Scene:6  襲 撃(前編)




翌朝、シンジが階下に降りると、食堂では既にルークとミリーナが朝食を摂っていた。

「おはようございます、ルークさん、ミリーナさん」

「おう、おはようさん、シンジ」

「おはよう、シンジ君」

昨夜の戦いでのルーク達の戦い振りを見たシンジは、いくらか彼等と打ち解けていた。元々人当たりの良いシンジ から話し掛けた事で、ルーク達も好感を持ったようだ。

「お二人供早いですね」

「まあな。他の連中は、まだ寝てるのか?」

「みんな、朝に弱いですから」

ルークの問いにシンジはそう答えて笑った。

「おはよう、シンジ君。すぐ朝食にする?」

厨房にいたヒカリの姉コダマがシンジに気付いて声を掛けた。

「お願いします、コダマさん」

「おはよう、シンジ君。アスカ達はまだ寝てるの?」

「おはよう、ヒカリさん。もうそろそろ起きて来るんじゃないかな」

シンジがヒカリと朝の挨拶を交わした時、丁度アメリアが降りて来た。

「みなさん、おはようございますっ!」

朝からテンションが高い。この元気はどこから生えて来るのだろうか。

「‥‥おはよう‥‥ふぁ」

続いてレイが現れた。低血圧な為、まだボ〜っとしている。そのままふらふらとテーブルに歩み寄り 椅子に腰を下ろした。寝癖で髪の毛が所々はねているのは、ご愛嬌と言ったところだろう。そして、アスカはと言うと‥‥



「‥‥う〜ん、シンジィ、そんなにしちゃ駄目だよぉ〜(#^^#)‥‥ムニャムニャ」

まだ、部屋で爆睡していた。(どんな夢を見てるんだか‥‥)



「――へぇ、ハコネ・シティに寄ってからセイルーンか、随分な長旅だな。片道だけで‥‥一ヶ月って所か」

「そうですね」

「しかし、お前達みたいな子供だけで、大丈夫なのか?」

「一応、僕とアスカは格闘術を習っていますし、皆多少は魔法が使えますからね」

「ふーん。まあ、俺達が護衛してやってもいいんだが、まだこの村との契約が残ってるからなぁ」

「でも、村の人から聞いたけれど、魔道士を捕まえた時の手際は見事だったそうじゃない」

ミリーナが感心したように言った。

「シンジ君は、槍を使うそうね。どこの流派?」

「ネルフ流格闘術です」

「へえ。ネルフ流格闘術と言えば、総合格闘術の中でも屈指の流派じゃねぇか。大したモンだな」

ルークが目を丸くして驚く。実は、ネルフ流格闘術は巷では結構有名なのである。

「それなら、大丈夫そうだな」

「それに、私達には燃える正義の心があります!どんな困難にも負けはしません!」

アメリアが拳を握り締め、目に炎を燃やして力説する。

「そ、そうなのか?」

「そう‥‥みたいです(^^ゞ」

シンジは、苦笑しながら答えた。その横では、半分寝ている様なレイがモグモグと朝食を咀嚼している。 それからしばらくすると、ようやくアスカが起き出して来た。ルーク達はとっくに食事を終わらせて出掛けてしまっている。

「う〜、おはよう」

「おはよう、アスカ。早く朝食を済ませないと、出発が遅れるよ」

「わかってるわよ〜。ヒカリ、ゴハンちょうだい」

ヒカリが朝食を用意すると、早速アスカはパクつき始めた。

「ところで、シンジ。今日はどうするつもりなの」

「うん、今日中にゴウラの町まで行こうと思うんだ。そうすれば、明日が楽だからね」

ゴウラの町は、アクスの村とハコネ・シティの中間地点よりややハコネ・シティ側に寄った場所に位置する町だ。 アクスの村からはほぼ丸一日かかるが、その分翌日のハコネ・シティへの道程が楽になる。

「ふーん。じゃ、急いで食べて出発の準備をしなきゃね」

全員が食事を済ませると、シンジ達はすぐにアクスの村を出発した。かなり急いだつもりだったが、それでもゴウラの町に到着した のは日が暮れてからである。翌日は少し遅めに出発したが、午後にはハコネ・シティのすぐ手前にある森に達していた。

「この森を抜ければ、ハコネ・シティが見えるよ」

「日が暮れる前には着けそうね。聖導教会に寄れるかしら」

レイが小首を傾げて呟く。

「まだ日も高いし、大丈夫だよ――!?」

突然、シンジが歩みを止めた。

「どうしたの、シンジ君?」

「しっ。誰かいる」

シンジが気を研ぎ澄ませてあたりの気配を伺う。

「「「?」」」

ほかの三人も様子を伺うがうが、特に何も感じない。レイやアメリアはともかく、アスカはかなりの修練を積んでいるのだが、 こう言った事に関してはシンジには遥かに及ばないようだ。

「来る!」

ザザザァ

シンジの言葉とともに、覆い茂る木の葉を割って何かがシンジ達の前に降って来た。

「な、何だ!?」

相手を目にしたシンジが驚愕の表情になる。それは見た目には人間のようだった。しかし、 異様なのはその姿だ。黒い装束で全身を覆い、獣の骨のような物で作ったと思われるライト・アーマーを着けている。 その中でも特に目を引いたのは顔を覆う面だ。それは、一見すると鳥の顔の様にも見えるが、真っ白な無表情の面の 目の部分にぽっかりと黒い穴だけが開けられいる。

「誰だ!」

「‥‥」

相手は何も答えない。だが、暫しの睨み合いが続いた後、相手がレイに向かって右手を差し出した。

「娘‥‥オマエノ‥‥持ッテイル‥‥ものヲ‥‥渡セ‥‥」

その声は、何処か人間のものと違う地の底から響いて来るような声だった。

「!?」

レイが、驚きに目を見開く。“持っているモノ”とは、リリスの事に間違えない。 だが、何故それをレイが持っている事を知っているのか。

「これは‥‥渡せないわ」

レイが、静かに、だがきっぱりと拒絶する。

「デハ‥‥力尽クデモ‥‥渡シテ‥‥モラウ‥‥」
               ダム・ブラス
「そうは、いかないわ!振動弾!」

アスカが唱えていた呪文を叩きつけた。しかし、相手は信じられないような反応速度でそれをかわす。

「うそっ!?」
             フリーズ・アロー
「これなら、どうです。氷の矢!」

アメリアの放った術もあっさりとかわされた。格好は変だが、その実力には侮れないものがあるようだ。

「レイ、危ないっ!」

アスカとアメリアの攻撃をかわした襲撃者は、素早い動きでアッと言う間にレイの目前へ降り立った。 その手がリリスの入っているバッグへと伸びる。
   A・Tフィールド
「絶対防御結界」

カキィィィン

レイの張った結界に、襲撃者の手が弾かれた。これには、流石に襲撃者も意表をつかれたようで一瞬動きが止まる。
        ファイヤー・ボール
「チャ〜ンス!火炎球!」

ばしゅっ

しかし、アスカの放った術を襲撃者は信じられないような反応速度でかわすと、アスカへ向かって右手を伸ばした。

「アスカ、危ないっ!」

「えっ?――きゃあ!」

ぼひゅっ

シンジがアスカを抱きかかえて飛びのくと、襲撃者の掌から放たれた光が今までアスカのいたの地面を焼いた。
    フレア・アロー
「今の炎の矢?でもコイツ、呪文唱えなかったわよ?」

「僕にもそう見えた。何か変だよ、この人」
                      ファイヤー・ボール
「とにかく、やるっきゃないでしょ――火炎球!」

ぱしぃぃん

一瞬の隙を突いてアスカの放った術が、狙い違わず命中する。しかし、炎は相手に当たった瞬間、消滅してしまった。

「え、何?どうなってるの?」

術が効かず、慌てるアスカ。しかし、アメリアにはその光景に見覚えがあった。

「気をつけて!この人、魔族です!」

アメリアは過去に魔族と戦った事があり、その時の経験から魔族には火炎系の攻撃魔法が効果の無い事を知っていた。 また、魔族ならば呪文無しで術を発動させる事くらい造作も無い。

「「「魔族!?」」」

アメリアの言葉に、シンジ達も驚きの声をあげる。

「な、なんで魔族がリリスを?」

今までリリスが魔族に狙われたとは、シンジは聞いた事が無かった。
                           エルメキア・ランス
「知らないわよ。本人に聞いてみたら?――烈閃槍!」

アスカが術を放つ。しかし、これもあっさりかわされてしまった。前述のように魔族には火炎系の魔術は効果が無い。 精霊魔術か強力な黒魔術を使うしか無いのだが、シンジ達のメンバーでは黒魔術の期待は出来なかった。
        ラ・ティルト
「アメリア、崩霊裂は出来ないの?」

「出来るけど、この状態じゃ呪文の詠唱ができないわ」
 ラ・ティルト        ドラグ・スレイブ
崩霊裂は黒魔術の竜破斬に匹敵すると言われる精霊魔術の最強呪文だが、強力呪文の御多分に漏れず呪文の詠唱に 時間がかかる。とても、相手の攻撃をかわしながらでは唱える事はできない。

「アメリアさん、僕が何とか時間を稼ぐから、その間に攻撃を!」

シンジは、そう言うと槍を構えた。(因みに、今使っているのはゲンドウから渡されたものでは無く、普通の槍である)

「行くぞ、ネルフ流槍術奥義『孤月乱舞』!」

しゅばしゅばしゅば

シンジが連続して槍を薙ぐと、無数の斬撃波が襲撃者を襲った。




To Be Continue

「小説の部屋」へ戻る