自動車用内燃機関は生き残れるか

〜環境問題と内燃機関の未来〜


第2章 内燃機関の抱える問題

(1) 自動車が走れなくなる日

 化石燃料の枯渇は、30年以上前から常に騒がれてきた問題だ。 その度に、あと35年ほどでなくなるとか言われながら、現在でも残っている。 それだけで済めば笑い話にもなるが、事態はかなり切迫している。
 (財)電力中央研究所が1996年に予想したデータでは、安価な石油の半分は2010年頃に消費し尽くし、 2015年頃から需要が逼迫に向かうとされている。
 (財)日本エネルギー経済研究所では、存在が確認され採掘できる石油が2020年頃から10年間ほどで消費されると予測した。 また、天然ガスは2040年頃、石炭は2050年頃に無くなるという。
 石油鉱業連盟が1997年にまとめたレポートでも、石油採掘が可能なのは2030年代半ばまでとされている。
 これらのデータが真実なら、早ければ後20年後から、遅くとも30年後位からは石油危機が始まることになる。
 その一方で、石油の将来が安泰であるかのように錯覚させてしまう要因がいくつかある。 1996年に特定石油製品輸入暫定措置法が廃止されたことを受けて激化したガソリンや軽油の廉売競争と、 数十年前から変わらない採掘可能年数だ。
 価格の下落は、石油が無限にあるかのように思わせてしまう。 そして、一向に減らない採掘可能年数は、研究機関が発表するデータの信頼性を損ね、危機感を失わせる。
 可採年数、つまり、あと何年取れるかというのは、未発見の埋蔵場所が発見される度に上積みされるので、 増えたり減らなかったりするのはある程度仕方のないことだが、いつまでたっても「あと35年」では馬鹿にされても仕方が無い。
 しかし、様々な説を統合しても、あと30〜40年程度で無くなるというのが大方の一致した見解だ。
 その解決方法はというと、代替燃料を用いた動力を開発する以外にはない。 化石燃料は人工的には作れないし、数十年という短期間で生成されるものでもない。
 もはや、化石燃料に寄り掛かった研究開発をしている場合ではないのだ。

資料−2.1 エネルギー資源の埋蔵量と可採年数
資源名石 油オイル サンドオイル シェル石 炭天然ガスウラン
原始埋蔵量7兆 バーレル2.2〜2.8兆 バーレル3兆 バーレルNO DATANO DATANO DATA
究極可採埋蔵量2.2兆 バーレルNO DATANO DATA10.6兆t290.6兆mNO DATA
確認埋蔵量1兆200億 バーレル0.2兆 バーレル0.6兆 バーレル1兆t141兆m451万t
年生産量231億 バーレルNO DATANO DATA46億t2.3兆m6.14t
可採年数44.2年NO DATANO DATA224年62.2年73.5年

*「エコカーは未来を救えるか」(三崎浩士・ダイヤモンド社)より


(2) 崩れ逝く地球環境

撒き散らされる毒ガス

 もう一方の大きな問題が、環境問題である。

 特に、CO(二酸化炭素)の温室効果による地球温暖化は深刻だ。 地球の平均気温が上がれば、極地の氷が溶けて海面が上昇し、完全に沈没してしまう国もあるという。 日本も無視できる問題ではない。
 さて、自動車のエンジンから排出されるガスで有害であるとされているのは基本的に5つある。 CO、CO、NO、HC、PMだ。
 COは、人体に対する毒性はない(窒息はする)が、前述の通り地球温暖化の原因となる。
 CO(一酸化炭素)は、人体に対して激しい毒性がある。不完全燃焼で発生し、 少量でも一酸化炭素中毒を引き起こし、死に至らしめる。
 NO(窒素酸化物)は、ガソリンや軽油を希薄燃焼させると発生し、 アレルギー性疾患や花粉性、喘息、アトピーー性皮膚炎などの発症率を高める。 また、太陽光線にさらされると光化学スモッグの原因となり、高濃度の光化学スモッグを吸うと死亡することもある。
 HC(炭化水素)は、不完全燃焼で発生する“燃えカス”と言えるもので、 悪臭があって毒性も高く、NOと同様に光化学スモッグの原因となる。 ガソリンや軽油自体が炭化水素系の物質なので、燃えずにそのままガス化されて排出されたものと言っても良い。
 PM(粒子状物質)も、要するに燃えカスであり、ディーゼルエンジンの黒煙が代表的存在。 不完全燃焼で発生し、強い毒性はないが悪臭があり、アレルギー性疾患の原因となる。
 無論、これらが何の処理もされずに排出されているわけではない。
 だが、完全に処理されているわけではない。我々は言わば、これらの『毒ガス』を撒き散らしながら走っているのである。


(3) ディーゼルエンジンの悲劇

 ガソリンエンジンとディーゼルエンジンとで、どちらの排出ガスが汚いかと聞かれれば、ほとんどの人はディーゼルと答えると思う。
 確かに「最終的に排出されるガス」に関しては間違ってはいない。だが、実際に燃焼で生成されるガスはガソリンの方が汚い。
 ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンよりも大きい空燃比でも燃焼する。つまり、燃焼時の空気(酸素)量が多い。 HCやCOは、酸素と結びつけることで無害化されるので、クリーンとなる。
 また、ガソリンを希薄燃焼させるとNOを還元できないため結果的に増加してしまうが、 ディーゼルエンジンは燃焼に関わらない部分の温度が低いので、希薄燃焼させてもNOの発生量そのものは少ない。
 以上のことから、触媒を通過する以前の排気ガスはPMを除いては、ディーゼルエンジンの方がクリーンなのである。
 では何故、ディーゼルエンジンの「排出ガス」が汚いかというと、三元触媒を使用できないからだ。
 NOを無害にするには酸素を奪う必要がある。その酸素はHCとCOの浄化(酸化)に使われることで奪われるが、 元々、HCとCOの排出が少ないため、NOから酸素を奪うことができないのだ。
 その上、希薄状態(酸素の多い状態)での燃焼であるため、周囲には酸素ばかりがある。つまり、HCとCOは周囲の多くある酸素と結びついてしまうため、 反応相手がいないNOは、ほぼそのまま外に排出される。
 無害化されずに排出されるNOに、さらにPMが加わって、ディーゼルエンジンの方が汚いと言われているのだ。
 ちなみに、燃焼ガス温度が低いことも、三元触媒を使用できない原因の一つである。排気ガスがある程度の温度に達して、触媒が暖められないと、浄化作用を発揮できないのである。
 ところで、この排出ガス問題は、ガソリンや軽油以外の代替燃料であれば完全に解決すると思っている人も多いが、それは大きな誤りである。
 燃焼にNO発生は憑物であり、触媒による浄化にも限界がある。完全にクリーンな排出ガスにすることはできない。 クリーンであることが強調されている水素でも、微量なNOは出てしまうのだ。
 だから、燃焼を伴う動力機関である以上、ある程度の環境汚染はやむを得ないとも言えるのだ。あくまでも詭弁ではあるが…

資料−2.2 自動車のもたらす環境への影響
時期活動内容環境阻害要因環境への影響対策
生産前 資源の採取、精製、運搬
原材料の生産
エネルギー源生産
重金属を含む有害物質
精製、製造に伴う有害物質
生産現場と運搬手段からの排気ガス
廃棄物、振動、騒音、悪臭
原料そのもの
大気汚染
土壌汚染
水質汚濁
森林現象と砂漠化
多様な生物の減少
国際的取り組み
生産時 協力工場での部品製造
協力工場からの部品搬入
メーカーでの組み立て、生産
製造に伴う有害物質
生産現場と運搬手段からの排気ガス、廃棄物、振動、騒音、悪臭、粉塵
原料そのもの
大気汚染
土壌汚染
水質汚濁
作業者の健康被害
途上国での生産管理
頻繁な輸送の見直し
販売時 車両移動 使用時(走行)とほぼ同じ 使用時(走行)とほぼ同じ  
使用時 走行 排出ガス
部品からの漏出ガス
CO(一酸化炭素) 健康被害 排出ガス規制
HC(炭化水素) 健康被害、光化学スモッグ 発癌性物質も有り
NO(窒素酸化物) 健康被害、酸性雨、光化学スモッグ  
PM(粒子状物質) 健康被害(呼吸器系、花粉症)  
SO(硫黄酸化物) 健康被害、酸性雨 軽油の脱硫化
CO(ニ酸化炭素) 地球温暖化 低燃費エンジン
燃費規制
粉塵(摩耗部品由来、道路由来) 健康被害  
騒音、振動 平穏な生活の妨害  
公道外走行(特にRV車) 多様な自然破壊(水質、生物) モラルの問題
給油所での漏出(特にHC) 光化学スモッグ  
整備 廃棄物(部品、オイル、フロン) 多様な環境破壊、オゾン層破壊 フロン回収
廃棄段階 解体・リサイクル・最終廃棄 廃棄物(部品、オイル、フロン)
シュレッダーダスト
違法廃車
有害物質の越境
多様な環境汚染
オゾン層破壊
廃棄物処理場の環境汚染
廃棄物処理場の満杯化
途上国での環境汚染
フロン回収
管理型埋め立て処分の義務化
循環型システムの構築

*「エコカーは未来を救えるか」(三崎浩士・ダイヤモンド社)より