自動車用内燃機関は生き残れるか

〜環境問題と内燃機関の未来〜


第5章 電気エネルギーは未来を救えるか

(4) 新種誕生 燃料電池自動車(Fuel Cell Electronic Vehicle)

電気自動車の新なる道

 電気自動車は、電池の重量やコスト、航続距離、充電施設、充電時間など多くの問題を抱えているが、低公害には電気が最善であることは誰もが認めざるを得ない事実だ。
 問題の多くは電池にある。電気自動車は、外部で発電した電気を蓄え、それを利用して走行する。
 ということは、電気を蓄えず、発電しながら走行できれば問題ないわけで、そんなところから最近注目され始めたのが燃料電池である。
 燃料を用いて電気を生み出すという概念自体は、シリーズハイブリッドと同じものであが、発電方法は全く異なる。
 シリーズハイブリッドは燃料でエンジンを回し、その力で発電機を動かして発電するが、燃料電池は化学反応から電気を取り出す。
 電気を蓄えているわけではないので、電池という言い方が適切かどうかは疑問があるが、今回はどうでも良い問題なので脇に置いておく。
 基本的には燃料極と酸素極とが電解質を挟む形で構成され、電解質の物質によっていくつか形式がある。
 発電の過程は、まず燃料極に水素 (H)を供給する。Hは電解質によって水素イオン(H+)と電子(e-)に分かれ、H+はそのまま電解質内を通って酸素極に達する。 e-は電改質を通れないため、外側を迂回するようにして酸素極に到達する。この“e-の流れ”を取り出して電力としている。
 そして最終的には、外部から酸素極に供給された酸素(O)と、電改質を通ってきたH、電解質の外部を通ってきたe-が結合して水(HO)となる。(図5.3参照)
 この例では、電子は燃料極側から酸素極側に流れているが、逆のパターンもある。いずれにしても、水素と酸素が結びついて水となる過程で発電する。
 燃料電池は、燃料極と酸素極、電解質を1セットとして(セルと言う)、セパーレータと呼ばれる隔壁で仕切り、いくつかのセルが積み重ねられている。構造自体は一般的なバッテリーと似ている。
 燃料としてはメタノールも候補に挙げられているが、改質器で水素を取り出して反応させるので、燃料を改質するというプロセスが一つ増えるだけであとは変わらない。 ただ、車載することを考慮した場合、基本的に気体の水素では貯蔵に問題(後述の水素エンジンの項を参照)が多く、液体のメタノールの方が扱い易い。
 水素の貯蔵が上手くいけば、メタノールを使用することはなくなるだろう。改質器という余分な機器とプロセスを省くことができるからだ。
 しかし、水素の貯蔵問題に嘆いているのは水素エンジンも同じこと。もし、それを解決できるなら、水素エンジンが実用化されてもおかしくはない。
 水素を燃料とする二つの可能性、燃料電池と水素エンジン。双方とも電力と内燃機関の未来を背負わされている。これを「電力と内燃機関の対立が今後も続くことの暗示」と捉えるのは考え過ぎだろうか。

図−5.3 リン酸型燃料電池の発電原理

DENTI

*「エコカーは未来を救えるか」(三崎浩士・ダイヤモンド社)より


資料−5.7 燃料電池の種類

種類 低温型 高温型
アルカリ型 リン酸型 高分子型 溶融炭酸塩型 固体電改質型
電解質 水酸化カリウム リン酸 高分子膜(ポリマー) 溶融炭酸塩 安定化ジルコニア
作動温度 100℃以下 約200℃ 100℃以下 約650℃ 約1000℃
排熱利用 発電設備では使用不可 コジェネレーション用 発電設備では使用不可 コジェネレーションには可
発電設備では使用不可
コジェネレーションには可
発電設備では使用不可
燃料 純水素 COを抑えた
粗製水素
COを抑えた
粗製水素
粗製水素 粗製水素
原材料 精製された水素
電解工業等の副生水素
天然ガス
メタノール
ナフサ
灯油
天然ガス
メタノール
ナフサ
天然ガス
メタノール
ナフサ
灯油
石炭
天然ガス
メタノール
ナフサ
灯油
石炭
発電効率 60%以下 35〜45% 40%以上 45〜55% 50%
用途 宇宙、海洋 コジェネレーション
分解配置型電気事業
離島用電気事業
可搬用電源
輸送用電源
小規模発電
分解配置型電気事業
可搬用電源
輸送用電源
コジェネレーション
分解配置型電気事業
火力発電代替電気事業
コジェネレーション
分解配置型電気事業
火力発電代替電気事業
自動車への
利用
EUREKA計画 DOEバスプロジェクト 各自動車メーカー 無し 無し
略称 AFC
Alkaline
Fuel Cell
PAFC
Phosphoric
Acid
Fuel Cell
SPFC
Solid
Polymer
Fuel Cell

PEMFC
Proton Exchange
Membrane
Fuel Cell

MCFC
Molten
Carbonate
Fuel Cell
SOFC
Solid
Oxide
Fuel Cell

*「エコカーは未来を救えるか」(三崎浩士・ダイヤモンド社)より


電気自動車の主流となれるか

 燃料電池は電気で車を動かすので、電気自動車のメリットは全て含まれている。
 シリーズハイブリッドと異なり、燃焼を伴わないので排気ガスは出ず、排出物は水分のみ。機械的運動も伴わないので、振動や音も出ない。
 さらに純粋な電気自動車が抱える充電や航続距離の問題は解決される。重量は多少かさんでしまうが、電気自動車よりは軽い。 電気で動く自動車としては、最も問題点の少ない将来性のあるシステムである。
 だが、電気自動車よりは問題の数は少ないものの、一つ一つの問題自体が大きい。特にコストと燃料関してが重要なポイントとなる。
 コスト問題は、開発開始からまだ間もなく、システムも完成されたわけではないので早計かもしれないが、一説によると現在の1500tクラスと同じ程度でも最低一千万円はすると予測されている。 ある関係者は「5年後には自動車として売れる上限まで辿り着きたい」と言っていたそうだが、それでも現在の自動車よりは遥かに高いはずだ。
 コスト低減の鍵はイオン交換膜(電解質)が握っていると言われている。他にも燃料極の加工費なども低減されるのではないかと考えられているが、それらの材料費は下がらないとの見方もあり、劇的なコスト低減は難しそうな状況だ。 何にしてもコストについては、これからの研究と量産効果に委ねるしかない。
 それ以前に、燃料をどう供給かの方が問題だ。これは6章の新世代内燃機関と重なる問題なので、詳しくはそちらを参照して戴きたい。
 大まかに言うと、どうやって造り、どんな方法で貯蔵・運搬・供給するかが問題なのである。
 最も重要な燃料の供給を考えないのは、現在の自動車業界の考え直さなければならない体質の一つである。
 こうした燃料供給を考えると、既存の電力供給施設(発電所はもちろん、電線などの供給設備も含めて)を流用できる純粋な電気自動車に分があると言える。
 他に耐久性の問題もある。特に酸素と水素の反応で電気を生み出す電解質膜、水素を貯蔵する水素吸蔵金属についてであるが、研究開始から間もないため、どちらも未知数とされている。
 それでも、どの自動車メーカーも「電気自動車は最終的に燃料電池自動車になるのではないか」と見ている模様で、電気自動車の完成された姿なのかもしれない。