自動車用内燃機関は生き残れるか

〜環境問題と内燃機関の未来〜


第5章 電気エネルギーは未来を救えるか

(3) 次世代動力への橋渡し ハイブリッドシステム(Hybrid System)

電気と機械の共存

 トヨタが世界で初めて、ハイブリッド自動車「プリウス」を発売したことで、俄然注目されるようになったハイブリッドシステム。
 その考え方そのものは何となく想像できるが、意外と理解していない人が多いという。 ハイブリッドシステムは、単純に言えば電気(モーター)の力とエンジンの力を合わせて、自動車を動かすというもの。
 発想自体は意外と古く、電気自動車の弱点である航続距離の短さと電池の重さを解決したいという思いが根底にある。 その最も単純な方法は、発電用のエンジンを搭載し、電気を供給できるようにすることだ。つまり、シリーズ式のハイブリッドである。
 ハイブリッドシステムは、パラレル式、シリーズ式、コンバインド式の3つに大きく分けられるが、基本的にはパラレルとシリーズの2種類。 プリウスが採用したコンバインド(複合)式はパラレルに近いものの、どちらにも分類し難い新種だ。
 パラレル(並列)式は、エンジンとモーターのどちらか一方を切り替えて動力とするもので、動力システム的には互いに独立している。
 シリーズ(直列)式は、エンジンは発電機のみを駆動し、モーターを動力とするもので、単純に言えば発電機付きEVである。 燃料を使って電気を生み出すということは、後述する燃料電池も一種のシリーズハイブリッドであると言える。
 この場合、エンジンは動力として使用しないので、非力であるが故に用いられなかったタイプのエンジンも使用できる。 シリーズ式であれば、高出力である必要性はなく、エンジン回転数も低く押さえられるため、排気ガス濃度も低く押さえられる。
 前述の通り、純粋なEVは電池の容量や重量などの問題から航続距離の短さに苦慮しているが、シリーズハイブリッドであればそれらの問題は解決される。 将来のEVがシリーズハイブリッド(燃料電池も含めて)になる可能性は高い。
 コンバインド式は、トヨタがプリウスで実用化したもので、パラレル式とシリーズ式を合わせたもの考えて良い。トヨタではパラレル式と解釈しているようだ。


三つ巴の生存競争

 ハイブリッドシステムは現在、シリーズ式、パラレル式、コンバインド式の3種が存在するが、どれもに長所短所があり、どれが主流となるかはわからない。
 エネルギー効率の面から見れば、シリーズ式が一番だと言われている。この根拠は、パラレル式とコンバインド式におけるエンジンとモーターの使い方から来ている。
 パラレル式は、エンジンかモーターのどちらかを、自動又は手動で切り替えて走行するものである。
 そうすると、エンジンのみで走る場合にはモーターが、モーターのみで走る場合にはエンジンが、それぞれ余計な重量物と化してしまう。 そのため、エンジン、モーターそれぞれが、単体で走行に必要なパワーを持っていなければならない。これを考えただけで、効率はあまり良くないことがわかる。
 コンバインド式にも同じことが言えるが、モーターとエンジンが互いに補完しあっているので、パラレルよりは効率が良い。 しかし、互いに補完しあって一人前となるわけで、それぞれが単体で走行するにはパワー不足である。
 シリーズ式は、駆動するのはモーターのみなので、エンジンは発電機を回せるだけの最小のもので良い。 負荷が変わってもエンジンにはかからないので、熱効率の高い最高の部分で回し続けることができる。 また、エンジンの出力は発電機にしか行ってないので、エネルギー損失は少ない。さらに、電気が十分にある場合には、エンジンを回す必要はない。
 それに、コンバインド式のシステムをシェイプアップし、エンジンを発電のみにしてモーターを大型化すれば、シリーズ式のできあがりだ。
 そう考えると、やはり3種の中で高効率なのは、シリーズ式となってしまうのだ。
 はっきりしているのは、純粋なパラレル式が大勢を占めることはまず無い。おそらく、その発展型とも言えるコンバインド式に取って代わられるだろう。 エンジンとモーターを切り替えるだけで、回生エネルギー以外に充電手段を持たないパラレル式は、やはり効率が悪いのだ。
 また、モーターで走っていれば低公害だが、エンジン走行時は一般車と変わらない。そのときの余計な重量物、モーターとバッテリーがあることもエンジンの効率を悪化させる。
 コンバインド式が向いているのは、小型車だ。ハイブリッドのメリットはエンジンを小型化(小排気量化)できることなので、負荷変動の大きい大型車には向かない。 もし大型車のためにエンジンを大型化すれば、ハイブリッドである意味が薄れてしまう。
 だからと言って、大型車はシリーズ式と決め付けるのは早計だ。シリーズ式でも、長距離走行では効率が悪くなり、連続した上り坂などでは電池が消耗する。発進停止を繰り返すのも電池に負担がかかる。 そういった面から、坂が少なく、長距離を巡行走行しないような車両、例えば路線バスや集配車、ゴミ収集車などに向いている。
 ただし、どんな車両に適しているかは、モーターの性能、エンジンの特性、システムの制御方法に左右されるので、実際に街を走っているわけでもないのに一概に決めつけることはまだ早い。

図−5.1 ハイブリッドシステム基本概念図

HICAR1 HICAR2
HICAR3 HICAR4

*「エコカーは未来を救えるか」(三崎浩士・ダイヤモンド社)より


鉄腕アトムが見た夢

 プリウスのハイブリッドシステム「トヨタ・ハイブリッド・システム」(以下THS)は、エンジンとモーターを巧みに使い分ける細かな制御が行われている。
  • 発進前

     キーを捻ると当然、エンジンはかかる。エンジンが冷えていれば、暖まるまで暖気を続けるが、既に十分暖まっている場合は数十秒でエンジンは止まる。 ただ、気温が高いときにエアコンをONにしていたり、モーター用バッテリーが充電不足の場合には止まらない。
     暖気が十分でもキーを捻ったときにエンジンを始動するのは、意図的にそうなるようにしたのだという。 バッテリーに十分な電気があれば、エンジンを稼働させることはないわけだが、モーターは停止時には作動せず音がしないため、 発進準備が完了したかどうかがわからないという意見(モニター表示されているが)が出ないようにするためだろう。 これは使う側の「慣れ」の問題だが、EVの問題点が取り上げられていると考えられないだろうか。
  • 発進時

     発進の仕方や充電量にもよるが、基本的にはモーターのみで走り出す。
     緩やかな加速の場合には、かなりの距離をモーターのみで走行する。都心の渋滞などでは、かなり有効な環境対策と言える。
     急加速の場合は直ちにエンジンが始動し、エンジン+モーターで走行する。 停車時にエンジンが動いていた場合も同様に、エンジン+モーターで発進する。
  • 発進時

     発進の仕方や充電量にもよるが、基本的にはモーターのみで走り出す。
     緩やかな加速の場合には、かなりの距離をモーターのみで走行する。都心の渋滞などでは、かなり有効な環境対策と言える。
     急加速の場合は直ちにエンジンが始動し、エンジン+モーターで走行する。停車時にエンジンが動いていた場合も同様に、エンジン+モーターで発進する。
  • 通常走行時

     エンジンからの出力を分割し、駆動しながら発電してモーターを動かす。最も一般的な駆動パターン。
  • 巡行走行時

     高速道路など一定速度で巡行する場合は、通常走行時のパターンにプラスして、モーター用バッテリーへの充電も行われる。
     このときが、システム全体がフル稼働している状態で、巡行速度によって、エンジンの駆動力とモーターの駆動力を微妙に調整しながら、最も燃費の良い駆動配分を行う。
  • 減速時

     アクセルペダルを離した瞬間に、モーターは発電機の役割となり、回生制動の状態に入る。回生制動とは、制動時のエネルギーを電気に変換して充電するもので、制動力もエンジンブレーキよりも強力である。電車には古くから導入されていたシステムだ。
     下り坂でも、アクセルペダルを踏まなければ、回生制動となる。
  • 減速〜停止時

     速度が下がるとエンジンは自動的に止まる。当然、停車時もエンジンは止まっている。
     ただし、前述の通り、エアコンを使用している場合には、どの状態でもエンジンは止まらない。この辺が勘違いされがちというか、忘れられがちなところだ。
 さて、性能面ではどうか。プリウス最大の呼び物は燃費である。
 カタログでは10・15モードで28.0q/lとなっている。最近の一般的な1500tガソリンエンジンでは、大体15〜19q/l位だ。圧倒的な差である。 実際の街中走行では最大でも20q/l位だと言われているが、それでも平均を越えている。ガソリンエンジンにしても、カタログ値と同じ数値が出るわけはないので、このアドバンテージは揺るぎない。
 次に、排出ガスの量。プリウスでは有害ガスは規制値の10分の1、COは普通ガソリンエンジン車の二分の一にまで抑えている。さらに、アトキンソンサイクルは無理な高出力を出していないため、ほぼ全回転域でクリーンな排気ガスとなるのだ。
 ところで、再三述べている通り、THSの制御は非常に細やかであるため、図示や文章では伝え切れないところもある。それは、THSが現段階では非常に優れたシステムであり、限りなく完璧に近い完成度を持っているためと言っても過言ではない。
 他社でもハイブリッド自動車の開発が盛んになってきたが、今のところ最も効率が良いのはTHSのみだ。
 ホンダでもIMA(インテグレーテッド・モーター・アシスト)と呼ばれるTHSに近いハイブリッドシステムを第32回東京モーターショーで発表した。だが、そのベースとなっているのは第31回東京モーターショーに出展されたプリウスの参考出品車である。
 THSとの違いは、電気の貯蔵にバッテリーではなく“キャパシタ”という一種のコンデンサを使用しているところだ。
 コンデンサの性質上、少しづつ電気を出すということができず、容量が問題となったため、トヨタでは採用しなかったとプリウスの開発チーフエンジニア、内山田氏は言う。
 これから各社から続々とハイブリッド自動車が実用化されるだろうが、THSがこれからのハイブリッドシステムのスタンダードになる可能性は高い。
 エネルギー効率的にはシリーズハイブリッドの方が高いとされているが、ハイブリッドシステム自体は次世代燃料の「橋渡し」的なものと考えられている。
 余談だが、CMキャラクターに『鉄腕アトム』を起用し、「21世紀に間に合いました」というフレーズを付けたのは、非常に上手いことをやったなぁと思う。
 さらに、鉄腕アトムは世界初のTVシリーズアニメーション、プリウスは世界初のハイブリッド自動車だ。どちらも世界初を飾っている。
 まぁ、そこまでの狙いがあったかどうかはわからないが、技術や開発力だけでなく、 “売り込みの上手さ”もさすがはトヨタといったところだろうか。

資料−5.4 トヨタ プリウス

SIRYO1

トヨタプリウス宣伝広告より


図−5.2 コンバインド方式(THS)の作動原理

THS1  低速走行など、エンジン効率の低い領域では、エンジンを停止し、バッテリーからの電気でモーターのみで車輪を駆動する。
THS2  エンジン動力を動力分割機構で2系統に分け、エンジンで車輪駆動も行いながら、発電機も駆動し、モーターへ電気を供給。二つの動力で車輪を駆動する。
 エンジンに余力がある場合は、充電も行う。
THS3  通常走行状態に加え、さらにバッテリーからも電力を供給し、モーターを駆動する。システム・フル稼動状態。
THS4  減速時に車輪からの入力でモーターが発電機となり、バッテリーに充電する。

モーターファン別冊「トヨタプリウスのすべて」より


資料−5.5 トヨタ プリウス主要諸元

車両型式・重量・性能   パワーユニット
車両型式 HK-NHW10-AEEEB エンジン
車両重量 1240kg 型式 1NZ-FXE
車両総重量 1515kg 種類 水冷直列4気筒DOHC
最小回転半径 4.7m 使用燃料 無鉛レギュラー
燃料消費率 28.0km/l 総排気量 1496リットル
寸法・定員 圧縮比 13.5
全長 4275cm 内径×行程 75.0×84.7
全幅 1695cm 最高出力 58ps/4000rpm
全高 1490cm 最大トルク 10.4kg-m/4000rpm
ホイールベース 2550cm 燃料供給装置 電子制御式燃料噴射装置
トレッド 前/後ろ 1475cm/1480cm 燃料タンク容量 50リットル
最低地上高 140cm モーター
室内 全長 1850cm 型式 1CM
全幅 1400cm 種類 永久磁石式同期型モーター
(DCブラシレスモーター)
全高 1250cm
乗車定員 5名 最高出力 30.0KW/940〜2000rpm
変速比・減速比 最大トルク 31.1kg-m/0〜940rpm
電子制御式無段変速 主電池(モーター用バッテリー)
減速比 3.927 形式 ニッケル水素電池
ステアリング機構・駆動方式 個数 40個
ステアリング形式 ラック&ピニオン 接続形式 直列
駆動方式 前輪駆動 容量 6.5Ah
サスペンション・ブレーキ
フロントサスペンション マクファーソンストラット式コイルスプリング
(スタビライザー付き)
リアサスペンション トーションビーム式コイルスプリング『イータビーム』
(トーコントロールリンク機構付き)
ブレーキ作動方式 油圧&回生ブレーキ協調式
ブレーキブースター 電動モーターアシスト・ハイドロブースター
フロントブレーキ ベンチレーテッド・ディスク
リアブレーキ リーディング・トレーディング

トヨタ・プリウスのカタログより

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