友人
友人がいた。
御互い気を許せる友人がいた。
友人は無類の動物好きだった。
将来はその関係の仕事に就くと言っていた。
友人が遠くに行った。
自らの道に進むべく、遠くに行った。
明日は友人が帰ってくる。
私は馳せる気持ちを押えて、向かった。
『約束の場所でいつもの時間に会おう』
約束の場所は、電球の交換がされていない街灯の下。
いつもの時間は深夜から明朝まで。
日にちはどうでも良かった。
手紙を受け取ったその日に、行くと決まっているから。
私は拳を強く握った。
友人は、獣医の資格を取ったらしい。
友人は、多くの動物を救ったらしい。
誰よりも、祝ってあげたい。
私はさらに強く拳を握った。
後少し。街灯はもう見える。
人がいて、私は歩を緩めた。純白のローブが汚れてないか確かめる。
アレは友人かも知れない。が、よく見えない。
私は目を擦る。
アレは近づいて来た。友人じゃない。
私はその横を通りすぎようとする。
キラリと反射してきた光が目に突き刺さった。
「みー」
猫が鳴く声が聞こえる。
私の飼い猫だ。
友人が行ってしまった次の日に、泣きじゃくる私に親が買ってくれた真っ黒な猫だ。
私は手を伸ばす。猫の背を撫でた。
「ニャー」
私は伏した格好のまま顔を上げる。
「なぁ、お願い聞いてくれるかな」
「なーご」
承諾と受けとって、私は続きを言う。
「ここに、真っ黒なローブを着ている人が来る。その人についてあげてくれないか」
眠い。瞼を開けるのも辛い。
「私の代わりに……」
雪が降ってきた。真っ白な雪が、私に触れて真っ赤に染まった。
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