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遠藤明範
(2)
AKINORI ENDO
遠藤明範
「攻殻機動隊 BURNONG CITY 灼熱の都市」
形態
新書
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
講談社
値段
¥780
初版
1995-11-06
総合
−
ストーリィ
−
技術
−
士郎正宗原作の漫画「攻殻機動隊」のノヴェライズ(小説版)。カヴァー(表紙)イラストや挿絵に劇場版アニメーションとして公開され、世界的に極めて高い評価を得た同名映画作品のヴィジュアルが使いまわされているところをみると、「攻殻機動隊」シリーズのメディアミックス戦略の一環として刊行された作品だと思われる。
ちなみに原作者はまったく本作の制作にタッチしておらず、著者が自らオリジナルストーリィとして書き下ろした作品である。これはクオリティや完成度に直接的に関与してくることだけに大きな意味をもつ。看板は「攻殻機動隊」であるが、中身が必ずしもそれであるとは限らないのだ。
内容は原作にも登場したカウンターテロ特殊部隊である公安九課――通称「攻殻機動隊」の活躍を描いた近未来SF。主人公も原作や劇場版と同様に、「少佐」の渾名で知られる草薙素子がつとめる。彼女の同僚であるバトー、トグサ等といったお馴染みの面々、またマスコット的存在である思考戦車フチコマも登場、活躍している。
ただし著者が攻殻機動隊の空気を読めていないのか、或いは解釈を誤ったのか、どうにも単なる電脳SF小説に成り下がってしまっている感が拭えない。なにより、主人公である草薙素子の描写には多々の疑問点が残る。
この「灼熱の都市」を読んでいると、少佐の無能ぶりが目立つのだ。素人のようなミスを再三やらかし、それが危機の連続を呼んで物語を盛り上げているという構成にも不満が残る。これは下等な演出であり、主人公の能力を相対的に落として状況や敵の存在を大きく見せるという子供騙しに過ぎない。これでは攻殻機動隊の世界観を描けないし、草薙素子や九課の面々を活字として再現することは不可能である。
また、大きなフォントと大きな余白を存分に使い、映画から切り取ってきた絵を挿絵としてふんだんに盛りこんでいるためページ数が無駄にかさんでいる。本編は約240ページに及ぶのだが、普通の文庫本に換算すると200に及ぶかどうかといった程度だろう。総じてコストパフォーマンスは低い。
なお、本書は絶版になっているようなので、今となっては入手が難しいかもしれない。もっともコレクターズアイテム程度としてしか価値を見出せない作品で、「攻殻機動隊」の名がつく物は全て収集したいという物好きだけが手触を伸ばしていれば良い物なのだろう。
204/06/19
「攻殻機動隊2 STAR SEED」
形態
新書
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
講談社
値段
¥760
初版
1998-01-16
総合
−
ストーリィ
−
技術
−
前作
「攻殻機動隊 BURNONG CITY 灼熱の都市」
に続く、士郎正宗原作「攻殻機動隊」の小説版。
今回は宇宙工場で起こったテロの鎮圧と人質救出のため、公安九課「攻殻機動隊」が大気圏を飛び出して活躍するという話。
暇つぶしになる程度は話も練ってあるが、これといってセールスポイントを持たない平凡な作品。「攻殻機動隊」の看板を掲げてなければまず売れそうにもない話である。
とはいっても原作などと比較すると、主人公草薙素子(少佐)の口調や言動に違和感が絶えず付きまとい、世界観や全体的な雰囲気にもかなり齟齬が目立つ。小説技術も未熟で、素人が書いたような文章が続くのもマイナスポイント。
そもそも、いくら作者個人が気に入っているからといって思考戦車「フチコマ」を表に出し過ぎなのである。これに随分と文字を費やしているから、主人公である草薙素子や九課の面々に描写が行き届いていない。
大体、公安九課のトップに立つ少佐が、英語を話せないという設定からしておかしいのだ。「日本語を話せる人いないの」なんてボヤき、フチコマに翻訳してもらって外国人と会話するなどということが起こり得るわけがない。
時にアンダーカヴァー(潜入捜査)を行ったりもするわけだし、カウンターテロ的な性格を持つ部隊だけあり、九課の隊員は海外から入ってきた犯罪者を相手にすることも多い。大体、原作でも草薙少佐はたびたび海外に飛んでいるし、外国人とも流暢に会話している。UKの特殊部隊SASにも出向ているではないか。本当に原作を抑えているのか、と著者に問いたくなってくる話である。
しかも(これは著者に直接的な責任はないが)カヴァーイラストや挿絵などは、すべてTVゲーム版「攻殻機動隊」から引っ張ってきた画像の使いまわしという始末。前作と同様、熱狂的なファンのコレクターズアイテムとしてくらいしか売りこみ様がない。絶版になるのも頷ける話である。
204/06/19
I N D E X