風祭文庫・モラン変身の館






「由香里の変身」
(前編)


作・風祭玲

Vol.091





「俊彦さぁん、

 夕御飯ができましたよぉ…」

夕刻、妻の由香里の声がキッチンより響き渡ると、

「おぅ」

その声に僕はそう返事をしながら読んでいた夕刊を折り畳みテーブルの席へと着く、

テーブルの上にはすでに夕飯の支度が整っているのだが、

しかし、支度がしてあるのは僕の席だけで、

由香里が座るところには何も無く、

彼女が”ギブユ”と呼んでいる大きめの瓢箪が1つ

椅子に立てかけられているだけだった。

「さぁ、頂きましょう…」

彼女のその声とともに僕は

「…頂きます」

と言つつ夕食に箸をつけると、

そんな僕の様子を横目に由香里はギブユを手にし、

栓を抜くと口に当てて見せる。

それが彼女の夕食だった。

しばらくして、

「…ごめんね、

 あたし…これしか口に出来なくて…」

と由香里が言なげに言う。

「仕方がないよ、

 早く元の姿に戻る方法を探さなくっちゃな」

食事をしながら僕がそう言うと、

「元の姿に戻れる方法なんてあるの?

 もしも、この姿のままだったらあたし…」

そう由香里が言い返すと、

「駄目だよ、諦めちゃぁ」

僕は諭すように強く言った。

そして、そんな僕の気迫に押された彼女は

「うん、ごめんね……

 一番つらいのはあなただもんね。

 あっ、おかわりする?」

「う…ん」

空になった僕の茶碗を手に取り彼女が席を立った。



そんな由香里の後ろ姿を僕は黙って眺める。

痩身でありながらも筋肉質である体を漆黒の肌が覆い、

赤土を練り込み縒った髪を結い上げ、

色あせた朱染めの布・シュカを股間に巻き、

僕よりもはるかに高い背丈、

小さく引き締まり盛り上がったヒップと、

由香里の身体には女性の身体的特徴はなかった。

「はい、どうぞ」

そう言いながら由香里が振り向く、

振り向いた彼女の顔は厚い唇と眼窩が突き出した精悍な顔つきで、

耳タブに大きく開けられた穴には様々な装飾と

首には赤や青のトンボ球で出来たマシパイが下がる、

そぅ、僕の目の前いる人物はまさしくマサイ族の戦士・モランではあるが、

しかしれっきとした僕の妻だった。



由香里がマサイの勇者になってしまったのは

先月、懸賞で当たったアフリカ旅行から帰ってからスグのことだった。

元々、彼女は視力が0.3程度で眼鏡がないと生活に支障があったのだが、

その彼女の視力が急に良くなりだし、

やがて眼鏡をかけなくても差し障りが無くなってしまった。

彼女も最初のうちは喜んでいたものの、

視力が”1.5”を越え、”2.0、3、4”と

進むにつれ気味悪がりだした。

無論、医者に見せたが、

眼科医も由香里の症状には首をひねるばかりだった。

そして、彼女の視力はついには”5”を越えてしまい、

約1キロ先の様子が細かく見える様子に怯えはじめていた。



そんな彼女を次に襲った異変は、

体の筋力の急速な向上だった。

由香里の筋力は普通の女性と大して変わらなかったのだが、

視力の向上が進んだ頃から筋力も向上し始め、

軽く飛び上がったつもりが簡単に天井に手が着くようになってしまい、

程なくして垂直飛びで1mは軽くクリアする様になっていた。


「あなた…

 なんだかあたしがあたしで無くなっていくみたいで

 怖い…」


そう言って怯える由香里に僕は、

「気にするな…

 キミにはその才能があったんだよ。

 すばらしいじゃないか、
 
 それだけのことが出来るなんて」

僕は思いつく限り彼女を励ましたのだが、

しかし、由香里の変化はさらに続いた。


そして次に彼女を襲った異変は、

そう肌の色の変化だった。

色白だった彼女の肌の色が徐々に濃くなりはじめ、

単に日焼けでは済まされないくらい黒く染まり、

ついにはサバンナで暮らすマサイ族を思わせる黒檀色へと変化してしまったのであった。

そして、その頃になって由香里はある告白を僕にした。

「俊彦さん、話があります」

改まって由香里は僕にそう言うと、

妙に真剣な彼女の表情見た僕は、

「”変”なことを考えてなければいいんだが」

と思いながら彼女の話を聞き始めた。

「実は………夢を見るんです」

「夢?

 夢ってどんな?」

そう聞き返すと由香里はちょっと考える素振りをしたのち、

「……マサイ族の夢でなんです」

と答えた。

「?」

「実は…

 あの旅行から帰ってから

 夢の中であたしはマサイ族と一緒に暮らしているんです」

「で、それが?」

僕の問いに彼女はしばらく黙ると、

「…夢の中でマサイは言うんです、

 地平線を指さして
 
 ”お前はあのダチョウが見えるか?”
 
 って…」

「それで」

「”見えない”とあたしが答えると

 ”よし、じゃぁ、見えるようにしてやろう”
 
 とマサイが言うと、

 急にダチョウが見えるようになるんです」

「…………」

「それだけじゃなくて、

 マサイの飛び跳ねる踊りを見せた後、
 
 ”お前やって見ろ”
 
 と言って僕にやらせると

 ”判った、お前を飛べるようにしてやる”

 と言うと、急に飛べるようになったり」

と彼女が言ったところで、

「ちょちょっと待て…

 それって……」

僕が驚きながら言うと、

「そうなんです、

 夢を見た後、実際にあたしの身体がそうなっていくんです」

由香里は泣きながら僕に言った。

「あたし…怖い…

 もしも、このまま行ってしまったら、あたし…」

「何も言うなっ

 お前には僕がついている、

 何も怖がることはない」

僕は思わず由香里を抱きしめると、彼女の頭を撫でながらそう言った。


その夜、僕は由香里を抱いた。

彼女を抱きながら

「夢の中で起きたことが現実に起きるなんてコトはあるのか?」

などと考えていた。

しかし、僕の目の前にある由香里の身体は明らかに以前とは違っていた。

以前と比べると確実に筋肉質に変化していたのだった。

やがて、絶頂に達した後、二人で寝ているとき、

「うう〜ん、いや……イヤ……」

由香里が急にうなされはじめた。

「ん?、どうした由香里?」

目を覚ました僕は由香里を見ると、

彼女はしきりに

「イヤ……イヤよ……ヤメテ」

とうわごとを繰り返しはじめた。

「おい、どうしたっ、由香里っ」

僕は彼女の身体を揺すって起こそうとしたが、

なぜか由香里は起きなかった。

そして、

「イヤッ………いやぁぁぁぁぁ」

っと大声を上げたところで、

ハッ

っと目を覚ました。

「どうしたんだ?」

僕が由香里に訊ねると、

彼女は途端に体中を触りはじめた。

「女?」

「……女の身体……?」

ホッとした表情の彼女に

「一体、どうしたんだ」

再び訊ねると由香里は僕を見つめ、

「うわぁぁぁぁん」

っと抱きつくなり泣き始めた。

「なっ」

そして、泣きながら、

「あたし…男に……マサイの男になっちゃったよう」

っと叫んだ。

「え?

 それって、どういうこと?」

僕が慌てて聞き返すと、

「夢の中で……

 あたし、裸にされてしまったの

 そうしたら、マサイは
 
 ”自分たちと違う”
 
 と騒ぎはじめて…

 ……そしたら、
 
 ”俺達と同じにしてやる”
 
 と言いながらあたしの身体を触ったら……

 ムクムクっと……」

そう言うと再び泣き始めた。

「…イヤ…マサイになるなんてイヤ」

「それは夢だ、ただの夢だ」

僕は彼女に言い聞かせていたが


ビキッ

ビキッ……ビキッ

由香里の身体から不気味な音が響きはじめた。

ビキビキビキ…

まるで筋肉が鳴り響いているような音に僕と由香里は黙ってしまった。

「あなた……」

由香里がそこまで言った所で

「うぐぐぐぐぐ…」

急に彼女が苦しみだした。

ムクッ、ムクッ

っと彼女の体が大きくなりはじめた。

「由香里…」

僕は由香里の異変をただ傍観していた。

ビキビキビキ…

由香里の手足が徐々に伸び始めると、

彼女の背丈も伸び始めた。

さらに、筋肉が延びた身体につきはじめると、

彼女は徐々に女の身体から男の身体へと変化しはじめた。

グググググググ…

盛り上がっていく筋肉、

薄くなっていく脂肪…

「ふぐぅ〜っ」

そのうち体内の変化に追いつけない彼女の皮膚はひきつりだし、

ピシピシピシ!!

と言う音を立てながら裂け始めた。

そして、裂けた皮膚の下からは黒い黒檀色の肌が顔を覗かせていた。

やがて、彼女の股間が盛り上がりはじめると、

ベリッ

っと言う音と共に股間に男性のシンボル・ペニスがそそり立った。

そして、その頃には由香里の身体はもはや

”男の身体に女の皮膚が乗っている。”

と言う状態になっていた。

「うぐっ」

悶え苦しんでいた彼女が力んだとたん、

ベリベリベリ

と言う音と共に、

ついに彼女の皮膚がはじけ飛んだ

そして、

その後には黒い肌をした逞しい男が荒い息をしながら横たわっていた。

「由香里…お前……」

呆然と彼女を見つめる僕に

「……あたし……マサイになっちゃったの?」

由香里は自分の黒い肌を見ながらそっと言う。

「あっあぁ…」

僕はどうしていいのか判らずに呆然としていると、

「ハァ…ハァ…」

由香里の息が荒くなり始めた。

「おっおいっ」

肩で息をする由香里の姿に僕が声を掛けると、

「あぁ…ダメッ」

由香里はそう言うと、

股間に生えたばかりのペニスに両手を添えると、

シュッ

シュッ

っと扱き始めた。

ムクムク

扱かれていく彼女のペニスは見る見る勃起し、

まるで黒い棍棒のような姿になってしまった

「由香里っ、お前何を…」

意外な彼女の行動に僕が驚くと、

「あなた…ごめんなさい…

 コレを出させて…

 夢の中でマサイがあたしのオチンチンを扱きながら言ったんです。

 勇者の証を見せろって…

 だから…あたしは…」

訴えるようにして由香里が僕にそう言うと、

シュッシュッ

っと黒いペニスに手を絡ませ、

まるでピストンのようにしてひたすら扱き続けた。

「あっ…あっ…あっ

 いっいぃ…
 
 あぁ、オチンチンがジンジンする!!」

口をパクパクさせながら由香里は譫言のようにして言う。

「………」

僕はただ由香里のオナニーショウを眺めているだけだった。

シュッシュッ!!

ドロ…

ついにはペニスの先から先走りの液体垂れ始めてくると、

「あぁ…でっ出る

 出ちゃう
 
 出ちゃう」

と叫ぶと、

シュシュッ!!

赤黒い色をした亀頭の口から白い精液が激しく吹き出した。

ドクドク!!

溜まっていた精液をすべて吐き出すようにして

精液を流し続けるペニスを眺めながら、

由香里はガックリと肩を落とすと、

「あっあたし…

 出しちゃった…勇者の証を…」

と呆然とした口調で呟いていた。



その日を境にして由香里のマサイへの変身は次の段階へと進んだ。

ある朝には、朱染めの布・シュカを身体に巻き付けた姿になり、

また別の日には、色とりどりトンボ球のマシパイが彼女の身体を彩るようになった。

こうして由香里はどこから見ても由香里はマサイの勇者・モランになっていた。

そして、その頃から、

由香里は画用紙にある山の絵を描き始めるようなった。

その山を書きながら、

「ごめんなさい、

 あたし…
 
 もぅすぐ、ここに行かなくてはならないわ」

っと言い出した。

「え?

 何を言うんだ」

彼女の言葉に驚くと、

「判るの……

 夢の中のマサイはまだ何も言わないけど、

 もうすぐここに来いって彼らは言うわ」

「行くなっ」

僕は由香里の両肩を握るとそう強く言うが、

彼女は静かに首を振ると、

「無理よ…

 このマサイの姿では
 
 もぅココでは暮らしていけないわ

 だから、行くの…」

すでに決心をしているのか由香里の表情は明るかった。

「そんな…」

「別に死ぬわけじゃないから、安心して」

「でも」

と僕が言うと、由香里は絵を指さして、

「ココがどこかは判らない。

 でも、ココであたしが生きているってことを忘れないで」


その晩、僕は由香里を抱いた。

男と男の愛撫ははじめての経験だけど、

でも、思いっきり彼女を愛した。

翌朝…僕は無意識に隣で寝ている彼女の姿を探していた。

しかし…

由香里の姿は部屋には無かった。

「俊彦さんへ…

 楽しい思い出をありがとうございました。」

そう書かれた紙が一枚残されていた。



つづく


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