風祭文庫・乙女変身の館






「卒業」
【後編】



作・風祭玲


Vol.182





「ほらっ、いつまで寝ているの!!」

ガラッ!!

ついにやってきた受験当日の朝、

いつになく早くお袋の声がするのと同時に雨戸が開けられた。

「ふぁ?…」

寝ぼけ眼で時計を見ると目覚ましのベルが鳴るまでまだ30分以上もあった。

当然雨戸の外はまだ薄暗い、

「なんだよぉ…まだ時間まであるじゃないか…」

昨夜遅くまで受験勉強をしていた俺は布団に潜り込みながらお袋に文句を言うと、

「何言ってんのっ、

 色々と支度があるでしょう?」

そう言ってくるお袋の声に、

「あぁ?、5分もあれば着替え終わるよっ」

と返事をすると、

「ゆうちゃん、あなたまさか学生服着て受験する気?」

とお袋が尋ねた。

「あっ!!」

お袋の指摘で俺は重大な事実にようやく気が付くと、

「ほらっ、

 尾田のおばさんから由美子ちゃんが着ていた制服借りてきたから、

 これに着替えなさい」

そう言ってお袋はイスの上に持ってきた制服を掛けると部屋から出ていった。

モソ…

お袋が部屋から出て行くのを見計らうようにして、

俺はベッドから起きあがると、

イスに掛けてある制服をおもむろに手に取ると、

「はぁ…やっぱり一度はコレを着なくてはならないか」

と呟きながら制服を広げた。

フワッ

防虫剤の香りと共に校章の入った紺色の制服が俺の目の前に広がっていく、

「………」

普段見慣れているものとは言え、

それはあくまで見る対象であって、

自分がその対象の中に入ることはまさに青天の霹靂と言っても良いものだった。

「まぁ、俺が普通の女の子として育ってきたのなら、

 コレを着るのはごくありふれた朝の光景なんだろうけど…

 でもなぁ…

 やっぱり男として生きてきた以上、抵抗はあるよなぁ…」

と制服を眺めながら呟く、

そして、しばらくの間制服と睨み合いをした後、

「じゃっ始めますか…」

俺はそういうとおもむろにパジャマを脱ぎ捨てた。

そして下着のTシャツを脱ぐと、

はっきりと膨らみが判る胸に用意されたブラをつける。

キッ

っと胸周りを締め上げる感覚が自分の身体が女性であることを否応なく教え込む。

「………」

コレまで味わったことのない居心地の悪さを感じつつも

丸襟のシャツを着ると、

防虫剤の香りが微かにする制服を身につけた。

キュッ

最期に胸元のアクセントになっているリボンを締め上げ、

白のソックスを穿くと着替えは一応終了したことになる。

ところが、俺には振り向く勇気がなかった。

なぜなら、俺の真後ろの壁には全身を映し出す細長い鏡が掛けてあったからだ、

いつもは大して気に留めていなかった鏡がいまは無性に気になる。

トクン…トクン…トクン…

胸が高鳴るのを感じつつ、

「………えぇい…」

1・2・3で気合いを入れて俺は思い切って振り向いた。

フワッ

すると、鏡の中にスカートを少し膨らませた女子学生の姿が映し出された。

「いっ!!」

予想外の姿に俺は驚くと、

「………」

しばらくの間、鏡の中の自分の姿を見つめていた。

そして、スカートの裾をつまんでみたり、

軽いポーズを取っているうちに、

受験当日にこんな事をしている自分の姿に妙にむなしくなってきた。

「何やってんだろう…俺は…」

どぉーんと落ち込んだ俺はそう呟いていると、

「ゆうちゃん…早くしなさい、時間ないわよ…」

お袋が階下から声を掛けてきた。

「はぁぃ……あっ!」

いつもなら「判っているよっ」って返事をする所なのに、

何故がそんな返事が出てしまう。

「参ったなぁ…」

頭を掻きながら下に降りていくと、

「あら…まぁ」

俺の姿を見たお袋は感心した面もちで俺を眺めた。

「なっ何かおかしいか?」

人に見られる恥ずかしさからか顔を火照らせながら俺が訊ねると、

「へぇ…気が付かなかったけど…

 ゆうちゃんってホント女の子だったのね…」

お袋は俺に近寄ると背後から横から俺の制服姿を見る。

「…そっそんなに眺めなくても…

 はっ早くご飯にしてよ」

何故が俺は女言葉でお袋にそう言うと、

「あっはいはい」

お袋はそう言い残して台所に戻っていった。



「行ってきまーす」

食事後支度を整え、そう挨拶をして出ていこうとしたとき、

「あっ、ゆうちゃんこれこれ」

と言いながらお袋があるモノを持ってきた。

それは付け髪・ウィッグだった。

「え?、それをつけるのぉ!!

 だって、髪も結構伸ばしているよ」

ウィッグを見た俺は驚きながら自分の頭を指差すと、

「なにを言ってんの、

 女の子の制服を着ておきながらその髪ではおかしいでしょう」

とお袋は俺の頭を見ながらそう言うが、

「大丈夫、

 女の子だってこういう髪の子がいるからそこまでする必要は無いって…」

という押し問答を一通りした後、

「じゃぁ試験頑張ってね」

俺に押し切られたお袋の声に送られて玄関のドアを開けると、

昨日と同じ風景が目の前に現れた。

しかし、

ヒヤッ…

足下にまとわりつく寒気に

俺がいつもと違う姿になっていることを思い知らされた。

券売機で買った切符を自動改札機に入れようとしたとき、

ポン

っと肩を叩かれた。

「!!」

ビクン!!

思わず振り向くと、

理美が俺の後ろに立ちニコニコ顔で俺を見ていて、

「おっはよう、友之ちゃん」

と挨拶をした。

そのとき何故か俺はオドオドしながら

「おっおはよう…」

と返事をすると、

「ホラッ何しているの?

 早くしないと後の人、入れないでしょう」

と理美は後ろを指差して俺を急かす。

「あっ…」

彼女に指摘されて俺は持っていた切符を投入口に入れた。

カシャン!!

出てきた切符を取ると俺は足早に行こうとしたが、

「あん、待ってよ…」

理美はすかさず俺の後を追いかけてきた。

「もぅ、ユウが来るのをずっと待っていたんだから」

ややふくれっ面で俺の隣に並ぶと一緒に歩き始める、

「………」

俺は彼女に視線を合わせないようにして歩くと、

「ふむ…」

理美は俺の姿を一目見るなり、

「へぇ…

 …確かに、今日は女の子の制服を着ないとまずい日だわね」

と感心した声で俺の感想を言うが、

「………」

彼女の言葉には俺は答えなかった。

「あら、どうしたの?

 黙っちゃって…

 まさか恥ずかしいの?」

俺の態度を見透かした理美は鋭く指摘した。

「うっうるさい」

思わず反論すると、

「やっぱり……

 でもね、もし、桜花に通うことになれば、

 ユウ、セーラー服着て通うことになるのよ、

 コレくらいで音を上げているようでは女の子失格ね」

理美は先回りをしながらそう言うと、

「わかってるよ、それくらい」

俺は視線を合わせないようにしてそう反論した。

「だったら変に恥ずかしがらないこと、

 いつもみたいに堂々としなさいよっ

 全然ユウらしくないと、

 そ・れ・に…そんな感じだと面接で落ちるわよ」

グサッ!!

彼女が放ったの最後の一言が俺の胸を深く突き刺した。

「そうだよなぁ…

 面接があるんだよなぁ…

 あぁ…なんて受け答えすれば良いんだ」

思わず立ち止まって呟いた俺の言葉に理美は、

「そんなの簡単じゃない、

 いつものユウで行けばいいのよ、

 面接する側から見れば

 ユウは自己主張のはっきりした子に見えるから問題ないと思うわよ」

「そうかなぁ…」

「そうよ、あっ電車が入ってきた、急ごう」

入ってきた電車を見た理美は俺の手を掴むなり走り出した。

ピンポン…

ドアがしまり電車が走りだすと、

「なぁ、お前は何処の学校受けるんだ?」

その時になってようやく俺は理美が受験する学校を尋ねた。

「はぁ?」

俺の言葉を聞いた理美は情けないような顔をしたあと、

「なにいってんのっ、あたしも桜花を受けるのよ」

と答えた。

「えぇ!!」

その言葉に俺が目を丸くして驚くと、

「ユウねぇ…

 ウチの学校から何人桜花を受けると思っているの」

呆れた口調で理美が訊ねると、

「そんなに…いるの?」

恐る恐る俺は尋ねた。

「そりゃぁウチのクラスからも他にも4・5人いるわよ」

と理美は数を数えるようにして指を折っていく、

「………」

その言葉に俺が呆気にとられていると、

「はぁ…

 全然、その辺全然考えていなかったみたいね、

 全くユウってそう言うところは相変わらずなのね……

 …だから、心配であたしも桜花を受けることにしたのよ…」

丁度電車のすれ違いで理美の最期のセリフが聞き取れなかった俺は、

「え?いまなんて言ったの?」

と聞き返すと、

「ううん、何でもない…」

理美はそう言いながら首を振った。

「そうか…じゃぁ他の連中は?」

「もぅみんな行っちゃったわよ、

 で、あたしは一人でユウを待っていわけ」

「それは、お手数をかけまして」

「感謝してよね」

「はいはい」

俺と理美を乗せた電車は一路目的地に向けて走り去っていった。



幸い試験会場は俺と理美は別々だったので、

学校の他の連中と会うことはなく試験を受けることが出来たが、

試験監督役の教師を除いて女性しかいない会場と言うのは

場慣れしていない俺にとってはちょっと息苦しかった。

一方、試験の出来はと言うと何とも言えないのが実状だった。

「どうだった?」

クラスの女子達と鉢合わせしないように少し時間を遅らせて出てきた俺に、

外で待っていた理美は成果を尋ねてきた。

「後は野となれ山となれ…」

俺は一言そう言うと歩き始める。

「受かればいいね」

一緒に歩きながら理美は俺にそう言うと、

「答案はもぅ出したんだから、

 いくら願い事をしても点数は替わらないよ、

 もし変えるとしたら、これから受ける明日の面接だな」

俺はそう言いながら西日が傾く空を見上げた。

「ただいまぁ…」

自宅に帰ったとたん、

「試験どうだった?」

飛び出してきたお袋も理美と同じ質問をしてきた。

やれやれ…



2日間に渡った桜花の試験は無事に終了し、

俺はつかの間の女子生徒から再び男子生徒に戻ったものの、

俺の体の変化は医者も驚くほどのスピードで女性化し

身体の線はすっかり女性とほぼ同一の姿に、

また胸もAカップのブラがきつくなり始めていた。

その為に日曜日など家の中にいるときは一日中女の子の格好をしているものの、

しかし、学校にはいまだ男子生徒として通っているので、

取りあえず、膨らんだ胸はサラシで消し、

また顔の変化を隠すために酷い花粉症と言う理由で、

大型のマスクをして登校していた。

幸いと言っても何だが、

3学期はほとんど授業がなく、

また受験等の予定がない生徒は一日自習の日々が続いたので、

俺にとって平穏無事な日々を過ごしていた。

そして2月も中旬を過ぎ、桜花の合格発表の日が翌日に迫っていた。

「明日、発表ね…」

「え?」

する事がなく図書室で本を読んでいる俺に理美がそう言ってきた。

「あぁそうだな」

天井を見上げながら俺がそう言うと、

「見に行くの?」

理美は身体を乗り出して尋ねてきた。

「いや、お袋が見に行く事になっている。

 まさか、俺が行くわけにはいかないからな」

と返事をすると、

「じゃぁ、あたしが替わりに見てきてあげようか」

と理美は提案してきた。

「いいのか?」

「だって、あたし見に行くもん」

「あっそうか…」

俺は一人頷くと鞄から受験票を取り出すと理美に手渡した。

「…あら、この顔写真…随分と女の子しているじゃない」

渡した受験票をしげしげと眺めた理美は

貼ってあった俺の顔写真を見てそう呟く、

「あぁ…

 それ、ある女子生徒の写真をベースに俺の顔を合成したものだそうだ…

 いやぁ、最近のデジタル技術って言うのは怖いねぇ」

と俺が言うと、

「いいの?、そんなコトして?」

ジトッ

っとした視線で理美は俺に言った。

「さぁ俺が作ったものじゃなくて

 大人達が作ったものだから良いんじゃないの?」

と俺が答えると、

「ふ〜ん

 結構、世の中っていい加減なのもなんだね…」

と理美は写真を眺めながらそう言うと、

「そっか、本当に女の子なんなんだね、ユウは…」

と呟いた様に聞こえた。

「?」

その時の俺から見た理美はやや後ろ向きになっていたので

彼女の表情はよく分からなかったが、

彼女の頬に流れた一筋の涙の意味が分かるのはそれからずっと後のことだった。



翌日、俺は朝からずっとそわそわしっぱなしだった。

理美達、桜花女子受験組は合格発表を見に朝から学校には来なかったが、

彼女たちと一緒に行動できない俺は理美達が帰ってくるのをただジッと待っていた。

「ようっ、春日…

 年明け早々の入院騒ぎと言い

 花粉症とは大変だなぁ…」

俺の顔を下半分を隠す大きなマスクを見てかつて連んでいた悪友達が寄ってくる。

彼らも各々の受験が終わり後は発表を待つばかりの身上だった。

「あぁ…名賀はどうだった?」

それとなく戦果を尋ねてみると、

「おう、俺はOKだ、

 小高・島田・高杉は公立の発表待ちだしな」

「そうか…」

「で、春日は東城なんだろう?」

確認するように名賀が聞いてくる。

「…うん、実は東城はちょっと行けなくなった」

俺は黙っていようかと思ったが、

でも、こいつだけには全部とは言わないが、

一部の事実でも知って貰うと思い、あえてそのことを口にした。

「え?なんで?

 だって、推薦貰ったんだろう?」

名賀は驚いて俺にあれこれ聞いてきたが、俺は
 
「うん、まぁね…色々あってな」

と返事をするだけだった。

「そんな…ちょっと三島に聞いてくる」

「あぁちょっとまて」

そう言って席を立とうとした名賀を俺は止めた。

「三島のせいじゃない、俺の事情だ」

なだめるようにして言うと、

「じゃぁ、何処を受けたんだ?」

息巻いた名賀がそう尋ねてくると、

「いまはちょっと言えない…

 けど落ち着いたら話すよ」

そう言うと俺はイスに座り直した。

「?」

名賀は腑に落ちない表情をしたが、

「まぁ、お前がそう言うならよほどの事情があってのことだな」

「悪いな心配掛けちゃって…」

「いや…

 そうだ、他の連中が落ち着いたら

 カラオケで憂さ晴らししないか?」

「あぁ…そのときには声を掛けてくれ」

「判っているよ」

そう言って那賀が教室から出ていくと、

入れ替わるようにして理美達が教室に入ってきた。

「ねぇどうだった?」

他の女子達が理美達に訊ねる。

程なくして理美が俺の傍に来ると、

「はいっ、おめでとう」

っと言って入学に関する書類が入った紙袋を俺の前に差し出した。

「良かった…」

俺の心に安堵の色が広がった後、

『理美は?』

そう言う視線を俺が彼女に送ると、

「四月からは同じ学校ね、

 特に友紀は文字通り女の子1年生なんだから

 バシバシと鍛えてあげるわよ」
 
と片目を瞑って俺に言った。

「あぁ、よろしく」

俺はそう言うと右手を差し出した。

「うん」

理美も右手を差し出すと

ギュッ

と握手を交わした。

「あっ、そうそう三島先生が呼んでいるから、スグに進路指導室に行って」
 
去り際、理美が俺にそう言ったので俺は進路指導室へ向かった。


「失礼します」

そう言いながらドアを開けると、

中には担任の三島と学年主任の佐山今日子先生が待っていた。

「佐藤から聞いたが、まずはおめでとう」

最初に口を開いたのは三島だった。

「はい」

「春日くん、いや、”さん”と言った方がいいかしら…

 話は聞いていましたが、色々と大変でしたね」
 
「えぇ…まぁ…」

「一応、向こうには君の事情はちゃんと説明してあるので、

 トラブルはなたないと思うけど、
 
 でも、大丈夫か?」
 
心配そうな面もちで三島が俺に聞いてくると、

「たぶん…大丈夫だと思います。

 そりゃぁ、ふたを開けてみないと判らないことだらけですので
 
 何とも言えませんが…
 
 でも、僕………
 
 いえ、あたしのこと理解してくれる人が少なくても一人はいますから」
 
と答えると、

「そうか、心強いな、そう言う人がいるのは…」

「はい」

「まぁ、身体が女の子になったとはいえ、

 卒業まではあくまで男子生徒なんだから、
 
 あんまり変なことはするなよな」
 
そう言って三島が刺したクギに、

「先生…いくらあたしでも女子更衣室を覗きに行くことはありませんよ」

と言ってかわした。

「まっ、ともかく、

 これだけのことがありながら、
 
 それを乗り越えた春日さんの努力に敬意を表します。
 
 これからも色々あるかも知れませんが、負けずに頑張ってね」
 
と言う佐山の言葉に、

「はいっ」

俺は胸を張って答えた。



その日からは別の意味で忙しかった。

桜花への入学手続きはもちろん、

制服の採寸注文やら(うわっホントにセーラー服だ)、

学校指定の小物の買いそろえ等々

そして学校では卒業式の練習…

ハタと気が付けば呆気なく卒業式当日の朝を迎えていた。

「はぁ…今日で男の俺とはお別れか…」

鏡に映った学生服姿の自分を見ながら呟くと、

その後ろで春から着ていく出来上がったばかりの

桜花のセーラー服が微かに揺れていた。

「かあさん達は後で行くからね」

出ていこうとする俺の後ろで支度をしていたお袋が声を掛けた。

「あぁ、判った」

そう言い残して俺は自宅を出た、

そして、それは男としての最後の通学だった。

卒業式は毎年替わらぬプログラム通りにつつがなく進行し、

卒業証書の授与に入った。

そのとき俺はある覚悟を決めていた。

名前が呼ばれるのと同時に一人ずつ壇上へと向かい、

校長先生から卒業証書が手渡されていった。

そして、俺の名が呼ばれたとき、

俺はつけていたマスクを外して返事をする。

ザワッ…

壇上に上がった俺の姿を見て小さなざわめきが上がったがスグに収まった。

「色々、大変だったね…」

証書を手渡すとき校長先生から一言俺に声が掛けられた。

「はい」

俺は小さく返事をすると、

「頑張りなさい…」

と言って校長は俺に証書を手渡した。

滞り無く式が終わり教室に戻ったとたん案の定大騒ぎになった。

そして、スグに始まった最期のホームルームの時に、

三島が俺の身体についての説明をクラスのみんなに話した。

無論、話の後

みんなに隠してきたことを非難する声が挙がったが、

しかし、俺の事を称える拍手に替わっていった。


「なぁ…ちょっと寄り道しないか?」

ヒバリが鳴く未だ高い春の日の中、

学校を出た俺は理美にそういうと、

近くの川の堤防の上に駆け上がっていた。

「ふぅ、終わっちゃったね…」

空を見上げながら理美は俺に言う、

「あぁ…そうだな」

俺も空を見上げてそう言うと、

「今日を持って、ユウは女の子になっちゃうのね」

としみじみと言うと、

「まぁな」

「じゃぁ卒業式だ」

思いついたように理美は言った。

「え?」

一瞬のその意味が分からないでいると、

「男の子の…」

と彼女は付け加えた。

その言葉に、

「あはは、そうだな、

 男を卒業して女に入学するのか、

 まぁそれも面白いかもな…」

と俺は返事をすると、

「普通の人は出来ないよ」

理美は俺を見ながら言う、

それに、ちょっと悪戯っぽく

「俺だけの特権」

とニヤケながら言うと、

「ちょっとぉ」

呆れながら理美は俺を見た。

よいしょ…

俺は着ていた学生服の上着を脱ぎ、

そしてそれを丸めると、

「じゃぁなっ男の俺!!」

と叫んで春の青空の中へと投げ込んだ。



エピローグ…

4月から名前を女の子らしく友紀と変えたあたしは

一斉に散り始めたサクラの下を歩いていく、

真新しいセーラー服での登校もようやく慣れ、

周囲の景色をノンビリと眺める余裕も生まれていた。

「春日さぁーん」

駅から降りてきたあたしを呼ぶ声に振り向くと、

桜居瑞穂が手を振りながらあたしの後を追いかけてきた。

「駅で見かけたので追いかけてきたんだけど、

 春日さんって歩くのが早いんですね」

息を切らせながら喋る彼女に
 
「あっそう?」

と返事をすると、

「えぇ」

そう言って頷く彼女は入学式のあとクラス分けで、

たまたま隣の席になったことから言葉を交わすようになっていた。

「そう言えば、春日さんは何処のクラブに入るんですか?

 春日さんは結構活発そうに見えるから新体操なんて良いと思いますが…」

と言う彼女に

「うん、でも、一応入るクラブは決めているんだ」

とあたしは彼女にそう告げた。

「え?、どこですか?」

「うん…まぁサッカーをやろうかとね」

と答えると、

「まぁ…それはよろしいですわ」

瑞穂は両手を重ねるとそう返事をした。

やがて見えて来た校門の所で理美があたしを待っていた。

「こらっ、遅いぞ…」

そう言って声を掛ける彼女に、

「ごめんごめん、ちょっと寝坊しちゃって…」

あたしはそう言い訳をすると駆け足で校門をくぐり抜けて行った。



おわり



あとがき…

「卒業」如何でしたでしょうか?

実はこのネタ、結構前からあったのですが

ようやく話として作り上げることが出来ました。

感想を頂けると嬉しいです。

では…


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