「生のクィン」

彼の名はケン・スミス・クィン。
ノンフィクション作家である。


第3回「生のクィン」

 ノンフィクション作家たるもの、編集者との密なるコミュニケーションを怠ってはならない。特にケン・スミス・クィンのような、「名前で本が売れる」というレヴェルに至らない中堅どころなら尚のことである。
 地方に住む作家はこれを電子メールでのやり取りや電話、FAXなどで済ませる――済ませざるを得ない――ものだが、千葉県に住むケン・スミス・クィンなどの作家は、地理的に言っても都内に拠点を置く出版社の人間と、直接的にコンタクトを図ることが可能である。このような場合、その会見の場として作家の自宅や仕事場が選ばれることもあるが、喫茶店やレストランを指定され外へ呼び出されることも珍しくない。
 今回のケン・スミス・クィンが、まさにそうだった。
「喜べ、お前たちッ!」
 驚くアシスタントA&Bを尻目に、勢い良くドアを蹴り開けたケン・スミス・クィンは陽気な笑顔を浮かべて <クィーン・プロダクション> の事務所に踊りこんできた。本当に踊りながら入ってきたのである。
「なにかあったんですか、兄貴」
 こういう時の弟子の義務として、アシスタントAこと芦谷栄作が問いかけた。
「その通りだ、アッシー。実は先ほど <幻冬社> の編集者から電話があった」
 ケン・スミス・クィンはニンマリと唇の端を吊り上げる。
「その結果、本日一八○○時に都内の某ステーキハウスで接待を受けることになったのだ!」
 師の高らかなる宣言に、アシスタントたちの喚声が上がった。

 それもそのはずである。 <幻冬社> といえば、大手 <角河書店> から独立したスタッフが創立した、最も勢いのある新興出版社なのだ。絶好調ながらも社員数二桁の小さな会社だから、直接的に作家の相手をする担当者たちにも比較的大きな権限が与えられている。つまり、編集者さえ動かしてしまえばかなり自由に仕事をやらせてもらえる素敵なところなのだ。
「凄いじゃないっスか、兄貴!」
「おめでとう御座います、先生っ」
 アシスタントの祝福の声も、今度ばかりはお義理の要素などない。
「うむ」クィンは満足そうに頷き返す。「では、景気づけに例のヤツを一発いくぞ」
 その号令と共に、三人は仕事場の中央に集い小さな円陣を組んだ。
「これを契機に我々 <クィーン・プロダクション> は、ますます熱血街道を驀進するッ」
 ケン・スミス・クィンはぐるりとアシスタントたちを見回し、息を大きく吸いこむと腹の底から裂帛の気合を吐き出した。
「クィーン・プロダクション、ファイヤーッ!」
「ファイヤーッ!!」
 師の雄叫びに、弟子たちが声を重ねる。三人は円陣の中心で組み合せた手を大きく上下に振り、それぞれの得意ポーズを決めて解散した。
 もちろん、数分後、騒音の被害を訴えて怒鳴りこんできた隣人に、ひたすら謝りつづけることは忘れなかった。





 プロの作家は、作品を売りに出せば幾ばくかの金銭的報酬を手に入れることができる。
 たとえば雑誌などに載せる短編や連載作品などに関しては、原稿用紙一枚あたり幾ら――というような計算で報酬が決定される。俗に言う「原稿料」というやつだ。
 これは作家の人気や出版社の方針、その時々の景気などによって額が左右されてくるのが普通で、ケン・スミス・クィンの場合、一枚一〇〇〇円程度という泣きたくなるような仕事もあれば、一枚あたり五万円という美味しい話にありつけることも(稀にだが)あったりする。
 これとは別に、単行本や文庫本を売り出すときは、音楽や映画のDVDなどと同じように商品の「定価×印税」という計算で報酬を受け取ることになる。こうした書籍の印税は一〇%前後が相場であるが、原稿料同様にこちらも人気によって左右されがちだ。
 大作家ともなると時にその印税は十数%に及ぶこともあるが、大抵の新人はその半分ほど。中高生向けの、いわゆるライトノヴェル作家の印税も五%前後であることが多いし、映画やドラマのノヴェライズ(原作つき小説)や海外作品の翻訳なども一般的に低目に設定されている。
 印税の率を見れば業界での地位が分かるというが、これもあながち根も葉もないデタラメというわけではないようだ。

 ケン・スミス・クィンが手がけるのは比較的さばきにくいノンフィクション作品なのだが、一般読者は彼の作品を普通の小説だと認識しているため、本を出せば何とかそれなりに売れてくれる。
 ただ文庫化されるほどのヒット作が少ない――というのも事実だから、彼の本の初版は大体が一万部前後となっている。定価は一五〇〇円前後であることが多いので、商品総額は一五〇〇万円。
 このうち印税の一〇%が作家の取り分となるため、合計一五〇万円が一冊出版するたびのクィンの報酬となるわけだ。ここら税金が引かれるから、手取りは一〇〇万円超といったところだろう。
 これでいくと、普通に考えれば年間三冊の本を刊行すれば何とか食べていける計算になるが、ケン・スミス・クィンはノンフィクション作家なので、取材費などを一般的なプロよりも多く使う。さらに二人のアシスタントにもそれ相応の給金を支払わなければならないし、借り事務所の家賃も支払わなければならないので、一〇〇万円の印税も最終的には半分以下しか手元に残らない。
 生活に余裕を持たせたければ年間五冊は本を出しておきたい、というのが実情だ。

 ――しかしノンフィクション作品を年間五冊も出版するのは至難の業である。ほとんど不可能に近い。
 取材そのものにさえ数ヶ月、時に年単位の時を費やさねばならないし、ノンフィクションに迫真のリアリティを与えるためには膨大な資料を整理する必要もある。二名のアシスタントに協力を求めても非常に手間のかかる作業だ。
 これに純粋な執筆時間を加えると、どう考えたって年に二冊。調子が良くて三冊出せれば御の字といったところに落ちつく。
 熱情に燃える炎のライターにだって、出来ることと出来ないことがあるのだ。
 だからして、ケン・スミス・クィンはその辺のフリーターに負けないくらいに慎ましい生活を強いられている。
 たとえば、美貌と恵まれたプロポーションをもってモデルとして活躍し、さらに英会話教室の非常勤講師を勤めているアシスタントBことベアトリス・ブラウン(通称ビィ)の月収は、師匠から貰える僅かばかりの給金を含めると手取りで二七万円。
 これはケン・スミス・クィンより十万円も高いわけだからして、彼女の方が師匠より遥かに羽振りが良かったりする。ご近所でも有名な話だ。

 ――以上のような業界事情を知った上で、我々が認識しておくべきことは一つ。
 それは即ち、ケン・スミス・クィンは基本的に貧乏であり、滅多なことではステーキなどにありつける身分ではないということだ。
 それ故、心優しいビィちゃんが時々ハンバーガーやピザを奢ってくれたりすると、彼は自分の年齢を完全に忘れきって大喜びする。十歳近くも年下の女の子にご馳走してもらうなど紳士としては許されないことかもしれないが、その辺の常識にとらわれているようではノンフィクション作家は務まらない。
 ノンフィクション作家たるもの、相手が妙齢の美女だろうが何だろうが一切の遠慮をしてはならないのだ。

 そういうわけだからして、ステーキを奢ってもらえるという今回の話にケン・スミス・クィンは大いに乗り気だった。たとえ話がまとまらず仕事をもらえなくたって、一夜の食事にありつけるならば損は全く無い。
 彼は胸に「炎魂」という巨大なプリントが入ったアイロンがけ特別仕様のTシャツを完全装着し、意気揚々と事務所を出た。そしてアシスタントA(通称アッシー)に車で送ってもらい、約束の時間のきっかり十五分前、指定された都内某ステーキハウスに到着したのである。
 相手の編集者に事前に許可を貰っていたので、ケン・スミス・クィンはセクシィにドレスアップしたアシスタントBを伴っていた。何故ならビィちゃんは、ハリウッド映画の中でしかお目にかかれないような本物のブロンド美女である。その彼女が一緒だと、色々な話が円滑にまとまってしまったりするものなのだ。言うまでもないが、編集者の多くは男性なのである。
<幻冬社> からやってくる編集者が男性だったため今回はビィに白羽の矢が立てられたわけだが、これが逆に女性編集者との会見であった場合、ケン・スミス・クィンの同伴者はアシスタントAこと芦谷栄作になっていただろう。
 ハンサムな爽やか好青年であるアッシーが同席していると、これまた何故か話がスムーズに進む傾向にあるからである。言うまでもないが、多くの女性編集者は二枚目の若い男についつい優しくなってしまうものだった。
 いささか姑息な手口といえないこともないが、常識に縛られているようではノンフィクション作家は務まらない。ノンフィクション作家たるもの相手の弱点は容赦なくつき、反撃されそうになれば即座にトンズラを決めこまねばならないのだ。
 それが世知辛い出版業界を渡っていく上での、鋼の掟なのである。





 ステーキハウスに <幻冬社> の編集者が姿を現したのは一八時ちょうどだった。これで予約のテーブルに全員が揃ったことになる。彼らは互いに笑顔で挨拶を交わしてから席についた。
 編集者D氏は日本語を流暢に喋る外国人を担当した経験がないらしく、事前に話を聞いていたとは言えケン・スミス・クィンの存在に少なからず面食らっているようだった。
 彼は三十代半ばから後半程度の――業界標準からすれば比較的若い――男性で、紺色のスーツを上品に着こなした小奇麗な人物だった。ハンサムではないが清潔感のある笑顔が魅力的だし、寝癖を放置した爆発頭のケン・スミス・クィンとは対照的に、髪の毛のセットもキチンと整えられている。話せば分かってくれそうな雰囲気もすることであるし、 <クィーン・プロダクション> 側の二人は総じて編集者Dに好意的な印象を持った。
「小説家ケン・スミス・クィンと言えば、僕が個人的な意味でもひいきにしている作家の一人なんですよ。作品のほうは毎回楽しく拝読させていただいています」
 編集者Dは向かい側に座る <クィーン・プロダクション> の二人にメニューを勧めながら、にこやかに言った。彼は特にビィちゃんのことが気に入ったらしく、とびきりの笑顔で対応している。
「もちろん、最新作の <火の玉野郎! ケンちゃん> の単行本も買いました。もう、いつものように感動して咽び泣きましたよ。――先生の作品にはリアリティがあって良いですよね。虚構を描く小説だからといって、決してそのあたりを疎かにしない。まるでノンフィクションを描くかのように綿密で木目細かな取材を行われていることが行間から伝わってきます」
「いやあ、それほどでも……」
 ケン・スミス・クィンは唇の端を引きつらせながら、見ようによっては謙遜とも取れる曖昧な笑みを浮かべた。
 まさか、「ノンフィクションを書いているつもりなのだが、終わってみればいつもフィクションにしかならないのだ」等と、真実を馬鹿正直に暴露するわけにもいかない。笑って誤魔化すしかなかった。

「それでですね。ああいう手に汗握る冒険活劇をウチの文庫でも書いてもらえないかな、という話が最近編集部で持ち上が……」
「やります!」
 相手の言葉が終わるか終わらないかというタイミングで、ケン・スミス・クィンは即座に断言した。おもわず編集者Dは呆気に取られたような表情を見せるが、そんなことに取りあってなどいられない。
 ノンフィクション作家たるもの、仕事の返事は常にマッハでなければならないのである。しかもその返答はYESかNOか、白黒はっきりしたものでなければならない。曖昧に濁した灰色の回答などもってのほか。ノンフィクション作家たるもの、答えはいつも0か1かデジタルに決める必要がある。
「まあせっかくこうしてお会いできたんですし、まずは食事を済ませましょう。腹が減っては戦はできないと言いますから」
 編集者Dは取り繕うように言うと、オーダーのためウェイトレスを呼びつけた。
「ご馳走しますから、なんでもお好きなものを注文して下さい」
 そう言われた途端、ケン・スミス・クィンは目を輝かせてメニューと睨めっこを始めた。そしてしばらくすると、注文を取りに来たウェイトレスに向かって、天を突き刺すかのような炎の挙手を見せた。
「なんでしょうか、お客さま」
「この <男のステーキセット> と言うのはどういうものなんですか」
 ウェイトレスににっこり微笑まれると、ケン・スミス・クィンはさっそく胸の内にあった疑問を口にした。
「サンプルの写真で見比べる限り、普通のステーキセットと内容的な差異は見当たらないようだが?」
 彼の右手人差し指はメニュー表の一角をさし示していて、そこには確かに <男のステーキセット> という商品が写真つきで紹介されていた。その主張通り両者は同じ写真をコピーして並べたようにしか見えないのだが、 <男のステーキセット> の値段は通常のステーキセットより三〇〇円も高い。

「はい、お客さま。素材や調理法、お出しする料理そのものの構成などは、両方ともに全く違いはございません」
 ウェイトレスは接客用の柔らかい笑顔でそう告げたが、次の一瞬、ケン・スミス・クィンだけに分かるほど微かに、キラリと眼を光らせた。
「ですがお客さま。 <男のステーキセット> は、何と申しましても心意気が違います」
「――ほう、心意気ですか」
 ケン・スミス・クィンは二倍の眩さで目を光らせ、ウェイトレスに対抗する。
「はい。 <男のステーキセット> は、当店自慢のシェフがその腕を存分に振るい、魂を込めてご用意させていただく特別メニューです」
「あの……」ビィが横から遠慮がちに声をあげた。「普通のステーキセットは、魂を込めて作ってはもらえないのですか?」
「はい、お客さま。普通のステーキセットを調理する際もシェフは充分に心を込め、全力を尽くします。しかし、心を込めはしても魂までは込めません。シェフが男を見せるのは、まさに <男のステーキセット> を手がけるときのみなのでございます」
 ウェイトレスはそこで一旦言葉を区切ると、勝利を確信したかのような不敵な笑みを浮かべた。
「――それ故、魂を込める <男の(心意気)ステーキセット> は別メニューとして独立している次第なのです」
「なるほど、相分かった」
 ケン・スミス・クィンは自らの膝を平手で叩くと、威勢良く宣言した。
「では、私はその <男の(心意気)ステーキセット> をいただこう!」
「私も先生と同じ物を」アシスタントBが師に追従する。
「僕は普通のステーキセットにツナサラダをつけて下さい」
 編集者Dはケン・スミス・クィンが作り出した無駄に熱い流れに乗るか、或いは普通の人路線を歩むかで一瞬悩んだようだったが、結局は無難に後者を選択した。編集者たるもの、危ない橋を無闇に渡るわけにはいかないということだろう。

「承知いたしました」
 ウェイトレスは電子式の伝票にオーダーを記入すると、三人の客たちに視線を戻した。
「ステーキの焼き加減の方は如何いたしますか?」
「僕はミディアム・レアでお願いします。お二人はどうしますか?」
 編集者Dの声に、ビィは「ウェルダンで――」と手短に答えた。そして伝言リレーのように、今度は彼女が隣席のケン・スミス・クィンへ同様の質問を回す。
「先生はどうなさいますか」
「そうだな。ウェルダンにミディアム・レア。なるほど、それはそれで大いに良し」
 クィンは眼を閉じたまま、静かに口を開いた。
 が、次の瞬間、カッと両の眼を見開く。後に編集者Dが語ったところによると、この時のケン・スミス・クィンの瞳には、一瞬ではあったが確かな炎が宿っていたという。
「だが私のステーキには火を使わなくて結構。敢えて、男の“生”でいただこうかと思う!」
 これには百戦錬磨のウェイトレスも狼狽を隠せなかった。
「お客さま、当店でも流石に生のお肉はお出ししていないのですが……」
「えっ。なんで?」
「だって、先生。いくら牛肉だって、完全な生で食べればお腹こわしちゃうかもしれませんよ」
 アシスタントBが些か困惑した表情で言った。今回ばかりは、衛生上の観点からも師の肩を持つわけにはいかない。もともとケン・スミス・クィンは胃腸があまり強くないのだ。
 女性ながら忠義に生きる熱血の好男子であるものの、好きだからといってそれに盲目的に従うほど愚鈍なビィちゃんではなかった。
 だが、そんな彼女に返ったのは鋭い叱責の声だった。

「何を言っている、ビィちゃん。ノンフィクション作家たる者、胸には常に熱き情熱の炎を秘めていなければならない。ならば、コンロで肉を焼く必要などないではないか。君も <クィーン・プロダクション> の一員ならば――」
 キッと我が高弟を睨み据え、ケン・スミス・クィンは断固たる口調で言った。
「牛肉はむしろ、己が内に燃え盛る情熱の炎でこそ焼けッ!」
 その烈火の咆哮に、賑やかだった店内が水を打ったような静寂に包まれた。各席の客はおろか、制服姿の店員までもが凍りついたように身動きを止め、驚愕の表情でケン・スミス・クィンを注視している。その衝撃が伝播したのか、手元を狂わせフライパンを取り落とす音が、厨房から遠く聞こえてきた。
「僕たちは……」
 やがて長い沈黙を破り、編集者Dは蒼白な顔で呟いた。
「僕たちは目先の常識にとらわれるあまり、何か大切な物を忘れ去っていたのではあるまいか」
「その通りだわ。私、 <クィーン・プロダクション> の一員として恥ずかしい」
 悔恨の涙にくれながら、ビィは魂の師を見上げる。同様の声は店内の各所から上がり始め、やがてそれは大きなざわめきとなった。
「そうか。或いは自分一人が貫けば良いと思っていたことなのだが……分かってくれるのか、君たち」
 感動でケン・スミス・クィンの目が潤み始めた。
「ようし、お前ら。とりあえず、俺の本を読めッ!」
 そう叫ぶケン・スミス・クィンの足元には、なぜか彼の著書を詰めこんだダンボール箱が置かれていた。
「今夜はみんなで火の玉ファイヤーッ!」
 今や人々の心は一つだった。彼らはケン・スミス・クィンの後に続き、力強く固めた握り拳を突き上げ口々に炎の咆哮をあげる。店から溢れだし通りにまで響き渡る彼らの叫びは、営業時間を超え夜が明けるまで続いたという。
 ちなみに、彼らは慣れない熱狂に浮かれ我を忘れていたため、店の外でスタンバイしていたアシスタントAが店内に入り込み、ケン・スミス・クィンの著書を全員に配布して回ったことや、いつの間にかその代金の一三六五円(税込み)を支払わされていたことに帰宅後まで気付かなかった。
 アシスタントの面目躍如。ノンフィクション作家の弟子たるもの、常に営業努力を忘れてはならないのである。

 こうしてケン・スミス・クィンは、勢いに任せて約五十冊の著書を売りさばき、さらに <幻冬社> から長篇の仕事を取りつけて悠々と帰宅した。もちろん、店の奢りということになったステーキセットを貪り食って腹の虫を静めることも忘れなかった。
 ――だがしかし、この後ケン・スミス・クィンはポンポン(お腹)を壊して寝こむことになり、雑誌連載の原稿を落としかけたという。
 されど、彼に後悔はない。ノンフィクション作家たる者、たとえポンポンをブロークンされることになろうとも、熱き血潮に任せて我が道を進まなければならないからだ。
 彼の名はケン・スミス・クィン。ノンフィクション作家である。



初出
「生のクィン」書き下ろし
脱稿:2004/06/01
公開:2004/06/04



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