プロローグ
将来を左右する決断が迫られていた。
遅刻そのものは既に確定している。現状で約二十分。
このまま駅に直行し、八時二十六分の快速に飛び乗れば、それ以上にはならない。
――だが、代償として頭は半分眠ったままだ。
一方、ルーティーンを守ってコンビニに駆け込むという選択肢もあった。
この場合、いつもの儀式的習慣を経て、脳を完全に覚醒することが可能だ。
残りの試験にも万全の態勢で臨めるだろう。
ただし、遅刻は少なくとも十分拡大する。
三十分を過ぎると試験会場への入室は禁じられるため、最初の一教科は0点が確定したも同然だった。
――時間か、コンディションか。
鷹取《たかとり》恭は寸前まで迷い、結果、コンビニのドアを潜った。
「いらっしゃいませ」
馴染みの店員がレジを操作しながら声だけ発する。
顔を上げ、入ってきたのが恭であることを知った瞬間、その表情が凍てついた。
「おう、セバス。いつものをくれい」
恭はそれだけ言うと、硬直状態の店員を尻目にいつもの席へと向かっていく。
全国にチェーン展開する <6・9> は、午前六時から午後九時までを営業時間とするコンビニ業界の雄である。
オリジナルスイーツや本格派の珈琲をウリの一つにしており、多くの店舗にテーブル席が設けられていることでも知られた存在だ。
「鷹取さん、どうして? 今日は確か入試だって……」
愛らしいボブカットの店員が、さらさらと黒髪を揺らして駆け寄ってきた。
最初に見てから半年間、恭は彼を男性用の制服を着た女性店員だと信じ切っていた。
今でも八割方の客が同じ誤解を続けていることだろう。
さらに言うなら、彼を目当てに足繁く通う男性客を、恭は何人も知っている。
男性だと知ってさえ、対応を変えない者もまた多い。
本来はホンダ某《なにがし》だかいう、戦国武将のような名前であったはずだが――
恭はもっぱら給仕としての彼としか触れ合わないため、適当にセバスチャンと呼んでいる。
そのセバスチャンは、卓上に珈琲を置くと、正気を疑うように恭の顔を覗き込んできた。
「入試だからこそだ、セバスよ」
相手の視線を受け流しつつ恭は言った。
「学力が高くても、本番でベストを出せるメンタルの調整法を用意してないと、入試には失敗する」
「ワケの分からないことを。もう、試験始まる時間ですよ」
「まあ、落ち着き給えセバス君。これはルーティーンだ。プロ野球選手も、打席に入ったら必ず個々の特定動作をするだろ? あれと同じだ。パターンを作って集中状態に入る」
その説明にも、彼は納得のいかない様子だった。
だが、なんであれ、この慌ただしい朝の時間帯、一箇所に長く留まることが店員に許されるはずもない。
レジ待ちの客に応対すべく、セバスは未練がましい顔をしながらも立ち去っていった。
「さあて」
恭はかじかむ手をこすり合わせ、紙カップに被されたプラスティックのフタを開けた。
途端に立ち上る芳香が濃くなる。目を閉じ、嗅覚を優しく刺激するその香りだけに神経を集中した。やがて、外野の喧噪が遠ざかるように消えていく。
「――動くなベイビィ!」
程なく、どこかで品のない叫び声があがった気がしたが、恭は目を開けなかった。
「おう、店員の姉ちゃん。この鞄に百億兆円入れろ。客は全員こっちに集まれ」
小銃のボルトアクションに似た音。
さらに、息を呑むような複数の気配……。
だが、これらも無視する。芳香を愉しむための、深呼吸の回数が決まっているためだ。
これを狂わせれば、すべてが台無しになる。
MLB《メジャーリーグ》最高の打者を確実に抑えたいなら、ルーティーンの途中で球を投げればいい。
暗黙の約束を破ることになるが、ルール違反ではない。
リズムを崩された打者は、たとえ三冠王だろうとその打席中は凡人になるだろう。
恭は実際、シアトルのナンバー51――の復元偉人格《レプリッド》――がそれでやられた映像を見たことがあった。
「おい、そこの一際頭の悪そうな小僧! 客はこっち集まれって言ってんだろうが」
一呼吸する度に、縮まっていた脳細胞が開かれていく感覚。
恭にとっての真の目覚めだ。
思考と感覚は鋭敏になっていくが、精神は非常に安定し、適度にリラックスしている。
「コラ、聞こえねえのか。オイ、お前だ。お前、ふざけてっと撃ち殺すぞ」
鼓膜には届いているが、脳には浸透しない。
天然のノイズフィルタをフルに発揮しながら、恭は静かに目を開いた。
香りを充分に堪能した後は、当然ながら味覚の出番だった。
たかだか百二十円の珈琲。
だが、苦学生にとってそれは、常人における最高額珈琲《コピ・ルアク》にも匹敵する出費である。
現に恭は、この珈琲代を捻出するため可能な限りの節約に努めてきた。
切れかけていると知りつつ、目覚まし時計の単三電池すら買い換えずにやりくりしたのだ。
このチキンレースの結果、時計の電池は土壇場で底をついた。今朝の遅刻騒動の原因である。
去来する様々な思いを胸に、恭は深く嘆息した。
珈琲に手を伸ばし、持ち上げたカップをゆっくりと口元に寄せていく。
「よォし、テメエは死ねい」
どこか自棄にも聞こえる声と共に、尖った破裂音が響き渡った。
同時、今この瞬間まで手の内にあった珈琲の紙コップが、恭の元から突如、消え去った。
一拍おいて、少し離れたところから「ぱしゃん」という哀愁漂う水っぽい音が上がる。
しばらく何が起こったのか分からなかった。
音のした方に目をやり、転がったカップと琥珀色の水溜まりを見ても、脳が事実の認識を拒もうとしていた。
「――あら?」
ようやく現実を受け入れたところで、間の抜けた声しか出てこない。
呆然としながら振り向いてみれば、何やらこめかみに青筋を立てた男がライフルを構え、出入り口を背で塞ぐように立っていた。
少し離れた所には仲間らしき若い男がひとり。
こちらは刃渡り大きなナイフを手にし、レジ奥のセバスを脅しつけている。
この時間、店長やセバスとは別の――こちらは本物の女性の――店員がいるはずだが、二人の姿は数人の客と一緒に店の片隅で見つかった。
奥にある飲料用クーラー付近に集められ、恭からは防犯ミラー越しでないと確認できない。
この段に到って、恭はようやく先ほど聞いた遠い声を思い出した。
「百億兆円だせ」だとかいう教養ゼロの脅し文句だ。
総合すると、この二人組のチンピラはコンビニ強盗だと考えて間違いないのだろう。
しかもその内のひとりは、自分に銃口を向けている。
だが、それもこれも恭の頭からは一瞬で吹っ飛んだ。細かいことはどうでも良かった。
今大切なのは一つ。血の一滴にも匹敵する珈琲が台無しにされたことだ。
「テメエ、なんてことしやがる!」
恭は立ち上がって怒号を発した。
「金が欲しいのは良い。強盗も許す。だが、なんで俺のキャシィを撃った?」
「あ――? なにがキャシィだ。珈琲に名前つけるとかアホじゃねえのか、テメエ」
「アホはお前だ、チンピラ。だいたい百億兆円だせって、小学生か? 大方、百億の次の単位だと思って言ったんだろうが、そんなのは存在しないんだよ」
この指摘は、チンピラたちにとって大きな衝撃だったらしい。
二人は驚愕の表示を浮かべ、互いに顔を見合わせる。
「オイ、姉ちゃん。今のマジなんか」
ナイフを持った方が、刃先をくいと持ち上げる仕草でセバスに問いかけた。
強盗たちもまた、レジから鞄へせっせと金を移し替えているこの店員を、女性だと勘違いしたらしい。
「百億円の上は百億兆円じゃねえのか?」
「はい……あの、百億の次は千億、です」
手を止めたセバスが、か細い声で答える。
「分かったか、チンピラども」
恭は勝ち誇って言った。
「ちなみに、一千億円の次は一億万円だ。さらにその次が一億兆円で、ここでようやく兆がつくんだよ。ばーか、ばーか」
「いえ、あの」
セバスが申し訳なさそうに恭の方を窺う。
「一千億の次は一兆です」
「えっ?」
その指摘は恭にとって大きな衝撃だった。
笑みを引っ込め、目をしばたきながらセバスを見返す。
「そうなの? でもホラ、億万兆者って言うじゃん」
「あれは架空の単位で、それだけ裕福な長者って意味じゃないかと……」
一連のやりとりを黙って聞いていた強盗たちが、その瞬間、腹を抱えて笑い出した。
「偉そうに語っときながらそれか。ばーか、ばーか。輪をかけた本物のバーカ」
「くっ、おのれ」
恭は握りしめた拳を奮わせ、屈辱に耐えた。
「良いんだよ、その、アレだし。高校受験には千億よりでかい数字とか出ねえし。いい歳してコンビニに百億兆円あるとか思ってるお前らの方が絶対バカだね」
「うるせえ。とにかく、ありったけ金をよこせって言ってんだよ」
「それがバカなんだよ。せめて収納代行が増える月末狙うとか、そういう頭はねえのか」
「あ?」理解できなかったらしく、強盗たちはキョトンとした顔で恭を見返す。
「売り上げ金もまだロクにねえってのに、朝イチで襲撃かけて幾ら取れるんだって話だよ。そんなだったら、お前が持ってるその銃。それ売った方がまだ――」
そこまで言って、恭は目を見開いた。改めて強盗の銃を検分する。
「オイ、チンピラ。その銃どこで手に入れた。お前ら、それがなんだか知ってんのか?」
「あ? こりゃ、ライフルが趣味だっていう近所のジジイからかっぱらったんだよ」
「ばか、それすげえやつだぞ」
恭はふらふらと銃の主に近づいて行きながら言った。
「ゴールデン・シャイニング・ダークネス・サテライト・マグナムキャノンの初回限定ディレクターズカット版じゃねえか。買ったら千億兆円くらいする超プレミアモデルだぞ、お前」
とたんにチンピラたちが色めき立った。
「ま、マジでか?」
「これ千億兆円?」
などと銃を見下ろしてにやつき出す。
「おう。俺、銃にはちょっと詳しいんだよ。ただ、レプリカって可能性もある。名作には宿命的に模造品が出回るもんだからな。ちょっと見せてみろ。詳しく鑑定しないと」
「そ、そうか」
チンピラは慌てた様子で銃を持ち替え、「頼むぜ」と両手で差し出した。
恭はそれを丁重に受け取り、各部に異常がないのを確認した。ボルトを引いて排薬と装填を済ませる。
最後に腰だめで構え、銃口をすいと目先の男に向けた。
最初、強盗たちは何が起こったのか理解できていないようだった。
自分に定められた銃口を不思議そうな顔で眺めている。
たっぷり一分はかかっただろうか。ようやく彼らの顔から血の気が引いていった。
タイミングを合わせるように、外から緊急車両のサイレンが遠く聞こえ始めた。
第一章 「本当はソリッドスフィア」
01
議長が閉会を宣言すると、場の緊張は一気に解けた。
会議に参加した職員たちは思い思いに席を立ち、近くの者と談笑しながら出口に集まっていく。
エリナー・ウィルキンソンは手元の資料をまとめ、やがて自らもその列に加わった。
今日の会議上で自ら発表した通り、学園都市の犯罪発生件数は年々増加傾向にある。
学園内で処理できる微罪なら、それもまだ良い。問題は、警察と連携を取らざるを得ない、悪質な案件数が右肩上がりであることだった。
これを取り締まる司法局の大幅増員は既に確定路線だ。
さらに、今国会で「特別区域法」が成立すれば、司法局は大幅に権力を拡大することになる。
強制捜査権、武装権、そして逮捕権……。
警察に準じるとさえ言える強大な力だ。組織としてのあり方も根本から変わってくるだろう。激動の時代が来る。
なのに給料は変わらず、仕事量と責任だけが雪ダルマ式に大きくなっていく。
「局長。――ウィルキンソン司法局長」
会議室を出てしばらく、聞き慣れた声に呼び止められ、ウィルキンソンは立ち止まった。
振り返ると、中高年の男性が小さく会釈を寄越した。
こめかみの辺りでメガネのフレームを押さえながら、小走りに駆け寄ってくる。
司法局・外務課長の錦城卓男《きんじょうたくお》だ。
二十七歳のウィルキンソンにとっては、ちょうど父親くらいの年齢になるか。
丸顔に短躯と、その容姿はなるほど、影で言われているようにどことなくタヌキを連想させなくもない。
白い物がかなり目立つ頭髪を七三に撫でつけており、恰幅のある身体《からだ》にベスト付きのスーツをまとっている。
かなりの年長者だが、学園都市に年功序列の考え方はあまり浸透していない。
ウィルキンソンにとって、彼は単に同じ職場の部下であった。
「錦城先生。おはようございます」彼が追いつくのを待ち、挨拶した。
「おはようございます。会議、お疲れさまでした」
「先生こそ、色々と災難でしたね」
特に記憶を辿るまでもない。
今朝の会議でもっとも注目を浴びた人物が、他ならぬこの錦城課長だった。
「いや、お恥ずかしい。これも不徳の致すところです」
「――それで、私に何か?」
「ええ、はい」
錦城は少し声のトーンを落とした。
「その、私の不徳に関することで少し」
彼の言う不徳とは、約三ヶ月前に行われた入学試験でのミスだった。
その日、錦城は午後から試験監督に駆り出されていた。そこへ大幅な遅刻をやらかした受験生が現われたのである。テストもいよいよ最終科目という時点での登場だったらしい。
その受験生は、「コンビニ強盗に巻き込まれた」「犯人を取り押さえたはずが、被疑者として警察に連行された」というような、真面目に受け止めるのも馬鹿らしい言い訳を口にしたという。
無理もない話だが、錦城はこれをデタラメと一蹴した。
通常、そのような事件が発生した場合は、警察からすぐに連絡が入る。
学園側も情報を各監督官に回す。それが無かったからだ。
だが、後の報道と当局からの遅すぎる報告によって明らかになったところによると、事件は本当に起こっていた。
遅刻の受験生が署に連行されたこともまた事実であった。
錦城課長に全ての過失があるわけではない。
しかし、彼はミスを犯したのだった。
「彼――鷹取恭《たかとりきょう》君には、本当に申し訳ないことをしました。おかげさまを持ちまして、彼の合格は特例として評議員会でも認めていただけたのですが」
錦城が白いハンカチを額に押し当てながらうつむく。
「確か、その生徒がテストで獲得した総合点数は、わずか四点だったそうですね」
ウィルキンソンは微笑で返した。
「私も学園都市三十八年の歴史すべてに通じているわけではありませんが、おそらくこれは合格者の最低得点記録でしょう」
「その最低得点記録者のことで、局長にご相談が」
「では、私のオフィスで?」
お願いします、と頭を下げる錦城を連れ、ウィルキンソンは自室に戻った。
「なにか淹れましょう。珈琲?」
身振りで応接セットの椅子を勧めつつ訊ねる。
「すみません。いただきます」
ひたすら恐縮する錦城を横目に、ウィルキンソンはコーヒーメイカーに歩み寄った。
二人分だけ用意しようと思ったが、このあとすぐに来客がある。
結局、五人分の粉をフィルターにかけることにして、錦城に話の続きをうながした。
「今回の件は私に責任があります。鷹取という生徒にも直接謝罪しようと、連絡先を含め色々と調べました。――失礼ですが、局長は彼についてどの程度のことをご存じで?」
「今朝の会議で聞いたプロフィールが、私が知る彼についてのすべてです」
「そうですか」
予想通りという表情でうなずき、錦城が続けた。
「結論から申しますと、鷹取君とは連絡がつきませんでした。と言うのも、彼の自宅には電話がないようでして」
「固定回線だけではなく、携帯電話も?」
「はい。しかも、登録された住所は漠然と小さな山しか示しておらず、そのどこに家があるのかを把握している人間がほとんどいないのです。郵便も配達ではなく局止めのようで」
ウィルキンソンはにわかに興味をかき立てられた。
「隠遁した仙人の話を聞くようですね。どのような家庭環境の子なんですか?」
「両親とは死別したようです。詳しいことは出身中学も記録していませんでした」
「では、家族は?」
「後見人の老人がひとり。特に血縁関係はなかったようですが、鷹取君はその老人と二人で暮らしていたようです。しかし、その後見人とも随分前に死別しておりまして。それ以降は、その老人から相続したわずかばかりの蓄えで細々と生活していたという話でした」
「あまり経済的に裕福ではないとは聞いてはいましたが、そこまでですか」
「一度、中学校に大体の場所を教えていただいて直接たずねたのですが、私ひとりではどうにも辿り着けず」
日本での話を聞いているとは、なかなか信じにくかった。
だが、考えようによってはそんな子にこそ、この学園都市は相応しい。
この街に存在する学校はすべて私立校だが、特別指定校として国から認定を受け、多額の補助金がおりている。
そのため学費は下手な公立校よりも安い。
その上、全寮制で、寮費も大変に良心的だ。
システムを上手く活用すれば、ほとんど無一文でも生活していける環境なのである。
それどころか、立ち回り方次第では一攫千金すら狙える場所だ。
「彼――鷹取君でしたか? そういう事情なら、是が非でもウチに入学したかったことでしょうね」
ウィルキンソンは言葉の途中で、ある仮説に思い至った。
「なるほど、錦城課長。だからあなたは追試ではなく、特別合格という処置を議会に求めたんですね」
「実はその通りでして」錦城課長がばつの悪そうな顔で認めた。
その一方で、ウィルキンソンの口元には自然と笑みが浮かんだ。
朝一番に聞く話として、課長の持ってきたこれは悪いものではない。まったく、悪くない話だった。
会議の配付資料《ハンドアウト》によれば、鷹取という少年の成績は中学通して下位だった。
もし遅刻せず、まともに入試を受けた場合、合格ラインには奇跡でも起こらない限り到達できなかっただろう。
むしろ彼にとって、今回のアクシデントはプラスに作用したとさえ言える。
責任感の強い試験官から、こうしてチャンスを与えられようとしているからだ。
「是非はともかく、あなたのやろうとしていること、私は好きですよ」
淹れたての珈琲を運び、ウィルキンソンは心から言った。
「すみません」
自分の子ほどの年少者に、この男は頭を下げることをいとわない。
「ですが、まだ問題が一つ。入試で四点だったのですから、彼に支給される初期ポイントは最低の額です。いくら学園都市での生活費が安いとはいえ、やっていけるかどうか」
「なるほど。そこで私に相談が来たとなれば――」
ウィルキンソンは錦城の向かいに腰を据え、足を組んだ。
「彼を、司法局に入れたいというわけですね」
「ええ、はい」
少し苦みの入った微笑を浮かべ、錦城は珈琲を一口すすった。
「強盗を処理した手腕と精神性を見ても、司法局員としての適正は充分かと。おりしも犯罪件数の増加と凶悪化で、当局の人員は大幅増強される見通しです。そこで彼を思い出しました。私からの推薦ということで適性試験をパスさせれば、|四八〇《ヨンハチマル》研修に回して今秋には実戦配備できるでしょう」
「面白い話ですね」
「責任は私が取ります。何卒、局長にはお力添えを」
「頭を上げて下さい」
ウィルキンソンは持ち上げていたカップを置き、組んでいた足を元に戻した。
「言ったと思いますが、是非はともかくこの手の話は私の好むところです」
「では――?」
錦城の表情がぱっと輝いた。
「でも、独り占めはいけません。ここはひとつ、共犯といこうじゃありませんか」
to be continued...
つづく