風祭文庫・モラン変身の館






「マサイ戦士・オレアザン」
(最終話:それからのこと)

[エピローグ、それともプロローグ?]

作・風祭玲

Vol.049





「ふぅ〜」

「学園祭もやっと終わったね。」

「ご苦労様でした」

後夜祭も終わり、あたしと夜莉ちゃんは仲良く帰途についていた。

「あれ?、香坂さんはどうしたんですか?」

夜莉ちゃんの問いかけに

「うん、香坂クンはこれから剣道部の打ち上げなんだって」

と答えると

「まぁ、恋人を一人で帰すなんて許せませんね」

夜莉ちゃんが握り拳を作って力説する。

「まぁまぁ、夜莉ちゃん、今回はいろいろあったから…」

そう言うと

「ホント、ありましたねぇ…」

としみじみと夜莉ちゃんが答えた。

「そうだ」

「え?」

「沙夜子さんにお礼を言わなくっちゃ」

「なんでです?」

「だって、シンを封印できたのって沙夜子さんのおかげだもん」

「いいんですよ、そんなに気を遣って頂かなくても」

「でも……沙夜子さんが居なかったら、あたし…」

「まぁ、では、茜ちゃんが感謝してました。っと伝えておきますね」

「うん、ありがとう」

「ところで、沙夜子さんっていま夜莉ちゃんの所にいるの?」

「いいえ、今朝早く出かけました。」

「出かけた?」

「はい、恐らく今頃は三陸あたりでしょうか?、それとも南紀でしょうか?」

「なんで?」

「シンとの闘いで力を使い果たした「海神の輝水」の補充ですわ」

「そうだ、その「海神の輝水」って一体何なの?」

「さぁ?、私も良く知りませんが」

「結界の中であたしが使ったときは、真珠色に輝く人魚が現れたわ」

「そうですか…

 あたしが知っているのは「海神の輝水」とは海精族と言う
 
 海の民が用いる神器の一つで、人を癒す力があると聞いています。

 ただ、実際のモノを見たのは今回が初めてでした。」

「海精族?」

「あっ、巷では「人魚」と呼ばれている人たちですわ」

「え?、人魚って本当にいるの?」

「はい、表向きでは想像の産物となっていますが、人魚は本当にいます。」

「ほぇぇぇぇ」

「それにしても、そんなモノを持っている沙夜子さんって…

 確か夜莉ちゃんのお兄さんって聞いたけど、

  でも、夜莉ちゃんってお姉さんが一人いるだけ…だったよねぇ」

と確かめるように訊ねると、

「はぃ…沙夜子…いぇ蒼一郎さんはわたしの従兄弟でして、

 姉しかいないあたしにとっては兄のような人でした」

「ふ〜ん、だからお兄さんだったんだ」

「でも、なんで女の子に?、しかも中学生位しか見えないけど」

と聞くと

「えぇ…」

夜莉ちゃんの表情がちょっと曇る

「蒼一郎さんはあたしを守るために………まぁその話はよしましょう

 あっ、雨が降ってきたみたいですね」

そう夜莉ちゃんが手を出して言うと、確かにポツリポツリと雨が降ってきた。

やがて2つのカサの花がパッと開いた。



ザーーーー

「くっそぅ、ついて無いなぁ…ここに来て雨だなんて」

和傘をさし巫女装束に身を固めた沙夜子が日が暮れた海岸沿いの道路を歩いていく、

道路を走る車は皆無で、点々と連なる水銀灯が彼女の道しるべとなっていた。

横から聞こえる潮騒を聞きながら、

「ふぅ、まぁいいか、「海神の輝水」は無事光を取り戻したし」

そう言って、沙夜子は懐から真珠色に輝く小さなボールを取り出した。

「!」

突然、気配を察した彼女は立ち止まると、

「ちっ、来やがったか」

と呟きながら動き回る気配を追った。

そして、気配が止まったとき、

カチン、シャッ

和傘の枝に仕込んだ払い串を一気に引き抜くと、

「そこぉっ」

と言って道路脇の一点を指した。すると

どーーん

っと払い串から発生した衝撃波がその一点に向かって突き進む。

どがぁん

衝撃波がぶつかった瞬間。

どしん

っと子牛ほどある奇妙な生き物が彼女の前に現れた。

「ふん、海魔が、この「海神の輝水」を狙って現れたか」

沙夜子はそう言い放つと、「海神の輝水」を懐にしまうと、扇を取り出した。

「良かろう、この”巫女神蒼一郎”に闘いを挑むというのなら相手になる。

 ただし、この乙姫の雷竜扇に勝てればなっ」

と言うとバッと扇を開いた。

フォン……

雨に濡れた扇からオーラが迸り始めた。

ぐおぉぉぉぉぉぉ

海魔は沙夜子に向かって突進してきた。

「単純なヤツ…」

沙夜子はひらりとかわすと海魔に向かって標準をあわせた。

すると、ザバザバと20匹ほどの海魔が次々と海から現れると沙夜子を襲い始めた。

「ほぅ、数で押す気か?

 しかし、俺は数で押し切られるほど甘くはないぞ」

そう言うと、巧みに着地と跳躍を使い分け、

アッという間に海魔達との間合いを取ってしまった。

うぉぉぉぉぉぉぉ

一点に集結した海魔は一丸となって沙夜子に向かい突進して来た。

「学習能力が余り無いヤツ等だな…」

沙夜子は一瞬呆れた顔をすると扇を構え呪文を唱え始めた。

開いた扇から翠色のオーラが吹き出し始めると

「翠玉波っ!!!」

と言うかけ声と共にブンと扇をひと仰ぎすると、

扇から発生したエメラルド色のオーラの津波が海魔に向かって押し寄る。

ずずんんんんんんん

沙夜子に向かってきていた海魔達の大半は消し飛び、

生き残ったモノは慌てて海の中へと消えていった。



ざーーーーーっ

再び雨の音と潮騒の音が支配する世界になった。

「ふぅ〜っ」

沙夜子は大きなため息をつくと、海を見つめた。

すると微かに見える波間に女性の顔がポコっ浮き上がった。

沙夜子は女性に合図を送ると、

彼女は頷きバシャっと大きくはねると海の中へと消えていった。

「さて、帰ろう…」

開いた扇を仕舞うと沙夜子は帰途についた。



降り出した雨は、夜莉子が家に着くときには本降りになっていた。

彼女は机の上に飾っている記念写真を見ると

「お兄ちゃん………」

っと一言呟いた。



おわり


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