩き売られているところを購入したのだ)
これを踏まえて、ベニー松山の長編小説『風よ。龍に届いているか』が再刊行された際、下巻に同時収録された。こちらは現在でも大きな書店に行けば入手は可能。購入するなら、このルートから手に入れたほうが良いだろう。
ファンタジー小説で、タイトル通り「不死王」と呼ばれる不老不死の怪物の苦悩を描く作品になっている。誰もが憧れる不老にして不死、絶対に死なない存在とは、逆に言えばどんなに望んでも死ぬことが許されない存在でもある。そんな「不死王」の本質を真に理解できるのは、同じ不老不死の性質を持つエルフ族最後の王アルドウェンだけだった。おりしも惑星規模での環境破壊、各種族の寿命の均一化の危機が囁かれる時、このふたりの不死王が出会う。――最後に交わされた不死王たちの約束は、果たされることがあるのか。彼らはどこに向かうのか。
この作品は、ベニー松山の「隣り合わせの灰と青春」「風よ。龍に届いているか」と密接に関係している。「不死王」、「隣り合わせの〜」、「風よ。龍に〜」の順で読んでいけばより大きな感動を得ることになるだろうと思う。お勧め。
「隣り合わせの灰と青春」
形態
単行本
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
JICC
値段
¥980
初版
1988-12-19
総合
☆
ストーリィ
☆
技術
−
ここで紹介しているのは自分が所有している単行本(ハードカヴァーというには少し安っぽいが)版だが、上下巻に分けられた文庫版も発刊されている。単行本の方は既に絶版となっていて、現在は入手が極めて困難だろう。文庫版(復刻版)の方は集英社スーパーファンタジー文庫から出版されていて、これはもしかすると現在でも入手が可能かもしれない。
ご多分に漏れず「ウィザードリィ」のノヴェライゼーションなのだが、その業界では伝説的な作品として未だに語り継がれている。ウィザードリィそのものや、ノヴェライズなどの草分け的存在と言っても過言ではないだろう。しかし著者の初期作品なので、他の著作などと比較すると幾分弱い。特に文章は発展途上の段階にあることを窺わせる。それでも彼の非凡な素質の片鱗を感じさせてくれる作品であることは確か。
上で紹介している「不死王」とは世界観が連続していて、本書は「不死王」完結後の世界を舞台にしている。両作品に登場するキャラクターたちも様々な形で関連性が示唆されていたりして(血族の末裔だったり、転生であったり、不死のまま生き残っていたり)面白い。
ウィザードリィ――延いては現在さかんに行われるようになったゲームの小説化を成功させた初期の代表例として、歴史的価値も高い。そういう部分から一読してみても良いだろう。お勧め。
2003/11/20
「風よ。龍に届いているか」上・下
形態
単行本
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
創土社
値段
¥1650+1650
初版
2002-11-11
総合
☆☆☆
ストーリィ
☆☆☆
技術
☆
1994年08月に宝島社から新書判として登場した、国産ファンタジー小説の傑作(528ページ、税別1165円)。これは初版が刊行された後は長く絶版状態が続いていたこともあり、ファンからは復刊を熱望する声が上がっていた。それが実って2002年、装いも新たにハードカヴァー上下巻構成で再刊される運びとなったわけなのだが、実は自分もこの再刊行を待望していた口だったので、非常に喜んだのを覚えている。
今回紹介するのは、新品でも比較的入手しやすいこの再刊版(上製四六判)。実を言うと本書には、絶版となった宝島社版にはなかった特典がある。このガイドでも紹介した、「不死王」が下巻の巻頭に収録されているのだ。――まあ、ページ数合わせという大人の事情もあったのかもしれないが、何にしても絶版状態で入手が極めて困難だった名作だけに、ファンとしては嬉しい限りだろう。
なお、初版本には限定特典として著者ベニー松山が制作した、キャラクター紹介など(あとがきに代えたコメントなども収録)の小冊子が付属している。上下巻に一つずつ、地味に挟み込まれているので、自分も最初は気付かなかったが。こちらも手にした者にとっては嬉しいサーヴィスだったのではないだろうか。
さて、肝心の内容なのだが、これは「不死王」「隣り合わせの灰と青春」「風よ。龍に届いているか」の3部作最終巻と考えて良いだろう。もちろん、前2作と同じように、コンピュータゲーム『ウィザードリィ』のノヴェライゼーション(小説版)の形をとっていることにも変わりはない。実際、このあたりの版権、著作権問題が復刊を8年も待たせた原因の1つだと言われている。
ともあれ、前2作に共通するように、原作となっているウィザードリィを全く知らなくても楽しめる構成と内容になっていることは多くの読者が保証するところだろうから、予備知識ゼロの人間でも純粋な国産ファンタジーの傑作として、安心して楽しめることと思う。
基本設定や世界観なども前2作と深く関連していて、主役級のほとんどが「不死王」「隣り合わせの〜」に登場した主要キャラクターの転生や子孫であることが示唆されている。だから、できるなら「不死王」「隣り合わせの灰と青春」の順で読み、最後に本書に触れていただきたいところ。――まあ、本作単品でも充分に楽しめることは請合うが。
いつものようにアウトラインというか、物語の粗筋を紹介したいところだが、どうにも困る。紹介する気になれない。「とにかく読め」で終わらせたいのが正直なところだ。
ジヴラシア(通称ジヴ)という名の、悪の戒律に従う忍者を主人公に据え、彼と彼の仲間たちの交流を描いた物語だ……と言えないこともないのだが、それで全てが語れるとも思わない。とにかく主人公のジヴたちは冒険者としてはほとんど欠点のないベテランの実力者で固めたパーティなのだが、これがある事件を切っ掛けに壊滅の危機に追いやられるところから、物語は大きく展開していく。
ジヴたちを未曾有の危機に陥れたのは、今まで報告されたこともない、人間に憑依して肉体を乗っ取ってしまう驚異的な化物の大発生。ジヴたちは、これが溢れ出す迷宮に閉じ込められた仲間を助け出そうと画策するが……。
壊滅の二文字が脳裡にちらつく時、ジヴとそのパーティのメンバーたちは己を縛る戒律に捕らわれない行動と決断を見せる。様々な経験が登場人物たちの結合力と相互理解に変化を与えていく様は、少なからぬ感動を与えてくれると思う。
主人公が能力的にちょっと完璧過ぎるとか、まあ細かい注文の付け所は個々であがってくるかもしれないが、それを補うだけの充分な魅力ある作品だと思う。お勧め。
2003/11/20
RÉGINE PERNOUD
レジーヌ・ペルヌー
「ジャンヌ・ダルク」(原題:JEANNE D'ARC)
形態
単行本
種別
啓発書
部門
−
出版
東京書籍
値段
¥3689
初版
1992-09-12
総合
☆☆
ストーリィ
☆
技術
☆☆☆
フランスの英雄、ジャンヌ・ダルクについて書かれた資料。まさに「ジャンヌ・ダルク辞典」といった存在。生前は間違い無く世界最高のジャンヌ・ダルク研究家として知られていたレジーヌ・ペルヌー女史、そしてその愛弟子であるマリ=ヴェロニック・クラン女史の共著で、原書発行は1986年。日本語版の翻訳は福本直之。
ジャンヌ・ダルク関連書物は、彼女のカリスマ性や神秘性もあって古今東西溢れかえるほど存在する。だが現在我々が入手できる資料の中で、これに勝る1冊は存在しないだろう。ジャンヌについて語るなら、まずこの本を読んでおかなければならない。これはほとんど義務に近い。残念なことに翻訳がイマイチだったりするのだが、それは著者たちの責任ではない。
ジャンヌ・ダルク
(本書を一読すれば、彼女に対するこの呼称が誤りであることが分かるだろう。ジャンヌはラ・ピュセルと呼ばれるべきなのだ。本人がそう望んだように)
は15世紀――つまり中世の人間である。だからして、彼女を知るためにはまず中世を知らなければならない。同じ言葉でも、現在と当時とでは解釈や定義などが違ったりするので、時代背景について充分な知識が無いとジャンヌ関連の資料を読み漁っても正しい解釈が出来ないのである。
その点、著者であるペルヌー&クラン師弟は、世界が認めたフランス中世史学者であり、ジャンヌ・ダルク研究の世界的権威である。基礎がしっかりしているから、ミーハーな連中が都合の良い資料を引っ張り出し、ご都合主義の解釈をしている部分などをバッサリ斬り捨てることもできるのだ。
彼女たちがジャンヌに寄せる愛情のようなものは随所から窺い知れるが、それでも歴史家として科学的・客観的な視点を失わず、ジャンヌファンなら思わず神秘的な解釈を優先したくなるところでも冷静にものを見て、的確な判断をしているのが分かる。
日本語版では一部に誤訳が見られるのが残念だが、それでもこれを超えるジャンヌ関連の資料は未だにお目にかかったことが無い。一般人が読んで楽しいかは甚だ疑問だが、中世フランスや歴史、何よりジャンヌ・ラ・ピュセルに興味関心のある人間なら、この本が著されたことを彼女の信じた神に感謝したくなること請け合いである。星はそういう人間を対象にしてつけた。
2003/11/20
「タイトル」
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
講談社
値段
¥648
初版
2003-08-15
総合
☆
ストーリィ
☆☆
技術
−
I N D E X