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ファントム PHANTOM OF INFERNO  Nitro+

 ロサンジェルスを一人で旅行中の日本人少年が殺人現場を目撃し暗殺者に追われた。逃亡の末、少年が目覚めると一切の過去の記憶を消され、組織の暗殺者となるか死ぬかの選択を迫られる。暗殺者としての教官は彼と同じく記憶を消された少女。彼女の通り名は”ファントム”。組織最高の暗殺者に与えられる称号である。

 このゲーム、99年夏のコミケで配布されていた体験版が私の最初の出会い。2週間ほどして思い出したように体験版をプレイして衝撃を受けた。いままでに少年少女の切ない恋物語はあったし、大人のハードボイルドな物語もあった。しかしここまで少年少女に辛い人生の選択を迫ったゲームがあっただろうか。記憶を消され暴力の世界で死神として生きることを要求される。そしてそんな運命から逃れようとする彼らに幾度も突きつけられるのは”大切な人が自分の前に立ちふさがったとき、その人を殺せるか”という命題。甘さから主人公はこの命題に答えを出すことができず、大切な人たちを巻き込みさらに過酷な状況になっていく・・・・・
 う〜〜〜ん、いろいろ書いてみても駄目だね。こりゃ実際にプレイしてみないと駄目だよ。重くシリアスで二転三転するストーリー、生死をかけた純愛。久々に何度も読み返したくなるシナリオだったよ。テーマがどうのとか理屈がどうのってことではなく、単純にエンターテイメントとしてね。こういう面白いシナリオはこみパ以来だけど、こみパみたいな中途半端なゲーム的要素がないので素直にノベルとして楽しめるのが良かった。そうですね、ファントムは目的に向かって選択肢を選んでいくアドベンチャーゲームというよりも、プレイヤーの感情で選んだ選択によって物語がどんな風に展開していくかを楽しむビジュアルノベルに分類してよいでしょう。

 制作には1年くらいかかっているそうだから、かなりシナリオも練り込んだんでしょうね。選択肢も結構多く、その選択肢によって微妙にテキストが変わっていきますし、さらに途中で選ぶ銃によっても話の流れが大きく変わることはないが、銃にあわせてテキストが変わるという凝りよう。でも誤字が皆無ってわけではないですけどね。今はゲームのデバグ専門会社ってのがあるそうだけど、誤字脱字もチェックしてくれるのでしょうか。

 最近は日常を描くとして、さりげない会話から構成されるありきたりの恋物語ってのが増えてきていますが、プレイするとこの日常的ってやつが結構非現実的だったりしてなんとなく違和感を感じたりして。逆にファントムのように非日常(っていうよりも別世界)を手を抜かずに緻密に描くことにより、プレイヤーが今いる日常とは別の日常にすり替えることが出来たのかも。主人公が過去の記憶を失っているという設定も、そのすり替えに効果を発しているのではないでしょうか。でもそれだけではこのゲームでは主人公への感情移入は難しいかもしれません。いくら緻密に描いても所詮はゲームの世界。主人公が人を殺しても、プレイヤーの手が汚れるわけではありませんからね。

 ということで、主人公へ感情移入させる最大の要因はやはりキャラクター。特にマニュアルでも触れられているように脇役が充実しています。まさにワキゲー! 私のお気に入りはスタッフの間でも人気No.1のリズィ。強面の姐御って感じでいい味だしてます。あとはひたすら憎まれ役に徹するサイス=マスター、極道の道を突き進む桐吾大輔、主人公に何かと世話焼く同級生の早苗などなど、改めて考えると登場人物ってシナリオのボリュームの割にはそれほど多くないのですが、ひとり一人がしっかりと描かれているのでね。
 4人のヒロインも脇役に負けることなく魅力的で、いわゆる萌えゲーとは違う味をだしています。個人的にはキャルが好き〜。選択肢で引っかかって何度もBadEndを見たせいか思い入れが強いんです。レオンとかタクシードライバーに通じるところがある設定ですが、キャルって何歳だ? 当然ゲーム中では正確な年齢は触れられないけど、中学生くらいだよなぁ・・・・うへへ。

 ところで、ファントムの別の魅力としてあげられるのが、やはり銃でしょうか? どちらかというと銃の描写からこの作品に注目した人も多いと思います。銃や車などの小道具はすべて3Dモデリングで描かれており、QuickTimeVRにより画像を回転させることも可能。3Dモデリングはオブジェクト数の限界から、必ずしも2Dグラフィックよりもリアリティがあるとはいえませんが、実写取り込み加工もしくは3Dモデリングによる背景や、ぶっちゃけていえば地味な絵柄のキャラとうまくバランスがとれていました。

 銃の扱いについては.50AEのデザートイーグルを子供が撃てるのか?とかおかしなところもありガンマニアの方々は気にするかもしれませんが、この辺は映画的嘘ってことで許してもいいのかも。映画的嘘っていうのは有名なところではダイハード2での空砲を使ったトリックでしょうか。実際には空砲と実包を単純に入れ替えてフルオートで射撃することは出来ませんからね。
 で、その映画的嘘ってことでは本物の映画よりも嘘は少ないですし、ガンマニアの方々をにやりとさせるようなシチュエーションも数多くあります。デモで登場するオートマグなどがよい例でしょうか。その動作の不安定性からオートジャムなどと呼ばれ実用性のない銃の代表とされるオートマグがどんな形で使われるか。ガンマニアの方々も楽しみにしてね(^^)

 このように銃などの描写は緻密でリアリティに溢れているのですが、かといってB級冒険小説のようにだらだらと銃のスペックや来歴を説明することもありません。シナリオを進めるに当たり必要な事柄のみが記述され、シナリオの進行を妨げることがありません。あくまでもメインはキャラであり銃はフレーバー(シナリオの風味付け)になっています。カタログデータの羅列ではシナリオを楽しむことは出来ませんが、これならばシナリオ重視、ガンマニア以外のプレイヤーにも違和感は感じさせないでしょう。

 ところで同じように銃が重要な役割を果たすゲームとしてはHeart Workアクティブ)ってのがありましたが、あれもコルトガバメントM1911A1をメインに数多くの銃が登場し、リアルな描写が話題となりました。Heart Workも主人公の少年が事件に巻き込まれる話でしたが、あちらはひたすらバイオレンスがメインで鬼畜ゲーといってもいい内容。それに対してファントムは極限状態での純愛がメインとなっていますので、純愛感動系メインの方にもお奨めできます。まぁ、奇跡を起こしてでも二人が結ばれてHappyEndにならないと気が済まない人には、どうしたもんか・・・・(^^;

 最後になりましたが、このゲームはMacromedia Directorで作られています。そのおかげでMac&Win95のHybridなんですが、Directorっていうと表示が遅いとかインターフェイスが悪いとかあんまりいいことなかったんですけど、このファントムは表示も早いし、既読テキストのスキップ、いつでも出来るセーブ&ロードなどインターフェイスも良い出来。一部不具合もありましたが、とりあえず問題なくプレイできます。Directorでもこれだけのものが作れるなら、Hybridも楽なことだし、どんどこ作って欲しいですねぇ。でも終ノ空みたいなへぼいシステムで作られても困るけど(^^; (00.3.4)

評価:94

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