Scene:7  襲 撃(後編)




「行くぞ、ネルフ流槍術奥義『孤月乱舞』!」

しゅばしゅばしゅば

シンジが連続して槍を薙ぐと、無数の斬撃波が襲撃者を襲った。しかし、相手は素早く飛び下がってそれを難なくかわす。

「邪魔ヲ、スルナ」

ひゅぼっ
ファイヤー・ボール
 火炎球 がシンジに向かって放たれる。

「わあっ!」

間一髪のところで、シンジはそれを避けた。もう、この襲撃者とどれ位闘っているのか、シンジ達にも解らなくなってきている。 一時間位経っているようにも思うし、実はまだ五分も経っていないのかもしれない。
実力差が相当あるはずなのだが、相手がレイの持っているリリスを手に入れる事だけに執着している為、 シンジ達がなんとか凌ぐ事が出来ていた。もし、相手の気が変わってシンジ達を先に排除しようとすれば、 恐らくあっという間に片が付くだろう。

「こうなったら、アタシがとっておきの魔法でカタをつけてあげるわ!覚悟しなさい!」

好転しない事態に怒り心頭になったアスカが、そう言って襲撃者にビシッと指を突きつける。 しかし、相手は全く聞いちゃいない。

「ウキーッ!後で後悔しても遅いんだからね!」

後からするから後悔と言うと思うのだが、と言うような突っ込みはさておき、他の三人が襲撃者の相手をしている隙に、 アスカが呪文の詠唱に入る。

 紅蓮の炎に眠る暗黒の竜よ
 その咆哮をもて我が敵を焼き尽くせ


「あっ、アスカ、その術は駄目っ!」

アスカが何の魔法を使おうとしているのかに気付くと、何故かアメリアがあわてて止める。 しかし、既に術は完成してしまっていた。
           ガーヴ・フレア
「行くわよっ――魔竜烈火咆!

すかっ

「あれっ?」

術が発動しない。

「えっ、何で?どうして?アタシ、呪文を唱え間違えたの?」

アセる、アスカ。それを見て、アメリアが気の毒そうに説明する。

「だから、駄目だって言ったのに。魔竜王ガーヴは、少し前にある事件で冥王フィブリゾに滅ぼされちゃったのよ。 だから、魔竜烈火咆は使えないわよ」

アメリアは、その事件に係わっていて、魔竜王の滅びるのを目前で見ている。
因みに、魔族の場合「死ぬ」と言うのは力が弱まってこの世界から一時的に存在が無くなるだけで、暫くして力が戻れば ちゃんと復活できるが、「滅びる」とその存在そのものが消滅してしまい二度と復活する事はできない。

「そんなぁ、折角覚えた必殺技だったのにぃ‥‥」

落ち込むアスカ。力の源である魔竜王が消滅してしまっては、この術は永久に使う事はできないのである。

「きゃあ!」

「レイ!?」

突然、レイの悲鳴が上がる。アスカとアメリアが気を取られた隙に、襲撃者が一足飛びにレイの目前へ飛び込んだのだ。 一瞬の事に、レイも防御結界を張り損ねる。

「レイ、危ない!」

シンジが、思わず手の中の槍を襲撃者目掛けて投げつけた。だが、相手は僅かの所で身体を反らしてそれをかわす。 槍は、襲撃者の胸元を掠めで地面に突き刺さった。襲撃者が、その虚ろな目をシンジに向ける。

「あ‥‥」

シンジは、自分が丸腰なのに気付いた。ゲンドウに渡された槍は背中に背負っている為、すぐには取り出せない。 だが、素手の格闘はシンジの得意とする所では無かった。

「「シンジ(君)!」」

アスカとアメリアが、シンジの援護に駆け寄ろうとした、その時、

「グ‥‥グワァァァ!」

突然、襲撃者が苦しみ出し、そのまま地面に倒れ付した。

「「「「!?」」」」

突然の出来事に、四人が唖然と見守る中、襲撃者は全く動かなくなってしまった。

「死んだの?」

「どうかな?」

警戒しながら、シンジがゆっくりと近づく。すぐ傍まで近寄っても全く動く気配は無い。すると、次の瞬間その身体が砂のように 崩れ始めた。

「な、何これ?」

アメリアが声を上げる。彼女は、幾度か魔族の滅びる所を見ているが、このようになったのは見た事が無かった。 崩れだした襲撃者の身体は、最早原型を留めていない。そして、砂の山の中に、胸に付けていた赤い宝玉だけが 元の形を留めて残った。

「一体、どうしたのかしら?」

レイの疑問に、だれも答えられない。シンジが、恐る恐る宝玉を手に取った。

「これ‥‥のせいなのかな?」

そこには、シンジの投げた槍で付いたらしい、小さな傷が付いている。

「まさか、たったそれだけで?」

「でも、それしか考えられそうに無いよ。ひょっとすると、これが弱点だったとか――あ」

ぱぎ

次の瞬間、宝玉はシンジの手の中で乾いた音をたてて粉々に砕けてしまった。

「いったい、何だったんだろう」

「何でもいいわよ。それより、又あんなのが襲って来るかもしれないから、早くハコネ・シティに行きましょ」

アスカに急かされて、四人は歩く速度を早めてハコネ・シティに向かった。




To Be Continue

「小説の部屋」へ戻る