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ウラガリ第5話



 草の匂いをかぎながらジェイク・セヴァレイは横たえていた上体を起こした。最後の記憶では茜色に染まっていた世界も、今はその衣を夜の装いへと変えている。
 腰の後ろに両手をつき、ジェイクは空を見上げた。
 コフィン島では本土と比較して綺麗に星が見えるらしい。だが満天の星空も、今夜は銅貨のような赤茶色の月が台無しにしていた。
「ねえ、あたし、もうしばらくここにいる予定なんだけど」
 乱れた服のすそを直しながら、名も知らない女が言った。
 その仕草が相手にどう見えるか。どのような影響を与えるか。すべてを計算した上で、意図的に艶っぽく振舞っている。
「場所はまたここで良いから。もう一度、会えたりする?」
「そういうことは決めないことにしてるんだ」
 近づいてきた女の髪を梳きながら、ジェイクは言った。
「次、偶然会ったら、その時はまた付き合うよ。狭い島だし、それほど運に恵まれてなくたって確率は高い」
「結構、ロマンチストなんだ」女が言った。
 彼女は数時間前にはじめて会った観光客だった。相手が自ずから明かした情報だが、改めて聞くまでもない。コフィン島民は五百人弱。全員が顔見知りのようなものである以上、余所者は一目で分かるからだ。
 女は、友人の付き合いでこの地を訪れたのだと話した。相手はアマチュア無線を愛好する同じ大学の娘らしい。
 これも別段、耳新しいことではなかった。
 この周りの島々には、本土にはない特殊なコールサインが割り振られる。それを目当てとする旅行者はもはや見慣れた存在だ。
「そうだ、名前教えてくれる? お互い、聞いてなかったよね」
 言って、女は自ら先んじて名乗った。そのつもりはなかったが、こうなると応じないわけにもいかない。
「俺はジェイク・セヴァレイだよ。ジェイクで良い」
「わあ、名前もそのまま外人なのね」
「ああ――」
 この程度で驚くのなら、目の前の男が中学生であることを知った時、どんな反応を示すのか。
 そんな想像を楽しみつつ、ジェイクは言葉を続けた。
「先祖伝来の名前でね。この島にはもともと日本人がひとりもいなかったんだ。俺は、最初の入植者の中にいた宣教師の子孫なんだよ」
「すごぉい」
 女は大仰に驚いてみせ、しなを作って身体を寄せてくる。
 そう、異性などこの程度のものだった。
 天然の――近年、かなり茶色がかってはきたが――ブロンド、色素の薄い瞳。東洋人とは違った長い足。彫りの深い端正な相貌。
 多少、条件がそろっているだけで向こうから寄って来る。この、おそらくは十歳近くも年長の女がそうであったように。
 ――だったら、今日のみじめで無惨なあれはなんだ?
 ここ数時間だけでもう何度目になるか。自分の中のもっとも臆病で、それゆえに攻撃的な一部分が鋭く問いかけてきた。
 ――この女のようなタイプはもう何人も知っている。歳の割には悪くない経験数。それがお前の自慢なのだろう。しかし、本命の相手には見事なほどあっさりと袖にされたな。
 そして声は冷徹に続けた。ジェイク、お前は失恋したんだよ、と。
「くそっ、あれはそんなもんじゃない」
「えっ?」
 携帯電話を弄っていた女が、液晶から顔を上げた。
「いや、何でもない。女なら誰でも誘うわけじゃないって言ったんだ。普段はもうちょっと慎重なんだけどな。今夜はどうかしてる」
 女は妖艶に目を細め、ソバージュの茶色い髪を掻き分けた。
「あたしもよ。いつもは初めて会った相手にいきなり許したりしないんだから。しかも、こんな外でなんて」
 ジェイクは彼女の肩を掴み、いささか強引に自分の腕の中へ導いた。そして奪うように口をふさぐ。女は最初こそ驚いたようだが、すぐに体から力を抜いた。ジェイクは彼女を抱く腕に力を込めた。
 この島にいる他のどんな男に同じことができる?
 最高の雄は、最高の雌を手にする権利を持つ。それが生物のルールだ。ならば吉沢操は、ジェイク・セヴァレイとつがう運命にあるはずだった。
 だが彼女の女性として未成熟な部分と自覚の不足が、判断を一時的に誤らせた。それだけのことだ。
 とはいえ、こちらのやり方にも小なり問題があったのかもしれない。
 その気になれば容易であったにもかかわらず、ジェイクは島にいる娘たちに手を出したことはなかった。彼女たちは全員が中学生以下で、リスクが伴う遊びの相手としては危険すぎたからだ。女は男で変わる。子どもではそれを隠し通すことなど期待はできないだろう。そんな冷静な読みがあった。
 だからジェイクは彼女たちの前で紳士的に振る舞ってきた。つかず離れず、中学生らしく。今回の操に対するアプローチも、その延長線上にあったといえる。
 だが、それも時によりけりだったのかもしれない。相手と場合によっては、もっと強引に――まさしく今、目の前の女にしているように振舞うべきだったのかもしれない。
「じゃあ、あたしそろそろいかないと」
 ジェイクの胸に両手を沿え、慣れた感じで女は身体を離した。
「こうなるってもう少し早く分かってたら良かったんだけど。ホテル、夕食用意してるころだしさ。また、会えるのよね?」
「運が良ければ」
「狭い島なんだから、それほど運はいらないんじゃなかった?」
 女は悪戯っぽく笑い、楽しかったと言って踵を返した。その背を見送ることなく、ジェイクはまたその場に腰を落とす。遠ざかっていくかすかな足音を聞きながら再び夜空を仰いだ。
 先ほどまでの自分の凶暴な思考に、我ながら少し驚いていた。同時に少なからず嫌悪感も抱く。
 あれでは、今日の大人たちと同じだ。なぜだか知らないが連中は酷くナーヴァスになっていた。それが八つ当たりにも似た形で生徒たちに向いていたのだ。人としてあれほど無様な振る舞いはない。
 自分の弱さや不安、劣等感を他者への攻撃性へと転化させる。それは愚かなことだ。小さな人間のやるべきことだった。少なくとも歴史を変えると豪語した男の態度ではあり得ないだろう。
 しっかりしろ。無言の声で、そう己に言い聞かせた。お前はジェイク・セヴァレイなのだ。
 その時、ジェイクは辺りの奇妙な静けさに気がついた。
 そう急いでもいなかった女の足音――これは良いにしても、虫の鳴く声や木の葉のざわめきすらも止んでいる。どれかひとつならあり得るが、同時にすべてがとなると明らかにおかしい。
 にわかな寒気に身震いしながら、ジェイクは立ち上がった。むき出しの二の腕をさすり、周囲を見回そうと目を凝らす。
 トサリという何かの軽い落下音がしたのは、それとほぼ同時だった。そちらに目をやる。明るい月明かりの下、草むらに転がった女物のバッグが見えた。
 ――なんだ、まだいたのか。
 そう声をかけようとした瞬間、ジェイクは表情を凍りつかせた。鼓動まで止まらずに済んだのは、本当に僥倖としか言いようがない。
 数歩分の距離に、三つの人型をしたシルエットがあった。
 ジェイクが最初に目を合わせたのは、そのうちのひとり、先ほど別れたばかりの女だった。彼女は目を伏せがちに細め、何かを訝しがる時のように首をわずかに傾げていた。ジェイクとは真正面から見つめあう形だったが、向けているのは背中だった。
 まばたきを止めた、どろりとした目。痙攣するまぶた。背中の上についた顔面。首を百八十度捻られ絶命しているのだ、という結論にいたるまでジェイクの脳は数瞬を要した。
 残るふたりはいずれも長身の男だった。ひとりは捻り折った女の首に歯牙を突き刺し、彼女の頚骨をゴリゴリと噛み鳴らしていた。その傍らにいる三人目は、彫像のごとく佇み、世界を睥睨するかのようにゆっくりとした視線を周囲に巡らせている。
 不意に凄まじいおぞ気が走り、ジェイクはくの字に身体を折った。同時に催してきた吐き気を抑えるために右手で口を覆う。内臓を丸ごとぶち撒けてしまいそうなほどの強烈な嘔気だった。
 膝が生まれたての小鹿のように震えている。逆流してきた胃液が鼻孔、そして口の端から噴き出す。気づけば、ジェイクは地に崩れ落ちていた。
「それでは困る」
 降ってきたその声は、だが地底から響いてくるような錯覚さえいだかせた。ずしりと重たい手がジェイクの肩へ無造作に置かれる。
 男のうちのひとり――佇んでいた彫像のようなシルエットが、今は背後に立っていた。ジェイクは喉が焼けるほどの吐瀉を繰り返しながら、振り返る。至近距離から外貌を確認しているはずなのに、脳にはただひたすらどす黒いイメージしか残らなかった。男の顔が分からない。視覚が、認識が正常に働かない。
「昼間は高説を楽しませてもらった」声が言った。「歴史を変えるそうだな。お前たちのいう <八大陰相> を制圧し、お前たちのいう <真羅> を打倒する」
「――ならば、絶好の機会というものだ」
 もう一方、食事をしていた男が、ミートローフを下品にかき混ぜるような音を背景にささやく。
 見ると、彼は切断した女の首を頭上に掲げ、心地良さそうに鮮血を浴びていた。残った胴体を酒樽のように片腕で抱き、溢れ出る血飛沫で喉を鳴らしている。
「最終目的を目前ともすれば」
 その言葉で、ジェイクは突然理解した。
 まるで王気に圧されて平伏する下々のように、自分が地を這わされている理由――
 臓腑から凍てつくような悪寒。麻痺する神経。発狂寸前の意識が、すべてを裏付けていた。
「しん……ら…… <真羅> ……」
 嘔吐《えず》きながら、ジェイクはかすれ声でそう搾り出す。
 愕然と自分を見下ろす化物を仰いだ。苦痛と得体の知れない何かのせいで、とめどなく涙が溢れてくる。様々な亜種が確認されている人類の仇敵、温羅。その頂点に君臨する <王> たちが今、眼前にいる。ある種、神とも呼べる存在が――しかも二体同時に。
 と、そこで、世界に音が戻ったことにジェイクは気づいた。
 だが返ってきたのは虫の声でも葉音でもなく、獣の遠吠えが幾千にも重なり合ったような低い風の唸りだった。
 ――違う。
 本能が嗅ぎつけた異常にジェイクは目を見開く。
 戻ったのではない。世界そのものが変わったのだ。
 その左証《さしょう》として、草原についていたはずの手が、生肉に触れたような水っぽい感触を伝えてくる。嗅覚を刺激する錆びた匂いと強烈な腐臭。裸体を横たえることさえできた、柔らかい草花はもうどこにもなかった。焼き焦がされたような黒い土壌は、生理的嫌悪を催す奇妙な弾力と生あたたかさを持っている。負荷をかけると滲み出てくるのは、胆汁そっくりの黄褐色をした粘液だった。
 違う。ここは、自分の知っている世界ではない。断じてない。
「ど、こだ。俺に……」
 何をしたんだ。
 そう言いかけた時、ジェイクは正面に林立している奇妙な柱の存在に気づいた。長さと太さはおおむね電柱程度か。それが視界の向こうまで、横一列に延々と続いている。どれも表面は塗れたような光沢を放っており、節くれだった樹皮を思わせる複雑な起伏が有機的な曲線をもたらしていた。多くは内出血そっくりの黒ずんだ紫色していて、遥か頭上の先端部には黒い球体の飾りがついている。
 人間や獣を巨大な釜に放り込み、どろどろに溶け合うまで煮詰めた後、ゼラチンで棒状に無理やり固めた――そんな説明を受けても決して驚くに値しない禍々しさがある。
 すぐ隣から、ぬかるみの中で誰かが身じろぎするような気配が伝わった。見ると黒いシルエットの男が、ゆっくりと右手を動かそうとしていた。一本だけ伸ばされた人差し指らしき突起は、やがて柱のひとつ、その頂点の球体を指し示した。ジェイクは釣られるようにそちらへ視線を固定させる。そして気づいた。
 この空間に渦巻く獣じみた咆哮の多重奏は、頭上に並ぶ幾千という球体のひとつひとつからあがっていたらしい。
 そして、単なる丸いオブジェだと思っていたあの黒塊は、忌まわしい伝承でしばしば語られる存在に他ならなかった。
 かつて温羅に挑んでいった、英雄譚の主役たち。首級となり、 <王> のコレクションに加えられた者たち――その成れの果てだ。
「あれは新免の二天」
 地底から伝播し、足の裏を伝って身体全体に響くような声が言った。同時に、黒く長い指先が泳ぐように動く。
「草薙のオウス。土御門が祖。五十狭芹」
 晒し首たちの啜り泣きと絶叫をバックに、地底からの声は犠牲者たちの名を淡々と列挙していく。
 ジェイクは呆然としながらそれを聞いていた。
 干乾び、萎びながらも、英霊たちは切断された頭部に無理やり縛り付けられている。頭上に渦巻く低い唸りは、千年経っても消えることのない恐怖に今なお怯え続ける彼らの悲鳴だ。死してさえ逃れられない地獄の責め苦に耐えかねた、英雄たちの懇願。プライドをかなぐり捨て、真羅へ請うの許しの叫びであった。
 不意に、ジェイクの視線を誘導していた指がまた動きはじめた。描かれる軌道が今までと異なっている。指先は処刑柱からポイントをはずし、その背景となっていた暗闇で動きを止めた。
 暗いのではなく、空間そのものが無い。まるで作りかけの箱庭のようだった。大地も空も関係なく、見渡す世界は地平線の手前から唐突に途切れていた。そこから先はぽっかりと空いた墨色の空洞がただ広がっている。
 それは、意識のどこかが知覚していながら、情報として取り入れることを拒絶していた存在だった。
 目にしているものが「無」としてしか認識されないのは、視覚が強制的に処理を止めているためだろう。度を越えた痛みや恐怖に対し、人間がしばしば気絶という形で自己を守ろうとするように――
 だがそれでも、ジェイクの中にあるもっとも原始的な部分、獣の野生ともいえる感覚は、理解していた。
 あの無の深遠に、潜むものがいる。
 それは人間の処理限界量を遥かに超えた、途方も無い情報の大塊だった。認識することも、概念で縛ることも許されない何かだ。
 それこそが <真羅> なのだと、ジェイクは理解した。
 となりに立っている人型は、いわば <真羅> を成す細胞のひとつに過ぎない。国家という怪物に接続された矮小な人間のような。あるいは、広大なワールドワイドウェヴに接続された小型端末のような。
 ――やめてくれ。もう、見たくない。これ以上、見せないでくれ。
 いつの間にか地に腰をつき、ジェイクは黒い土壌から滲みでる黄褐色の粘液に塗れていた。いやいやをする子どものように頭を振りながら、後退しようと四肢をばたつかせる。
 だがなぜか、虚無の暗がりにいるものから目を逸らせない。
 そして、ジェイクは知覚した。闇の深遠から、それがゆっくりとこちらに視線を向けてくる。声もなく嗤《わら》う。ただそれだけで世界を構成するすべての粒子と波動が、高鳴るように乱れ、大きく脈打つ。
 ジェイクはついに悲鳴をあげた。

 焼ごてを突っ込まれたような喉の痛み。耳をつんざく獣の咆哮。そして、顔面から喉にかけて走る得体のしれない灼熱感。そのすべてが合わさることで、ようやくジェイクは我に返った。
 いつの間にか、周囲の眺めはまた変わっていた。
 血の色をした空と、胆汁色の粘液がにじみ出る大地はもうない。代わりに見えるのは満天の星空だった。足元では柔らかな草花が夜風に揺れている。見知ったコフィン島の風景が広がっていた。
 助かったという安堵が、凍えきった身体にもどる体温のように、時間を置いてじんわりと脳に染み渡っていく。
 そのことが、客観的な状況把握をようやくにして可能とせしめてくれた。
 ジェイクがまず理解したのは、鼓膜を破壊しようとするかのような絶叫が自分の発するものである、ということだった。
 そして、火に舐められているかのような顔面と首周りのひりつき。これが、単に激痛の置き換わった感覚であったことを知る。半狂乱で悲鳴をあげながら、自分の顔と喉を爪で掻きむしっていたらしい。皮膚と一緒に肉がえぐられ、幾筋もの溝がそこら中に刻み込まれている。燃えるような痛みに相応しく、顔面が鮮血で紅く染まっているのが感じられた。
「なんで……どうして、俺がこんなことに」
 酷使した喉は、もうほとんどまともに機能しない。老人のようにひび割れた声で、ジェイクは訴えた。
 二体の <真羅> は、知らぬうちに再び場所を移動していた。今はジェイクと対面する位置に、数歩分の距離を隔てて並び立っている。
「俺は犬飼家じゃないのに。あいつが目的なんじゃないのか? だったら俺は違う。吉沢健ってガキだ。あいつなんだ。犬飼の血を継いでるのは」
 血を吐くように叫ぶ。いつしか、とめどなく涙があふれていた。地に四肢をつき、手元の草を引きちぎりながらジェイクは嗚咽した。
「軍門に下れ」
 女の血を浴びていた <真羅> が言った。声帯を使ってしゃべったのか、それが日本語であったのかは分からない。だが、手段と媒介はどうあれ、ジェイクは確かにその声を聞いた。
「ぐん、もん――?」
 顔をあげるジェイクに、二体の <真羅> は語りはじめた。
 事もなげに淡々と口にされるその話を聞くうち、ジェイクは急速に顔色を失っていった。身体は死体のように冷え切り、だが鼓動は爆発しそうなほど高鳴る。
 それは温羅の計画だった。数時間前、自分が熱っぽく語った大望など、みじめに思えるほど壮大なヴィジョン――
 神の視点、神の規模で行われる世界の再編だった。
「軍門に下れ」
 再び響き渡った声が、愕然とするジェイクの内臓を震わせた。
「秘匿された <黒桃の書> を差し出せ」
「引き換えに、お前は力を得るだろう」
 銃弾のように脳へ直接打ち込まれた声は、頭蓋骨の内部で兆弾さながらに跳ね回る。終わることなく反響し続ける。
「軍門に下れ」
「引き換えに、お前は階《きざはし》を上るだろう」
 向かい合う二つの人型が、突然、炎のように揺らめいた。その輪郭を曖昧にしながら、急速に膨れ上がっていく。やがて <真羅> たちのシルエットは崩壊し、交じり合い、夜よりなお暗い闇として広がっていった。
「軍門に下れ」
「人の子、セヴァレイ。軍門に下れ」
 今や声は、全方位から浴びせられる何千何万という木霊になっていた。幾重にも重なり、波のように押し寄せ、また豪雨のごとくジェイクへと降り注ぐ。
 軍門に下れ。引き換えに――
 いつしか、闇は視界いっぱいに広がっていた。相転化のように世界を侵食し、塗りつぶしていく。
 ジェイクはまばたきすることも忘れ、自分が黒い炎に飲み込まれていくその瞬間を、内側から凝視し続けた。
 ただ、そうすることしか許されなかった。


to be continued...
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