風祭文庫・モラン変身の館






「マサイ戦士・オレアザン」
(第1話:モランになった日)

作・風祭玲

Vol.041





「じゃぁ…明日10:00、ココで…」

「うん、判った、気をつけてね」

「野田さんも、すでに暗くなったから」

「あはは、大丈夫、大丈夫」

っと言うと私は足取り軽く帰途についた。

明日は香坂クンとの久しぶりのデート、

彼は部活でいつも忙しいからデートするのもひと月ぶりなんだ…

「さぁて、明日は何を着て行こうかなぁ…」

などと考えつつ自宅のそばに来ると、

宅配便の車があたしの家からちょうど出ていくところだった。

「へぇ…、こんな時間でも配達しているんだ、大変だねぇ」

と考えながら

「ただいまぁ」

そう言って玄関のドアを開けると、

「お帰り、茜」

母さんが返事をした。

「あら、ご機嫌ね」

「えへへへへ」

「ははん、さてはデートかな?」

「え?、判る?」

「顔に書いてあるわよ」

「あっ、そうそう、コレ、お父さんの所に持って行ってあげて」

とさっきの宅配便で送られてきた荷物を渡された。

「また、変なのじゃぁないでしょうねぇ」

あたしが怪訝そうに言うと

「さぁ?」

お母さんは肩をすくめて表現した。

あたしのお父さんは大学の先生をしているんだけど、

「研究のため」

とは言って奇妙なアイテムを家に持ち込んでは、

家族に迷惑をかける困った人なんです、

コレ、大丈夫なのかな?

とその時

ドスドスドス

と音を立てながら

「なにぃ、デートだとぉ」

げっ、お父さん。

「相手はだれだ?」

「そっそんなの、お父さんには関係ないわよっ」

と言うと、わたしはさっさと2階にある自分の部屋へと駆け上がっていった。

「こっ、コラっ、茜っ待ちなさいっ」

お父さんの声が追い駆けてくるのを構わずに私はドアをしめた。

「まったく……バカ親父ぃ」

と自分の手元を見ると預かった荷物を持ったままだった。

「いっけない…とは言っても、

 いま出ていくと根掘り葉掘り聞かれるし…
 
 後にしよう」

そう言いながら荷物を机の上に置くとあたしは着替え始めた。

「茜ぇ、夕食どうするの?」

階下からお母さんの声がする。

「みっちゃん達と食べてきたから要らない」

と返事をすると、クロゼットを開けて明日着ていく洋服選びを始めた。

むろん、みっちゃん達と言うのはウソで本当は夕食は香坂クンを一緒に…



お風呂から出て、机の上を見るとさっきの荷物が置いたままだった。

「そうだ、これ、お父さんの所に持っていかなきゃぁ」

と手に持ったとき、

ベリベリ

と言う音と共に箱が破れ、中のモノが飛び出してきた。

「なにこれ、この箱壊れているじゃないっ」

と文句を言いながら、箱からこぼれ落ちたモノを拾い上げて見ると、

一つは新聞紙に包まれた木彫りの人形と、

もぅ一つはいかにも古い日記帳のような本だった。

その木彫りの人形をよく見てみると、

極めて精巧に出来たマサイ族戦士の人形だった。

「スゴイ…これ……」

人形を机の上に置いてマジマジと見てみると、

小さいながらも、その人形はまるで生きているがごとく躍動感があり、

今にでも動き出しような感じだった。

「へぇぇぇ」

あたしは感心しながら、しばらくその人形を眺めた後、

一緒に出てきた本に目を通した。

ノートは誰かの日記らしく日付順に英語らしき文章がずっと綴られていた。

あたしはページを次々と捲って行き、

そして、あるページに来たとき大書きにされた一つの単語に目が入った。

「オレアザン」

あたしがその言葉を声を出して読んだとき、

パシッ

木を折るような音が部屋の中に響いた。

「?」

あたしは周囲を見まわした。

パシッ・パシッ

再び音が響いた。

「なっなに?」

あたしは何気なく机の上の人形を見ると、

人形はゆっくりとあたしの方に向きを変えると閉じていた目を開いた。

「ひっ」

『お前か、私を目覚めさせたのは…』

あたしの頭の中に男の声が響く

『…シンの野望を止めさせるため…お前の身体…もらうぞ』

声はそう言うと、

あたしは光に包まれ気を失ってしまったのであった。



PiPIPiPiPiPiPi

朝日が射し込む部屋の中に目覚まし音が鳴り響いた。

「………ん?……朝?」

あたしは目覚まし時計の音でうっすらと目を開けた。

「あれ?…あたし…どうしたんだろう?」

昨夜のことを思い出そうとしていると、

自分がベッドの下、床の上で寝ていることに気づいた。

「あれれ…ベッドから落ちちゃったのかな?」

と思い、右手を額の上に乗せようとしたとき

自分の手がいつもと違うことに気づいた。

「えっ、なに?」

視界に飛び込んできた右手はいつも見慣れたのは違って、

細く長く、また手のひらは大きかった。

そして何よりも驚いたのは色がまるで墨を塗ったように黒いことだった。

「えっえっ?」

慌ててその左手を見ると左手も右手と同じ様になっていた。

「なっなんなのよ、これ?」

驚きながら立ち上がろうとしたとき、自分が着ているモノが

いつも寝る時に着ているパジャマではないことにも気づいた。

「うそ」

あたしの体にはパジャマではなく朱染めの布が巻き付けていて、

そして布から出ていた両足も細く黒くなっていた。

さらに上体を起こすと、今度はパサっと眉間の所に何かが落ちた。

「?」

それを摘んで引っ張ってみると、

それは赤茶色をした細く縒ってまとめた自分の髪の毛だった。

「なによ、なによ、なんなのよ、これぇ」

と叫んだとき、

自分の声が男の声色になっていることに気づいた。

あたしは慌てて立ち上がると、

クロゼットの鏡に自分の姿を映してみた。

そしてその場にへたり込んだ…

鏡に映っていた人物は、

黒檀色をした細身の長身に朱染めの布を巻き付け、

赤茶色に染めた髪細くよったものを前後に束ねたマサイ族の男性だった

あたしは言葉にならない叫び声を上げた。

「茜、どうした!!」

と言う声と共に部屋のドアが勢いよく開いた。

あたしはドアの方を見るとそこには父さんが立っていた。

「おっお父さん」

あたしは声にならない声で父さんに呼びかけると、

「だっ、誰だお前は…」

っと身構えながら叫んだ。

あたしは自分の姿に気づくと、

「あたしです、茜です。

 こんな姿だけど、茜なんです。」

と訴える。

「なに?、

 茜?」

父さんはあたしの部屋を見渡すと、机の上の箱に気づいた。

そして警戒しながら、ゆっくりと部屋の中を移動して、

机の上の箱と日記帳を眺めた。

しばらくして

「茜っ、一体どうしたの?」

と母さんが部屋に入ってきた。

そしてあたしの姿を見るなり

「きゃっ、

 だっ、誰ですっ、

 あなたは…」

と叫んだ。

「おっ、お母さん…」

とそのとき

「佐和子、大きな声を上げるんではない、その男は”茜”だよ」

と父さんが言った。

母は信じられない顔をしてあたしを見ながら

「えっ、”茜”ちゃん…なの?」

と聞き返した。

父さんは机の上のあの木彫りの人形を手に取ると

「どうやらコレと置換されたみたいだな」

と言って人形をあたしに見せた。

「!!」

父さんが持っていた人形は紛れもなくあたしの姿を姿をしていた。

なんとか気を落ち着かせると、

「お父さん、一体これって…」

と聞くと

「う〜む、この人形にはな、

 昔、戦いで死んだマサイ族戦士の魂が封じ込められててな、

 その人形を所持した者には様々な災難が降りかかる」

と言い伝えられてきたんだ、

「はぁ?」

「うん、それに興味を持った私が研究用に借りてきた訳なんだが、

 どうやら…お前にその呪いが降りかかってしまったみたいだな」

と興味深そうにあたしを眺めた。

「呪いって、マサイ族になっちゃうこと?」

あたしが朱染めの衣が巻かれている身体を指差し聞き返すと、

父は本を捲りながら、

「いや、そう言うケースは無いみたいだけど…

 あっそうそう、

 その衣はシュカと言うそうだ。

 まぁこの場ではどうでもいいことだが」

と雑学交じりにそう返事をするが、

「じゃぁ、あたし…いつまでこの姿で居るの?」

と問い尋ねると、

「う〜ん、とにかく、呪いの元凶を手繰らないとなぁ…」

と困ったそぶりをしながらも、父の目は喜びに満ちあふれていた。

そのとき母さんが

「あなた、これで5回目ですよ、あなたの趣味に家族が巻き込まれるのは」

「えっ」

「前回は化けネコの怨霊だったし

 その前は怪しげなミイラの呪い…

 そして、とうとう今回は娘をこんな姿にして…

 少しは父親としての責任を感じてくださいね」

と捲し立てた、さらに

「で、茜の呪いを解くのにいつまでかかるんですか、

 いくらなんでもこの姿のまま嫁に出すわけにはいきませんからね」

と言ったとき、

「あっ、しまった」

あたしは大声を上げ、時計を見た。

時計は9:55を指していた。

「茜、どうしたの?」

「香坂クンとの約束、10:00だった」

「あっ茜、待ちなさい」

母の止める声を聞かずにあたしはスグに家を飛び出していった。

スゴイ…街の景色が流れていく…

あたしは自分の駆けるスピードにビックリした。

やがて公園に着くと、待ち合わせの場所へと向かっていった。

そして、彼に姿を見つけると

「香坂クーン、待った」

と言って彼の所に駆け寄った。

すると彼は驚いた顔をして、

「だっ誰だキミは…」

と言いながら身を引いた。

「あたしです、茜ですっ、

 あの、父さんがまた呪いをかけてしまって…」
 
と事情を説明すると、

彼は「呪い」と言う言葉でピンと来たようで、

「本当に野田さん?」

と尋ねてきた。

「うん、本当に”野田茜”なんですぅ」

と言うと彼は、

「また今回は、スゴイ呪いをかけられてしまったんだねぇ」

とあたしの姿をしみじみと見ながら言った。

そして

「じゃぁ、今日はどうする?」

「えっ?」

あたしが聞き返すと

「その格好で街中は歩けないだろうし…

 と言っても、すでにココまで来ただけでも十分すごいコトだけど」
 
と感心する素振りをした。

そのとき、あたしは自分が身につけているのが、

朱染めの布・シュカを巻き付けているだけと言うことに気づいた。

「きゃっ」

あまりにものの恥ずかしさに思わずかがみ込むと

「まさか、今まで気づいていなかったの?」

と香坂クンがあきれたような顔をしていった。

あたしは黙って首を縦に振ると、

「まぁ、それってキミらしいけど、でもその格好で居るわけにはいかないか」

と言うと、何か思いついたらしく、

あたしを男子トイレへ連れて行くと、個室へ押し込み

「しばらくココで待ってて、家から着替えを持ってくるから」

と言って走り去っていった。



あたしは一人取り残された個室の中でしみじみと自分の身体を眺めた。

黒光りした皮膚に覆われた細くて長い手足、

そして長身の身体に巻きつけただけの朱染めのシュカ…

「あたし、こんな格好でここに来ちゃたんだ、

う〜恥ずかしいよぉ…」

そのとき、股間を覆うシュカを持ち上げている膨らみを見つけた

「これって、ひょっとしておちん…」

そう思いながら手を股間に持って行きシュカをたくし上げると

ビンッ

っとたくましく脈打っている肉の棒が飛び出した。

「うわぁぁ…」

ペニスはずっと昔、父さんと一緒にお風呂に入っているときによく見ていたけど

いま自分の股間にあるのはそれよりも遙かに太くて長い一物だった。

「コレを、女の人のあそこに入れるの?」

あたしは、以前友達から聞いたセックスの話を思い出した。

そして、その情景を連想するとペニスはさらに勢いよく起立した。

あたしはソレを諫めようと無意識に扱きだした。

ハァハァハァ

徐々に息づかいが荒くなる。

クウ〜っ

やがて、小さな音と共にペニスは精液を飛ばした。

ハァ〜っ

「コレが男の子の感覚なの…香坂クンもこうなのかなぁ」

と自分の手に付いた精液を眺めた。

とそのとき

トントン

と個室のドアが叩かれる。

「誰か来た!!」

あたしは慌てて

「入ってます」

と言おうとしたとき

「野田さん、ぼくだよ、着替えを持ってきた」

と香坂クンの声がした。

「あっ、香坂クン?、いまあける」

と言うと備え付けのトイレットペーパーで精液をふき取るとドアを開けた。

すると紙袋が差し出され

「今の野田さんのサイズに合うかどうか判らないけど、

 上着とズボン、そして靴が入っているから、それに着替えて…」

そう言ってわたしに渡したのであった。

「ありがとう」

と言って受け取ると個室の中でそれに着替える。

確かに今のあたしにはちょっと小さいようだけど、何とか着ることが出来た。

そして、コレまで着ていたシュカを紙袋に押し込んで

個室から出ると香坂クンはトイレの外で待っていた。

「おまたせ」

あたしがトイレから出てくると、彼はあたしの姿をしばらく眺めて

「まぁ、それなら、街中に出ても大丈夫だね」

というとあたしの手を引き

「じゃぁ行こうか」

と言うと歩き出した。

「ちょちょっと、そっちは…」

「えっ、どうしたの?」

「家に帰らなくっちゃ…」

「えぇっ…帰っちゃうの?」

「だって…この姿ではデートにはならないわよ」

「僕は構わないよ、

 だって、今日を逃したらしばらくの間は部活で忙しいからデートできないから」

そうだ、来週からは香坂クンの剣道部はインターハイに向けての稽古が始めるから、

今日のような時間はとれなくなるんだっけ、もぅお父さんのバカっ

「でも…」

「いいからいいから」

「ごめんなさい」

私は彼に謝ると彼と一緒に歩いていった。



一緒に歩いてみると、自分の視界の高さに改めて気づかされた

隣で歩いている彼はクラスでも長身の方で、

いつもあたしは彼の胸元を見ていたのに、

いまでは彼のアタマが自分の視線より下になっている不思議さに驚いた。

デートはいつもと似たようなメニューで進んだけど

街中では通りすがりの人から物珍しげに見られたり

映画館では、あたしが座ると後ろの人が前が見られなくなる

というので一番後ろの席で観たり、

また、ハンバーガーショップでは窓口のお姉さんに

「日本語お上手ですね」

と言われたり、なんだかいつもと勝手が違うところが、

逆に面白く感じるようになっていった。



「ねぇ、ココ入ってみる?」

香坂クンがあるデパート前に来ると、

入り口前に掲げられている催し物の看板を指さしていった。

「え?」

それをよく見てみると

「マサイの秘宝、サバンナの戦士達」

と書かれてあった。

「はぁ〜」

あたしが感心しながら眺めていると、

「入ってみようか」

と再び尋ねてきた。

「どうして?」

聞き返すと

「野田さんの姿を見ているうちにマサイのことにちょっと興味を持ったのでね」

とおどけて見せた。

「いいわ、行きましょう、あたしも知りたいことがあるし」

と言うとあたし達は中に入っていった。

受付のお姉さんもあたしの姿を見ると驚いた様子だったけど、

そんなことお構いなく料金を払うと中に入っていった。

中は、マサイ族の風俗や日用用品などのほかに、

様々な装飾品が陳列してあり、

要所要所ではコンパニオンの女性が観客に説明をしていた。

それを一点一点見ながら歩いていたとき

ゾクッ

奇妙な悪寒を感じた。

「どうしたの?」

突然立ち止まったあたしに香坂クンが心配そうに尋ねた。

「ねぇ、なんだか寒くない?」

あたしが聞くと

「え?暑いくらいだけど」

と彼は答える。

そんなはずは…

周囲を見回すと斜め前の陳列ケースから奇妙な黒い影のような霧が立ち上っていた。

「ねぇ、アレなにかしら」

あたしがソレを指さして彼に聞くと

「えっ、なにかある?、僕には何も見えないけど」

「黒い影のようなモノが、立ち上っているんだけど…見えない?」

「ん?、僕には見えないなぁ…」

そう彼が言ったとき

『オレアザンだな…』

突然、声が響くと、黒い影はブワッっと広がると会場を覆い尽くした。

「えっ、なになに?」

あたしは何が起きたのか判らなかった。

『オレアザン…ワシの元に良くぞ来てくれた、時は満ちた…』

と声が響くと

『待て、シン、お前がやろうとしていることは間違っている、私はお前を止めに来た』

と夕べ私が聞いた声が響いた。

「オレアザンって確かあの本に載っていた…」

と昨日あたしの所に送られてきた本を思い出した。

『オレアザン…ワシを裏切るつもりか、お前に永遠の命を与えたこのワシを』

『シン、お前を裏切るつもりはない、

 ただ、私はお前がやろうとしていることには賛成できない』

『よかろう、ワシを裏切るというのなら、制裁を下す』

と言うと、

突然霧が立ち上り、

説明をしていたコンパニオンの女性達を襲った。

「キャァ」

瞬く間に彼女たちの悲鳴が響くが

「ァァォォオオオ」

っと、コンパニオン達の制服が見る見るうちに朱染めのシュカへとかわり、

身体も黒い皮膚に覆われたたくましい男の身体へと変化していく。

「うそ」

瞬く間にマサイ戦士へと変身してしまった彼女たちは

陳列してあった槍を手に持つとあたしの元に迫ってくる。

「そんなぁ」

あたしは後ずさりして彼女たちとの間合いを取った。

「そうだ、香坂クン」

とっさに彼の方を見ると

「あああああ」

彼もいつの間にか霧に包まれ、

着ていた服が朱染めのシュカに替わり、

体つきもマサイ戦士へと変わりつつあった。

「いやだ、そんなの」

それを見たあたしが悲鳴を上げると

シャッ

マサイ戦士になったコンパニオン達があたしに飛びかかってくると、

「キャッ」

あたしはとっさに彼女たちを攻撃をかわす。

「こないでぇ〜」

そう叫んでいると、

グィ

いきなり襟首を捕まれると陳列ケースの影に引き込まれた。

振り返るとすっかりマサイ戦士になった香坂クンがいた。

「一体どうなっているんだこれは」

彼は私に説明を求めてきた。

「香坂クン、あたしのこと判るの?」

「あぁ、なんとかな、でなんなんだ」

「あたしにも、判らない、ただ…」

と言ったところで、

『アカネ、シンを倒してくれ』

再び声が響いた。

「だれだ」

香坂クンが辺りを見回す。

「えっ、香坂クン、この声聞こえるの?」

「あぁ」

と言うと

『トモサカ、お前も私の声が聞こえるのか』

と尋ねてきた。

「あぁ、聞こえるよ、お前はだれだ」

と再び尋ねると、

『私の名は”オレアザン”マサイのモランだ』

「おれあざん?」

『そうだ、

 遙か昔、戦いの最中にオロイボニ・シンに永遠に生きる呪いをかけられた』

「呪い?」

『シンは人の道から外れたことを犯し、そのためマサイから追放された男』

「じゃぁこの騒ぎは?」

あたしが尋ねると

『シンは復讐をしようとしている』

「だれに?、

 まさか自分を追放したマサイにか?」

『そうだ』

「そんなぁ、

 だって、それは昔のことだし、

 第一、ココは日本ですよ」

とあたしが言うと

『だから、

 私はソレをやめさせるためにここに来た』

「それって、昨日うちに着たってことですか?」

あたしが尋ねると

『そうだ、

 誰でも良かった。

 早く動く体を手に入れ、シンの元へ行きたかった。』

『だから、お前の身体をもらったはずだったのだが…』

「身体だけ取り替えちゃったのね、

 でも、誰でも良かっただなんて…」

あたしが膨れると

「シンの怨霊を止めるにはどうしたらいい?」

香坂クンが聞くと

『オロイボニ・シンの怨霊は赤く光っている呪術者の仮面、それに宿っている』

「あれかぁ…

 で、止めさせるには」

『左右の両目部分に槍を突き刺せば、シンは消える』

「両目となると…」

「俺と野田さんが同時に攻撃しないとだめだな」

香坂クンはあたしの方を見ると、

「野田さん、急いでシュカに着替えて」

命令をすると、

使えそうな槍を探し始めた。

『おまえ達が使う槍はコレを使え』

とオレアザンの声がすると2本の槍があたし達の目の前に現れた。

「これは?」

『オロイボニを倒すことが出来る力を持つ槍だ』

着替え終わったあたしが振り向くと香坂クンが

「野田さん、行くぞ」

と槍を手に取った。

あたしも彼に続いて槍を手に取った。

すると、体中に力がみなぎり始めた、

さらにそれだけではなかった、

ガラスに映った自分の体にアクセサリーと身体に文様が入っていった。

「これは?」

香坂クンが聞くと

『呪い封じだ』

とオレアザンは答えた。

私と香坂クンは素早く2手分かれ仮面に近づいていった。

そしてそばまでに着たとき、

マサイ戦士になったコンパニオン達があたし達を見つけて飛びかかってきたが、

間髪入れずに

「えぃっ」

あたしのその声と共に手にしていた槍はあたしの元から離れ、

仮面へと向かっていったのであった。

ガシャァァァン!!

ガラスの割れる音と共に、

『ぎゃぁ〜〜〜』

と言う声が響き渡ると、

2本の槍が突き立てられた仮面は悲鳴をあげながら崩れ去って行く。

すると会場を覆っていた影は消え去り、

マサイ戦士になっていたコンパニオン達も元の姿に戻っていった。

けど、あたしと香坂クンだけはなぜかマサイ戦士姿のままだったので、

「まずい、野田さんこっちだ」

と香坂クンが言うと

突き刺した槍を引き抜き、

あたしの手を引いて会場の隅から階段を駆け上り屋上へと向かった。

そして、人目のない機械室の隅まで来ると、

「ココなら大丈夫みたいだな」

と左右を見ながら言う。

「ごめんなさい、

 あたしのせいで…」

「なぁに、これでお相子だよ」

そう言ってあたしの肩の手を回すとそっと抱き寄せた。

「え?」

ビックリしたあたしが香坂クンを見ると彼はそっと唇と寄せてきた、

あたしは黙って目を瞑ると彼とキスをする。

そして、その後はお互い抱き合ったけど、

でも、お互いのマサイ戦士である以上、

相手のペニスを扱きあったりする程度で

残念ながら初体験とは行きませんでした。

(もぅ一つの方法はあるけど、それはちょとね)



「ただ、問題はこれからどうするかだ」

「ずっと、この格好のままなのかなぁ」

あたしが手にした槍を見ながら心配すると

再びオレアザンの声が響き、

『シンを倒してくれありがとう』

とあたし達に向かって言う。

「って、今まで何をしていたの?」

『まぁ、ちょっと、忙しそうだったので待っていた』

おいおい。

「で、俺達はどうなるんだ」

香坂クンが尋ねると

『残念ながら一度マサイになると元には戻れない』

「そんなぁ」

「コンパニオン達は元の姿に戻ったぞ」

『あれはシンの呪法でマサイにされたから戻れた』

「じゃぁ、俺は?」

『きっかけはオロイボニ・シンの呪法だが、

 槍を受け取った時点でシンの呪縛からは離れた』

「しまったぁ…なんとかならないのか?」

『無いわけはないのだが…』

「あるのか」

『一時的な変身という呪法なら使えるので、それで良ければ』

「ってことは、

 つまり、元々俺達はマサイ族の戦士で

 仮の姿として高校生のカップルになる。ってことか」

『そうだ』

「どうする?」

そう尋ねながら香坂クンが私を見る。

「それ以外、道はないんでしょう?」

私が言うと

『………』

オレアザンは答えなかった。



しばらく沈黙が流れた後

「判った、じゃぁそうしてくれ」と言うと、

パァッ

とあたし達は光に包まれた。



風を感じたので目を開けると目の前には元に姿に戻った香坂クンがいた。

「よかったぁ」

あたしは彼に抱きつくと

「野田さんも元に姿に戻っているよ」

と優しくささやいた。

「えっ?」

と思って自分の体を見てみるとあたしの姿は昨夜の風呂上がりのパジャマ姿になっていた。

「そっか…着替える前に呪いを受けたからか」

自分で納得すると

「オレアザン、コレが仮の姿ってことは、

 何かの拍子にマサイの姿に戻ると言うことがあるのか」

『そうだ、おまえ達の胸元にある首飾り、

 その首飾りをしている限りその姿でいられる』

「あ、これ?」

一本の首飾りがあたしと香坂クンの首元に下がっていた。

『この呪法の根元は月の力だ、

 だから、満月の時は強く、新月の時は切れる。

 そのときマサイの姿になると一日それで過ごさなくてははならない、

 また、今回のように強い力の持ち主が現れるとマサイの姿になる』

「例えば、今の姿からマサイの姿になったり、

 またマサイの姿から今の姿に自由に戻れることは出来るのか?」

『新月でない限りそれは可能だ』

「方法は?」

『首飾りに手を当てて念じろ』

「なるほどね…用はすべては月次第ってわけか」

香坂クンはそう言うと、空にかかる半月を眺めた。



その後、香坂クンは一旦デパートの中に入るとやがて紙袋を下げてて戻ってきた。

「婦人服のバーゲンをやってて助かったよ」

と言って紙袋を私に差し出した。

「え?これ、あたしに?」

「あぁ、そのパジャマ姿では帰れないだろう」

「ありがとう」

と受け取ると、あたしは物陰に入って着替え始めた。

着替えながら

「でも、よく女物の服買えたわねぇ」

「あぁ、よく姉貴の買い物の手伝いをさせられているからな」

「ふ〜ん、香坂クンって苦労しているんだ」

警察官達が駆けつけ物々しいあの会場を横目にデパートから出ると、

あたし達は帰途についた。

待ち合わせの公園のベンチにくると

「いやぁ、今日はいろんなことがあったなぁ」

と香坂クンがどっこいしょっと腰をかけた。

「ごめんなさい」

あたしが謝ると、

「そんなに気にするなって」

「第一、僕と茜が人にいえない秘密を共有しているなんてスゴイじゃないか」

「そうかなぁ」

「あぁ、僕ってこういうことに憧れている所があったから、

 なんだか楽しくなったよ」

と言ってあたしを見た。

「じゃぁ、今日は遅くなったからコレでね」

と言うと鼻歌を歌いながら歩いていった。

「うん、じゃぁ明日学校で…」

とあたしは言うと

陽気な彼の姿を見るとなんだか妙に不安になってきた。



「茜ちゃん遅いわねぇ、

 大丈夫かしら」

母の佐和子がお茶を飲みながら飛び出していった娘の様子を気にしていた。

「あいつのことだ大丈夫だろう」

父の金藏は相変わらず人形と一緒に送られてきた本を読みながら、

呪法をとく手がかりを探していた。



つづく


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