竹本健治著作リストキーワードは夢現
…ネタばれ御免

   A≠A’
 竹本さんて、自分の視ている世界が他人にも同じように視えているのかどうか、相手の肉体を切り刻んでわかるものなら、やってみたいと思うくらい疑問に感じている人かもしれません。
現実との剥離感やら、客観的検証への言及やら、催眠術で登場人物に本心を語らせたがるところやら、なにより伝えたい事を言葉でがっちり構築できるなんて、ちっとも思っていないのかも知れません。
   [ A ⇔ 自分 ⇔ 言葉 ⇔ 他人 ⇔ A’]   A≠A’ or A=A’
 私はそのところが好きなんですが、御本人もそのところにだけ拘っているのではないらしく、無邪気に色々なアプローチを試みる結果、むちゃくちゃ色んなタイプの作品がありますね。
トム君のシリーズと一言で括っても、テーマが全然違っているようです。

 著作リストは、私的に竹本作品を勝手に分類して色分けしています。
 ところで、さっき(99/1/9)私は竹本さんをミステリ作家ではないと、思っていることに気づきました。……確かにミステリを読み解くという作業が全く下手な私が、ミステリファンな訳はなかった。ミステリやSFには少なからず読んでおくべき名著があるのだろうと思います。(それは固定観念だよっというご意見もあるでしょうけど) 知っておくと更に楽しいならついていけるけど、「べき」になると辛いですね。
 話を戻して。竹本作品は前提として「ある程度ミステリを読んでおく必要がある」と、世間一般に思われてるみたいですねぇ。
ただ、私は竹本さんをカテゴリなんて要らない「作家」だと思っているようです。一番読みたい話を書いてくれる語りべです。中には絶対「青春小説」だ!と、思った作品があります。過剰なまでの言葉で迷宮を作り上げるのではなく、視覚を言葉で伝えてしまうから、受け手が迷宮に入りこまざるを得ない「天然」の迷子。…ファンとして間違ってるでしょうか。(弱気)
 その言葉を「聞いている」事が好きらしく、どれを代表作として紹介していいか見当もつきません。ミステリ作品とあえて言うなら、「カケスはカケスの森」が綺麗な小品として完成されていると思います。ただ、私の好きな竹本健治フレーバーからは外れている作品でもあります。デビュー作から読んでみますか?

 それでも、デビュー作「匣の中の失楽」の前に「虚無への供物」 中井英夫 を読んでおくのは、お勧めします。
ウロボロスシリーズの為に、最近の若手ミステリ作家の名前を仕入れておくのは、「それなり」に面白いかもしれません。でも、私は数人しか読んでません。読者は読みたいように読んじゃうもんです。
しかし、笠井潔の「天啓」シリーズを読むのはウロボロスを読み終わってからでないと、絶対後悔しますよ。

発表順。文庫・ノベルは表記。書店名のみはハードカバー。05/12/12現在
作品名
出版社 発行 初出 参考
一 口 感 想
匣の中の失楽
双葉文庫 02/10 幻影城 78/7 講談社文庫 83/12
講談社ノベル91/11
最後のぺージを閉じてからが、この物語の完成に繋がる「謎が一人歩きする」青春小説
囲碁殺人事件
角川文庫 94/3 CBSソニー出版80/7 河出文庫 85/9
囲碁の天才少年「トム君シリーズ」非常に手の込んだ推理小説であり心理小説
将棋殺人事件
角川文庫 94/2 CBSソニー出版 81/2  
「トム君シリーズ」欠落・喪失感を強く感じた作品
トランプ殺人事件
角川文庫 94/4 CBSソニー出版 81/8 新潮文庫 86/1
「トム君シリーズ」正気と狂気の縁を覗き込んだ気がした作品
狂い壁狂い窓
角川文庫 93/5 講談社ノベル 83/4  
「トム君シリーズ」狂気のあちら側が実はこちら側に繋がっている怖い作品
腐食
角川文庫 94/7 新潮文庫 86/10 「腐食の惑星」改題
きっちりとしたSF。でもテーマがとても竹本さんらしくて好きです
クー
ハルキ文庫 00/9 講談社ノベル 87/3  SF
作者が楽しんで書いただろうと思えるSF。若い頃は読むのが辛かった
殺戮のための超・絶・技・巧
ハルキ文庫 99/11 徳間ノベル 88/2 徳間文庫 SF
「ネコシリーズ」竹本さんの書く女性は勁い。それが怖くて哀しかった…下へ続く
タンブーラの人形つかい
ハルキ文庫 00/1 徳間ノベル 88/9  SF 
「ネコシリーズ」(続)…若い頃はそれだけで一歩退いた。今はそれが「作者」の祈りの…(下へ続く)
凶殺のミッシング・リンク
徳間ノベル 00/2 徳間ノベル 89/7  SF 
「ネコシリーズ」(続)現われかもなぁと思っている。ネコはカッコイイです
"魔の四面体"の悪霊
徳間ノベル 00/3 徳間ノベル 90/1  SF 
「ネコシリーズ」雑誌掲載時はミステリからの転身か!と驚きましたが竹本さんの引き出しは広いという事ですね
カケスはカケスの森
徳間文庫 93/12 徳間書店 90/7  
とても綺麗な小品。一般の意味のミステリとしては完成度高いと思います
殺人ライブへようこそ
徳間文庫 96/4 徳間ノベル 91/6  
「類子」初登場。だんだん主役の座を追われてしまうのは、キャラのせい?
ウロボロスの偽書
講談社ノベル 93/8 講談社 91/8  
「実名小説」?「私小説」?私は「青春小説」だと思いました。反論却下
凶区の爪
光文社文庫 95/2 カッパノベル 92/1  
「トム君シリーズ」類子との出会い編。智久君は美少年に育っています(嬉)
定本ゲーム殺人事件
ピンポイント 92/11   ゲーム三部作収録・チェス殺人事件書下ろし
「トム君シリーズ」チェス殺人事件のために買ったので値段が痛かった…
妖霧の舌
光文社文庫 96/2 カッパノベル 92/11  
「トム君シリーズ」最大のライバル桃井君も登場。何気ないけど怖い作品
緑衣の牙
光文社文庫 98/3 カッパノベル 93/8 「眠れる森の惨劇」改題
「トム君シリーズ」流されてしまう人達を書いてきた竹本作品の中でちょっと異色だと思います
閉じ箱
角川ノベル 96/1 角川書店 93/10  
凝縮された短編集。好き嫌いが分かれそうです
ウロボロスの基礎論
講談社ノベル 97/12 講談社 95/10  
だから、「ミステリ」じゃないんだってば。「青春物」です、正統でなくとも
闇に用いる力学
光文社 97/6    
まだ語られていないので、感想は封印。この続きを書くまでずっと待っているつもり
風刃迷宮
光文社文庫 02/3 カッパノベル 98/12  
「トム君シリーズ」女性自身に連載された作品。わたしゃ編集の正気を疑いました。現実感の揺らぐ作品
入神
南雲堂 99/9   竹本健治、21年振りの再デビュー
なんと本格囲碁コミック
「トム君シリーズ」なんといっても桃井君でしょう。トム君は弱ってる感じが色っぽかったです
鏡面のクー
ハルキ文庫 00/10   SF
クーの続編ちょっと痛々しいです。文庫書き下ろし
連星ルギィの胆汁
e-ノベルズ 01/1   SF
腐食の続編。http://www.e-novels.net/にて購入できます。
フォア・フォーズの素数
角川文庫 05/10 角川書店 02/7 
第二短編集。竹本健治入門編としてお薦めです
闇のなかの赤い馬
講談社 04/1   ミステリーランド書き下ろし
装丁や挿絵も不思議で少し悲しい世界観を盛り上げています
虹の獄、桜の獄
河出書房新社 05/10  
七色の犯罪のための絵本+α。短編集です。
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