自動車用内燃機関は生き残れるか
〜環境問題と内燃機関の未来〜
第5章 電気エネルギーは未来を救えるか(1) 低公害の先兵 電気自動車(Electronic Vehicle)電気自動車の実用性低公害といってまず最初に思い浮かぶのが、電気だと思う。電気の源となる火力発電や原子力発電を、公害として問題視する人もいるが、それはまた別問題なので今回は除外する。 さて、電気で自動車を動かすという考え方は、かなり以前からあった。というよりも、内燃機関が実用化されるまでは、電気自動車が主役だったのだ。 しかし、ガソリンエンジンの「コンパクトかつ高出力」という長所の前に敗れ去り、その地位を取って代わられてしまう。 戦後の日本は物不足となり、当然ガソリンも不足したため、国内で一時的に電気自動車が急速に広まったことがあった。 現在は公共機関としてはほとんど絶滅したトロリーバス(架線から電気を得て走るバス)や、路面電車もその名残であろう。 しかし、経済が安定していくに連れてガソリンの供給も安定し、10年も経たずにほとんど姿を消した。 再び電気自動車が注目を浴びるのはそれから20年ほど後、昭和40年代のことである。この頃は自動車の排気ガス問題が騒がれ始めた時期で、電気自動車が復活したのもその影響である。 だが、戦後のような普及は見せず、単なる一過性の流行だけで終わってしまい、現在に至っている。 現在でも「電気自動車は実用的ではない」と考える人は多い。私自信もそうだ。 だがそれは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンと比較した場合のことであり、化石燃料が枯渇し、それらの内燃機関が消えたとしたら、十分に実用的と考える向きもある。 何せ、エネルギーとするものが電気しか無いのだから。
走り出せない電気自動車では、内燃機関に比べてどこが実用的ではないのか。それは、電池の重量と容量(航続距離)、そしてコストだろう。 一般的な1500tのガソリンエンジンが一回の給油(50g)で走れる距離は、車種によってかなりばらつくが、大体400〜500q位。 一方、同クラスの車体を持つ電気自動車が一回の充電で走れるのは、250〜350q位。3割ほど少ない。 また、基本的に電池は大きく重い。航続距離を稼ごうと電池を増やすと、どうしても重くなってしまう。 車重があると、ブレーキ性能の悪化や衝突時の安全対策が問題となる。 それを完全に解決するには、電池を軽量化するか、小型でもより多くの電気を蓄えられるようにするかのどちらかだ。 コストの問題も大きい。ガソリン車と同じ車体でもの3倍近くにまでなってしまう。あるメーカーの電気自動車は、バッテリーの価格だけでベースとなったガソリン車を買えてしまうという。 大量生産すれば安くなるという話も良く聞くが、それでも材料自体が安価な鉄を使用しているエンジンと同じ位にまでコストダウンすることはできないだろう。 結局、「地獄の沙汰も金次第」的な話になってしまうが、事実仕方のないことなのだ。ガソリン車同士でも、同クラスの自動車であれば、より安い方に流れてしまうということは良くある。 それを考えれば、ガソリン車より高くて走行性能の劣る電気自動車になど、魅力を見いだせるはずがない。 わざわざ性能が低いのにより高価な自動車を買うような人間が、そういるわけがない。 「俺は電気自動車に乗ってるんだ。環境保護に貢献してるんだ」と自慢したいという人間もいない。 何せ、今のドライバー達は、自動車が環境を汚していることを自覚しながらも、何もしようとしないのだから。 JAF(日本自動車連盟)を始め、各雑誌社が頻りに取り上げるようになったアイドリング・ストップさえ、やろうとしない。中でクーラーやヒーターをかけて寝ていたりする。 何も信号待ちする度にエンジンを切れと言っているわけでもないのに…。 そんな自分勝手な人達が、環境に良いからといって電気自動車に乗り換えるわけがない。 つまり、少なくとも現段階では、電気自動車を普及させるのに「環境に優しい」は宣伝文句にはならないのだ。 今の世の中、いかに速く、格好良く、便利に使えるというのが求められているので、環境保護は二の次どころか、三の次、四の次である。 電気自動車を普及させるには、そういったところでアピールできる要素がなければ、ほとんど不可能なのではないだろうか。 もう一つ、整備の問題もある。電気自動車は文字通り全てが電動であり、自動車を動かすだけあってかなり高電圧になる。 そうなると、中をいじくりまわすには特殊な技術や資格が必要になってくる。下手をすれば自動車整備業界全体を見直す必要すら出てくるだろう。 また、もっとも基本的な問題として充電方法もある。 電気自動車が普及しないのは、技術的な問題以上に、内燃機関に合わせ過ぎた周囲の状況が大きな障害となっているようにも思える。
電気自動車の可能性電気自動車が生き残る可能性、それは少なくとも三つある。まず一つは、技術革新が計られること。電池の容量や充電時間、コストなどが改善されて、走行性能と価格のバランスが釣り合えば、普及する可能性は高い。 二つ目は、化石燃料の枯渇。化石燃料が無くなれば、既存の内燃機関は使用不能になり、電気に頼るしかなくなる。ただ、代替燃料による内燃機関が実用化されれば、全ての自動車がEV化されることは無いだろう。 三つ目は、宇宙開発分野である。これに関しては、月面探査車(ソーラーカー)として既に実用化されている。宇宙空間では空気が無いため、当然、燃焼を伴う機関(もちろん外燃機関も含めて)は使用できない。 また、SF的な空想論になってしまうが、将来、月面にドームを造ったり、円筒状の人工天体「スペースコロニー」を建造して、その内部で生活するようになったら、電気自動車は必要不可欠になる。 これらの生活空間は狭い密閉空間であるため、大気を汚染する排気ガスを放出してしまう内燃機関は使用できないからだ。 いずれにしても、電気自動車が我々の目から見て珍しくなくなるには、まだまだ時間が必要なようだ。 |
資料−5.1 トヨタ e-com(第32回東京モーターショー参考出品車)
資料−5.2 電気自動車の種類
方式 | レイアウト | 特徴 |
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既存車改造型 |
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トランスミッション レス型 |
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デファレンシャル レス型 |
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ホイールイン モーター型 |
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*「エコカーは未来を救えるか」(三崎浩士・ダイヤモンド社)より
資料−5.3 自動車用モーターと制御装置
種類 | 直流式 | 交流式 | ||||
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直巻式 | 分巻式 | 分巻式 | 誘導式 (かご型) |
永久磁石式 (DCブラシレス) |
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構造 | 回転子 | 界磁巻線を巻いた鉄心と、外部から電力を供給するブラシ | 界磁巻線を巻いた鉄心 | 界磁巻線を巻いた鉄心と、回転子の磁極を検出するホール素子 | ||
固定子 | 電気子巻線を巻いた鉄心と整流子 | 導体をはめ込んだ鉄心の両端をリングで結合 | 永久磁石 | |||
結 線 | 界磁巻線と電気子巻線が直列 | 界磁巻線と電気子巻線が並列 | 界磁巻線と電気子巻線の複合 | |||
機 能 特 徴 |
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メンテナンス | 整流子機構の定期点検と交換が必要 | メンテナンスフリー | ||||
搭載性比較 | 大きさ1、重さ1 | 大きさ0.8、重さ0.9 | ||||
効率 | 約80%(ブラシ部で電圧降下がある) | 約85% | 約90% | |||
制御装置 | 方 法 | チョッパ式 電流のON-OFFスイッチ機能を持つ半導体のチョッパでパルス状の電流を作り、FM制御、PWM制御などでパルス幅を変えて電流値を制御 |
インバーター式 | |||
搭載性 | 大きさ1、重さ1 | 大きさ1.2、重さ1.1 | ||||
効 率 | 約95% | |||||
コスト | モーター本体は、整流子機構を持つ分、高価制御装置は比較的安価 | モーター本体は構造が簡単なため、安価制御装置はやや高価 | 永久磁石を使用するため、誘導式より高価制御装置も複雑なため高価 | |||
備考 | 発進加速に優れるが、高速性能が低い | 最も制御性に優れ、実績がある | 電気自動車としてのメリットは無い | メンテナンス性に優れ、滑らかな速度制御を行える | 効率は良いが、大型・大トルクのものは製作が困難 |
*「エコカーは未来を救えるか」(三崎浩士・ダイヤモンド社)より