自動車用内燃機関は生き残れるか

〜環境問題と内燃機関の未来〜


第6章 内燃機関の明日

(1) 霧の中の未来

 環境問題で叩かれ、石油燃料の枯渇に怯えるガソリン及びディーゼルエンジン。 代替燃料を用いた研究も、かなり前から進められているものの、いまだ実用的と言えるものは誕生せず、その先は依然として全く見えてこない。
 その理由としては、内燃機関用燃料としての性質が最適だったことや、石油燃料の特徴を、最大限に活かすように進化してきたことなどがある。
 中でも、後者が最も大きい要因と言えるだろう。
 これまでの進化の過程で、エンジンは石油燃料に適するように変わっていった。完全燃焼に限りなく近づけ、有害物質を減らす努力を重ねてきた。 その結果、石油燃料以外を受け入れない機械的性質ができてしまった。 生物的に言えば、代替燃料は“病原体”であり、それを対抗する“抗体”が備わってしまったのだ。
 この抗体が全く作用しないのは、石油と同じ化石燃料であるガス燃料のみだが、同じ化石燃料であるということは、燃料の枯渇問題が解決されない。
 化石燃料が枯渇する前に、何とか代替燃料エンジンを開発して普及させなければ、環境問題の後押しも加わって、絶滅してしまう可能性は限りなく大きい。


(2) 石油の代役が務まるか ガス自動車

束の間の主役 天然ガス

 代替燃料として、現在最も大きな期待をかけられているのが、ガスである。
 燃料として用いられるガスは、天然ガス(NG = Natural Gas)、 液化石油ガス(LPG = Liquefied Petroleum Gas)、石炭ガスの3つに大別される。
 その中の一つ、天然ガスは、メタンを主成分とするその名の通り自然が作り出したガスだ。 産地の違いで、他の物質を含んでいることもある。日本では消費される天然ガスの96%が輸入であり、ガス会社が成分調整した13Aや12A、都市ガスとして供給される。
 先頃、イギリスのエリザベス女王が、低公害自動車の普及を推進するために、自らが乗る公務用車両に天然ガス自動車を導入したことでも注目を集めている。
 ガソリンや軽油と同じ炭化水素系の物質だが、水素の含有量が約2倍ほど多く、発熱量当たりのCO発生量が少ない。 また、輸入する際には液化されるが、その際に脱硫化もされるのでSO、NOの排出も低減される。
 また、内燃機関用の燃料とするのに高い技術は必要とされない。前述の通りガソリンなどと同じ性状を持っているため、燃焼制御が容易で現在のオットーサイクルを流用でき、 メタノールなどと違って燃料系統へダメージを与えることが無い。
 ガソリンエンジンと異なるのは、基本的に燃料系統のみである。これも、他の代替燃料に比べて有利な点である。開発や生産に多大な投資を必要としない上、取り扱いもほとんど変わらない。
 ただし、ガスという名の通り、言うまでも無く気体である。そのため、貯蔵がネックとなる。気体はどうしてもかさばってしまうのだ。現在の主流は、高圧ボンベに貯蔵する圧縮天然ガス自動車である。
 他に液化して断熱容器に貯蔵する方法、気体を吸蔵する金属に貯蔵する方法などがある。だが、吸蔵合金は安全性と重量に、液化は安全性と蒸発の問題があり、今のところ高圧ボンベが優勢となっている。
 問題はあるものの、低公害面での期待が高く、石油燃料が枯渇した後の代替燃料としての期待が大きいのも確かだ。
 しかし、可採年数を算出すると永くても30年程度と言われている。これは現在の消費率から計算したものなので、石油が枯渇し、世界の需要が一気に天然ガスへと流れた場合は10年程度もてば良いと思われる。
 つまり、代替燃料としての期待はせず、次世代の燃料の使用が実現されるまでの繋ぎとして、また、その時までの環境保護対策として使用するのが最良だろう。

資料−6.1 天然ガスと石油燃料の性状比較
天然ガス ガソリン 軽油 備考
ガス密度(s/N立米) 0.718 5.093    
液体密度(s/l) 0.425 0.74 0.80 軽油は15℃の値
低位発熱量(kcal/s) 11900 10500 10300  
低位発熱量(kcal/l) 5060 7800 8200  
理論空燃比 17.2 14.7〜14.9   軽油は1:180でも可
沸点(℃) -162 30〜200 145〜390  
発火点(℃) 650 456 240  
リサーチオクタン価 120136 90100   アンチノック性
セタン価 概ねゼロ 12 57〜60 自己着火性

*「エコカーは未来を救えるか」(三崎浩士・ダイヤモンド社)より


共に消え去る運命 液化石油ガス自動車

 液化石油ガス(LPG)は、1960年代にタクシーで急速に普及した。現在、国内を走るタクシーは、ほとんどLPG自動車である。
 LPGはプロパンやブタンを主成分とし、石油から造られる。石油の精製過程でも産出される。
 石油から生まれるだけに、天然ガス(NG)よりもさらにガソリンや軽油に近い性状で、COの発生量はNGよりも多いが、 燃焼時には気体となるので不完全燃焼になり難く、黒煙やPMが発生しない。圧縮しても自己着火はしないので、ガソリンエンジンと同じオットーサイクルである。
 ただし、現段階においてはガソリンエンジンに対する優位性は少ない。排ガス規制上は同じ扱いだし、出力も劣る。
 また、石油から産出されるので、それが枯渇すれば同時に消えることになり、ガソリンや軽油の代替とはならない。メリットとして挙げられるのは、ディーゼルエンジンに対しての低公害性と、燃料の安さである。
 ところが、ディーゼルも近頃、低公害化に向けて本格的に動き出し、そのメリットも薄れつつある。とすると、燃料の安さしか生き残る宣伝文句がなくなってしまうわけだが、価格が安いのは税金が安いためで、税金が上がれば価格も上がる。確実なメリットは一つも無い。
 しかしながら、ガソリン、軽油以外でここまで普及した燃料は他に無く、タクシーで実用化されているのだから、その役割は十分に果たしていると言って良いのではないだろうか。

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