自動車用内燃機関は生き残れるか

〜環境問題と内燃機関の未来〜


第4章 見果てぬ未来エネルギー

(1) 次世代動力の3大要素

 次世代動力に求められることは、少なくとも3つあると考えられる。
  1. 低公害
  2. 代替燃料
  3. 省エネルギー
 低公害は、これからの自動車にとっては避けては通れない問題だ。これを無視した自動車は生き残れないばかりか、その開発すら許されなくなる時が来るかもしれない。
 代替燃料も、低公害と共に避けられない要素だ。化石燃料危機はあと半世紀以内に起こる可能性がかなり高いとされている。早いうちに化石燃料以外のエネルギーを実用化し、 まだ化石燃料が残っているうちに移行を済ませなければ、自動車は動かなくなる。
 現在の世界では、自動車は経済活動の重要な役割を果たしており、もしも急に自動車が使えなくなったなら、世界的混乱が起こるのは必至である。
 だからといって、ただ化石燃料以外なら何でも良いというわけではない。その代替燃料の資源がいつまで持つのか、入手が容易か、十分な供給体制を取れるか などの問題を総合的に考慮し、先を見ながら検討しなければならない。
 省エネルギーは、この3つの中で最も優先度が低いが、燃料消費を抑えることができればCO削減にもつながるので、低公害を助ける要素でもある。
 次世代動力に求められる条件をまとめると「環境を考え、化石燃料から離れることができるもの」と言うことができる。


(2) 乱立する代替え燃料

 代替燃料として考案されているもの、または開発が進んでいるものはかなりある。 電気(燃料ではないが)はもちろん、天然ガス、アルコール系、水素、エーテル、石炭ガス、合成燃料、バイオマスなど多岐に渡る。
 この中で開発の進んでいる、電気、天然ガス、アルコール系、水素については詳しく後述するとして、ここではそれ以外のものを紹介する。
 エーテルは、無色透明、揮発性の液体で、戦時中にはアルコール系燃料の着火性を高めるために、少量混ぜることがあった。 ディーゼルエンジンの代替燃料として可能性を探っている研究機関もある。
 しかし、アルコールから製造されるため、わざわざ別のエネルギーを費やしてエーテルにしなくても、アルコール自体を燃焼させてしまった方が有効だ。
 また、長期間、空気中に放置すると爆発性の過酸化物を生成し、衝撃で爆発する危険性がある。さらに帯電性で静電気が発生し易いなど保存と使用に注意が必要であり、 加えて、溶剤など化学工業の原料なので、燃料としての供給体制にも問題がある。
 合成燃料は、石炭からガソリンや軽油を精製したもので、戦時中にドイツや日本で試みられたことがある。石炭を液化すると言っても良い。
 通常の石油造るガソリンや軽油と性状が同じものを精製できるのなら、自動車のハードウェア(エンジン)的には全く問題ない。 しかし、余計な精製プロセスが加わるため割高になるほか、精製時や使用時の環境への影響が問題となる。
 バイオマスは、名前だけを聞けば非常に未来的で新技術であるような響きがあるが、古くは薪炭や木炭などの原始的な燃料も含まれている。
 それらはガス発生炉で木炭などを蒸し焼きにし、水素ガスなどの可燃性ガスを取り出して燃料とするものだった。砂糖黍の搾りカスなどからエタノールを造ったり、 下水汚泥やゴミを微生物分解してメタンを発生させるなどもバイオマスである。
 発生したガスの成分は天然ガスと同じなので、実用上は問題ない。現在研究中だが、規模的にもコスト的にも実用的な生産が可能かという問題がある。
 この中で一番期待できるのは合成燃料だろう。コスト問題と、環境への影響を解決し、現在のガソリンや軽油と全く同じ性質のものが精製できれば、化石燃料の未来をこれほど明るくするものはない。 現在の石炭消費量から予測した石炭の採掘可能年数は、220年余りあるのだ。
 ただし、もしこれが実用化されたとしたら、消費量が爆発的に増えるのは必至で、予測よりかなり早く無くなる可能性もある。

資料−4 代替燃料の候補リスト
エネルギー名 自動車の名称又は燃料の種類 備考 開発状況
電気 電気自動車 蓄電池に電気を貯める 歴史は長い
ソーラーカー 太陽電池で発電 レースのみ
電気とその他の燃料 ハイブリッド自動車 エンジンとモーターで駆動
エンジンと回生で発電
市販実用化済み
ガス 天然ガス自動車 圧縮天然ガス 天然ガスを高圧容器に貯蔵 国内で1200台以上普及('96現在)
液化天然ガス 天然ガスを液化して貯蔵 国内での実用化例は無し
吸着天然ガス 天然ガスを吸着剤に貯蔵 要素技術研究段階
液化石油ガス自動車 液化石油ガスを低圧容器に貯蔵 タクシーを中心に普及
石炭ガス自動車 石炭ガス化で得られたガスを使用 現存せず
アルコール メタノール自動車 純メタノール メタノール100% 試験導入、モータースポーツ
ガソリン混合 メタノール85% 試験導入
バイフューエル メタノールとガソリンを切り替え 国内での実用化例は無し
エタノール自動車 純エタノール エタノール100% 国内での実用化例は無し
ガソリン混合 エメタノール85% 国内での実用化例は無し
バイフューエル エタノールとガソリンを切り替え 国内での実用化例は無し
エーテル ジエチルエーテル 純燃料又は他燃料の改質 要素技術研究段階
ジメチルエーテル 純燃料又は他燃料の改質 要素技術研究段階
合成燃料 液化石炭、オイルシェル、オイルサンド 合成ガソリン、合成軽油 国内での実用化例は無し
水素 水素自動車 液体水素 水素を液化して貯蔵 試験車
水素吸蔵金属 水素を吸蔵する金属に貯蔵 燃料電池車
バイオマス 薪炭自動車 薪炭、木炭 ガス発生炉でガス生成 戦時中に存在
ガス自動車 メタンガス 下水汚泥、ゴミなどを微生物分解 現在は無し

*「エコカーは未来を救えるか」(三崎浩士・ダイヤモンド社)より

*1998年現在